有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
最新話のアイとカミキヒカルの関係が切なくて、なんだか泣けてきます。
「うわぁ…もう少し丈夫な傘を持ってくればよかった…」
台風で荒れた天気の中、自宅から飛び出してスイーツを買いに行くという無謀な行為をしでかした黒川あかねだったが、買い物を終えた帰宅の途中で急に勢いが強くなった風に傘が耐えきれなくなり、ついに壊れてしまった。
生地と骨組みが剥離しかけたビニール傘が、風に攫われて遠くに飛ばされていく。
「5月の台風なのに、こんなに風が強いなんて…正直、甘く見てたなぁ」
せめてコンビニで済ませておけば良かったのに、気の早い季節外れの台風だと油断してスイーツ専門店まで足を延ばしたのが間違いだった。写真の
梅雨入り前の風と雨が、黒川あかねの体温を奪っていく。
「…はぁ、なんか疲れた」
徒労感で水増しされた疲労に耐えかねて、彼女は歩道橋の中央で立ち止まった。
家に帰るまでの間でいいから雨風が止まってくれないかなぁと益体も無いことを考えながら、ふと空に視線を向けてみると。
「わぁ…」
空に広がる灰色の雲が途中で途切れ、
台風の目というには大きすぎる、まるで別の風景を切り取ってくっつけたような幻想的な光景を一目見て彼女は心を奪われてしまった。
そんな黄昏時の
「何やってるのよぉおおお!
そのまま歩道橋の
――時は少し遡る。
『ただいま、電話に出ることができません。ピーっと言う言う発信音の後に…』
「なんでよ!炎上は私が肩代わりしたのに、なんで黒川あかねが台風の中に飛び込んでるのよ!?」
「今ガチ」のグループチャットに『私も買ってくるね』というメッセージが届いた後、急に黒川あかねとの連絡がとれなくなった。
個人チャットにメッセージを送っても、電話をかけても黒川あかねの反応はなかった。喧嘩もしていないのにアイツが私の連絡を完全に無視するのは明らかにおかしい。
…かつてメフィストは、星野アイの殺害事件を阻止するためアクアにドームライブ開催日は社長宅に前泊するよう入れ知恵をした。しかしその結果は貝原亮介の襲撃を早めただけで、事件そのものを未然に防ぐことは出来なかった。
この状況は、超常的な存在が「推しの子」の原作再現を行うために裏で手引きをしているとしか思えなかった。誰が黒幕なのかは知らないが、そいつはよっぽど私たちの曇らせ展開が見たいらしい。ご都合悪い主義の神様の作為と悪意がひしひしと伝わってくる。
有馬かな
『黒川あかねを止めてくる』
アクア
『二次災害になるぞ』
NOBU
『ちょっと過保護じゃね?』
☆MEM☆
『かなちゃんってあかねちゃんのことになると真剣になるのね… キャー(⁎˃ ꇴ ˂⁎)ッ』
炎上騒ぎを私が引き受けたせいもあって、「今ガチ」メンバーの中に真面目に黒川あかねの心配をしている人は誰もいなかった。事態の深刻さを理解している人間が私しかいないというこの状況は、ある意味では原作よりもまずい状況とも言える。
私はレインコートを着込み、ママチャリに乗って黒川あかねの捜索に向かう。こんなことならば原付免許を取っておくべきだったと後悔しながら私は嵐の中に飛び込んだ。
強風に煽られながらも私は必死に自転車のペダルを漕ぎ進め、特に歩道橋の上に人が立っていないかを注意しながら黒川あかねを探す。取り越し苦労で済めば問題ないが、この世界の神様がそんなヌルい展開を認めるはずがない。
「ありきたりな物語に、隠し味として
脚本家気取りの神様は、きっと私たちに試練を与えているつもりなのだろう。だが私に言わせればそんなものは試練などではなく、単なる悪意だ。
「そんなところを…原作リスペクトしなくてもいいのよ……!」
数十分ほど自転車を走らせていると、歩道橋の上でビニール傘を吹き飛ばされて途方に暮れている人影が見えた。
