有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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ここでアドリブの効かない奴は勝てない

 稽古場でうっかり寝落ちしてフェレスに夢のドリームランドに招待されてから一週間と少し。あっという間に舞台「東京ブレイド」本番の前日になった。

 フェレスの嫌がらせを受けた後は特にトラブルが発生することはなく、最後まで稽古をやり遂げることが出来た。アクアがPTSDを発症して倒れることもなかったし、舞台のラストの感情演技は私の役割に変わっているので全くの無問題(モウマンタイ)だ。

 稽古中に感情レベルMAX状態でギャン泣き演技してやったらアクアがドン引きしていた。なんだよ本来ならお前がやる演技だったんだぞ他人事みたいな顔すんな。

 

「ふぅーっ」

 今は明日のコンディションを整えるため、湯船に浸かってゆっくりしているところだ。

 怪我の功名と言うべきか、フェレスと会ってからはここしばらくずっと感じていた胸のモヤモヤが解消したような気がする。アレもたまには役に立つこともあったということか。一歩間違えれば自分が外宇宙生物の仲間入りするところだったということは考えないことにした。

 

「"――私は炎(I am fire)私を慕う者をすべて焼き焦がす(Burn those who dare to care for me)"」

 

 私はここ最近、一人になるとこの歌を口ずさむことが多くなった。稽古も仕上げの段階に入ってからというもの、私の頭の中にずっとこの歌がリフレインしている。

 曲名は「Iron Lotus」。「Library Of Ruina」というゲームで使われた挿入歌だ。

 

「"――貴方との記憶と(And my fuel are memories)貴方への想いを薪とする(fuel are memories of you)"」

 

 「Library Of Ruina」のストーリーをざっくりと説明すると、「人の心を与えられて造られたアンドロイドのアンジェラが、制作者から冷徹な機械人形を演じる役割(シナリオ)を命じられたことで心を病んでブチ切れて大事件を起こす」というところから始まる物語だ。

 「翼」と呼ばれる大企業が世界を支配する人の命が軽いディストピア世界で、自分が人間になるために都市に住む人間を殺して本に変えていくアンジェラと何でも屋(フィクサー)のローランの一見ほんわかとした愛憎溢れる物語が見どころであり、ストーリーも設定も何もかもが地獄でハマる人はとことんハマる系のゲームだ。女子高生がやっていいゲームじゃねぇ。

 なお「Library Of Ruina」は「Lobotomy Corporation」の続編に当たるゲームなので、他人に気軽にオススメ出来ないのが悩みである。前作の真エンドに到達するまでの平均プレイ時間が150時間ぐらいだっけ?うん、無理。

 

「"――熱と共に消えて行く(They perish with the heat) すべて消えて行く(perish with the heat) それでも私は突き進む(So I can move on)"」

 

 「Library Of Ruina」には挿入歌がいくつかあるが、そのほとんどが「綺麗な歌声と美しいメロディでどうしようもない絶望をコーティングした歌」というコンセプトの歌ばかりの鬼畜仕様だ。

 その中で「Iron Lotus」は、殺されて本にされた恋人を取り返すためにアンジェラの住む「図書館」に乗り込んだ女傑のテーマソングであり、行き先が地獄だと知った上で「知ったことか」と突き進む彼女の心境を歌った愛と別離と鎮魂と決意と復讐と戦いの歌である。

 抗争を終わらせるために死地に向かい、ブレイドに刀鬼を斬られた舞台版「東京ブレイド」の鞘姫の状況に少しだけ似ているのかもしれない。

 

 しかし「製作者から与えられた脚本(シナリオ)に反逆して始まった物語」かぁ。よりにもよって、この舞台「東京ブレイド」の開演直前にこのゲームを思い出すとは、つまり私にそれを「やれ」ということなのだろうか。

 

 大団円直前の脚本への反逆(アドリブ)。遅れてきた創造主(おや)への反抗期。

 ――度重なる脚本の修正(うんめい)に振り回されてきた鞘姫の、原作者(おや)への意趣返し。

 

「"――嘘吐きな私を隠していた(Flower of iron Shrivelled up)鋼鉄の花は萎びてしまった(to hide the imposter in me) ねえ どうして居なくなったの(Hey, why did you leave?) どうして居なくなってしまったの(Why did you leave) そんな泣き言がこぼれそうになる(Don’t let those words out of me)"」

 

 どうやらアクアのトラウマイベントが消えてこちらに回ってきたついでに、アクアの父親(カミキヒカル)への復讐イベントの因果まで一緒に押し付けられてしまったらしい。

 

「"――嘘の仮面が剥がれる前に(Imposter’s about to speak) 私は言葉にならない想いを噛み砕いた(So I chewed on Huameitang)"」

 

 …イカン、長湯し過ぎてのぼせてきた。とりあえずお風呂から出ないと。

 アドリブを入れるかどうかは明日の私に任せることにして、とりあえず今日は眠ることにした。なるようになるだろ、きっと。

 

 

 

 そして夜が明けて、ついに本番の日がやってきた。

 舞台「東京ブレイド」の公演初日。開演の1時間前にもかかわらず、IHIステージアラウンド東京の前には入場待ちをしている人たちで長蛇の列が出来ている。

 その中で、鮫島アビ子は緊張した顔つきで入場を待っていた。

 

