有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:BlackSoul

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恋愛ビターチョコ・リターンズ

 一夜明けて、嵐は過ぎ去った。2つの意味で。

 「今ガチ」の炎上を私が引き受けることで黒川あかねの自殺未遂フラグを潰した私だったが、どうやらこの世界の神様はそれが気に食わなかったらしい。

 神は私達の物語に直接介入するという恥知らずな手段で強引に原作再現しようと画策し、突然訪れたホラーゲーム展開に私はアクア厄介ファンに自宅を特定されるのと同じぐらいの恐怖と絶望を味わう羽目になった。絶対に許さんぞ神様どもじわじわと煽り倒してやる。

 割とギリギリのタイミングではあったが、何とか黒川あかねの救出に成功した。今は私と朝チュンしている。解せぬ。

 

「んふふ~、ふふ~~♪」

 黒川あかねは上機嫌で夜明けのコーヒーを堪能していた。マタタビを与えた猫みたいな顔しやがって、このスケベめ。

 結局、昨日の出来事は私たち2人の秘密にした。心霊現象に出くわして死にかけたとしか表現しようがないし、肝心の黒川あかねが状況を理解していない。状況を正しく理解出来るのはフェレスの存在を知っている私とツクヨミ、後はミキさんぐらいだろう。

 むしろ余計なことを言って朝チュンがバレるほうがヤバい。スキャンダル編が前倒しされちゃう。

 まあこんな感じで色々と紆余曲折はあったものの、最大の懸念は解決したと言っていいだろう。後はウイニングランみたいなものだが「今ガチ」の放送はあと4回も残っている。気を抜くにはまだまだ早い。

 

 「今ガチ」第5回――後半戦が、始まる。

 

 

「おはよーございまーす」

「来た来た。台風の日、大丈夫だった?どこもケガしてない?」

「うん、()()()()()()()()()

 MEMが声を掛けてきたので返事をする。この世界では黒川あかねの炎上も出演見送りも、そして「今ガチ」メンバーの動画作成イベントもない。ならば、あの台風の日も何も起こらなかったということでいいだろう。

 そもそもアレは原作にないオリジナル展開なのだからまとめてカットで十分だ。神様気取りのクソ脚本家め、せめてもの抵抗として歴史の闇に葬り去ってやる。

 

「それでは、カメラ回しはじめまーす」

 教室の中に「今ガチ」メンバーが全員集まり、スタッフの合図と共に今日の撮影が始まる。今回は奇数回の放送なのでアクアとの交流のターンだ。早速アクアのところに移動しようとすると、

 

「かなちゃん…ちょっといい?」

 黒川あかねに呼び止められた。

 

「もう本番始まってるんだけど」

「いいからいいから」

 そう言って、黒川あかねは私を教室から連れ出す。廊下に移動して、カメラがついて来ていないことを確認した後、

 

「んっ…」

 私の首筋に、キスをした。

 

「ちょ…何してるのよ?」

 私の抗議を無視して、黒川あかねは私の首筋に強く吸い付いてくる。おいこらやめろ、お前は吸血鬼か。それともサキュバスか?そんなに強く吸ったらキスマークが残るだろうが。

 …まさか、コイツ。

 

「えへへ…じゃあ、アクア君とのデート、楽しんできてね」

 してやったりといった顔をしながら、黒川あかねが教室に戻っていく。嫌な予感がしたのですぐさま手鏡を開いて確認すると、私の首筋にはくっきりとキスマークが残っていた。

 

 やりやがった!!マジかよあの女ッ!やりやがったッ!!

 

 

 ふと顔を上げると、こちらの様子を覗っていたスタッフの一人と目が合った。ジョセフ・ジョースター!貴様!見ているなッ!

 今何が起こったのかはあちらも理解しているようなので、私は首肯して合図を送る。スタッフは親指を立てることで返事を送ってきた。

 …このキスマークは「これを使って面白おかしく演出してみろ」という黒川あかねからの挑戦状だ。よかろう、その喧嘩買ってやる。私は意を決して教室に戻った。

 

 私は何事もなかったかのように装い、アクアと会話を始める。一部始終を見ていたスタッフがカメラマンに耳打ちし、私にカメラを寄せる。ほらほら首筋にキスマークつけたまま男の子とお喋りするビッチな私をじっくりねっとりと撮るがいい。最高の素材が目の前にあるぞ。

 

 そんな感じで撮影自体は一見穏やかなまま順調に進んでいって、スタッフに編集されて実際に放送されたシーンはこんな感じになっていた。

 

 

 ――アクアと楽しそうに談笑するかなちゃん

   しかしその首元に見えるのは…キスマーク!?

   かなちゃんにキスマークをつけた相手とは、一体…?

 

 

 私とアクアが会話しているところに視聴者の不安と期待を煽るテロップが流れた後、シーンが切り替わって黒川あかねの横顔が映る。

 カメラに気づいた黒川あかねが、カメラに向かって満面の笑みを浮かべた。

 その自信にあふれた笑顔は、まるで視聴者を挑発しているかのように見えた。

 

 

 『犯人はお前だ!』

 『あーこれはもうヤッてますわ』

 『あかね「お前にかなちゃんは渡さない…!」アクア「!?」』

 

 あまりにもわざとらしい演出に、視聴者が揃ってツッコミを入れた。

 

 『流石現役の女優、演技が上手い』

 『あれが演技だと…?』

 『ま…まああんたほどの実力者がそういうのなら………』

 『あれが演技だったとは、このリハクの目をもってしても見抜けなかった!』

 

 

