有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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アニメ18話の内容に合わせて鞘姫の設定を修正。
・77話の「二刀流を見せるのは舞台が初めて」の設定をカット。(右手で鞘、左手に刀を持って戦うスタイルがデフォルトだったため)
・77話の刀鬼の刀を持つ手を逆に変更。(鞘と刀鬼の刀を交換して戦う演出にするため)
・鞘姫の口調が脳筋姫モードのままだったので、ですます調に変更。

舞台の脚本をアニメ準拠にするというオリチャーを発動したため設定と執筆時間が破綻しかかってますがRTAではないのでガバではありません。(震え声)


舞台「東京ブレイド」第三幕

 キザミと匁の勝負は匁に軍配が上がったが、匁がキザミを倒したところでブレイドと「つるぎ」が加勢。2対1の状況を劣勢と見た匁が新宿クラスタの拠点から逃走したところで舞台「東京ブレイド」第二幕は終了した。

 

 幕間を挟んで、第三幕が始まる。

 

「新宿クラスタ…厄介な奴らみたいだな」

「何も考えてないバカの集まりですよ。盟刀の契約者を全員倒せばそれでいいと思っている。

 …どうします?あいつら、攻めて来ますよ」

 場面は渋谷クラスタの本拠地。そこで匁と刀鬼が新宿クラスタの対処について語り合っていた。

 

「俺は姫の懐刀だ。持ち主の指示に従うだけ」

「…君に意見を求めたのが間違いでしたね。少しは人間味というものを持ったらどうですか?」

 

 渋谷クラスタの一大事に対して何の感情も見せない刀鬼の反応を見て、匁はため息をつく。

 コイツと話をしても埒が明かないと判断した匁は、刀鬼との会話を切り上げて自分たちの頭領(ボス)に指示を仰ぐことにした。

 

「鞘姫様…ご決断を」

 

 一瞬の暗転の後、ディスプレイ型舞台幕が横に開く。

 舞台の奥には、高御座を模した玉座に鎮座する鞘姫の姿があった。

 

――ようやく、私の出番だ。

 

 

 鞘姫(わたし)が最初に登場するこのシーンはアビ子先生が特に力を入れて脚本をリテイクしたこだわりのシーンであり、動きだけで頭領としての威厳、新宿との対立を表現しなくてはいけない場面である。陳腐になってもいけないし、間延びしてもいけない。

 この難しい表現を、私の知る原作では黒川あかねは見事にやってみせた。だからこそ、私は絶対にしくじるわけにはいかない。

 鞘姫の演技は、そのすべてが黒川あかね(アイツ)との勝負である。

 

 

「――刀を抜けば、血が流れる」

 丹田に力を込めて、凛とした声を出す。

 

 戦になれば仲間が傷つき、時には死ぬ。

 敵にも友誼を結んだ大切な仲間がいることだろう。戦うことで、喪うことで、恨みと憎しみの因縁が広がっていくことはとても悲しいことだ。

 

――そんな迷いを、斬って捨てる。

 

 

「ですが、戦わなければ守れないものもあるのでしょう」

 

 鞘姫を照らすライトが、赤色に変わる。

 血を流す覚悟。血を浴びる覚悟。武を生業とする者たちを束ねる頭領として、己の感情に蓋をして冷たい仮面を被る。

 

 私は高御座から立ち上がり、刀架に置かれた自分の盟刀を恭しい仕草で持ち上げた。

 まるで何かの神事のようにその一挙手一投足に気を配った丁寧な仕草を見せることで、これは戦うことへの覚悟を決めるための儀式であると観客に想像させるように狙って演技をする。

 客席に向かって刀を突き付け、目を見開き、腹式呼吸を使った力の籠った声で、静かに言い放つ。

 

「合戦です」

 鞘姫の宣言に呼応する渋谷クラスタの一党の鬨の声が、辺りに響いた。

 

 

――どうだ、見てるか黒川あかね。私は、お前には負けていないぞ。

 

 

 

 

「――新宿と渋谷。相容れることのない二つの徒党が、ついに決戦の時を迎える」

 

 再び舞台が暗転した後、客席が回転して次の舞台へと移動する。

 そして狂言回しのナレーションを挟み、拍子木の音と共に舞台の幕が開いた。

 

 舞台が明るくなると、そこにいたのは渋谷クラスタに襲撃をかけるために集まったブレイド率いる新宿クラスタの一党。

 

「行くぜェッ!」

「おおおおぉーーーーッ!!!!!」

 

 ブレイドの吶喊に合わせて、新宿クラスタの一党が渋谷クラスタの本拠地目掛けて突貫した。

 ブレイド達の移動に合わせて客席が回転し、シームレスに次の舞台である渋谷クラスタの本拠地へ移動する。

 そこに待ち受けているのは、渋谷クラスタの武闘派の鬼たちだ。

 

