未来世界のトレセンの話   作:RBT E10

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水着が来たよ!でも石がねぇ、ちくしょう!
というわけで第二話です。


「別視点は大事なんだと改めて学んだよ、トレーナー君。」

 トレセン学園の旧理科実験室は最近連日明かりがついている。その中で忙しなくホワイトボードに何かを書き込み、あるいは空間投影されたモニターに何かを打ち込みながら議論しているウマ娘が二人…正確にはウマ娘が二人とAIが二人。今の時刻は深夜ど真ん中、普通は迷惑になりそうな時間帯だが今夜使用する旨をしっかりと届け出て、許可も貰っている。だからこそ、迷惑になることはないのだ。…ただ、

 

「っだーーー!ダメだダメだダメだ。どうしても消えちまう。…くそっ、このままじゃ埒が明かねぇぞタキオン。」

 

「わかっているとも。私達だけじゃあできそうにないよ、これは。」

 

『いえ、理論の核としては正しいのでしょうが、おそらく別方向のアプローチが必要と考えます。…後、そろそろ休憩なさってください。一度脳を休めてから続けた方がよろしいかと。』

 

『然り。今一度休んだほうがよろしいでしょう。』

 

 議論の進み具合は芳しくなさそうである。

 

 上から順に「アグネスタキオン」、「エアシャカール」、「キュリー」そして、「Parcae」。アグネスタキオンとエアシャカールは言わずもがな、キュリーとParcaeはAIということもありその演算能力は非常に高い。そんなトレセン学園の中でもトップクラスの頭脳を誇る彼女達が、いったい何に此処まで悩んでいるのか?……それはタキオンのある「閃き」が理由だった。

 

 その閃きについて話す前に彼女達の世界の技術である「空間投影」について簡単に話そう。

 「空間投影」という技術は彼女達の世界の中で50年ほど前に確立されたものである。文字通り空間そのものに映像やモニター画面を…正しくは「情報」を投影する技術であり、この技術をもとに生まれた「情報固定化技術」とあわせて生活を180°ひっくり返したとされている。…余談ではあるがこの二つの技術を利用して、某サトノ家がなんかとんでもないことをしたのだが、それはまた今度の機会に。

 

 ともかく、ここまで来た人類が新たに考える先は何か?それは「空間跳躍」…「ワープ」といった方が分かりやすいだろうか。

 しかし、そのワープ技術の開発については遅々として進んでいないのが現状である。その理由として最も大きいのが「ワープバブル*1の安定化」だ。これが世の科学者や研究者を大いに悩ませてきたのだ。*2

 

 空間跳躍技術が確立された時の世界の変動がどれほどのものであるかは想像には難くない。現状地球から月に移動するのにおよそ1日かかるが、この技術が確立されれば僅か数秒以下で移動できるようになるのだ。将来的には火星等の他の天体にも居住域を広げる計画もあるので確立されないとかなりまずい*3

 

 タキオンはその大難題についての解決策の一助となるものを閃いたといって急遽エアシャカールを呼び出して議論を行なっているのだ。

 

 その閃きとは、ざっくり言えば「ワープバブルの情報そのものを固定化すればなんとかなるんじゃね」というもの。この閃きを実現するならどのようにすれば実現できるか、といろいろ議論しているが色々問題が噴出してしまう。現状、出した案で一番まともなものが以下の案である。

 

案:ワープバブルの周りに情報を固定化する装置を取り付ける。

 

シュミレーションの結果この案が一番良かったのでこの方向性で進めようとしたが、まぁ進まない。

 

「というか、今更だがよタキオン。お前の専門って薬品とかの、どっちかっつーと化学の方面なンじゃあねぇの?」

 

「…いや本当にそうだね。なんで私は専門外のことについて議論しているんだろうか。」

 

『これはあなたが始めた物語だろ?という言葉を送っておきますぞ、タキオン殿。』

 

『じゃあなんで議論しようと言い出したんですか。』

 

「この前私のトレーナー君とカフェのトレーナー君を二人きりにした時があっただろう?その時に急にこの考えとその結果のようなものがふわっと浮かんできたんだよ。…ありていに言うと、そうだね、その時、ふと閃いた!というものだね。」

 

「はぁ?!なンじゃそりゃ?!ンな事あり得んのかよ?」

 

「実際にあり得たから、今こうして議論をしていたんじゃないか、シャカール君。」

 

「ッ~はぁ、どのみちこのままじゃ埒あかねぇンだ。休憩入れるのには賛成だな。」

 

「激しく同意するよ。…あ、意識するとすごく眠くなってきたよ…。」

 

『『先ほどから休んだ方がよろしいでしょうと申しているでしょうに…。』』

 

 大きなあくびをして眠たげに目をこするアグネスタキオンと少々不機嫌そうなエアシャカールのこの議論会は現在3日目である。しかしそれでも解決の糸口は見えてこない、行き詰っているこの状況を変えるためには何か別のアプローチが必要であるのは間違いなかった。

 

 その翌日

 

「ということで、この二人を連れてきたよシャカール君。」

 

「おう、よろしくな!このゴールドシップ様の力が必要なんだってな。」

 

