有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う 作:雑穀ライス
東京ブレイド第三幕。場面は「つるぎ」と鞘姫の一騎打ちのシーン。
同時にキザミと匁、ブレイドと刀鬼の一騎打ちが繰り広げられているが、観客の注目はほとんど
ここで「
「このぉおおおおお!!!」
殺陣のシーンの終了まで残り一分弱。ついに「つるぎ」が仕掛けてきた。
鍔迫り合いからの押し相撲で強引に押し返した後、自分はバルコニー形式のステージのギリギリ後ろにまで後退。横幅が10m足らずのステージ上に、私と「つるぎ」の間に5mほどの空間が生まれた。
「行くわよ!鞘姫!!」
「つるぎ」が鞘姫への攻撃宣言をすると同時に、こちらに向けて猛烈にダッシュしてくる。下手に動いた場合の事故が怖いので「つるぎ」がどう出るのか様子を見ていると、彼女は鉈剣で顔をガードしながらスライディングで床を滑ってこちらの懐に潜り込んできた。
私の足元まで滑ってから膝立ちの状態になり、身体を捻じって鉈剣を振る構えを取る。ここでようやくコイツが何をするつもりなのか理解した私は、慌てて防御態勢を取った。
具体的に言うと、→↓↘+パンチボタンで発動するタイプの
「そりゃぁあああ!!!」
「つるぎ」が鉈剣を使った
「くぅっ!?」
昇龍拳は着地時に隙が出来るのが定番だが、如何せん「つるぎ」との距離が近すぎるせいで下手に反撃すると本当に事故が起きる。オイコラ武器のリーチの差を考えたら私よりもお前のほうが危ないんだぞ加減しろ馬鹿!
やりたい放題に暴れ始めた「つるぎ」を止められない私は防戦一方となり、完全に攻守交替となった。着地後も無敵時間が続く昇龍拳とかズルすぎる!こんなんチートやチーターや!!
「てやぁッ!!」
更に「つるぎ」はオーバーアクションで両手の鉈剣を振りかぶって、こちらに叩きつけてくる。それを鞘と刀を使って受け止めると、今度はがら空きになったボディにミドルキックを打ち込んできた。
私は蹴りを食らったふりをしながら大袈裟によろめいて「つるぎ」から距離を取る。そこでBGMが終了し、殺陣の時間が終了した。
ゆ、許された。危うく冷や汗でメイクが崩れるところだったぞオイ。
黒川あかねがやった演技は、二刀流を使いこなし華麗に舞うように戦う鞘姫に対して、剣術と格闘術を組み合わせた泥臭い戦い方をする「つるぎ」という対比構造に持ち込みお互いの演技を強調し合うというものだ。
そうやって私に対抗する作戦自体は別にいい。しかし昇龍拳とかミドルキックとかは「つるぎ」がやりそうな戦い方というよりも、悪ノリしたときの私がアドリブでやりそうな演技だと思ってしまうのは私の自意識過剰なのだろうか。
…もしかしてまだ私のことをプロファイリングし続けてるとか言わないよね?流石に怖いよそれは!?
「どうだ!アンタみたいなお行儀のいい剣術しか知らない奴には、私の動きは見切れないだろう!!」
「まるで山犬…いえ、まるで山猿のような身のこなしですね」
「おいコラ待てぇ!なんでそこを言い直した!?」
殺陣のアドリブのおまけにレスバのアドリブまでついてきたので、対比構造を逆手にとって鞘姫らしくお上品な罵倒で綺麗に打ち返してやる。おファックですわよ。
私の忌憚のない感想を聞いた「つるぎ」は地団駄を踏んで悔しがっていた。ざまぁ。
…鞘姫と「つるぎ」が仲が悪いという設定は特になかったはずだが、多分この反応で間違ってはいないだろう。お行儀の悪い格闘術で着物を汚された苛立ちもあるだろうし、なにより「つるぎ」は将来的に刀鬼に粉をかけてくる泥棒猫だ。鞘姫と相性がいいはずがない。
将来的にもっとお行儀の悪い行為で自分を困らせてくるのだから、このぐらいの嫌味は言う権利がある。未来知識を根拠に相手に嫌がらせするとかまるで私みたいだな?鞘姫さん?
