有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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三人称視点の文章はめちゃくちゃ苦手です。


ご都合主義の神様はアイドルに微笑まなかった

 アイたちの仕事は順調で、フォロワーも100万人を超えた。

アイが主演のドラマも視聴率上々、B小町全体の仕事もびっちり埋まっている。

 

 そして、再来週にはついにB小町のドームライブが開催されることが決定した。

 …アイとアクアたちの運命の日でもある。

 

 

 

「いよいよ再来週はドームライブ!くぅ~、楽しみ~!!」

「私にはドームの凄さなんてよくわからないけどねー」

「ママが日本一のアイドルになる日なのよ!もっと喜ばないと!!」

 

 はしゃぐルビーに答えるアイ。ドームライブも大切だが、アクアにはもっと気にしている重要な点があった。

 

 

「ドームライブの前に引っ越しだろ。来週には業者が来るんだから今のうちに自分の荷物ぐらいは整理しておけ。あとで『なくなったー!』なんて言っても知らないぞ」

 

 

 新しいマンションに引っ越す段取りはもう終わっている。入居日はドームライブの一週間前。

念願のオートロック式のマンションであり、ストーカー男が襲撃してくる前になんとか間に合いそうだとアクアは安堵した。

 

あと1週間無事に過ごせれば、希望はある。

 

 

 

 

――ピンポーン

 

 

 インターホンがなった。

 

 

「あっ、わたしが出てくるねー」

 

 

 

 アイがすたすたと歩いて玄関に向かう。

なんだか妙に嬉しそうにしているアイの姿を見て、アクアは何故か猛烈に不安を感じた。

 ほんの一瞬だけ、アイが()()()()()()()()()()()()()()()()()()を出したのが、違和感として目に映ったからだ。

 アイに期待と不安を感じる来客者って、いったい誰なんだ?

 虫の知らせに従って、アクアはアイの後をついていく。

 

 玄関のドアの前に立ったアイが()()()()()()()()()()()()ドアを開けようとしたのを見て、アクアの不安と恐怖が爆発した。

 ドアの向こう側に、黒いコートを着た男の姿がちらりと見える。

――アクアは、考える前にアイに向かって走り出していた。

 

 

 

「…ドーム公演決定おめでとう。双子の子供は元気?」

「アイぃいいいいいい!!!!」

 

 

 ストーカー男がナイフを取り出し、腰だめに構える。

 ストーカー男のナイフがアイに届く前に、アクアは横から全力でアイを突き飛ばした。

 15kg程度しかない体重をすべて乗せて、全力でアイの身体を押す。

 

「!?」

「…ぐぅッ!」

 

 アイを突き刺すはずだったナイフは狙いを逸れて、アイを突き飛ばしてバランスを崩したアクアの頬に突き刺さった。刃が頬を貫通し、歯に当たってそこで止まる。

 アイを突き飛ばすために歯を食いしばっていたのが幸いし、舌まで刃物で傷つけられる事態だけは避けることが出来たが、鉄の塊を顔にぶつけられた衝撃をモロに受けてアクアは派手に床の上に転んだ。

 …ナイフが首に刺さっていれば、その時点で致命傷だった。ギリギリのところで命拾いしたことを幸運と感じるほどの余裕はどこにもなかったが。

 

「いたた…あっ…アクアぁぁぁ!!!」

 

 血をボタボタ流して床に突っ伏すアクアを見て、アイが悲鳴を上げながらアクアに駆け寄る。だが今のアクアにとっては、傷そのものよりも打撃のダメージのほうが大きかった。

 脳震盪を引き起こしてしまっていたため、すぐに行動が出来ない。

 

「あっ…い、痛いか!悲しいか!俺はもっと痛かった!苦しかった!!」

 

 

 子供を刺してしまったという状況に気づいたストーカー男が一瞬逡巡するが、もはや後戻りはできないと開き直ってアイを罵倒し始める。

 …()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「アイドルのくせに子供なんて作るから…!ファ…ファンを裏切るから……!」

 

 時間が、稼げた。

 

 

「ファンのこと蔑ろにして!裏ではずっとバカにしてたんだろ!」

 

 