「私に”交信”を求めるんだね…。あなた達は、私に、何を”WANT”する?」

 

予想外の人物がやってきた。(ちなみにAIの二人はシュミレーションに専念するために静かにしています。)

 

「…おい、タキオン。」

 

「なんだい?シャカール君?」

 

「あのな、ネオユニヴァースはまだ理解できる。…問題は、なんでゴールドシップがここにいるんだよ!」

 

「ハッハッハ!シャカール君、この二人はねぇ私たちの議論に大いに関係しているんだよ。何せ、使えるんだろう?君たち、自力で、空間跳躍を。」

 

 あまりのことに目を白黒させまくるエアシャカール。

 

「?!?!?!」

 

「驚いた。タキオン、あなた、気づいていたんだね。」

 

「…へぇ、よく見てんじゃねーの。」

 

「…いやいやいやいや待て待て待て待て。え、何?え、お前ら空間跳躍できんの?自力で???」

 

「おう、出来るぞ。」

 

「うん”肯定”するよ。」

 

「…マジかよ。」

 

 まさかのカミングアウトに対して頭の整理が出来ていなかったエアシャカールだが、あらゆる現象を一言で片づける魔法の言葉を言ってから、頭を整理させる。そして、何とか納得したところで再度口を開いた。

 

「フゥー…。わかった、二人がワープを使えるとしてだけどよ、どうやってワープしてるかだぞ、これ。」

 

「だからここに呼んだのさ。なにか、ヒントが得られるんじゃないかと思ってね。」

 

「そうかよ…。」

 

「んじゃあ、話していいか?いいよな?それじゃ、アタシのやり方から話すぜ。」

 

 そう言って予め用意されていた椅子に座ったゴールドシップのその言葉を聞いて、二人は姿勢を正す。今まで発言せずに静かにしていたAIの二人もシュミレーションの準備万端である。ネオユニヴァースも椅子に座った状態で、目を輝かやかせている。

 そしてゴールドシップは全員の様子を確認した後、おもむろに口を開き、

「実はあたしがやってるのは空間跳躍じゃねぇ。」

と言い出した。

 

「ン?どういう事だ?」

 

「結果的にそうなってるだけでちげーんだよ。」

 

「ほぅ、それじゃあ一体君は何をやった結果、空間跳躍ができるんだい?」

 

 あのゴールドシップのことである。どんな奇妙奇天烈な方法が出てくるのかと身構えたが、

 

「あたしがやってるのな…簡単に言うと、あれだ、現実改変ってやつだ。」

 

『『「「ちょっと待てお前今なんて言ったぁ?!」」』』

 

 さすがにこれは予想外すぎた。静かに黙って耳を傾けていたAIが思わず叫び、二人は思わずいつもの口調が崩れてしまい、ネオユニヴァースに至っては目を見開いて口を「ぽかーん」と開けている状態である。

 

「なんだよおめーら、そんなに驚くことかよ。」

 

「君今自分がなんて言ったのか理解してる???」

 

「いや普段から使ってるだろ、アタシ。ほら、分身したりしてるじゃん?あれとかもこの能力使ってんのよ。…ま、日に五回が限度だけどな。それ以上使うとぶっ倒れる。」

 

 何でもなさそうに言い放ち、更には「あ、詳しい原理とか聞くか?」とか言い出した。これ以上このことを聞くと脳がパンクするという結論に至った二人は「「いや、もう大丈夫だから。」」と言ってネオユニヴァースのやり方を聞くことになった。

 

「…コホン。気を取り直して、それじゃあ次はユニヴァース君の方を聞くとしようか。」

 

「…それもそうだな。どうやってるのか教えてもらえるか?つーか、ゴルシの野郎みてェにまたぶっ飛んだやつじゃねェよな?」

 

「おめーらアタシを何だと思ってんだよ。」

 

「非常に興味深い愉快な研究対象。」

 

「行動がロジカルじゃ無いようでロジカルなわけわかんねーの。」

 

「私とは違う”観測”を行うウマ娘、だよ。」

 

「そろいもそろって変な評価してんじゃねーよ。」(溜息)

 

「ささっ、そんなことはどうでもいいんだ。教えてもらえるかね?」

 

「…わかった。話すね。」

 

 さて、どんな方法で行っているのか?二人は一言も聞き逃すまいとして耳をしっかり立てている。

 

「まず『わたし』のこれは”観測”に基づいているんだよ。」

 

「”観測”というと?」

 

「『わたし』は”別宇宙(アナザーバース)”の”観測”を行うことで情報を”認識”して現実世界で”観測”した場所に当たる場所に移動しているんだよ。」

 

 よかった、先ほどのゴールドシップのようなおよそ理解するのを一度諦めなければいけなさそうなものではない。この理論はまだ何となくだが理解はできる。

 

「ふむ…要するに君は到着地点を観測することで跳躍の安定性を高めているということでいいかな?」

 

「そう、そうだよ。」*4

 

「到着地点の観測か…。一度案として出したンだが…、断念したンだよな。」

 

「そうなんだよ。一度シュミレーションしてみたんだが、どうにも変動が酷すぎてねぇ。断念したんだよ。」

 