「ここは通行止めだ、ブレイド」

「通りたきゃ、その首置いていきなぁ!!」

 身体の大きい鬼と、背の低い鬼のコンビがブレイドたちの前に立ち塞がる。

 

「面白れぇ!」

 名指しで売られた喧嘩を買おうとするブレイドだが、それに先んじてかつて戦ったキザミの配下の鬼たちがブレイドの前に出た。

 

「行きな、ブレイド!ここは私たちが引き受ける!」

「盟刀を持たない相手なら私達で十分だ!キザミ!匁と決着、付けてきな!!」

「応!任せろ!」

 仲間に露払いの戦闘を任せて、ブレイド達はどんどん先に進んでいく。

 

「鞘姫は奥の間だ!」

「一気に突っ切る!!」

 

 再度舞台が暗転して客席が回転し、ブレイド達の移動に追従する。辿り着いた舞台の先で、門に見立てた舞台幕を開いた先の広間でブレイドたちを待ち受けていたのは匁と刀鬼の二人。

 言わずもがな、渋谷クラスタの最強戦力だ。

 

「…懐かしい顔ぶれですねぇ」

「匁っ!」

「貴方がここまでたどり着くとは思いもしませんでしたよ、キザミさん。

 …僕よりも弱い、貴方が」

 

 格付けは終わったと言わんばかりに、二階からキザミたちを見下ろす匁。

 奇しくも、新宿クラスタの地下でキザミと匁が対峙したときの再現となっていた。

 

「…俺は確かに弱いさ。けどな、仲間がいたからここまでこれた!決着をつけるぞ、匁!」

 

 かつての対決とは変わって、今度はキザミが匁のいる場所まで駆け上がる。

 挑戦する側と挑戦を受ける側の立場が逆転したが、今のキザミには油断も気後れもない。

 あるのは、次こそは必ず勝つという不退転の覚悟だけ。

 

「何度来ても結果は同じですよ」

「そんなこたぁ、やってみないと分からねぇだろ!」

 舌戦を繰り広げながら、キザミと匁の二度目の一騎打ちが始まった。

 

「雑魚どもは任せた、俺は敵の大将をやる。…この戦、最速で終わらせる」

「…お前、強そうだな。その実力、試してやる!」

 

 一方、刀鬼はブレイドを標的に定めてブレイドの前に立ち塞がる。

 ようやく自分の出番が回ってきたブレイドは、嬉しそうな表情で刀鬼に刀を向けた。

 

 

 

――そして暗転からの、4度目の客席回転。舞台は鞘姫の間に戻ってくる。

 

 

「…あれ、無我夢中で走ってたら私だけ着いちゃった……」

 鞘姫の間に辿り着いたのは「つるぎ」一人。他の仲間は匁たちのいる広間に釘付けだ。

 

「…ハッ!?これは私が鞘姫を倒してアイツらをギャフンと言わせるチャンスでは?」

 結果的に抜け駆けになってしまったとはいえ、新宿クラスタにとっても千載一遇の好機には違いない。「つるぎ」は道中の戦闘はすべてブレイドたちに任せて、楽してズルしておいしいところをいただいていくことにした。

 

「出てきなさい!鬼の姫!!」

 

 「つるぎ」の声と共に舞台幕が開き、鞘姫の姿が現れる。

 決戦の舞台は、鞘姫の住む正殿を背景とした中庭。鬼の統領の住む場所に相応しいと言える、しかし鞘姫のような少女が住むには相応しくない仰々しいオブジェクトが並ぶ不気味な空間であった。

 

「あんたが鞘姫ね!」

 大将首を見つけてテンションを上げる「つるぎ」であったが、鞘姫の顔を見て違和感を覚えた。

 そしてすぐに、その違和感の正体に気づく。

 

「角がない…混血?」

「貴方も混血は純血に劣ると思っているのですか」

 匁や刀鬼と同じく、高い場所から「つるぎ」を見下しながら冷たい口調で鞘姫が言った。

 

「刀を抜きなさい!勝負よ!!」

「貴方にはこれで十分です」

 気まずさを誤魔化すように決闘を挑んでくる「つるぎ」に対して、鞘姫は鞘に納まったままの自分の刀を「つるぎ」に見せつけて言い放つ。

 

 お前など、本気を出すまでもない。

 鞘姫が発するその風格が、その眼光が、「つるぎ」を格下の存在だと認識していると雄弁に語っていた。

 

