有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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深掘れ☆ワンチャン編
リポーターと書いて鉄砲玉と読む


 光陰矢の如し。私が舞台「東京ブレイド」に出演してから半年が経過した。

 私と黒川あかねは高校3年生、アクアとルビーが高校2年生に無事進級し、それぞれが順調に己の道を歩んでいる。

 黒川あかねは初の主演映画の公開を控えていて、ドラマの撮影も何本か始まるらしく実力派女優として着実に表舞台へのし上がっていた。私的には「判断が遅い!」と業界に物申したいほど彼女が評価されるのが遅かったと思っているが、実力相応に評価されるのにも時の運が必要なのが芸能界だ。漸く世間の評価が黒川あかねに追い付いたのだと思うことにした。

 

 アクアはルビーと一緒にアイドル活動を続けながら、ドラマの脇役をやったりファッション誌のモデルやったりネットTVのバラエティー番組のレギュラーやったりと多方面で多彩に多才なことをやっている。ルビーも大体アクアと似たような感じだ。

 

 そしてMEMは、ついに本格的にアイドルデビューを果たした。

 本来の歴史より大分前倒しでアニメ「チェンソーマン」が放送され、そのEDテーマでMEMのデビューソングである「ちゅ。多様性」が放送された。

 「アイドル」と同じくアニメの内容を元に作詞したアニソンでアニメファンの支持を獲得した上で、MVではキャッチーなダンスと一度聞いたら耳から離れないインパクト抜群の歌詞とメロディで一般の人にもその魅力をアピール。どちらかといえば「ヘタウマ」の部類に分類される、まさにMEMのために作られたこの歌は年齢やジャンルを超えて幅広い層に支持される一躍有名なヒットソングになった。

 MEMが歌う「ちゅ。多様性」はデビューソングにも拘らず、配信から1ヶ月足らずの間でストリーミング、MVともに1000万再生を突破したのであった。

 

 そしてこの機を逃すMEMではない。「バズらせのプロ」を自称するMEMはバズが新鮮なうちに大手ユーチューバーにコラボの打診を掛けまくり、そのうちの幾つかは結実して定期的にチャンネルに呼ばれるぐらいの関係性を築くことに成功した。

 苺プロが取ってくる地上波放送番組への出演をこなしながらもユーチューブの企画動画の投稿数も増やし、SHORT動画なども使って極力投稿がない日をなくして長時間生放送も行っていく。

 そのほかにも動画編集者、切り抜き屋との交渉、有名楽曲制作者から歌唱許諾を取り、企画動画のためにティックトッカーやプロゲーマーからキッズ向け動画の製作者までオファーを出し横の繋がりを強化する等の奮闘。つまり、原作のこの時期にMEMが「B小町」を売り出すためにやっていた広報戦略を自分をアイドルとして売り出すために使っていたのであった。

 

 更に地上波放送でもMEMは快進撃を続ける。

 

「元々私は本当はアイドルがやりたかったんですけど、色々あって挫折してユーチューバーやってたところに事務所からスカウトが来て『やった!漸く私の夢が叶う!!』と思って喜んでたら、デビュー曲が()()でした」

 

――MEMが「ちゅ。多様性」をオチにしたトークをすると、会場からどっと笑いが巻き起こった。

 

 デビュー曲でアイドル生命を賭けたギャンブルをやらされて、その勝負に勝ったというエピソードを持ちネタとしてMEMは場内を沸かせていく。話題性と明確なキャラクターを武器にして芸能界を駆け抜けていって、更には大御所芸人がホストを務めるトーク番組や電動バイクの旅番組にも出演してその人気と知名度をWEBの外にもどんどん広げていった。

 

 MEMはデビューからたった半年で、私とルビーと一緒にB小町をやっていたとき以上の人気をソロで獲得していた。MEMのファンの一員としてこの快挙は素直に嬉しい。私も骨を折った甲斐があったというものだ。

 

 そんな感じで原作で起こるはずだったイベントをMEMが一人で消化してしまったのだが、その弊害とも言える事態がここで発生する。原作でB小町がMVを作成するイベントが丸々MEMのデビューイベントに置き換えられてしまったため、アクアたちが宮崎に行くイベントが消滅してしまったのだ。

