有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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来週から推しの子アニメ2期放送開始です。録画の準備を忘れないように!


原作者襲来①

 舞台「東京ブレイド」の稽古が始まって3日が経過した。

 稽古は順調に進んでいて、私の演技もそれなりの出来に仕上がっている。

 

 私が演じる「鞘姫」は漫画では内気で人を殺めることに葛藤を抱いた優しい子なのだが、この舞台の脚本では舞台の尺を省略するために戦いに前のめりになっているキャラに変更されていた。

 しかし、私は脚本家のGOAさんと演出家の金田一さんに直訴して「皆の期待に沿うように、即断即決の頼れるリーダーの役割を演じていた」という裏設定を認めさせることに成功した。

 不本意なキャラクターを演じさせられているという点では、鞘姫の取り巻く状況は今の私の状況と酷似している。つまり私が感じている葛藤をそのまま鞘姫の演技に利用できるということだ。

 

 ここまで私にとって好条件が揃っているにも拘らず「それなりの出来」という評価で止まっているのは、漫画原作と脚本の齟齬のせいだと言わせてもらいたい。

 

 「鎌倉武士系の脳筋姫スタイルは演技で、漫画原作の内気な性格が本来の性格だ」といくら私が主張しても、実際に舞台を見に来た観客に見せる演技は脳筋姫モードの鞘姫だ。

 「勝てばよかろうなのだァァァァッ!! 」と言わんばかりに後先考えずに徹底抗戦を叫ぶ自分の言葉に賛同する仲間に対して裏では冷ややかな視線を送ったり、仲間のいないところではフラットな表情を作って感情の落差をアピールしたりと色々小細工をしているが、所詮は小細工の域を脱していない。そもそもいくら私が頑張って顔芸をしたところで、何10mも離れている観客席からでは役者の表情などまともに見えないのだから伝わりようがないのが現実だ。

 

 あまり露骨にやりすぎると今度はかまってちゃんアピールになってしまって逆に陳腐になる。金田一さんが言うところの「鞘姫の心情がノイズになる」という状況そのものであり、これもアビ子先生の逆鱗ポイントになる。金田一さんは私の解釈を「いい解釈だと思う」と評価してくれたが、あれは「やれるもんならやってみろ」ってニュアンスも含まれていたんじゃないかと後になって思ってしまった。

 

 アイのように完璧な嘘の仮面を被ってしまえば、鞘姫の本心は観客に伝わることはない。つまり私の解釈ではアビ子先生ブチキレイベントの回避は不可能ということだ。

 明後日はアビ子先生が稽古の見学に来る。最終的にはなんとかなると理解していても、これから起こる騒動のことを考えて私はため息を吐いた。

 

 

 そして、最初の山場とも言える「東京ブレイド」の稽古5日目がやってきた。

「今日は原作者が稽古を見学しに来るのね。はぁ、憂鬱だわ」

「…かながそんなことを言うのは珍しいな。なんか気になることでもあるのか?」

 私のボヤきを耳ざとく聞きつけたアクアが話しかけてきた。稽古開始までまだ時間があるので、ちょっと気になったことを聞いてみる。

 

「んー、ちょっとね。そう言えばアクア、この舞台の脚本ってどう思う?原作と違うところが結構あるけど、気にならない?」

「ああ、でも割と原作に準拠した内容だと思うぞ?『今日あま』の脚本に比べたら30倍ぐらいはマシだな」

「流石に『今日あま』と比べたらGOAさんがキレると思うわよ?」

 

 「今日あま」脚本の酷さの倍率が原作の1/3まで下がっているのは私の成果だと自惚れていいのだろうか。でもメルトも年上のお姉さま方に人気があったみたいだし、とりあえずみんなのおかげということにしておこう。

 

「で、その話がかなの憂鬱とどう関係があるんだ?」

「原作のアビ子先生、この脚本見てブチ切れてるんだろうなーって思うとなんだか胃が痛くなってきてね。今日は修羅場になるから、覚悟したほうがいいわよ」

「…そんなに悪い脚本か?これ」

 事態の深刻さを理解していないアクアが首を傾げる。丁度いい、自分の思考を整理する意味も兼ねてアクアに説明してやろう。

 

「偏差値40の人にも理解できるような分かりやすい内容にするのも大切だけど、今回はそれが裏目に出る気がするのよねぇ」

 