このやり取りで鞘姫に「腹黒要素」という個性が勝手に付け足されてしまったような気がするが、私は悪くない。鞘姫の性格の掘り下げが足りてないアビ子先生が悪い。
しばらく「つるぎ」と睨み合いを続けていると、ようやく舞台幕が閉まって第三幕が終幕となった。…なんだかものすごく疲れたような気がする。
おのれ黒川あかね、この借りは第四幕で速攻で返してやる。
幕間を挟んだ後の第四幕は、舞台「東京ブレイド」のオリジナル展開となる。
刀鬼が斃れて、最後に残った鞘姫とブレイドの決闘シーン。そこが、私にとっての本番だ。
「かなちゃん…急にアドリブ入れて、ごめんね?」
三度目の幕間の舞台裏で第四幕の台本のチェックをしていたら、黒川あかねが私に謝りにきた。
「アドリブ自体は別にいいけど、ああいう演技をぶっつけ本番でやるのは下手すれば大怪我につながるから出来れば事前に説明は欲しいわね」
「…ごめんなさい」
自分もこの後アドリブを食らわせるつもりなので強くは言えないが、怪我してから後悔しても遅いので一応注意はする。「恋ビタ」のときからそうだったけど、この子たまに役に引き摺られて暴走するよね?
「ま、私も第四幕のこのシーンでアドリブ入れるつもりだからフォローはよろしくね。それでチャラにしてあげる」
「…どんなアドリブ入れるつもりなの?」
「ふふ…それはね……」
そう言って私は黒川あかねの耳元に口を寄せる。
「内緒」
そう言った後に、ふーっ、と黒川あかねの耳に息を吹きかけてやった。
「ひゃうっ!?」
おお、いい反応。からかい甲斐があるなぁ。
そうだ、姫川さんにもコンセンサス取らないと。
私は顔を真っ赤にしている黒川あかねとの会話を切り上げて姫川大輝のところに向かった。
――「鞘姫は、混血の鬼」。
この情報は、私の原作知識にない鞘姫の設定だった。
「貴方も混血は純血に劣ると思っているのですか」
鞘姫のこの台詞から、彼女がどんな境遇で育ってきたのかは容易に想像が出来る。
力こそがすべてという価値観の鬼の中で育った鞘姫。
鬼の出来損ないと父親から言われ、虐待される日々。
優しさだけが取り柄の、鬼のコミュニティでは浮世離れした存在の母親。
――唯一の味方は、付き人としてそばに寄り添ってくれた男の子。
このようなバックストーリーを思いついたときから、私はこの脚本に反逆することを決めた。
この脚本では鞘姫の代わりに刀鬼が斬られる展開になるが、大まかな展開は鞘姫が斬られた場合のパターンと同じでブレイドと戦う相手が変わる程度の違いでしかなかった。
心優しい鞘姫が怒りに震えて感情を露わにするという展開は鞘姫というキャラに対する掘り下げであり、テコ入れでもある。
――見くびるな。怒りだけで、この胸に渦巻く感情を表現しきれるものか。
「人の痛みを理解出来る優しい人になりなさい」と母は言った。
私はその言葉に従い、「人の痛みを理解出来る優しい人」であろうとした。
盟刀の剣主となり、手のひらを返した父は鬼の頭領に相応しい人になれと言った。
私はその言葉に従い、武を尊ぶ鬼たちに尊敬される人になろうとした。
だけど、血の海に沈む彼を見て、私は自分の中に潜んでいた醜い本音に気づいてしまった。
――私は、本当は彼さえ傍にいてくれれば後はどうでも良かったのだと。
「貴方なら出来る」と母は言った。
「うちの子達はこんな馬鹿じゃない」と母は言った。
ごめんなさい。私は貴方の思うような「良い子」にはなれなかったようです。
――