 このおかげで雨宮吾郎の遺体はカラスの住処になった祠の後ろの洞穴の中で今もひっそりと眠り続けている。まあ遺体を発見したところで厄ネタしか運んでこないのでそのまま思い出の中でじっとしていて欲しい。あ、でもやっぱり天童寺さりなの形見の回収のために発見しておいた方がいいのかなぁ。

 

 「ところで有馬かな(わたし)の状況は?」というと、黒川あかねの評価が飛ぶ鳥を落とす勢いで急上昇しているのとは対照的にこちらは至って平常運転だ。

 「今日あま」や「今ガチ」みたいな番組に出演していることから分かるように、今の私はビッグタイトルのドラマに主役でバンバン出演するようなイケイケの状態ではない。小学生のころと比べれば低迷期と言えるだろう。

 

 「家なき子」で超有名な元天才子役ですらも低迷期はあった。彼女も子役時代は仕事漬けの毎日だったのに出演ドラマのヒット率は意外と低く、代表作と言えるのは「家なき子」のほかには「ガラスの仮面」ぐらいのもの。それでも腐らず女優を続け、今では母親役が似合う正真正銘の実力派女優として完成した。40歳を越えてるのに10歳も年下のキャラを演じて違和感与えないのは本当に凄い。私もああいう女優になりたいものだ。

 第4の壁の向こう側では彼女が実写版「推しの子」の吉祥寺頼子役を演じているとツクヨミが言っていた。マジかよちょっと見てみたいんだけど。

 

 

 そんな感じで同輩たちが忙しく活動している中、マイペースに生活している私の元にまたまた鏑木Pからのオファーが届く。

 

「……リポーター役で『深掘れ☆ワンチャン!!』への出演依頼?ルビーじゃなくて、私に?」

 

 原作ではこの時期にルビーが「アクアと私を『深掘れ☆ワンチャン!!』で双子キャラとして売り出してみませんか?」という企画を鏑木Pに持ち込んで彼がそれを採用する展開になるのだが、この世界のルビーはカミキヒカルに復讐を考えていない…というか、彼に絶縁を突き付けるという形で復讐を果たしているので原作と比べて自分を売り出すことにガツガツしていない。それに双子キャラで売り出すやり方はアクアと一緒にアイドルデビューした時にすでに使ってしまっているので効果は薄まっている。

 

 そのせいでルビーが「深掘れ☆ワンチャン!!」のリポーターになるフラグが消滅し、代わりに私とアクアを何かにつけてセットで扱おうとする鏑木Pがこちらに目を付けたということだ。

 

「どうだい?あの番組は業界受けがいいし、上手く刺されば次の仕事にも活かせるからギャラ以上の見返りがあると思うよ?」

 オファーを持ち帰ってきたミキさん(カミキヒカル)が、実利面を強調しながら私にオファーを受けるよう促してきた。

 

 彼との付き合いも随分と長いものとなり、今では「彼方の世界」で悪堕ちした姿のほうが虚像のように思えてくる。どちらが幻想なのかは私には分からないけど、どうせなら皆が幸せになれる世界のほうが好きだな、私は。

 

「鏑木さんはお試し期間として1シーズンだけの契約でもいいとも言ってくれているよ。どうだい?」

「今から1シーズンかぁー。うーん、それだと夏コミを挟んじゃうんだよねぇ」

「……何か問題でもあるのかい?」

 

 オファーを受けること自体はやぶさかでないが、「深掘れ☆ワンチャン!!」に出演する上での懸念が一つだけある。

 

「未来知識の話になるんですけど、あの番組、今年の夏コミの取材で失敗して炎上するんですよねー」

「……ああ、なるほど」

 

 「深掘れ☆ワンチャン!!」編のメインイベントはまたしても炎上騒動。夏コミの企画でセクシー系コスプレイヤーの「メイヤ」さんにセクハラ染みたインタビューを行い、それに対してメイヤさんがSNSでお気持ち表明して炎上する流れである。

 「深掘れ☆ワンチャン!!」の漆原ディレクターはいわゆる「昭和気質の人」であり、コンプライアンスやハラスメントに対する意識の低い人だ。そんな人がこの令和の時代にコンプライアンスのギリギリを攻める番組を続けているのだから、どこかで失敗して炎上するのは当然の帰結なのだろう。

 私に言わせてもらえばメイヤさんにも漆原Dにも共感できる部分はあるので、それぞれを擁護させてもらいたい。

 

