有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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東京ブレイド編
気分はバカップル


「かな。一緒に海に行かないか?」

「行く」

 

 MEMと苺プロに「ちゅ。多様性」を押し付けてからしばらく経ったある日のこと。急にアクアが私を海水浴デートに誘ってきた。

 えっ、何この状況?脊髄反射で行くと答えたけど、まさかドッキリじゃないよね?

 

「ははーん、朴念仁のアクアもついに私の魅力に気づいてしまったようね」

「言ってろ」

 

 ニヤける顔を抑えきれず、だらしない表情をしながらアクアに軽口を叩く。ハハハこやつめ、「今ガチ」では塩対応だったくせに男のツンデレキャラは流行らないぞ。

 そうそうこういうイベント待っていたんだよ!これぞアオハル、ようやく我が世の春が来たぁ!

 ごめんねルビー、これから君のお兄ちゃんをNTRせてもらうからね!!

 

「あーんどんな格好していこうかしら。2人で海水浴とか、バレたらまた炎上しちゃうだろうし準備が大変よねー」

「いや、別に二人っきりで旅行ってわけじゃないぞ?」

「えっ」

「えっ」

 

 どうやら私の春は終わりを迎えて冬の時代がやってきたようだ。

 こういうのなんて言うんだっけ?即オチ2コマ?

 

 

 要約すると、「苺プロで慰安旅行に行くから私も一緒に来ないか?」という話だった。

 落ち着け…大丈夫こんなもんだよ最初から期待なんてしてなかったもん!だってアクアだし!アクアだし!!(大切なことなので2回言いました)

 

 まあアクアが思わせぶりな態度で私を弄ぶのは今に始まったことではないので、ポジティブに考えることにしよう。苺プロの慰安旅行なんて実質家族旅行みたいなものだし、そんな旅行に部外者の私を呼んで貰えるほどアクアの好感度が高まっていると考えれば悪い気はしない。

 どうせMEMのアイドルデビューを手助けしたときの借りを少しでも返したいとでも考えているのだろうけど、それを指摘するほど野暮でも卑屈でもない。折角アクアがホスト役をやってくれると言うのだから、ここはご相伴に預かるとしよう。

 

 どんな水着を買おうかなーやっぱアクアを誘惑するならビキニよねーでもあまり布が少ないやつは逆効果だよねーうふふーあははー

 

 …このときの私は、自分で言うのもなんだが結構、いやかなりキモい顔をしていたと思う。ツクヨミがこの場にいたらこの顔をネタに一か月ぐらい煽られていたに違いないだろう。

 だ、大丈夫だよね?アイツの中身はアレ(メフィスト)だし、カラスファンネルとか使って盗撮してないよね?

 

 

 そんなこんなでまたまた月日は流れ、あっという間に慰安旅行の日がやってきた。

 

「海だー!」

「海だーっ!!」

「うみだー」

 やってきました夏のビーチ。参加者は私とアクアにアイとルビー、斉藤社長とミヤコ女史のいつものメンバーに加えて苺プロのスタッフと所属タレントが合流して20人ほどの団体になっていた。うん、すごい大家族だね!(白目)

 

「いやー、海なんて普段は仕事でしか行かないから新鮮な気分だね!」

「泳ぐのが目的なら都内のプールで十分だし、一人で気軽に遊びに行くようなスポットじゃないからね。プライベートで誘ってくれるような仲のいい相手もいないことだし!」

「…何故俺の顔を見ながら言うんだよ」

 自分の胸に手を当てて考えてみなさい、この朴念仁。

 

 なおプライベートで海水浴に誘ってくれそうな仲のいい相手の心当たりに一瞬ツクヨミと黒川あかねの顔が浮かんだが、楽しい思い出を作るどころか大惨事になりそうな予感しかしないので即座に選択肢からデリートした。

 なんだろう、三人でぎゃあぎゃあ言いながら水着の内側にサンオイルを塗り合うビジョンが見えたんだが、何故アクアとデートするシーンよりも先にアイツらと騒ぎ合う姿のほうが思い浮かぶのだろう。理不尽すぎる。

 

 

