有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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今回の話の内容に合わせる形で77話のリハの台詞の内容を微修正しています。
教えてくれ五飛、俺はあと何回77話を修正すればいいんだ。


舞台「東京ブレイド」終幕

 舞台「東京ブレイド」最終幕(クライマックス)

 舞台の上に立つのは鞘姫(わたし)ブレイド(姫川大輝)と「つるぎ(黒川あかね)」。そして、血の海の中で静かに目を閉じている刀鬼(アクア)

 

「勝負はついた。もうやめとけ」

 この惨状を作り出した張本人であるブレイドが、何一つ悪びれることなく鞘姫に向かって言い放った。

 正々堂々と戦った果し合いの結果に是非も無し。刀鬼と違って女は斬らぬという信条など持たないブレイドだったが、死力を尽くして戦った強敵に敬意を表してここで手打ちにしてやろう。つまりはそういう話だ。

 …鞘姫の気持ちを代弁させてもらうならば、「ふざけるな」としか言いようがない。

 

「……刀を抜けば、血が流れる。皮肉なものですね、どうやら私はその言葉の意味を今まで理解したつもりになっていたようです」

 

 なんだか難しい話にも聞こえるが、その実は単なる因果応報の教えに過ぎない。流血沙汰を避けられぬ鬼の一族でそんな教えを説くなど異端もいいところだ。あるいは殺されるのは一族の宿命だから、いつでもそうなる心構えをしておけという皮肉だったのだろうか。

 いずれにせよ、今となっては詮無き事だ。

 

「…まだ何も、終わってなどいません」

 鞘姫は静かに眠っている刀鬼に自分の盟刀の鞘を握らせ、代わりに近くに落ちていた刀鬼の盟刀を拾って立ち上がった。

 慈悲と不殺の象徴である鞘は、もう必要ない。鞘姫の心と共に、刀鬼に預けておく。

 

「続けるっていうなら、手加減出来ねぇぞ」

「不要です」

 

 これが本当の最終決戦。荒れ狂う激情を胸に秘めて、ブレイドを睨みつける。

 限界まで引き絞られた弓のような緊張感を一瞬だけ醸し出した後、鞘姫のほうから、ブレイドに仕掛けた。

 

「覇ァッ!!!」

 覇気を込めた声と共に、居合斬りのように横方向の遠心力を乗せた斬撃をブレイドに放つ。その一撃はブレイドに受け止められるが、鞘姫は流れる水の上で揺蕩う木の葉のような動きでブレイドを翻弄し、身体の回転を加えた斬撃を次々と繰り出す。

 時折背後から漁夫の利を狙おうとする「つるぎ」をけん制しながら、ブレイドに反撃を許さぬ猛攻を加えていく。

 

 鞘姫とブレイド達との最終決戦は、鞘姫の優勢で進んでいる――かのように見えた。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ…カハッ」

 押しているはずの鞘姫の、息が荒い。

 

「おい、本当に死んじまうぞ。それでいいのか、お前は」

「……敵の身体の心配とは、随分と余裕ですね」

 

 そこで突然現れた黒子が鞘姫に近寄り、衣装からぶら下がっていた糸を抜き取って纏っていた着物を引き剝がす。歌舞伎の世界で「引き抜き」と呼ばれる早着替えの技法だ。

 

――白を基調とした着物の下から出て来たのは、血で染まった真紅の着物。

 

 

 刀鬼は傷移しの鞘による治癒を断っていたが、鞘姫はそれを無視して致命傷を負った刀鬼の傷をギリギリまで自分に移し替えていたのだった。

 

 今の鞘姫の身体には、刀鬼が受けた傷と同等以上の傷が刻まれていた。そんな立っているのも辛いほどの重傷をその身に受けた状態で、鞘姫は執念で刀を振る。刀で打ち合うたびに傷が激しく痛み、歯を食いしばってそれに耐えるが、流れ落ちていく自分の血とともに彼女は残った体力をどんどんと消耗していく。

 いつの間にか、鞘姫の優勢は覆っていた。

 

「くぅっ…!」

 ブレイドを翻弄するための動きが、ブレイドから逃げ回るための動きに変わる。力の籠ったブレイドの刀を受けきれず、体幹を崩してブレイドに少しずつ押されていく。

 

――キィンッ!