 「偏差値40の人にも理解できるような分かりやすい内容」というのはTVで放送するコンテンツを作成する上でのセオリーとして使われている言葉だ。偏差値40の人を馬鹿にする暴言にも聞こえるが、「偏差値40以上=全体の84%」という意味を理解すると言葉の本質が分かってくるのが実に面白い。

 「視聴者の8割に理解して貰おうと思ったら、馬鹿向けのコンテンツを作らないといけない」という一種の皮肉だ。下手なものを作ると視聴者からとんでもないクレームが来るからね、仕方ないね。

 

 馬鹿でも物語が理解できるように、登場人物を馬鹿にしてしまうのも解決策の一つと言えよう。

 しかし、この劇を見に来る客層を考えればこの選択は正解とは言えなくなる。

 

 舞台のチケットの価格は平均7000円ぐらいで、映画館の料金が2000円以下であることを考えるとまあまあ高額だ。

 無料で誰でも見られる地上波放送のコンテンツを制作する場合とは違って、チケット代というそこそこ大きな壁によって原作に対する愛情と理解度が低いファンはターゲット層から振るい落とされるだろう。

 

「だから観客への分かりやすさを優先して原作改変するよりも『目の肥えた』原作ファンが期待する内容に寄せていくのが正解なんじゃないかと思うの。それにアビ子先生はいわゆる『難しい人』って言われるタイプの人らしいし、私の予想が当たってたら荒れるわよ」

 

 原作でアビ子先生が感情的に否定した脚本の問題点を、理論的に整理してダメ出しする。原作に忠実な作品を作るのは作者に対するリスペクト以外にもプラスの効果があるのだ。ついでにお金を払わず文句だけ言う人のお気持ち表明も減らせて一石二鳥である。

 

 ちなみにこの「難しい人」というのは「きめ細かな対応が必要な人」という意味であり、「面倒くさい人」という意味では断じてない。この違いを理解していないと比喩抜きで死人が出るので絶対に間違ってはいけない。

 …いけない、変な方向に思考が逸れそうになった。

 

「…とにかく、今日はヤバいことが起こるかもしれないってことだな。この話って、誰か俺以外の人とも相談したのか?」

「うんにゃ。私が言っても仕方ないことだし、アクアに話したのが初めてよ」

「ふーん」

 

 脚本にケチをつけるのは私の役目ではない、アビ子先生の役目だ。それにアビ子先生がこの脚本を気に入ってくれる可能性も微粒子レベルで存在するし、私の勝手な予想でみんなを混乱させたくない。

 そんなことを考えていたら、アクアがトコトコとGOAさんのところに歩いていって、

 

「すみません、有馬が脚本について質問があるみたいなのですが」

 アクアがGOAさんに私の話をチクりやがった。

 

 何やってんだアクアぁぁ!!!空気読めやゴラァァァ!!!!

 

 

 

「はあ…頭の痛い話だね。僕も一生懸命やったつもりなんだけど」

 アクアの「情報共有は大事だろ?」の一言で丸め込まれた私は、開き直って先ほどアクアに語った内容をGOAさんに全部話した。

「全部私の杞憂に終わればいいんですけど、改稿作業って伝言ゲームになるから普通にあり得る話なんですよねぇ」

 「アビ子先生は『難しい人』」の一言でこれから起こるであろう修羅場の状況をだいたい理解してしまったGOAさんは、頭を抱えて天を仰いでいた。ご愁傷様としか言いようがない、いやマジで。

 

「原作者を『部外者』扱いするわけにもいかないし、どうにかして鮫島アビ子先生を味方に引き込まないとどうしようもないですね」

 他人事のようにさらりと語る私に対して、GOAさんが「それができれば苦労はしねェ!!!」と言いたそうな視線を送ってくる。いやそんなことを私に言われても困るんだけど。私は悪くない、世間知らずのアビ子先生が悪い。

 

 ちなみに原作者を部外者扱いする制作チームは存在する。しかもそれを「成功体験」と嘯く人たちが。

 …いけない、また悪い方向に思考がブレた。

 

「はーい皆さんおつかれー!今日はスペシャルゲストがお越しでーす!!」

 スタジオに雷田プロデューサーの声が響き渡り、「東京ブレイド」の原作者である鮫島アビ子先生とその付き添いの吉祥寺頼子先生が姿を見せる。どうやらここでタイムアップのようだ。

 私の脳裏には、何故かゴジラのテーマ曲がエンドレスで流れていた。

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