「どうしたの、アビ子先生?緊張してるの?」

 急に吉祥寺頼子に声をかけられたことで、アビ子はビクッと身体をすくませる。脚本の件では舞台関係者相手に大立ち回りしていたアビ子だったが、漫画家の肩書を外した場所では借りてきたチワワのように大人しかった。

 

「しないわけないじゃないですか。私が散々口出しして、これで失敗したら全部私のせい。緊張の一つや二つしますよ……」

「こればかりは慣れないものよねぇ」

 

 心血注いで作り上げた自分の作品を提出して、それにどんな評価が下るのかと気を揉むのは誰でも通る道だ。それは5000万部売る人気漫画家でも変わらない。

 

「…もし自分の作ったものが、世界で自分だけしか面白いと思わないものだったら。そう思うと……」

「大丈夫ですよ」 

 そんな風にネガティブな評価を受けたときのことを想像して悲観的になっているアビ子に、GOAが声を掛けた。

 

「僕もあの脚本の出来には満足しています。だとしたら、この世界に最低でも二人は面白いと思っている人がいることになりますよね?」

 

「…………(トゥンク)」

 GOAに励ましの言葉を言われたアビ子は、顔を赤らめて頼子の後ろにサッと隠れてしまう。

 彼女は根が陰キャなので、色々とチョロかった。

 

「あれ……割と仲良くなれたと思ってたのに…」

「気にしないでください。この子、青春全部漫画に費やして男子の免疫無いだけなんで、気にせずグイグイ絡んでください。ホントはそうされるのが嬉しい子なんで」

「ははは…まぁこの舞台の成功は役者の皆さまに懸かっている。でも皆さんは実力ある方々なので、良い舞台になると信じていますよ」

 

 GOAと談話をしているうちに、入口が開放されて入場できる時間になった。アビ子たちは入場チケットを処理してもらうために、前を歩く人たちに追従して進んでいく。

 

「それではまた。あとは仕上げを御覧じろ、ってね」

「…あぅ、それは私に対する皮肉ですか?」

「そんなこと誰も言ってないってば」

 

 別れ際になって、ようやくGOAに対してツッコミが出来るレベルにまで言語回路が再起動したアビ子であった。

 …返事の内容が残念だったのは、陰キャだから仕方ないとしか言いようがないが。

 

 

 

 

「アンタと共演するのは久しぶり…というほどでもないかしら?」

「『今ガチ』を含めなかったら、4年ぶりだね」

 「鞘姫」のメイクを終えて通路を歩いていると、「つるぎ」の出で立ちをした黒川あかねにばったりと出会った。

 

「…かつて天才だと持ち上げられた私と、今まさに天才とか言われてるアンタ。胸を借りるのは私か、それともアンタのどちらでしょうね」

「かなちゃんはいつでも私の憧れだよ。それはずっと変わらない。…私、かなちゃんと演るの楽しみにしてたんだよ。ずーーっと、ずーーーーーっと楽しみにしてたんだから」

 

 私が思っている以上に重たい感情を私に向けてくる黒川あかね。上等だ、そのぐらいでないと面白くない。

 

「その様子なら、私が少しぐらい『悪さ』しても大丈夫そうね。安心したわ」

 私がアドリブを入れることでみんなに迷惑がかかるかもと危惧していたが、その辺は大丈夫そうだ。その程度で動揺するほどコイツらはそんなにヤワじゃない。私がどんな無茶をやっても黒川あかね(つるぎ)姫川大輝(ブレイド)は柔軟に対処してくれることであろう。

 

「私もアンタとまた演るのを楽しみにしてた。お互い、この大舞台を楽しみましょう」

 開演まであと10分。しかもこの舞台「東京ブレイド」は鞘姫が舞うシーンから始まるので私がトップバッターだ。準備は早めにしておいたほうがいいだろう。

 私は黒川あかねと別れて、ステージに向かった。

 

 

 

 

 

 ――舞台「東京ブレイド」開演時間1分前。

 観客席はほぼ満席で、劇場を訪れた人たちは演劇が始まるのを今か今かと待ち受けている。

 

「さぁ、開幕だ。全部出してこい」

 舞台の関係者が集まる、劇場の後ろ側の観客席で「東京ブレイド」の演技指導をやってきた金田一が呟いた。

 

 

 ついに舞台「東京ブレイド」の開演時間になった。

 劇場にブザーが鳴り響き、劇場の明りが完全に消えて真っ暗になる。

 

 しばらく経つと、ステージセットの上で舞う人影が影絵のように現れた。

 そしてその直後、ディスプレイと一体化した巨大な舞台幕に静かに舞い踊る鞘姫の姿が映し出される。

 

 

「――かつて、大きな戦があった。名立たる強者たちが己が信望と野望を胸に争い続けたが、その戦いに勝者はなく。世界の命運を決める21の刀が、極東の地に散らばった」

 

 

 「東京ブレイド」の舞台背景を語るナレーションが劇場に流れて、舞台幕から鞘姫の姿が消える。次に、ステージに中央に突き立ったひと振りの刀にライトが当てられた。

 

 

「この物語は、ある男が一振りの刀を手にすることから――始まる」

 

 

 ナレーションが終わるのと同時に軽快な太鼓の音が響き渡り、それに合わせて舞台幕が少し開いて後ろから役者が登場。シームレスに登場人物の人物紹介に移って、その一連の流れのすべてをオープニングとして演出する。

 

 

 

 舞台「東京ブレイド」の幕が、切って落とされた。




やりたかったことリストその38
「Library Of Ruina」のステマ。シャオネキもIron Lotusも好き。
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