有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
「旅の者だー!水を分けてくれー!おーい!!……誰もいないのか?」
鴉の声が響く夕暮れ。燃えるような真っ赤な髪の色をした男が、
やっと見つけた人里を歩き回りながら男は大きな声を上げるが、建ち並ぶ家からは人の気配はしない。しばらく集落の中を歩いていると、
「ん?刀?……なんだこれ、光って……」
「おい!何者だ貴様!!」
赤毛の男が輝く刀を訝しげに見つめていると、屋根の上から見下ろす少女に
「…まずは自分が名乗れよ、な?」
「ウチは剣主の一人『つるぎ』様だ!その『盟刀』を捨てて逃げるか、私と戦うか選びな!」
突然現れた「つるぎ」と名乗る少女は、両手に持ったハート型に刃こぼれした鉈のような刀を男に突き付けて男を脅す。
どうやら少女はこの輝く刀をご所望らしい。誰の落とした刀かは知らないが、会ったばかりの見知らぬ少女にただでくれてやるには余りにも惜しいと男は思った。
一目見たときから、男はこの輝く刀に魅了されていた。
「…こいつは、俺の刀だ!」
赤毛の男は輝く刀を地面から引き抜き、霞の構えを取る。
「馬鹿な奴!地獄で後悔しなぁ!!」
迎え撃つ赤毛の男が放つ刀の一撃を「つるぎ」は空中で身を捩ってひらりと避けて、そのまま
――原作を再現した華麗な空中戦に、観客席から拍手が起こった。
「『盟刀』ってなんなんだよ!?」
鍔迫り合いの体勢で、赤毛の男は「つるぎ」に問いかける。何故自分が決闘を挑まれたのかを全く理解していない男の姿を見て、「つるぎ」は鼻で笑った。
「貴様、何も知らないのか!?冥土の土産に教えてやろう!『盟刀』はただの刀ではない、手にした者には様々な力が与えられる!
全ての「盟刀」から最強と認められた者には、国家を手にする――『
「…この日本を盗めるほどの力、ねぇ?いいじゃん」
「っ!?」
不適に笑う赤毛の男の周囲から突風が巻き起こり、「つるぎ」を押し返す。
「王様になってみたかったんだよねぇ、俺。…俺が最強になって、この国の王になる!!」
「ふざけるなぁ!!」
大言壮語を吐く男に「つるぎ」は激昂して、両手の刀を振り回しながら迫る。男は「つるぎ」が振り下ろした2本の刀をまとめて受け止めてはじき返し、体幹を崩した「つるぎ」に真っ向から衝突した。
紫電一閃。
勝ったのは、赤毛の男であった。
「きゃん!?」
車に撥ねられたかのように派手に吹き飛び、壁に背と頭をぶつけた「つるぎ」を赤毛の男は追いかけて、その眼前に容赦なく刀を突き付ける。
「やめてけれ!おらまだ死にたくねぇだ!!」
力の差を理解させられた「つるぎ」は、恥も外聞もない姿を晒しながら必死に命乞いをした。必要とあらば、男の靴を舐める覚悟であった。
「なら俺のほうが強いと認めるか?」
「認めるだぁ!屈服する!アンタのほうが強いだぁ!!」
こうして「
グヘヘな展開は特にない。そういうのが見たい人は
そして旅の途中で打ち解けた2人は次なる「盟刀」を求めて新宿へ向かう。
赤毛の男――ブレイドの物語は、ここから始まった。
「私の原作知識と全然違ってて草」
「何か言ったか?かな」
「うんにゃ、別に。ワイヤーアクション楽しそうだなーって思っただけよ」
私の独り言を聞きつけたアクアを適当に誤魔化す。鞘姫って裾が地面に付くぐらいの重装備の着物を着ているせいで、ワイヤーアクションやらないんだよなぁ。なんだか羨ましい。
私の原作知識ではもっと普通にチャンバラしていて、あんな巨人を駆逐しそうな動きでワイヤーアクションなんてしていなかった。時代劇を観に来たらいきなり実写版鬼滅の刃が始まったというような気分なのだが、これはこれで素晴らしい出来なので私の心の現場猫もヨシ!と太鼓判を押す。この世界のGOAさんはセンスあるなぁ。すごいなーあこがれちゃうなー。
これなら私も「つるぎ」役をやりたかった。今から交代出来ないかな?駄目?
そうこうしているうちに、舞台は新宿の地下に移り変わっていた。
盟刀「極楽天女」の剣主であり、新宿を支配している
キザミ配下Aは羊の角を持った女の子で、キザミ配下Bは悪魔のような角を持った女の子だ。なんとなくサキュバスっぽい見た目をしているのできっと裏ではキザミとグヘヘなことをしているに違いない。コイツら交尾したんだ!あ゛ーーーーっ!!
