有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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2024/8/15
アニメ18話の内容に合わせて鞘姫の設定を修正。
・「二刀流は舞台が初めて」の設定をカット。
・「右手に自分の盟刀、左手に刀鬼の盟刀」の二刀流スタイルを逆に変更。(右手で鞘を持って戦うスタイルだったため)

2024/8/24
ブレイドと鞘姫の台詞が説明台詞になってたので短く簡潔に修正。


感情演技(裏ルート)

 紆余曲折があったものの脚本を巡る原作者と脚本家のバトルも一段落し、ようやく舞台「東京ブレイド」の脚本の修正が完了して本格的に稽古が再開となった。

 前の脚本と比べて全体的に演技の難易度は上がったものの、役者バカの揃った劇団ララライのメンバーは新しい脚本を前にやる気を燃やして楽しそうに稽古に取り組んでいる。…若干一名を除いて。

 

「マジかぁ…こんなん出来る気しねぇ……本番まであと半月…間に合う気がしねぇよ……」

 役者歴一年未満の素人(ペーペー)であるメルトは、新しい台本の内容を見て頭を抱えていた。

 

「駆け出し役者のメルト君は、他の人の倍は稽古しないとねー」

「ひええぇ……」

 半泣きの表情で弱音を吐くメルト。なんだか彼を見ていると私の中に流れるドSの血が騒がしくなってくる。おいおい誘ってんのか?ああもうじれってぇな、やらしい感じにしてやるぜ。

 

「アクアにとっちゃあ、こんなの朝飯前なんだろうけどなぁ」

「いや…どうだろうな」

 メルトのボヤきに対して、アクアが煮え切らない態度を取る。

 

「そう言えばアクアの見せ場のシーンを私が奪う形になったけど、不満とか文句とかそういうの、ある?」

「いや全然。演技の上手い奴に見せ場のシーンを任せることは理にかなっているし、特に不満はない」

「アクアはもうちょっとガツガツして見せてもいいと思うわよー?」

 

 そう言えばこの脚本の変更のせいでアクアが感情演技を出来ないことを克服するイベントが全部カットされてしまったわけだけど、この世界ではアイは死んでいないし、アクアのトラウマ自体がなくなっているからやろうと思えばいつでも出来るのかな?まあいいや、アクアの感情演技はまた別の機会に見せてもらうことにしよう。

 ふふふ、感情演技はこうするものだというお手本を見せてあげるわ。

 

 

 

「勝負はついた。もうやめとけ」

 つるぎ(黒川あかね)との連携攻撃により、刀鬼を倒したブレイド(姫川大輝)鞘姫(わたし)に言い放つ。

 

「……刀を抜けば、血が流れる。皮肉なものですね、どうやら私はその言葉の意味を今まで理解したつもりになっていたようです」

 

 私は血の海に沈んだ刀鬼(アクア)を見下ろし、ぼそりと呟いた。

 善悪相殺。ご存知の通り、『撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ』という言葉の亜種である。もはや中二病ワード化した有名な言葉であるが、いざ撃たれる側に回る覚悟が本当にできるような人間なんて失うもののないただの「無敵の人」がほとんどであろう。

 他人に自己責任を問う無責任さがどうにも気に障るので、私はこの言葉が嫌いだ。「殺しているんだ、殺されもするさ」という言い回しのほうが核心をついていて好きだな、私は。

 鞘姫は最初から自分が犠牲になることで、この戦いを収拾をつけるつもりでいた。

 しかし、傷ついた刀鬼の姿を見てその信念が、揺らぐ。

 

「…まだ何も、終わってなどいません」

 鞘姫(わたし)は深手を負って昏睡する刀鬼に自分の盟刀の鞘を握らせ、代わりに刀鬼の使っていた刀を右手に持って立ち上がった。

 

「続けるっていうなら、手加減出来ねぇぞ」

「不要です」

 

 渋谷クラスタのリーダーとしての仮面を投げ捨てて、鞘姫(わたし)は一人の剣士としてブレイドの前に立つ。刀鬼が斬られたことに対して大袈裟に怒り狂うようなことはしない。そんなことをしなくても、自分の盟刀の「鞘」を捨てて刀鬼の刀を使うというだけで原作を隅から隅まで読み込んできたであろう観客には鞘姫の怒りは十分に伝わる。

 

 鞘姫の戦闘スタイルは「盟刀の刀と鞘を使った二刀流」であり、敵を殺さないために急所を狙うときは右手に握った鞘で打ち据えるのが鞘姫の特徴だ。そして鞘姫の「盟刀」は、刀ではなく「傷移し」が出来る鞘のほうが本体である。

 そんな己の信条でありアイデンティティそのものである鞘を捨てて、愛する者の刀で敵を屠るために戦う。一見キャラの本質を変えてしまうレベルのキャラ改変に見えるのだが、このときの彼女の心情を説明されるとエモ過ぎて泣けてくる。この演出大好き。

 おっと、稽古中なのに雑念が過ぎた。今は演技に集中することにしよう。

 

 

 ――許さない。赦せない。刀鬼を斬り捨てたブレイドが許せない。私の大切なものを奪おうとする新宿クラスタの連中が赦せない。

 

 怒りが鞘姫の在り方(アイデンティティ)を歪めて、捻じれて、塗りつぶしていく。それまでの自分とは違う、戦いを求める狂える獣に作り替えていく。

 鞘姫(わたし)はその激情を抑えることはしない。私の(こころ)は、刀鬼のところに置いてきた。今の鞘姫(わたし)は伽藍洞の心を戦鬼に乗っ取られた唯の修羅。

 鞘姫(わたし)はもう、この荒れ狂う感情を止めることは出来ない。

 

