有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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アニメ2期とヤングジャンプ最新話の内容があまりにも尊過ぎて昇天しそうです。


原作者襲来②

「脚本…全部、直してください」

 私たちの稽古の様子を笑顔で観ていたアビ子先生だったが、彼女は雷田Pを捕まえて突然そんなことを言い出した。それを聞いた雷田Pはあんぐりと口を開け、GOAさんは想定していたケースの斜め上を行くクレーム内容に放心して白目を剥いていた。

 想像していた通りの酷い展開になった。本番まで残り3週間のタイミングでこんなことが言えるのはアビ子先生も中々神経が太い。

 

「貴方が上げてくる脚本…このキャラはこんな事言わないしこんな事しないってのばっかり。別に展開を変えるのは良いんです。でもキャラを変えるのは無礼だと思いませんか?うちの子達はこんな馬鹿じゃないんですけど!」

 

 アビ子先生の今の心情を言い表すならば、「信じて送り出した『東京ブレイド』がなろう小説になって帰ってくるなんて…」と言ったところか。「なろう小説=チートでハーレムな三文小説」と一括りにする風潮には一言物申したい気持ちもないこともないが、今回の話とは関係がない上に無駄に長くなりそうなので涙を飲んで割愛する。

 とにかく「分かりやすさ」を優先した結果、見逃すことが出来ないレベルのキャラ崩壊が起こったことに対してアビ子先生は激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム状態になってしまったということだ。こわいなー戸締りしとこ。

 

「それは演劇というメディアの性質上…いえ、修正箇所をいただければ対応も……」

「だから全部!どれだけ言っても直ってないんですよ!」

 

 公平性の観念からGOAさんを弁護するならば、彼が「東京ブレイド」に付け加えた分かりやすさというのは「少年漫画的な分かりやすさ」というものだ。「バトルシーンだけやっておけば大丈夫やろ」みたいな空気をひしひしと感じる内容だが、それ自体は言うほど悪くない。鬼滅の刃で例えると、鬼の過去話の回想シーンの大半をカットするような感じだろうか。

 あれは「鬼にも同情すべき点がある」に加えて「人としての一線を越えてしまったことに対する報い」を読者に伝える重要なシーンなのだが、あのシーンは無駄に長いのであそこをカットすれば尺をかなり節約できると考えるのは理解は出来る。

 役者の台詞の文字数を2万文字以内に収める必要のある脚本制作作業で、どの部分を残してどの部分をカットするかはもはや爆弾の起爆装置の解体作業みたいなものだ。「東京ブレイド」原作ではなくアビ子先生の人柄を理解しなければ回避できない問題だったとも言えるので、この件でGOAさんだけを責めるのは少し可哀想だと思う。

 

「私がナメられてるだけなのかなと思ってたら脚本家の方が純粋に理解出来てないみたいですね。ちゃんと原作読んだ上でこれって言うなら、ちょっと創作者としてのセンスが足りないんじゃ」

「先生!アビ子先生一旦ちょっと!」

 

 人としての一線を越えようとするアビ子先生の口を吉祥寺先生が強引に塞ぎ、GOAさんから距離を引き離した。どうして脚本の批判を個人への人格攻撃に発展させようとするんですか?これがワカラナイ。

 アビ子先生の反応は、推しを馬鹿にされた厄介ファンの反応そのものだ。戦国無双派の人間に戦国BASARAをディスられたファンの子がめっちゃ早口で似たような反応をしていた。めっちゃ怖かった。

 結局GOAさんの敗因は、「アビ子先生は東京ブレイドの『箱推し』だった」と知らなかったことだ。全員が物語の主人公であり、誰一人として粗雑に扱うことは許さない。敵役のネームドキャラを「やられ役」「かませ犬」として扱うなんてもってのほかだったということなのだ。

 

「正直、この脚本家の人、私の作品に向いてないんじゃないですか?ほらココの修正とか聡明さが消えて馬鹿な女にしか見えない!」

 推しを汚されて怒りが有頂天に達したアビ子先生は、GOAさんが大人の対応をしていることをいいことにどんどん口撃を続けていく。相互理解を求めない会話は単なる拒絶にしかならないのだが、今ここでそんな常識を語る人は誰もいなかった。全員がドン引き状態である。

 

