有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
正月晴れ着ガチャで爆死したので遅れました。やはりガチャは悪い文明。
「アクア!『今日あま』に出演して!!」
「なんだ藪から棒に」
私は説明をすっ飛ばして要件だけをアクアに伝えた。今日中に鏑木プロデューサーに返事をしないといけないからね、しょうがないね。
「ストーカー役の人が身内の不幸で降板になったから、代役としてアクアに出て欲しいの!『今日あま』のドラマって演技未経験の顔だけ役者ばかりだって馬鹿にされているのが現状だけど、アクアが出てくれれば余裕で一発逆転出来るわ!」
「清々しいまでに自己中な理由だな」
呆れ顔でアクアが言った。いやいや、こっちの世界ではアイが生きているからアクアが「今日あま」に出演する理由なんてないし、「今日あま」に出演して貰おうと思ったら私のワガママでゴリ押しするしか方法がないでしょう?
「ギャラに不満があるなら私のポケットマネーから出してもいいし、なんなら私の身体で払うわ!」
「いらねーよ」
やめてくれアクア、その即答は私に効く。
…いやいや、ちょっと待って。こう見えても私ちょっと凄いのよ?ちょくちょく黒川あかねと演技の特訓をしているせいもあって、多分原作の私よりも一回り以上成長しているはずなんだからね?色々な意味で。
ちなみに黒川あかねは二回り以上成長している。あと2回ぐらいレベルアップしたら寿みなみクラスの怪物に変貌するだろう。おのれ自己主張の激しい奴らめ、いつか肉体の性能の差が女性の魅力の決定的な差でないことを教えてやる。
「現役JKと合法的にヤレるのは10代までなのよ?あとで後悔しても遅いわよ!?」
「自分から積極的にスキャンダルを作ろうとするな」
チッ、この方法ではダメか。アクアのガードが中々硬い。
肉体も精神もレスバよわよわポケモンの
おのれ、かくなる上は。
「ねぇアクア…『今日あま』、出て欲しいなー」
「むっ」
――「星の瞳の演技」、発動。
私はアイの言動をトレースした。
「どうしたら『今日あま』出てくれるの?私、なんでもするよ?」
原作の黒川あかねほどではないが、仮にも「15年目の愛」のアイ役を目指しているのだ。私にだってこのぐらいは出来る。
「む…むむむ……」
おっ、効いてる効いてる。ククク、お前の好みの女性像など原作知識で把握済みだ。たとえ推しの子に転生したとしても、その魂に焼き付いた性癖を変えることは出来まい。男は皆マザコンだってノースリーブにサングラスをかけた赤い人が言ってたことだし、私はその性癖を否定しない。だから諦めて「今日あま」に出演するがいい。
「あー、アクアが赤くなってる。かわいー」
「やめろ…だから、マジでやめ……」
私の趣味と実益を兼ねたアクアいじりは、しばらく続いた。
その後、本物のアイがやってきて「スケジュールが空いてるなら出演して上げたら?」とアクアに言ったところ、アクアはあっさりと出演を了承してくれた。やっぱり本物には勝てなかったよ…
「…最初から最後までトラブル続きでしたが、ようやくここまでたどり着きましたね」
「今日あま」最終話の撮影の準備中、待機しているスタッフの一人が言った。
「ああ、最初はどうなることかと心配したけど、演技未経験の素人がほとんどのドラマだと思えば上出来な方だよ」
「ヒロイン役の子がバリバリの実力派だったのが唯一の救いだったけど、初日の撮影で泣き出したのは肝が冷えましたね」
「結果的にあの騒ぎのおかげで共演者の気持ちが引き締まったんだから、大したムードメーカーだよ。案外、計算してやったのかもしれないな」
「トラブルメーカーでもありましたけどね。鏑木プロデューサーのお墨付きをいいことに共演者泣かせの立ち回りをするから、撮影のたびにドキドキさせられましたよ」