 自分勝手極まりない歪んだ愛情を持っていたストーカー男だったが、「だったら子供も一緒に殺してやる」とまでは考えもしない程度には良識が残っていた。

 わずかに芽生えた後悔の感情を、アイへの怒りで誤魔化して叫ぶ。

 

「この噓吐きが!」

「アクア…アクアぁ……」

 

 

 ストーカー男はアイのことを殺してやりたいほど憎いと思っていたが、その一線を超えるだけの熱量がもう残っていない。アイも、アクアが刺されたことに対するショックで頭が回らず、ストーカー男を説得できるだけの言葉が浮かんでこない。

 状況は好転することも悪化することもなく、ストーカー男の罵声だけが響いていた。

 

 

 

「あっ…」

 

 アイに抱きしめられていたアクアが立ち上がり、ふらふらと歩きながら玄関先に飾っていた()()を掴んで、ストーカー男に見せつける。

 

 

「お前…それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ストーカーが襲撃してくる日がズレた場合、俺たちはどう対処すればいいんだ?

 

 

 実はアクアは有馬かなと、バタフライエフェクトが起こって未来の出来事が変わったときのフォローについて話をしていた。

 

 

 

――んー、そのときはアイがストーカー男を説得してくれることに期待…あっ、あの手が使えるかも!

――なんかいい作戦でもあるのか!?

 

――ストーカー男は昔アイに「星の砂」をプレゼントしていたのよ。それを見せたら昔のことを思い出して殺意が薄れるかもしれないわ。襲われたときにすぐに見せつけられるように玄関先に飾っておけば御守り代わりにはなるんじゃない?

 

――わかった。家の中を探してみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…リョースケ君、だよね?アクアの持っている星の砂をくれた……ごめんね、すぐに思い出せなくて」

 

「………っ!」

「あれ?違った?ごめん、私、人の名前覚えるの苦手なんだ。でもよく握手会来てくれてたのは覚えてるよ」

 

「…やめろ…やめろよ……」

 

 

「…私なんて、バカで無責任でどうしようもない人間だし、人を愛するってよく分からないから、私は代わりにみんなが喜んでくれるようなきれいな嘘を吐いてきた。

 …私にとって嘘は愛。私なりのやり方で愛を伝えてきたつもりだよ」

 

 

「…やめろ…聞きたくない……」

 

「君たちのことを愛せていたかはわからないけど、愛したいと思いながら、愛の歌を歌っていたよ」

「んだよ…それ…ふざけんなよ……」

 

 

「今だって、君のこと愛したいって思っている」

「…あああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 恐怖と後悔と罪悪感の重さに心を折られたストーカー男が、慟哭の叫びを上げながら走り去っていった。

 

 

 

「ぉわった…のか……」

 疲労と出血と脳震盪の余韻で今にも気絶してしまいそうなコンディションを気合で耐えながら、アクアが呟く。口の中が血塗れで呼吸も苦しく、喋るのも億劫だ。

 

 

 

「ねぇ…どうしたの…?そっちで何が起こってたの…?」

 息を殺して様子を伺っていたルビーがやってくる。

 

 

「アクア…アクア……だれかたすけてぇ!!!アクアが死んじゃう!!!!」

 このぐらいの傷なら大丈夫、とアイを安心させる言葉を出す余裕すらないほどに今のアクアは疲弊していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「12月5日午後11時頃、マンションに男が立ち入り、星野愛久愛海ちゃん(3)が刃物で切りつけられる事件が発生しました。同日、警察に『子供を刺した』と男性が出頭してきたため、事件との関与を調査しているところです――」

 

 

 

 

…有馬かなは、そのニュースを魂が抜けたかのように呆然としながら視ていた。

外から聞こえるカラスの鳴き声が、とても耳障りだった。




やりたかったことリストその2:
ストーカー襲撃イベントでアイをかばってアクアが負傷。


RTA走者「襲撃イベントが早まってアクアがストーカー男に刺されるルートでは、アクアの入院期間は5日~10日の間でランダムに決定されます。ここで10日を引いてしまった場合、ドームライブまでにアイのメンタルケアが間に合いません。奇跡が起こらない限り詰みます。」


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