 限界まで引き絞られた弓のような緊張感を一瞬だけ醸し出した後、鞘姫(わたし)のほうから、ブレイドに仕掛けた。

 

「覇ァッ!!!」

 覇気を込めた声と共に、居合斬りのように横方向の遠心力を乗せた斬撃をブレイドに放つ。その一撃はブレイドに受け止められるが、鞘姫は流れる水の上で揺蕩う木の葉のような動きでブレイドを翻弄し、身体の回転を加えた斬撃を次々と繰り出していく。

 ()と云うよりは()。歴史に名を残すような伝説の剣豪ならば女子供の剣術と笑うかもしれないが、まだまだ未熟なブレイド達ではその変幻自在の太刀筋を凌ぐのが精一杯だ。

 2本の刀で、1対2の不利をものともせず、勝負は鞘姫の優勢で進む。

 新宿クラスタと渋谷クラスタの抗争は、最終局面を迎える――

 

 

 

「あー、しんど」

 通しで最後まで稽古をやった後、私はジュースを飲みながら壁を背にして休憩していた。

 「舞うような剣術」と言えば響きはいいが、実態はダンスで誤魔化しながら殺陣をしているようなものだ。木刀の重さは500ml入りのペットボトルと同じぐらいとはいえども、それを両手に持って振り回しながら迫力のある演技をするのは中々に神経を使う。

 腕が疲れてきたところに狙いをしくじって相手を怪我させてしまえば大惨事になるし、木刀を振り回す遠心力を腰でまともに受け止めてしまえば自分の腰をぶっ壊す原因にもなる。流石に10代の若さで腰痛持ちになりたくはないので、そこは特に気を付けて丁寧に演技をしている。

 更に鞘姫とブレイド達との勝負の結末は「疲弊したところを刀鬼の刀をブレイドに弾き飛ばされて動揺した隙を突かれて敗北」というものなので、木刀を手放せばそこで決闘シーンは終了だ。右手の刀を落とした場合は決闘シーンが短くなるぐらいの被害で済むが、左手の刀を落とすと締まらない結末になるので絶対に死守する必要がある。

 中々にも殺意の高いキラーパス脚本だ。まあ全体的に凄くエモくなってるし、色々と()()が出来そうなのでこちらのほうがやりがいがあって好きだが。

 

 殺陣のシーンはまだまだ改善の余地はあるが、刀鬼の復活シーンでの泣き演技は一発OKだった。当然だ、こちとら昔は泣き演技で飯を食ってきた「十秒で泣ける天才子役」様だぞひれ伏せ愚民ども。

 

「ふあ…なんか……眠………」

 休憩を挟んで気が抜けたせいか、猛烈な眠気が襲ってきた。抗い難い眠気の前に、落ちるように意識が闇に沈んでいく。

 そのまま気絶するように、私は意識を手放した。

 

 

 

 ――私は、夢を見ていた。

 日本のとあるマンションの一室での出来事。玄関口で、20代ぐらいの若い男性と髪の長い女性が言い争っている。そして、男の手には刃物が握られていた。

 

 その刃物で、男が女性の腹を刺した。

 

 そこでは第四の壁の向こう側から何度も見た、胸糞の悪い殺人事件が繰り広げられていた。それを私はドラマやアニメを観る視聴者の視点で眺めている。

 

「…そっか。()()()()()()()のかぁ」

 妙に頭がクリアな状態で、ある意味でとても見覚えのある光景を見せつけられたことで私はこれが明晰夢であると気づいた。

 

 私が「フェレス」と呼ぶ人外の存在が行使する、悪意ある原作再現。パラレルワールドとの因果を結びつけることで此処とは違う世界の記憶を見せつけられたり、パラレルワールドで起こった出来事を此方の世界で発生させる邪悪な神の悪戯(あそび)

 それを私は「悪縁結び」と呼んでいた。

 

 実は私はフェレスが「悪縁結び」を行うことを警戒していた。この世界ではアイが貝原亮介に殺される事件はアクアの活躍により未遂に終わったが、「推しの子」原作では東京ブレイドの稽古中にアクアがアイが殺された日のことを思い出して倒れるシーンがある。

 カタルシスが大好きなアイツらのことだ。アクアを苦しめるためだけに此方の世界では存在しない「アイが殺された日の記憶」をアクアに植え付けてくることを私は懸念していた。

 この世界ではアクアと黒川あかねが恋人関係になっていないので、黒川あかねの代わりに私がアクアのメンタルをケアする計画を密かに立てていたのだが、どうやらそんな展開はお気に召さなかったらしい。

 

「……えっ?」

 そこまで考えたところで、女性を刺した男が私が思いもしなかった行動に出た。

 腹部から血を流す女性に対して更に腹に一撃、首筋を2回刺して女性に()()()を刺しにかかる。

 

 私が知っている「推しの子」の内容とは全く違う殺傷事件が、そこで繰り広げられていた。

 

「えっ……どうして……何なのこの状況………」

 

 よく見ると、刺された女性はアイではなく全くの別人だった。

 アイによく似た人間が、貝原亮介によく似た人間に刺されて、殺されている。

 

 

 ――私は一体、何を見せられているのだ?




やりたかったことリスト37
悪縁結び・アクア


















やりたかったことリスト37
悪縁結び・アクア
「久しぶりね。さあ、私と遊びましょう?」
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