Spider-Man Alternative Holo Episode 作:クルルヤッコウ
「新作のゲームを買った時とかって、なんでこんなにワクワクするんだろうなぁ」
ゲームセットを箱から取り出し、ベットに乗せる。頭をすっぽりと覆う形のそれは、バッテリーやらでかなり重い。寝てやるものなのであまり気にする必要はないのだが。
ひとしきり眺めたあと、カセットを取り出して挿入口を探す。大体一分くらいの格闘の末にようやく見つけ、カセットを入れた。カチッという聞きなれた音が耳に響き、テンションも上がっていく。
充電器を取り出して、そこら辺のコンセントに差す。連続稼働でも最低1日はもつバッテリーなので、あまり充電は気にしなくてもいいだろう。
「PCでやるゲームもいいけど、やっぱり何時ぞや読んだ小説の中で出てくるこういうゲーム機って憧れちゃうよねぇ」
ちょっとだけニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべ、ヘッドセットを被る。本来ならこんな笑顔浮かべないのだが、どうしても抑えきれない。
「えっと、何て言うんだっけ...あ、思い出した。ハロー、ワールド!」
自分を夢と幻想の世界へいざなう魔法の言葉を唱えて、一人の少年は旅立った。
彼の手に、一羽の蝶が乗り、どこかへ飛び去って行ったが、もう現実に意識を残していない彼は、閉じ切った部屋の中で突如として現れた蝶に気づくことはなかった。
ゲームを起動して数秒後、体が真っ白な空間に投げ出される。ゲームでも感覚もリアルに作っているのか、少々痛い。
「かなり、質素なお出迎えかも」
痛みが滲む体をゆっくり起こして、前を見る。きっと何もないのだろう、と思っていたのだが、白く、神々しい人影を一つ見つけた。
「これがこのゲームのオープニング...いや、冒頭?かなり独特だなぁ」
内心バグかなんかの類だと薄々思っている。しかし、新作のゲームにはバグが付き物だ。そこら辺は仕方ないと割り切る。
だとしても重要なイベントと思わしきものがゲーム序盤に発生するバグは流石にどうかと思うが。ちゃんとデバッグしたのだろうか。
「走るの疲れるから嫌なんだけどなぁ。致し方なし」
意外と遠い人影に向かって全力ダッシュ。疲れはちゃんと感じるし、ちゃんと現実の自分と同じくらい遅い...もしかして現実で鍛えて無いとキツい系のゲームなのか?
「だとしたら、まともにやれるようになるのは結構時間がかかりそうだ」
実際、今現在進行形で息切れしてしまっている。外に出なかった弊害でただでさえ低い体力がもう上限突破、天元突破してしまっているので当然だ。
ヘトヘトになりながらも彼は走り、走り、走りまくった。その結果...
『...』
白い人影の正体に見下ろされながら、地面を舐めていた。
「ずびばふん、おほひふぇもふふぇはいへふうは(すみません、起こしてもらえないでしょうか)」
伏せたまま喋っているせいでまともに言葉を喋れていないが、相手はどうやら理解してくれたらしい。若干呆れながら、彼の体を起こす。
「はぁ...はぁ...ありがとうございます」
彼は顔を持ち上げると、目の前にいる女性に向かって礼を言う。少々際どい格好で、白いローブのようなものを着ている。上に輪っかが浮いてる女性はこちらをただ見つめている。
「あの…大丈夫ですか?」
何も喋らない女性を心配すると、突然、その女性に首を掴まれた。
そしてその腕はまるで、蜘蛛のように見えてきて、自分の首を噛んだ。
「イッ...!何をした!」
首筋を押さえて、反射的に蹴りを繰り出す。その蹴りは軽々しく受け止められ、足は地に戻された。
純白の女神はただ、笑っていた。
それを見て動揺している彼は、数歩彼女から離れる。だが、彼は奈落に落ちたような感覚を味わいながら、気を失った。
「...ッア!...ここは?」
いつの間にか、広場のような場所に立っていた。自身の後ろには噴水があり、水面を見ればそこには現実の自分とは比べ物にもならない、白髪交じりのイケメンが写っている。
「一体何だったんだ...あのイベントは」
噛まれた箇所を押さえ、ただただゾッとする。
何も考えたくなくなった彼は、一旦全てを忘れるために街中を歩き、MMORPGなどにはよくある酒場もとい冒険者ギルドを探すことにした。