有馬かなに転生したので、俺の意識が消えるまで彼女を守護ろうと思う   作:雑穀ライス

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最新話の展開が色々と酷すぎて辛い。人の心とかないんか?


笑わせたいのか、泣かせたいのか

 今週の企画は、漫才体験。

 私は「深掘れ☆ワンチャン」にコメンテーターとして出演している芸人を相方とし、ボケ役で出演した。

 

「ちょっと聞ぃてぇ!?最近スタッフのセクハラが酷いねん!!毎日毎日スタッフに怒ってたら、東京生まれの東京育ちやのに喋り方が関西弁になってしもたんや!!!」

「どういう状況やねん!それ!!?」

 

 寿みなみの持ちネタ(エセ関西弁)をパクって漫才のネタに組み込む。結構ウケた。あの人原作ではあまり出番がないけど、かわいくておっぱいでかくて面白いという個性の塊で割とチートな存在だと思う。…アクアのヒロイン候補じゃなくて本当によかった。

 

「つか、なんでわざわざ関西弁で怒るんや?」

「関西は怖いところやと聞いたからな。舐められへんように関西人のふりして威嚇するんや!」

「いやいや、関西はそんな怖いところちゃうで!?」

「何()うとるんや!関西人は子供のころにボケの呼吸とツッコミの呼吸を見よう見まねで覚えるお笑いの鬼殺隊みたいな連中やと聞いたで!毎日ツッコミでポンポン鬼の首斬り飛ばしてるんやろ!?」

「んなわけあるかぁ!!!」

 

 私らしく、漫画ネタを使って観客を笑わせていく。私的には「お笑いの鬼殺隊」というパワーワードだけで笑えるが、関西人の全員がボケとツッコミを使いこなせるのは単なる事実なので「だいたいあってる」ところが更に笑いを誘うらしい。修羅の国かな?

 

「ツッコミの呼吸、一ノ型、逆水平チョップ!!」

「ただのプロレス技やそれ!!!」

 

 関西弁でボケとツッコミのキャッチボールを続けるだけで場内は自然と沸いていく。外から見ると私が普通に関西弁を使いこなしているように見えるが、実は噛まずに関西弁を喋り続けるのに結構苦労している。やはり流暢に関西弁を使いこなせる関西人はナチュラルボーンのお笑い芸人だということなのだろう。

 

「まあそういうわけで、私も関西弁を喋れるようになったから関西から来た知り合いと関西弁でお話をしたのよ」

「ほうほう、それでどうなったん?」

「『まだまだバイリンガルには程遠いなぁ』って笑われてしもたわ…」

「日本語や!!!」

 

 というわけで、最後は私がエセ関西人扱いされたというオチで終了。ガチ関西人は「てにをは」の省略の仕方でネイティブかどうかを判断するらしいがよくわからない。ドラマの撮影で必要になったときは細かいところは台本を書く脚本家にお任せすればいいか。

 

「「ありがとうございましたー」」

 

 着実にバラドルとしての経験を積み重ねていることは、芸の引き出しを増やしているのだと肯定的に考えることにした。あと一か月と少しの辛抱だ、原作であった炎上イベントだけ注意すれば後は特に問題はないだろう。このとき私はそんな風に気楽に考えていた。

 

 

 

 

「吉住!次の企画が決まったぞ!次の深掘りコーナーは『家族』だ!!」

「家族…ですか?」

 番組制作会議を終えて会議室から戻ってきた漆原が、吉住に向かって言い放った。

 

「来月末には24時間テレビがあるからな。向こうは例年通りお涙頂戴ものの番組を作って放送するだろうから、それにぶつける」

「あー、わざわざ24時間テレビに対抗するとか、無謀過ぎませんか?」

 

 一瞬「アホですか?」という言葉が喉まで出かかった吉住だったが、その言葉はギリギリで飲み込んだ。言ってしまえば最後、すごく面倒くさいことになる。

 

「一応言っておくぞ?フツーの仲睦まじい家族の団らんじゃ話にならねぇからな?家庭崩壊して破綻寸前の家族とか、離婚秒読み段階の夫婦とかを捕まえてこい」

「…いつにも増して無茶苦茶な企画ですね」

「幸せ家族に家族愛なんか語られたってなんも面白くねぇからな。そういう退屈な番組は地上波放送に任せとけばいいんだよ」

「はぁ」

 

 今回の企画の趣旨を聞いた吉住は死んだ魚のような目をしながら曖昧にうなずいた。もっとも彼は慢性的な睡眠不足のせいで四六時中死んだ魚のような目をしているのだが、今日はいつにも増して瞳の奥の闇が深い。