「センス無い。修正も的外れ。エンタメを理解していると思えない。…もう私に全部脚本書かせてください」

「いやちょっとそれは!」

「絶対にやります。じゃなきゃこの劇の許諾取り下げます」

 遂にアビ子先生が鬼になってしまった。本来の陰キャな性格と相まって、日の光を浴びたら即死してしまうのではないだろうか。原作知識でこうなることは知ってはいたが、GOAさんのげっそりした表情を見るとこちらまで胃が痛くなってくる。おーいアクアー、胃薬全員分持ってきてー。早くー。

 

「私ギャラいらないんで。名義もそのままで脚本家さんには普通にギャラ払ってください。でももう関わらなくてもいいです」

 言いたいことを言うだけ言ったアビ子先生は、「原稿の途中なので帰ります」と言い残して帰ってしまった。

 あーもうめちゃくちゃだよ。

 

 

「…思ってた以上に酷いことになりましたね。これからどうするんですか?」

 怪獣が去っていったスタジオで呆然としている雷田Pに、私は声をかけた。GOAさんの方はアクアと吉祥寺先生が話し相手になってケアをしてくれている。とりあえずあちらは2人に任せて大丈夫だろう。

 

「…なんとかアビ子先生を説得して、GOAくんを降ろすって発言を取り下げてもらう。こちらが誠心誠意を見せればアビ子先生もわかってくれるはず……」

「誠意が伝わらなかったからこんな状況になっているのでは?」

 私のツッコミに雷田Pが押し黙ってしまった。やれやれ。

 

「…アビ子先生が発言を取り下げるとは思えないので、いっそのことGOAさんとの共同脚本という形に持っていくのが一番丸く収まるんじゃないでしょうか?」

 とりあえず原作知識からカンニングした模範解答を雷田Pに伝えた。自分が持っている情報を出さずに関係者の胃を無差別爆撃するのは流石に非人道的行為過ぎる。

 

「いやいや、それは流石に…」

「原作者と脚本家を会わせると、仲が良くなるか仲が悪くなるかの二つに一つ、ですよね?でも関係修復出来なかったらどのみちGOAさんが降ろされてしまうわけだし、最後の手段としてはアリだと思いますよ?」

 最後の手段に頼っている時点で死に体であるとは言ってはいけない。そんなことは百も承知だ。

 

「重要なのは、アビ子先生に『自分一人では良い脚本は書けない』と自覚させることだと思います。脚本家のノウハウなんて絶対知らないと思いますし、それどころか最近の最新技術を使った舞台すら観たことがないんじゃないでしょうか?

 とにかく、まずこちらの実力を認めさせないと永久に話が平行線になると思います。案外、今やってる『SMASH HEAVEN』の舞台を観たら意見をコロっと変えてくれるかもしれませんよ?」

「な、なるほど…」

 冷や汗でびしょびしょになっていた雷田Pの顔色がわずかに良くなった。

 

 ちなみに「SMASH HEAVEN」というのは、ツクヨミ(メフィスト)がいた向こうの世界でいうと「テニスの王子様」に当たるこちらの世界にのみ存在するジャンプの人気漫画だ。スポーツのジャンルがテニスじゃなくて卓球になっているが、漫画のノリはあちらとあまり変わっていない。

 ピンポン玉じゃなくてゴルフボールで卓球やってんのかと言わんばかりにボールをぶつけられた選手が吹っ飛んでいく様は見ていて変な笑いがこみ上げてくる。念能力でピンポン玉を硬質化しているのかな?

 

「なんなら、私か吉祥寺先生に頼めばアビ子先生に舞台のチケットを届けますよ?」

「いや、そのぐらいは自分でするよ。ありがとう、少し希望が見えて来たよ」

 む、私が口出ししたせいでアビ子先生にチケットを渡すイベントが消滅してしまった。まあそのぐらいは問題ないか。

 

 

 

「……っていう感じなんだけど、アビ子先生と共同脚本になることは覚悟して欲しい。でも、GOAくんを降ろす事態だけはならないように絶対に死守してみせるよ」

「…わかりました。原作者への対応は雷田プロデューサーに任せます」

 

 雷田Pの言葉に、疲れた顔でGOAさんが答える。落としどころが明確に見えている分「推しの子」原作の状況と比べたら幾分余裕がありそうな感じだ。一山越えたとは言い難いが、5合目ぐらいまでは踏破したと言っても大丈夫だろう。

 

「……有馬さん、君が相談に乗ってくれたおかげで冷静になれたよ。ありがとう。お礼に何かしてあげたいんだけど、有馬さんが何か僕にして欲しいことってあるかな?」

「あ、それだったら私達にも『SMASH HEAVEN』のチケット下さい。鏑木Pが招待したメンバーってステージアラウンド型の演劇見たことない人結構いそうだし、普通に考えて知っておかないとマズいですよね、これ」