「舐めてくれて…!」

 鞘姫の出す威厳と風格に対して少し気圧されながらも、「つるぎ」は気丈に振る舞う。

 キザミと匁。ブレイドと刀鬼。そして、「つるぎ」と鞘姫。

 

――盟刀を持つ者たちの決戦の火ぶたが、今切られた。

 

 

 

 

(…ここまでは良し。そして、ここからが本番)

 鞘姫(わたし)は舞台の上で「つるぎ(黒川あかね)」と対峙しながら、考えを巡らせた。

 私の原作知識とはコイツと配役(キャスト)が逆だが、ここで黒川あかねが考えていることは原作とそう変わらないだろう。

 有馬かな(わたし)のカッコイイところを見せてみろ。つまりはそういうことだ。

 

 「つるぎ」の演技をしながらも楽しそうな表情を浮かべている黒川あかねの様子を見ると、どうやらここまでは及第点だったようだ。当然だ、こちとらお前の鞘姫の演技を越えようと必死に頑張ってきたんだからな!

 

「やぁあああああ!」

 剣道のような掛け声を上げながら両手の鉈剣を打ち込んでくる「つるぎ」。それを私は涼しい顔で捌いていく。

 自分の攻撃が通用せず、だんだんと焦り始めている「つるぎ」に私は肉迫し、額がぶつかりそうな至近距離で「つるぎ」の瞳を覗き込んだ。

 

 原作(かつて)の私がコイツにやられた演技。それをそっくりそのまま、本人にお返ししてやる。

 

 私の迫力に顔を紅潮させながら「つるぎ」が大きく間合いを取った。通し稽古(ゲネ)でも同じことをやってるはずなんだが、どうして毎回そんな大袈裟な反応をするのかねぇ?

 黒川あかねが何を考えているのかなんて気にしていても仕方がないので、演技を続行。「つるぎ」が動揺したこの隙をついて、私は刀を抜いた。

 

 右手で鯉口を切り、その状態で鞘を一振りすることで鞘から刀を滑り落とすような形で抜刀。そして鞘から抜け落ちて宙に浮く刀を左手でキャッチして見得を切る。

 鞘と刀の二刀流。それが、刀ではなく鞘が本体の盟刀を持つ鞘姫の剣術スタイルだ。

 

 私は刀を逆手に持ち、身体を回転させながら舞うように刀を振るう。

 刀を避けられたら鞘で叩きつけ、鞘を避けられたら刀の一閃を見舞う。そんな隙を生じぬ二段構えの剣術で「つるぎ」を翻弄していく。

 鍔迫り合いで鞘姫の動きを止めようとする「つるぎ」をぐい、と押し返して去り際の一撃。辛うじて防いだ「つるぎ」が反撃してくるが、一歩下がって鉈剣の間合いの外に出て空振りを誘う。

 続けて放たれた鉈剣での突きを半身になってスルリと躱して、お返しとばかりに回転による遠心力を加えた鞘での一撃を放つ。程よく力の抜けた一撃が「つるぎ」を襲った。

 二刀流に肉を裂き骨を断つような剛剣は必要ない。相手の身体に刀を滑らせ、摩擦力で切り裂くのが真髄だ。どのみち殺陣シーンは寸止めが鉄則なので、無駄に力まず美しさだけを追求して演技を続けていく。

 

 

(さて…ここからどう出る、黒川あかね?)

 

 私の記憶にある原作知識では私が「つるぎ」の役をやっていたのだが、ここで有馬かな(わたし)はかつてのトラウマを思い出して、黒川あかねの引き立て役としてやられ役に徹することを選んだ。クライマックスシーンに入る前に鞘姫の見せ場を最大限に盛り上げて、一筋縄では勝てない強大なボスであることを印象づける。作品的にはそれで正解だ。

 しかし、私の前で遊んで欲しそうな犬のような目をしている黒川あかねが私と同じ道を選ぶとは思えない。

 

 「つるぎ」と鞘姫の殺陣の時間は戦闘のBGMが終わるまでの2分強。今はだいたいBGMの半分が終わったところで、あと1分ぐらいは演技をする時間が残っている。

 

――つまり、アドリブの演技を一回挟むぐらいの時間の余裕があるということだ。

 

 まさかお前もアドリブをやるつもりか?…やるんだろうなぁ。

 基本的に殺陣は役者任せのシーンであり、結末以外の部分は演出家の指導の余地はあっても脚本が直接介入する余地は少ない。事故を起こして怪我人を出さないように寸止めと予備動作による合図と刀を振る前の掛け声にさえ注意していれば、後は役者の技量とセンスに委ねられるので()()をするチャンスは十分にある。

 

 誰も彼もがアドリブをやり始めてだんだんと収拾が付かなくなっていくこの舞台の上で、私は人知れず冷や汗を流していた。

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