「クソ…アンタら強ぇな……」
「こんなところで躓いていたら、王になんかなれないだろ?」
「フッ…ハハハ!なぁ、俺も仲間にしてくれよ!お前が王になったとき、俺のポジションは将軍な!!」
ブレイドに敗北したキザミがブレイドの力を認め、新宿のリーダーの座を譲ることを宣言してがっちりと握手をした。グヘヘな展開はない。そういうのが好きな人は(略
「……俺は好き好んで地下にいたわけじゃない。渋谷の鬼どもに追いやられた。…奴らはその辺の鬼族とはわけが違う」
新宿一帯をすべて支配下に置いたブレイドが拠点の構築に精を出すシーンで、キザミはブレイドに自身の境遇を語る。
これも私の原作知識と異なる設定なのだが、どうやらキザミは鞘姫率いる渋谷クラスタとの抗争に敗れて新宿の地下まで追いやられたらしい。ヤクザの縄張り争いみたいなことしてるんだな渋谷クラスタって。
急に鞘姫がヤクザの女親分に見えてきた。脳筋姫だと思ったら実は任侠姫だったのか、私は。だったら新参者のブレイドにメンツを潰された鞘姫が頭の血管ピキピキさせながら「もう殺す!」って言い出す当初の設定でもそこまでおかしくはない…いやそれだと鞘姫が小物のやられ役になるから駄目って話だったか。
つくづく鞘姫の負けヒロイン認識が厄ネタになっている感じだ。アビ子先生は反省してどうぞ。
「次の目的が決まったな。…次は、渋谷の鬼退治だ」
「俺より強いやつに会いに行く」みたいなノリで次のカチコミ先を選んだブレイドが「盟刀」を掲げるシーンを最後に一幕が終了。ディスプレイ型舞台幕に「二幕に続く」と表示されて
――10分間の休憩の後、演劇が再開されて第二幕が始まった。
第二幕は、ブレイドによって統一された新宿クラスタと鬼族が徒党を組んだ渋谷クラスタとの対立が描かれている。
そしてその戦いは、
…今日の見どころの一つなので、居眠りなどせずにしっかりと見ていて欲しいものだ。
「お前、裏切ったのか!?」
「僕は、最初から鞘姫率いる渋谷の者。…ねぇ、どうしても戦わなきゃ駄目なんですか?
僕は親から無理やり剣を与えられて、こんな戦いに巻き込まれて……」
渋谷
匁を追い詰めたその場所は、奇しくもキザミがブレイドに敗れた廃材置き場だった。
「僕は…戦いたくない……逃げてください、そしたら戦わずに済みます。
お願いです、早く逃げてください、いなくなってください…っ!」
匁はキャットウォークからキザミを見下ろし、キザミに戦わずにこの場を去るように懇願した。しかし戦いを怖がり、身体の震えを抑えきれずにいるその態度とは裏腹に、匁は無意識にその手に持つ刀の鯉口を切ろうとしていた。
「早く…急いで……っ!」
匁の表情は、怯えるような表情から何かを我慢するような表情に変わる。
「がぁっ…!ああぁ……っ!!!」
ぐりん、と匁の眼球が一回転し。
「消えろぉおおおおおおっ!!!!!」
キャットウォークから、
…匁が恐れていたのは戦うことではなく、戦うことで我を忘れて相手を切り刻む己の狂気と残忍性だった。匁の鋭い斬撃を辛うじて受け止めたキザミは、匁を唯の臆病者と侮っていた自分の認識を改める。
「負けねぇぞコラァああああ!!!!」
せめて気迫だけは後れをとるまいとキザミは大声を上げるが、気合だけで勝てるほど匁は甘い相手ではなかった。
「『盟刀・流水死命』……!」
匁がキザミに向かって盟刀の力を解放した。
匁の攻撃をまともに喰らったキザミは全身から血を流し、地に膝を突いた。
「これが僕の盟刀、『流水死命』の力です。…渋谷クラスタがこの程度の連中に舐められているかと思うと、なんだか腹が立ちますね」
「ぐぅっ!?こ…この野郎…ぶっ殺してやる……っ!!」
戦いが始まって1分も経たぬうちに、すでにキザミは満身創痍。
ブレイド達が駆けつける気配はまだない。匁とキザミの勝負は、キザミが終始圧倒される形で進んでいた。
「がんばれー、メルトー」
私は舞台裏からこっそりメルトを応援していた。
漫画の設定では「匁とキザミではキザミのほうに強者感がある」という設定だったはずなのだが、この舞台では鴨志田さんの名演技に加えてキザミの「渋谷クラスタに負けて縄張りを奪われた」という設定との玉突き事故でその設定自体が消滅しかかっている。
メルトの責任というよりは役者の演技に全投げした脚本を作った弊害なので、原作再現出来てないことに文句を言う資格はアビ子先生にはない。反省して?