 そして視聴者の中から「黒川あかねはあれを素でやっているのではないか」という声も上がってくる。いやいや、あれは嘘と誇張で膨らませた演技だから真に受けないでね。最近は5割ぐらい素が入ってる気もしないではないが。

 

 「今ガチ」は4回目と5回目の間に休みの週を挟んで全8回の構成となっている。お預けを食らって話題に飢えていた視聴者のところに新たな燃料が投下され、SNSが更にお祭り騒ぎになっていく。

 私たちの出演する「今ガチ」に、中弛(なかだる)みという言葉はなかった。

 

 私たちの演技もさることながら、5回目の撮影となると流石にスタッフも私たちの扱いを理解しつつあった。

 原作の「今ガチ」スタッフは「黒川あかねを悪役にしたら面白い」という意図を持って彼女に入れ知恵をし、その結果あのような悪辣な演出を行い大騒動となったが、実はこちらの世界でも黒川あかねの扱いは本質的にはあまり変わっていなかったりする。

 こちらの世界のスタッフが黒川あかねに与えた役割は、私とアクアの仲が深まるのを妨害するお邪魔虫役扱い…のはずなのだが、最初に私が炎上した件もあって黒川あかねに味方する視聴者はかなり多い。色々な因果が合わさった結果、本命のアクアと対抗馬の黒川あかねといった感じで恋のライバルみたいな関係になってしまっている。

 言うなればミホノブルボンとライスシャワーの関係みたいなものか。悪役ポジションなどむしろファッションコーディネートでしかない。そして、私のNTRを目論む悪役という「演技の方向性」を理解した黒川あかねを止められる者は、もはや誰もいない。

 

 

「ねぇねぇ、かなちゃんは中間テストどんな感じだった?私は結構いい点数取れたよ」

 あっという間に1週間が経って、「今ガチ」第6回目の撮影が始まった。今回は黒川あかねのターン…なのだが。

「…そんなことより、なんで私のふともも撫でてくるの?」

 世間話をしながら、黒川あかねが私のふとももをなでなでしてくる。しかもカメラが回っているところで、内腿のきわどいラインを狙って指を這わせてくる。

 あの、私スカートなので、それ以上内側に手とか指とかが挿入るともう放送出来ないような事態になるんですけど。

(…あー、こういうシーン「恋愛ビターチョコ」であったなぁ)

 

 今の状況にデジャヴを感じた私は、過去に似たようなことを黒川あかねとやっていたことを思い出した。

 学校の図書室で勉強中に、絵鳩早苗が安楽岡花火のふとももを撫でて安楽岡花火が声を押し殺して我慢するシーン。下手なベッドシーンよりもエロいとの評判で、視聴者からも好評だった名シーンだ。つくづく中学生にやらせていいシーンじゃねぇ。

 このシーンを見て性癖を歪めた少年や少女が絶対にいるはずだ。というか私のすぐ隣にいる。

 

「別にいいじゃない。いつもはもっと凄いことやってることだし」

 誰かコイツを止めろォ!

 

「…あとで覚えておきなさいよ」

「うふふ、かなちゃんがどんな仕返ししてくれるのか楽しみだなぁ」

 ヤバい、コイツ本気(マジ)だ。完全に絵鳩早苗が乗り移ってやがる。

 ていうかさ、アンタ、原作ではここでアイの演技をして話題のすべてを搔っ攫っていく展開だったよね?なんでアイじゃなくて絵鳩早苗の演技してるの!?

 ゴロー先生助けて!原作展開が息してないの!!

 

 私は開き直って絵鳩早苗化したコイツに素の自分で挑むのは危険だと判断し、その後は安楽岡花火の演技を再現することでなんとか乗り切った。どうしてこうなった。いやマジで。

 

 

 

 ――かなちゃんは恋を知ったことで、その心は私から離れていく…

   ならば、より強固な絆で上書きしてやればいい

   友情が暴走し、壊れてしまったあかねの運命はどうなっていくのか…?

 

 

 黒川あかねの暴走に合わせて、オンエアされる映像に入るテロップの煽りも過激なものになっていく。私がネタ切れしたところを黒川あかねがバトンを引き継いでアクセル全開で駆け抜けていったような感じだ。手前味噌になるが、本当に毎週が見どころしかない。

 これだけ私たちが目立っていれば鷲見ゆきやMEM、男3人組が映す価値なしの空気化している恐れもあったが、私達の演出過剰気味なパフォーマンスに「やらせ」を感じて敬遠している視聴者の受け皿として上手く棲み分けが出来ていた。ノブやケンゴは原作通りにゆきを取り合うことで、この曲者だらけのメンバーの中でそれなりに存在感を示している。

 えっ、「推しの子」原作に登場していない4人目の男の子はどうなったのかって?世の中知らないほうがいいこともあるんだよ。(遠い目)

 

 『ついに黒川あかねが本性を現した』

 『年貢の納め時』

 『もう逃げられないゾ☆』

 『「今ガチ」を見ていたはずなのに「恋ビタ」が始まってるんだけど、ナニコレ』

 『何を言っているんだ?この番組は最初から「恋ビタ」だぞ』

 

 視聴者たちが無責任に煽ってくるが、当の本人である私はこの番組に参加した目的と全く別の方向に向かっていってるこの状況に困惑していた。ヤバい、このままでは本当に炎上を体験しただけで終わってしまう。

 ここから挽回する手段がないか頭を悩ませて渋面を作っていると、またまたツクヨミからメールが飛んできた。

 

『YOUたち、もう結婚しちゃいなよ』

 …イラッ。

 

『([∩∩])……』

『ごめんなさいもうしません』

 もう二度と逆らうなよ。




次回、恋愛リアリティーショー編ラスト。

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