「海で泳ぐ前に準備体操は必須ダヨ!みんな整列!!」

 旅行に行く前に妄想していた完璧で究極のデートプランは露と消えて、ややテンションが下がった状態で苺プロのスタッフの後ろをついて歩いていくと、行き先のビーチの中央で丸くて黄色いヒヨコマスクをかぶった筋肉隆々の怪人が海パン姿で仁王立ちしていた。

 

「あっ、ぴえヨンだ!」

 不審者を超えて変質者の領域に片足を突っ込んでいる覆面の男を指差して、ルビーが声を上げた。

 

 奴の名はぴえヨン。苺プロの稼ぎ頭のネットタレントであり、その戦闘力は年収1億を超える正真正銘の化け物だ。ゴールデン化する前のフリーザ程度なら余裕で倒せるだろう、多分。 

 夏の海ということもあって、首から下はギリギリ許容範囲と言える姿なのにその個性しかないマスクのせいで違和感がひどい。まさかそのマスクつけたまま泳ぐとか言わないよね?普通に溺れるよ?

 

 ちなみに私とルビーのアイドルデビューイベントが消滅したこともあって、私はぴえヨンと顔を合わせるのは今回が初めてとなる。生ぴえヨンを見た私の感想といえば、「コイツ男のくせにおっぱいでけぇな」というものだった。あと意外と足が綺麗だった。そこまで考えたところで男の身体をじっくり観察している自分がアホらしくなってきて私は考えるのをやめた。

 

 準備体操でぴえヨンブートダンスを始めるなどといった危険なサプライズは特に起こることもなく、無難にラジオ体操を終えた後、ぴえヨンはアイとルビーを誘って一緒にビーチバレーをやり始めた。泳ぐ前の準備体操じゃなかったのかよオイ。

 

 

「アクアー、サンオイル塗ってー」

「完全にお客様気分だな」

 

 とりあえず私はぴえヨンを放置してアクアと合流し、アクアがシュコシュコ膨らませていたビーチフロートの上に寝そべって持参したサンオイルをアクアに渡した。ほらほら、合法的に女体に触れるチャンスを準備してあげたんだから素直に喜びなさい。今なら少しぐらい手が滑っても許してやるぞ。

 

「私はアクアに大量に貸しのある状態だからね。少しぐらい取り立ててもバチは当たらないでしょ?」

「まあ、それを言われると反論しにくいな」

「この旅行は私にとって『今ガチ』の延長戦みたいなものだし、あっちで道化役をやらされた分、こっちで元を取らせてもらうわよ」

「はいはい、仰せのままに。マイレディ」

 アクアはサンオイルの蓋を開けると、そのままひっくり返して私の背中に直接ドバーっとぶっかけた。

 

「ひゃんっ!」

 扱いが雑ゥ!サンオイルは最初に手のひらで受けてから丁寧に塗り広げなさい!!

 

 

 ――今年の4月、私はアクアと付き合う下地と既成事実を作るために鏑木プロデューサーが主催する「今からガチ恋♡始めます」という番組に参加した。だが、その結果を簡単に説明すると、

「アクアは私と仕事、どっちが大切なの!?」

「仕事」

 の一言で片付けられる散々な結末に終わってしまった。

 

 実質的にアクアに振られてしまった傷心の私はしばらくの間迷走していたが、ある日夢の中で黒川あかねが私のマンションに押しかけてきて「諦めたら試合終了だよ?」と言いながらバスケットボールを渡される夢を見たことにより、なんか色々な意味で吹っ切れてしまった。

 そこで私はプロスペラお母さんが言った名ゼリフである『逃げれば一つ、進めば二つ。奪えば全部ゥッ!』という言葉を思い出し、自分の(よくぼう)に正直に生きることを決めたのだ。やはりNTR…NTRはすべてを解決する……!

 

「ちょっ!あっ…くぅ…そこ、イイかも……あっ、そこ気持ちいい、もっと奥までちょうだいぃ……」

「卑猥な鳴き声を上げるな。SAN値が下がる」

 

 アクアがサンオイルを塗り広げ始めたので、すかさずエロASMR朗読プレイでアクアを煽る。サンオイル(ローション)プレイで嬌声を上げるのはある意味でお約束なのだが、相変わらずアクアのツッコミの切れ味が鋭い。

 何で理性じゃなくて正気度が下がってるんだよ。こともあろうに、こんな可愛い人魚(マーメイド)を捕まえて半魚人(インスマス)扱いするとは無礼千万にも程がある。呪うぞ?