まあそういうことで、キザミは弱い、それがこの舞台の「東京ブレイド」の設定だ。
しかしそれは、メルトにとっての追い風になる。
「…弱い犬ほどよく吠える。今のお前がまさにそれだ!お前のような鬼など鞘姫様に必要ない!今ここで死んでしまえ!!」
「俺を殺すだって?笑わせんなぁ!」
血の匂いに酔って残忍性を増した匁は、ここでキザミにとどめを刺そうと攻勢を仕掛ける。キザミは既にかなりの傷を受けていて気合で動いている状態だが、それでも彼の目に諦めの色は見えなかった。
「テメェは偽物の『剣主』だ!その『盟刀』の真の力を引き出せてねぇ!!テメェにその剣を使う資格はねぇよ!!!」
「真の力…だと…!減らず口を!」
鍔迫り合いの体勢で舌戦を繰り広げるキザミと匁。体格ではキザミが勝っていたが、これまでの戦いで血を流し過ぎたせいで体力を消耗し、自分より小さい匁に力負けしていた。
「お前を殺して、『極楽天女』は我ら渋谷クラスタが頂く!」
――ギィンッ!!!
匁に刀を弾き飛ばされて丸腰になるキザミ。対抗手段を失ったキザミを前に匁は、駄目押しの突きを叩きこもうとする。
さあ、
「!?」
キザミは匁の突きを避けて、刀に向かってダッシュ。そのまま地面に落ちた自分の刀を蹴り上げ、迫ってくる匁の追撃をスルスルと躱しながら刀の落下点に向かった。
最後に回転しながら落ちてくる刀を華麗に受け止め、再び匁と対峙して刀を向ける。
――この世界における、「東京ブレイド」の原作シーンの完全再現。
客席から、割れんばかりの拍手が沸き起こった。
「ただ単に
私の記憶を除いて、この世界では完全になかったことにされてしまったキザミの謎の刀投げシーンを思い出して私は苦笑した。満身創痍なのになんで更に舐めプするの?馬鹿なの?死ぬの?
「あああああぁ!!!!!あああああぁッ!!!!!」
キザミは弱い。だからこそ、メルトの感情はそのままキザミの感情だ。メルトが抱える悔恨も劣等感も羞恥心も羨望もすべてキザミの感情として昇華して、それを匁に叩き込む。
「くっ…『流水死命』…っ!」
匁が盟刀の力を解放するが、絶え間なく続くキザミの猛攻に匁は集中力を乱して上手く氷の刃を生成することが出来ない。
それでもやらないよりはマシだと考えて、苦し紛れに水の状態のままキザミにぶつけていく。
「おれはぁあああ!誰にも負けねぇええええええ!!!!!」
キザミも盟刀「極楽天女」の力を解放し、赤熱する刃で「流水死命」から放たれる水を切り裂いて匁に肉迫する。
――「極楽天女」と、「流水死命」が交差する。
一瞬の静寂の後、キザミの身体がぐらりと揺れて、そのまま地に伏した。
キザミは限界ギリギリの身体に「流水死命」の水流をぶつけられたせいで体力を使い果たし、匁に刀を届かせる前にすでに気絶していたのであった。
キザミと匁の勝負はキザミの敗北に終わった。だが、キザミはまんざらでもない表情を浮かべた状態で気絶していた。
「よくやったわ、あとは私たちに任せなさい!」
そこにようやくブレイドと「つるぎ」が駆けつけたところで、第二幕が終了となる。観客席からの拍手に包まれながら、ゆっくりと舞台の照明が消えていった。
「あの…鴨志田さん、急にアドリブ入れてすみませ…」
「んだよ、やるじゃんか!
二度目の幕間、舞台裏でメルトが鴨志田さんに褒められて可愛がられていた。ゲヘヘな展開は(略
まあメルトと鴨志田さんのどっちが受けで攻めかなんて話はどうでもいい。第三幕からはようやく私達の出番だ。ここまでは完璧な出来でバトンを渡されているので、ここで私たちがトチるわけにはいかない。
私はメルトの活躍を見て浮かれかけていた気持ちを引き締め、もうすぐ始まる第三幕の準備を始めていた。注意確認、ヨシッ!
やりたかったことリスト(急遽差し込み)
アニメ準拠の脚本なので、漫画版準拠の原作知識が全く役に立たないかなちゃん。
アニメと原作の違いを箇条書きにするとアニメの脚本家がめっちゃ仕事してるのがわかってすごく楽しかったです。