 

 間合いを詰められ、鍔迫り合いに持ち込まれて、ついにブレイドの刀を捌くのに失敗して右手に持った刀を弾き飛ばされてしまった。

 

「…あっ!?」

 鞘姫は自分の手から離れていく刀鬼の刀の行き先を目で追いかけて、あろうことかブレイドに背を向けて刀を拾いに行こうとする。

 その隙だらけの背中を、ブレイドは見逃すことはなかった。

 

 ブレイドは刃を翻して、鞘姫の肩に強烈な峰打ちを叩きこんだ。峰打ちをすると刀が折れるというのが通説だが、ブレイドの刀は「盟刀」だ。並の刀とは強度が全く違う。

 鞘姫は、自分の骨が砕ける音を聞いた。

 

「――ッ!!!」

「鞘姫様ぁっ!!!」

 

 峰打ちで肩の骨を折られた鞘姫は、転ぶようにして倒れた。鞘姫の劣勢に漸く気づいた匁が加勢に行こうするが、キザミに後ろから組み付かれて足止めされてしまう。

 

「行かせねぇよ!!」

「くっ…!このぉ、離せッ!!」

 キザミが匁の刀を握っている側の手首を掴んでテイクダウン。台詞といい構図といい腐女子が歓喜しそうな光景が繰り広げられているが、今は真面目なシーンなので割愛する。というかそんなことに思考を割いている余裕はない。

 

 このまま倒れている鞘姫にブレイドが刀を突き付けて決着…というのがこのシーンの筋書きなのだが、私にとってはここからが本番だ。

 アビ子先生(おや)への反逆。私の渾身の悪足搔き(アドリブ)をとくと見ろ。

 

 

「はぁっ…はぁ……っ」

 ブレイドの一撃を受けて地に伏した鞘姫だったが、みっともなく四つん這いになりながらも執念で刀鬼の刀を拾いに行こうとする。

 その先で、血の海に沈んだ刀鬼の姿を見てしまった。

 

「あ……ああっ…………」

 

 鞘姫が刀鬼の刀にここまで拘る理由。それは、

 

「あぁ………っ」

 

 どうせ死ぬならば、好きな人の存在(盟刀)を近くに感じながら死にたいという願望であった。

 

 

 

「あああああああぁーーーーーーーーッ!!!!!!」

 

 

 絶叫。

 

 

「あああああぁーーーーっ!!!刀鬼ぃーーーーーーッ!!!!!」

 

 

 心の支えを喪ってしまった鞘姫の、嘘の仮面が壊れた。

 

 

 

 

 

「刀鬼!刀鬼ぃ!!とうきぃいいいいい!!!!」

 今まで押さえつけていた感情のそのすべてを吐き出して、慟哭する。

 

 脚本(うんめい)は残酷だ。どれだけ研鑽しようとも、どれだけ祈りを捧げても、最後に勝利するのは()()()だ。鞘姫(わたし)のこの怒りも、苦しみも、悲しみも、すべては観客(かみさま)を楽しませるだけの悲劇(スパイス)にしか過ぎない。

 

 誰もこの苦しみを理解ってくれない。気づいてくれない。

 鞘姫(わたし)は、己に与えられた役割(シナリオ)に絶望して、哭いた。

 

 

 

 …声が枯れるまで泣き叫んだ後、鞘姫はゆらりと立ち上がる。

 

 その表情は、まるで能面のような無表情。すべての感情を吐き出して空っぽになった私に残ったのは、絶望だけ。

 死相を顔に浮かべたまま、まるで水底に身投げをしにいく自殺志願者のように、ふらり、ふらりとブレイドに向かって歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、どこ見てんだよ」

 

 

――そんな重苦しい雰囲気を吹き飛ばすような、熱い風が吹いた。

 

 

「刀は相手の顔見て振るもんだろ。そんな辛気臭い顔して、勝つ気あんのかよ」

 ブレイドの声を聞いて、鞘姫は立ち止まる。顔を上げると、死にかけの女相手に油断なく刀を構えるブレイドがいた。

 

 

 

 …ああ、姫川大輝。あんたは最高だ。

 この状況で、私が一番欲しかった演技をしてくれる。

 

 

 「東京ブレイド」の主人公であるブレイドは別に善人キャラというわけではない。今回の刀鬼のように、当たったら死ぬような技を普通に使うのでその結果死人が出る展開は結構ある。悪人や読者人気の低いキャラは特に要注意だ。

 しかしブレイドは自分の背負った業を重く受け止めることもないが、背を向けることもない。要するに、良くも悪くも真っ直ぐなキャラなのだ。

 女は殺さないといった信条はないが、死にたがっている女の自殺を手伝ってやるような趣味もない。

 

 

――俺に恨みがあるんだろう?だったら、俺は()()で構わないぜ。

  さあ、来いよ。憎き怨敵はここにいるぞ。

 

 そんなことを考えていそうな目を、ブレイドは鞘姫に向けていた。

 

 

 そんなブレイドの挑戦(アドリブ)を受けて、鞘姫は左手に握っていた自分の刀を両手で持ち剣道の試合のように中段の構えをとった。

 小刻みに腕を震えさせて刀をカタカタ鳴らして、自分の肉体はすでに限界であることを観客にアピール。ブレイド優勢のムードを作って場を盛り上げていく。

 