 ADの仕事はたった一つ。やれと言われたことは全部やること。漆原が言った無茶振りの段取りをつけるのが自分だということにげんなりする吉住だったが、目の前の仕事の困難さに気を取られてうっかり口を滑らせてしまった。

 

「有馬さんは嫌がりそうな企画ですねぇ」

 その吉住のつぶやきを、漆原は聞き逃さなかった。

 

「ん?どういう意味だ?」

「あ…、いえ、有馬さんは両親が離婚しているからそこには触れて欲しくないと言っていましたので……」

 

 その情報を教えてはいけない人物に、その情報が渡る。

 まるで、運命で決められているかのように。

 

「…使えるな。お前、有馬さんに交渉してこい」

「ええぇぇっ!!彼女、そこはNG案件だって明言してるんですよ!!?」

「バカ野郎!そこをどうにかするのが腕の見せ所なんだろうが!つべこべ言わずに説得しに行け!!ガキの使いじゃないんだから、ちょっと断られたぐらいで簡単に引き下がるんじゃねぇぞ!!?」

 

 

 

「…というわけなんです。どうにかなりませんか?」

「…NGという言葉の意味、理解して喋っていますか?」

 

 電話をしてきた吉住ADの泣き落としに近い懇願を受けて、私は深くため息をついた。どうやら私のNG宣言は「押すなよ!絶対に押すなよ!?」という意味で解釈されていたらしい。お笑い系のオファーをホイホイ受けすぎたのが悪かったのかもしれない。

 

「お話になりませんね。吉住ADの言葉には全く誠意を感じられません」

 私は脳内で漆原Dを男塾名物油風呂に突き落とした後、吉住ADにNOを突き付けた。人の不幸をエンターテインメントに仕立て上げるのは流石にやってはいけないラインを大幅に超えている。

 普通に考えたら承諾するわけがない案件だ。結婚したカップルの3組に1組は離婚すると言われる時代になったとはいえども、小さな子供がいる状況での離婚は間違いなく醜聞である。こんなことをテレビで放送したら私だけでなく私の両親にまでダイレクトに風評被害が及ぶ。

 

「本当にこの企画をやりたいのなら、漆原Dが直接頭を下げに来るべきです。話はそれからです」

 私はそう言って、電話を切った。

 

 多分、吉住ADは当て馬なのだろう。コンプライアンスに対する意識以外は有能である漆原Dが私と私の家族に影響が出ない穏便なやり方に気づいていないわけがない。これは私ですら気づいていることなのだから、その情報を隠したまま今までの流れで私をメインにして番組を作成したいという魂胆があるのだろう。

 吉住ADには教えていないが、私のNG案件は「母親関係」であり「父親関係」ならば交渉の余地はある。しかしこちとらプライベートの切り売りをわざわざ特価で提供してやる理由はどこにもない。

 というわけで、私は自分の身を切る価値があるのかを判断するために漆原Dの本質を見極めることにした。彼が誇りと信念を持ってこの仕事をやっているのか、それとも単なる炎上系YouTuber気質なのか。それを知らないうちは怖くて交渉も出来やしない。

 

 

「こんにちは、漆原さん。今日もお仕事大変そうですね」

「ははは、これぐらいいつものことですよ。有馬さんのおかげで大分助かってます」

 

 私の社交辞令の挨拶を受けて漆原Dは朗らかに返事をした。パワハラでADに何人も逃げられている漆原Dだが、私に対しては結構物腰が柔らかい。むしろ一目置かれているような雰囲気を感じる。

 

「次のお題は『離婚した家族』ということで、私のケースを取材の対象にしたいと吉住さんに聞きましたが間違いないでしょうか?」

「ええ、それで是非とも有馬さんの話を聞きたいということで」

「…話を聞くだけでいいんですか?それとも、離れ離れになった私と父親で話をして欲しいのでしょうか?」

 

 漆原Dは結局私をどうしたいのか、ここが最重要ポイントだ。

 ぶっちゃけ私が体験した出来事を漆原Dに教えて「()()()()()」と「()()()」の役者を準備して人情ドラマをさせたほうが丸く収まる。つまり私の体験談を元にしたフィクションのドラマを作成するということだ。

 フィクションなので制作側の望む形で結末を用意できるし、ついでに名前も別名にしてしまえばプライバシーの保護も万全だ。今回の場合は醜聞を世間に公開するのだから猶更必要な措置だろう。演出に失敗して視聴者からの反感を買っても、被害者が実在しないフィクションのドラマならば傷は浅い。

 理論的に考えれば、私が本人役で出演する必要はどこにもないのだ。

 

「…漆原さん。この企画において、主役が有馬かなである必要性はあるのでしょうか?」

 

 

 私の質問に対して、漆原Dの答えは――――

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