 

「何よ、もっと自分の心に素直になりなさいよ。あ、もしかしてすでに勃起してる?」

「うるせぇ」

 

 すぱぁん!

 

 ちょうどアクアが太腿の裏側にサンオイルを塗り始めたので、アクアの目の前でお尻をふりふりして煽っていたらお尻を平手でぶっ叩かれた。

 尻も鳴かずば打たれまい…ってやかましいわ。

 

「あーっ!アクアがお尻触った!!セクハラ!痴漢!今ので絶対妊娠したぁ!!」

「スギの木じゃあるまいし、人間が空気感染で妊娠してたまるか。…ほら、終わったぞ」

 

 太腿の裏側までサンオイルを塗らせておいて、尻を触った云々で文句をつけるというバカみたいな会話をしているうちにアクアが極めて事務的にサンオイルを塗り終えてしまった。

 何を勘違いしている?まだ私のバトルフェイズは終了してないぜ!

 

「じゃあ、後ろが終わったのなら今度は前も塗って貰おうかなぁ?」

 ビーチフロートにうつ伏せになっていた身体を反転させて、今度は仰向けになる。背中にサンオイルを塗ってもらうためにビキニのホックを外していたので、私の水着は少し動かしたら色々と見えてしまいそうな危ない状態になっていた。

 うん、今アクアに襲われたら逃げられないね、これ。まさにまな板の上の鯉状態。やーん、私アクアに食べられちゃーう。

 

 

「こらぁ、そこ!お兄ちゃんにナニやってるのよぉおお!!!」

 そこでようやくこちらの状況に気づいたルビーが血相を変えてこちらに駆け寄ってきた。

 チッ、バレたか。もっとゆっくり遊んでいればいいのに。

 

「あんた、ぴえヨンとビーチバレーして遊んでたんじゃなかったの?」

「ママが抜けたから解散になって、ぴえヨンは『じゃあボクはこれからひと泳ぎしてくるヨ!』って言って海に飛び込んで行ったよ?」

「…マスクをつけたままで?」

「うん」

 オイオイオイ死ぬわアイツ。

 

「そんなことより!あんたレズなんだからわざわざウチのお兄ちゃんに手を出さなくてもいいでしょ!?」

「えっ?彼氏と彼女を同時に作るのは浮気のうちに入らないよね?」

「入るわよぉおおお!!!」

 顔を真っ赤にしてルビーが叫んだ。

 

「ふふっ…ありがとう、アクア。私をこの旅行に誘ってくれて。私、いま凄く楽しい」

「…かなが楽しめてるんなら、誘った甲斐があったな」

 

 私は突っかかってくるルビーをあしらいつつ、アクアに礼を言った。

 「今ガチ」終了後に私が一方的に感じていた気まずい雰囲気はすっかり消え去り、ようやくいつも通りの日常が戻ってきたことを実感したのはついさっきのことだ。

 アクアが私より仕事を取るならそれでもいい。いずれアクアもルビーもアイドルを辞める日が必ず訪れる。私はその日までずっと、ガムのようにアクアにくっついていくつもりだ。

 たとえ恋破れて儚く散るとしても、それはそれで楽しくて幸せな思い出になるだろう。きっと。

 私はこの日、このかけがえのない青春を日が暮れるまでたっぷりと謳歌した。

 

 

 

 ――そして季節が変わって、秋になった。

 

 恋愛リアリティーショー編の次は2.5次元舞台編。この流れは私が知っている原作知識と変わることもなく「東京ブレイド」が舞台化されることになった。

 ここで私に「つるぎ」役のオファーが来るのが本来の流れ…だったはずだったのだが。

「あー、そう来たかぁー…」

 

 私が「今ガチ」に出演した因果が複雑に絡み合った結果なのか、私に届いたオファーは「つるぎ」ではなく「鞘姫」。本来なら黒川あかねが演じていたキャラクターだった。

 どうやら今回も一筋縄ではいかない展開が待っているらしい。さてさて、どうなることやら。

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