 

「……やぁあああ!!!」

 

 最後の力を振り絞って、ブレイドに刀を振り下ろす。

 その一撃は空を切り、ブレイドの峰打ちが鞘姫に叩き込まれる。

 

 

――勝負は一瞬。

 

 

 燃え尽きた線香花火が地に落ちるように、あっけなく。

 鞘姫は、ぱたりと地面に倒れた。

 

 

 

 

 

「……殺したの?」

「いいや、峰打ちだ。殺していない…と思う」

「はっきりしなさいよ!」

「俺に聞くなよ…おっと、忘れてた」

 

 観客の気持ちを代弁するような形で、「つるぎ」がアドリブの台詞を入れる。ブレイドは頭を掻きながら「つるぎ」に返事をしていたが、自分が今やるべきことを思い出した彼は慌てて刀を天に掲げて勝ち名乗りを上げた。

 

「戦いは終わりだ!怪我人は手当を急げ!!」

「鞘姫様っ!!!」

 

 そこで漸くキザミを振りほどいた匁が倒れる鞘姫の許に駆けつけた。少し遅れて、キザミが匁の後を追ってやってくる。

 

「…鞘姫と刀鬼は助かりそうか?」

「…ダメだ、失血が多すぎる。このままでは二人とも……」

「……仕方ないわね」

 

 「つるぎ」はそういうと、刀鬼に持たされていた鞘姫の盟刀の鞘を拾って戻ってきた。

 

「鞘姫がこの盟刀の力を使って刀鬼の傷を癒そうとしていたのを見たわ。その反動で使用者は傷を負う仕組みらしいけど、二人を死なせない程度の応急処置なら出来るはずよ」

 ついさっきまで死合っていた相手を助けようとする「つるぎ」に、そこにいた3人の視線が集中する。

 

「勘違いしないで。勝ち逃げされたまま死なれるのが嫌なだけよ」

 女を斬らないという信条を逆手に取られて隙を作った刀鬼と、刀鬼を救うために重傷を負った状態で1対2の勝負を挑んできた鞘姫。どちらも万全の状態と言い難く正々堂々とは言えない勝負だった。

 鞘姫との一対一の勝負に敗れている「つるぎ」にとっては、渋谷クラスタとの勝負は負け越しとも言える戦績であった。

 

「…そうだな。そいつは後味が悪いよな」

 

 ブレイドは「つるぎ」が握る鞘姫の盟刀を掴んで、二人で盟刀の力を発動させる。

 盟刀から放たれた緑の光が、鞘姫と刀鬼を包み込んだ。

 

「ぐぅ……っ!!」

「これは…キツいわね……っ!」

 

 鞘姫と刀鬼の負った傷が癒されていくと同時に、代わりにブレイドと「つるぎ」の身体に傷が出来ていく。4等分しているとは言えども、一人分の致命傷と骨折の痛みにブレイドたちは歯を食いしばって耐え続ける。

 しばらくすると土気色だった二人の顔に血色が戻り、閉じられていた瞼がゆっくりと開いた。

 

「……っ」

「これは……」

 

 死の淵から蘇った鞘姫と刀鬼がお互いの顔を見る。しばらく見つめ合った後、鞘姫(わたし)は刀鬼の胸に飛び込んで抱き着いた。

 

 

「~~~~~~ッ!!!!」

 

 親から与えられた脚本(やくめ)の先にあったのは、希望。

 鞘姫(わたし)は、声にならない喜びの声を上げた。

 

「……鞘姫」

「……刀鬼」

 

 鞘姫(わたし)は刀鬼の首の後ろに手を回してその頭を強く抱きしめた。

 自分の指の感触に刀鬼の鼓動が伝わってくる。

 …この指から伝わる温もりこそが自分が求めていたものだったのだと理解した鞘姫(わたし)は、その幸せを噛み締めながら静かに涙を流した。

 

「これにて一件落着…ってか」

 刀鬼と鞘姫の無事を確かめると、ブレイドは客席側に向かって改めて勝ち名乗りを上げた。

 

「この戦い、俺たちの勝ちだぁ!!!!」

 

 オープニングで流れていたBGMが劇場に流れ出し、それに合わせてディスプレイ型舞台幕が左右から閉まっていく。

 舞台幕が役者の姿をその後ろに隠したところで、

 

 舞台『東京ブレイド』完

 

の文字がディスプレイに大きく表示された。

 

 

――劇場に響く万雷の拍手と共に、舞台版「東京ブレイド」が閉幕した。




やりたかったことリストその39
この回のお話全部。
実は当初の予定では77話~83話を書く予定はありませんでした。お前のプロットガバガバだな。



次回、東京ブレイド編ラストです。
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