「ははは、それを言うならこのドラマの出演者全員がスタッフ泣かせだよ。色んな意味で個性の強い奴らばかりだ」
彼らの愚痴を言い合うような会話には苦労がにじみ出ていたが、悪感情はあまり籠っていなかった。苦労は多かったが、なんとかなった。自分たちはベストを尽くした。収益についてはもっと上の人が考えればいい。スタッフたちの胸中はそんな感じだろうか。彼らは一足早い達成感を感じ取っていた。
「共演者と言えば、メルト君は化けたねぇ」
「最初は天狗になってて感じ悪かったけど、かなちゃんとの相性が良かったのが彼の幸運だと思うよ。…芸能界は浮き沈みが激しい業界だけど、このままメルト君が努力を続けられるならきっと乗り切れるんじゃないかな」
彼らはメルトの陰口ならぬ、陰
そんな評価をスタッフから受けていたことを、噂をされている本人が知る機会が訪れることはなかった。
…無事アクアの出演交渉に成功したので、私はその日のうちに鏑木プロデューサーに連絡した。OKが貰えたのでその2日後にアクアと一緒に現場入り。前日のドタキャンだったら流石にアクアをねじ込むのは無理だったので助かった。その代わり台本を読む時間が一日分しか取れなかったけど、まあアクアなら大丈夫だろう。多分。
ロケ地の確保が1日分しか出来なかったらしいので、本読みをすっ飛ばして一回リハーサルをやってから即本番。この辺の強行軍じみたスケジュールは原作と同じ状況だった。ただでさえ練習不足のアクアに不利な条件が揃っているが、まあアクアなら大丈夫だろう。多分。
おまけにアクアが演じるストーカー役はメルトとのやり取りがメインとなるので、アクアがミスっても私がフォローに入れる余地は少ない。まあアクアなら大丈夫だろう。多分!
「このドラマは私がプロデューサー公認で散々引っ掻き回したからね。多少のミスやアドリブではカメラは止まらないからアクアの好きに演技してくれていいわよ」
「それをフォローするスタッフのことをもう少し考えてやれよ」
「私は悪くない」
私のスポンサーは吉祥寺先生なので、彼女の期待を裏切るわけにはいかないのだ。スタッフの胃の具合を気にする余裕なんてあんまりない。とにかくアクアが原作みたいにクールにアドリブを決めてくれればすべては解決する。練習する時間なんてあってないようなものだったが、それでもアクアなら…アクアならきっと何とかしてくれる…!!
「よう、かなちゃん。今日雨ヤバない?撮影延期にして欲しかったわ」
そんな会話をアクアとしていたら、メルトが現場に現れた。
「ちょっと雨漏りしてる所もあるけど大丈夫よ。スケジュールも押してることだしね。あっ、紹介するね。こっちの人は今日のストーカー役の…」
「げっ!?『Twin☆Stars!』の星野アクアじゃねーか!なんでここにいるんだよ!?」
メルトにアクアを紹介しようとしたら、メルトはアクアの顔と名前を知っていたようだ。原作のメルトだったらここでアクアのことを無視していたのだが、おやおや、これは中々面白い展開だ。
「ストーカー役の役者が降板になったから私が代役として呼んできたの。アクアのこと知ってたの?」
「ジュニアアイドルの先輩だぞ知ってて当然だ!気軽に代役扱いで呼べるような人じゃないだろ!?
…まさか、かなちゃんって実は凄い人だったのか?」
「判断が遅い!」
私が鱗滝師匠なら顔面をビンタしているところだったぞ。顔売りアイドルの商売道具を傷つけるつもりはないからやらないけど。
しかし成程、こっちのアクアはアイドルとしてメルトの先輩になるのか。さてさて、この違いがどう影響してくるのか何だか楽しみになってきた。
「まあそういうわけだから、よろしくね」
「星野アクアです。よろしくお願いします」
「な、鳴嶋メルトです。よろしくお願いします…マジかよ、オイ」
その後も、メルトはスタッフに挨拶回りに行ったアクアのことを何度もチラ見していた。どうしたメルトまさかアクアに惚れたのか?やらんぞ?