間違いない、黒川あかねだ。
「あかねぇ!」
私は黒川あかねに呼びかけるが、ここ数分のうちに急激に強くなった風と雨の音に遮られて声が届かない。彼女は歩道橋の中央で立ち止まり、焦点の合っていない目で空を見上げた。
私は自転車を乗り捨てて歩道橋の階段を駆け上る。黒川あかねは虚空に手を伸ばし、歩道橋の
黒川あかねが見つめる先に――
「何やってるのよぉおおお!フェレスぅううううう!!!!」
私は黒川あかねに体当たりをするように突撃して、横から突き飛ばした。アメフトのタックルのような姿勢でもつれ合って、二人で橋の上で転ぶ。
「真っ赤な首吊り紐」は、深夜廻の主人公「ハル」の親友である「ユイ」を死に至らしめた凶器だ。
血の色のように真っ赤な、「運命の赤い糸」を模したそれは。
――死者との縁を結ぶ、悪縁結びの象徴だ。
「
私が泣いても怒っても、空は何もなかったかのように雨風を浴びせてくる。
季節外れの台風が運んでくる雨は、とても冷たく感じた。
「私の大切なものを…傷つけようとしないでよぉ……」
「メフィスト」でも「有馬かな」でもない空っぽな私にとって、彼女たちの存在は私の
私は役者だ。しかしこれではまるで道化ではないか。
神よ、所詮私は貴方の娯楽のための
「わぁ……あ……うわぁああ……っ」
自分のすべてを否定されたかのような心の痛みを感じて、私は泣き続けた。
いつの間にか、私のほうが黒川あかねに抱き締められていた。
「…今から、かなちゃんの家に行ってもいい?」
「はぁ、やっちゃったなぁ……」
歩道橋の上から転落しかけた黒川あかねを助けた後、彼女たちはタクシーを呼んで有馬かなの家まで移動した。
結局黒川あかねは、そのまま有馬かなの家に泊まることにした。
『黒川あかね、確保』の報告をグループチャットに送信した後、びしょ濡れになった服を乾かしている間に半ば強引に黒川あかねが誘って二人で一緒にお風呂に入ったり、その後にいつも以上に熱の入った「演技の特訓」をしたりと黒川あかねは「お泊り会」を十二分に満喫していた。
黒川あかね自身も自分が浮かれていることを自覚していたが、彼女は心の中で「これは不可抗力だ」と必死に言い訳を続けていた。
「…だって、仕方ないじゃない」
黒川あかねを助けた後、ずっと泣いていたのは黒川あかねが死んでしまいそうで怖かったからだと有馬かなは言った。
その言葉を聞いて、「今ガチ」で炎上して大勢の人から誹謗中傷を受けていたときでもケロリとしていた彼女が、自分が死にそうになったことが原因で弱々しい姿でめそめそ泣いていると気づいたとき、黒川あかねは自分の胸に熱い感情が広がるのを感じた。
下世話な表現で言うと、ムラっときた。
有馬かなの言葉を借りるならば、「私は悪くない。私を誘惑するかなちゃんが悪い」というやつだ。私は悪くないので感情に従った。それだけの話だ。はいQED。
「私は、どうしたらいいのかな……」
自分と同じベッドの上でぐっすりと眠る有馬かなを見て、黒川あかねは自分の中で開けてはいけない扉がすでに半分ぐらい開いているのを感じていた。
後は一歩踏み出すだけで、堕ちる。
一緒にお風呂に入ったときに「真っ赤な夕焼けの幻覚を見たのは、魔に魅入られたからだ」と有馬かなが言ったが、どうやらその悪魔というのはかなちゃんのことだったらしい。とても可愛い悪魔さんだなぁと黒川あかねは思った。
黒川あかねは、隣で眠る有馬かなの顔を見た。
毒を食らわば皿まで。是非もなし。
「…えいっ」
黒川あかねは、一歩踏み出すことにした。
やりたかったことリスト32
「今ガチ」黒川あかねの原作再現。
フェレス「原作再現って意外と大変なのね。中々骨が折れたわ」
やりたかったことリスト33
黒川あかねの恋愛フラグ上書き&NTR。原作はルビールートっぽいので、タイム短縮しただけなのでヨシ!