 まずメイヤさんに対する共感とは、「人を傷つける笑い」をネタにしたことに対する怒りである。

 その昔、20年ほど前のテレビでとあるオタクを取材して放送したテレビ番組があった。その番組はオタク君に対して2時間ほどの取材を行ったが、オタク君の情熱を語るシーンはほとんどカットした上で一般人には共感しづらい「気持ち悪いところ」だけをクローズアップした内容が番組で放送されることになった。

 その番組を制作したディレクターの意図は明白であり、オタク君に対して

 

「見ろよ!きっとアイツ一生童貞なんだぜー!!ワラワラワラワラ」

 

 といった感じに笑いものにしてオチをつけるつもりだったのだろう。そのほうが視聴者の共感を得られるとディレクターは思っていたからだ。

 当時はそれほどSNSが発達していなかったため、オタク仲間の抗議の声は黙殺されてしまった。漆原Dのアシをやってる吉住ADは「コス界隈はテレビ取材に好意的じゃない人が多い」などと愚痴っていたが、彼ら彼女らにとってはマスメディアの方から喧嘩を売ってきたという認識だ。「いい大人が漫画やアニメなんて…」と何十年も言い続けてきた結果が悪い意味で実を結んだだけである。

 人間(ひと)には触れちゃならん傷みがあるんだ。其処に触れたら後はもう生命のやり取りしか残らんのだ。偉い人にはそれがわからんのですよ。

 

 対する漆原Dへの共感とは「不道徳と面白さは表裏一体だ」という信念である。わかりやすい例を挙げると、彼は「七人のしりとり侍」みたいな企画のことを言っているのだろう。

 「七人のしりとり侍」は、しりとりでミスった芸人をエキストラの野武士が襲撃して袋叩きにするというコントだ。野武士たちが与える罰ゲームがコンプライアンスを周回遅れで置き去りにするレベルで容赦が無いところが大ウケしていたが、BPOに目を付けられてあっけなく打ち切りとなってしまった。残念ながら当然の結果である。

 その後、罰ゲームを元幕内力士と相撲を取らせるといった内容に変更して続投するほどの人気企画だったことを考えると、「不道徳と面白さは表裏一体だ」という主張には一理あると認めざるを得ない。大御所芸人が尻を叩かれたら面白いし、タイキックされたら笑えるし、闘魂ビンタされたら爆笑するのが人間の性というものだ。

 

 漆原Dもそういう番組に憧れてこの業界を続けているのだろうが、「弱い相手に理不尽と不道徳を働くのはハラスメントである」ということを理解しきれていなかったせいでジョーカーを引くハメになった。カードを配ったのはルビーだが、それはきっかけの一つにしか過ぎない。

 

 大分前置きが長くなってしまったが、まあそういう理由で地雷原でタップダンスをするような番組だからこそ業界受けがいいのだろう。危険手当込みの評価というやつだ。

 

「じゃあ、このオファーは断るのかい?」

「いえ、受けますよ?何が起こるか分かっていれば対策も出来ますし」

 

 原作知識を存分に利用できるタイプのオファーなので、ここは敢えて火中の栗を拾いに行くのも悪くない。アビ子先生とのコネを使えば東京ブレイドのコスプレの許諾を取るのも簡単だし、そもそもメイヤさんはルビーの紹介で参加してるので彼女を呼ばなければ万事解決…いや……その場合はセクハラの矛先が寿みなみにスライドするのか?どうなるんだよ、これ?

 最終的には出たとこ勝負になりそうな予感しかしないが、最悪私が身体を張ればなんとかなるだろう。女優魂の見せ所だとポジティブに考えて、私は「深掘れ☆ワンチャン!!」への出演依頼を承諾することにした。

 

 

 そして「深掘れ☆ワンチャン!!」の収録日当日。

 

「あの…これが今日の番組の台本になります……」

 漆原班のワンオペADこと吉住ADが台本を持ってきてくれたので、私は台本の表紙をめくって内容を確認する。

 

「ぶっ!?」

 そこで今回の番組で深掘りしていくお題を見た瞬間、私は思わず吹き出してしまった。

 

 

 

「東京ブレイド」の漫画家「鮫島アビ子」先生に

成人漫画のレビューをして貰おう!!

 

 

 悲報、この番組のセクハラの矛先がメイヤさんからアビ子先生にチェンジした。

 また炎上RTAのパターンかよぉおおおおおお!?最速で殺しにくるのはヤメロォオオオオオ!!!!!

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