 アクアは確定でアウト、メルトも大分怪しい。丁度いい機会なので雷田Pにチケット代を奢らせることにした。ステアラ型の演劇なので定価だと諭吉さん一人では足りないぐらいにチケット代が高いが、経費で落ちるから特に問題ないはずだ。多分。

 ちなみにステージアラウンド東京は2023年の12月末を以て閉館される。機材のトラブルによる公演中止も発生していたらしいし、機械の寿命には勝てなかったということなのだろう。

 

「そういやそのステージアラウンドって何?」

「えっ!知らないで稽古してたの!?」

「それ分かってなきゃイメージできなくない!?」

 

 メルトならともかく、アクアがそんなことを言い出したのでララライ組のメンバーが「コイツマジかよ」という視線と共に驚きの声を上げる。アクアって何でも知ってるように見えて意外と抜けてるところあるよね。だがそれがいい(ニヤリ)

 

「意外なところから問題点が見つかって良かったですね」

「ははは…全くだよ。運がいいのか、悪いのやら」

 その後はステージアラウンド型の演劇を観たことがない人の点呼を取り、未経験の人には強制的にチケットを押し付けて明日の公演を観に行かせることになった。観るのもまた稽古のうち、新しい脚本が完成するまで空いた時間は有効活用しないとね。

 

 

 

「あの…有馬さん、ちょっといいかな」

 とりあえず今やれることはすべてやりきったので、後は雷田Pに任せて解散…というところでGOAさんに声をかけられた。

 

「…君は僕の脚本を読んでどう思ったのか聞かせて欲しい。ほら、君は初日から僕の脚本について疑問を感じていたようだし、今回のアビ子先生の騒動もなんとなく予想していたみたいだし。率直な意見が聞きたいんだ」

 

 GOAさんは、そんなことを私に問いかけてきた。一役者の私にこんなことを聞いている時点でかなり重症っぽい感じがしてヤバい。はてさて、どう答えたものか。率直かつ死体蹴りにならないような意見かぁ、うーん。

 

「…私の印象は、初心者向けの脚本だなぁといったものです。2.5次元舞台を観たことがない人でも楽しめるように、無難に80点を取りに行くといった感じの。アビ子先生はあんな反応していましたけど、そんなに悪くない脚本だと思いますよ?」

 

 結局私は無難な回答を選んだ。自分に出来ないことを相手に期待して責めるほど私は傲慢になり切れなかった。

 もし私が脚本家だとして、「エヴァンゲリオンの脚本を、エヴァの名前をパチンコで知った70歳のおじいちゃんにも理解できるような分かりやすい内容で書いて欲しい」なんて言われたら白目を向いて呆然とすると思う。GOAさんがやったことは、つまりそのぐらいの凄いことなのだ。しかしGOAさんもこんな建前にしか聞こえない慰めを期待していたわけでもないだろう。

 だから、ここからが私の「率直な意見」だ。

 

「私は、脚本家は創作者ではなく翻訳者であるべきだと思っています。創作者としてのプライドを肥大化させて、歪んで捻じれて『原作は単なる素材』『原作者の言葉は雑音でしかない』と言い放つ脚本家がいることを知っていますから。

 …結局、脚本家と原作者の関係にセオリーも正解もないんですよ。それぞれ個人の人柄を見極めて、その人に合った対応をするのが大切だと思います。

 アビ子先生は「好き」という感情を共有できる相手にはどこまでも甘いタイプです。もうこうなったら、(しがらみ)とか全部取っ払って、好きなことを好きなだけ、好き勝手してしまえばいいんじゃないですか?

 きっと今日の話は何だったんだと言いたくなるぐらいに上手くいくんじゃないかと私は思っています」

 

 アビ子先生は「難しい人」だが、その分味方と認識した相手にはとことん心を開くタイプの人だ。GOAさんの「東京ブレイド」への原作愛が正しく伝われば問題など何もない。それは「推しの子」原作が証明していることだ。

 

「そっか…そうだといいなぁ」

 私の長い話をじっと聞いていたGOAさんだったが、アビ子先生と衝突してからずっと張り付いていた眉間のシワがようやく剥がれたようだった。こっちももう大丈夫かな。

 今日は長い一日だった。これでまだ夕方になっていないのが信じられないぐらいだ。はぁ。

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