「ん?変動が酷すぎるってどう言うことだ?」

 

「空間跳躍における到着地点に何か別の物体等があった場合、その物体は反発し合うんだよ。」

 

「その反発の結果何が起こるかなンだが、何が起こるかわからねェンだよ。反発し合った結果によッちゃあ、とンでもない災害が発生する可能性がある。」

 

「だから変動が酷すぎるとどうにもならないんだよ。」

 

「…"SORRY"だね、余り、参考にならないかも…。」

 

 とアホ毛が垂れ、落ち込んでいる様子のネオユニヴァースに対して、

「いや、そんな事はないさ。古来より失敗は成功の母と言うだろう?何、また色々考えていけばいいさ。」

 

タキオンはそう言った。しかし、聞けたはいいが振り出しに戻ったようなものだ。さてどうするか?、と悩み出した時であった。

 

「いや、できんじゃね?観測。」

 

「「「え?」」」

 

「だから、できるんじゃねーの?観測。」

 と言い出したゴールドシップ。「何故?」と理由を問うと、

「現実改変してるとなんとなく分かるんだけどよ、時間って収束すんのよ。過去にあれこれしても絶対確定している事実ってのが起こる瞬間があるってわけ。それを観測してそこに到着できたっていう事実を作り出せばなんとかなるだろ。」

と答えた。

「あー、ちょっと待ってくれ。先ずわからないところがある。…時間の収束ってどういうことだい?」

 

「私も…”WHAT”だよ。」

 

「もちろん教えるつもりだ。時間の収束ってのは、ぶっちゃけ本当になんとなくわかるってことを念頭に入れとけよ。…概要はさっき言ったとおりだ、なにがしかの事実が起こることが確定してる時があるんだよ。そんでそれはいろんな時や場所で瞬間的に起こってるけど誰も気づけていないだけなんだよ。…例えばあたしが手のひらからリンゴを落としたとする。するとリンゴはどうなる?」

 

すかさずエアシャカールが、

「そりゃ、落下するんじゃねェのか?」

と答えた。

 

「そう落下する。これは事実だ。たとえアタシがリンゴでジャグリングした後に落としても、誰かに押されたりされて落としても、落下した事実は変わらない。ほらここで時間の収束が出来た。要は自己認知…いや、”世界認知”ってのが正しいのかもしれないな。」

 「ま、例外みてーなのもあるけど。」と最後に付け足してゴールドシップは話を締めくくった。

 

「まるでこじつけだねぇ、それ。」

 

「こじつけみてーなもんだよ。時間の収束なんて。でも、これが出来りゃ空間跳躍は可能だ。後は、専門家とか科学者の領分だろこれ。…これ以上もう何もできねーよ。だろ?」

 

 その言葉で「それもそうだ。」となった一行。確かにこれ以上は一学生(にしては大分高度な議論だが)の領分ではないだろう。

 

『チッ、後少しだったのに…。「アイツ」に見つかる前に逃げるとし「見つけたぞ。」よ?!くそっ』「逃がさん。"◼️◼️"」『が?!』べキリゴキリメキャア「…これで終わりか。さて、書類をまとめねば。」

 

「そうだね、もはやこれは我々の手には負えないものだ。急ぎすぎていたのかもしれないねぇ…あとは専門家とかに任せるとしようか。]

 

そう、タキオンの言う通りもはやこれはその道の研究者が行うようなレベルに入ってしまっていた。よくよく考えてみると構想の時点で既にそのレベルに達していたのだが()()()「研究を進めないといけない」という考えに囚われていたようだ…。いったいなぜであろうか?今となってはわからない。

 

 ただ確実に言えるのはこの議論で出した理論をまとめて研究機関とかに送れば彼女達がする事はもうないといことだ。

 

 その後は、AIの協力もありおよそ一時間ほどで理論をまとめて後は国立研究所と、某サトノ家に送るだけの段階になった。

「いやー感謝するよ、二人とも。おかげでなんとかなったよ…。お礼と言ってはなんだが、新しい薬を飲んでみないかい?」

 

「コイツのいう事は無視してかまわねェ。オレからも礼を言うぜ。データ関連でなんか協力して欲しいなら言ってくれ、協力する。」

 

「おう!サンキューな。」

 

「うん、こちらこそ、だよ。」

 

 「んじゃーアタシマリアナ海溝いって雨後の鯱鉾見つけてくっから。」

とゴールドシップが言ってその場から消えた。その後、「バイバイ。」と言ってネオユニヴァースが不可思議な音を立てて消える。ツッコミどころ満載だが、それをスルーして二人も寮に帰る準備をした。

 

「シャカール君、キュリー、Parcae、協力してくれてありがとう。助かったよ。」

 

「ハッ、こっちの台詞だ。」

 

『いえ、それが私の役割なので。』

 

『その通りですぞ。むしろこちらがお礼を言いたいですな。何せ、新たな知見を得られましたからな。』

 

 そう言ってその場から帰ろうとしたエアシャカールとParcaeにタキオンが袋を投げ渡す。中には錠剤が一粒入っていた。

 

「コイツは?」

 

「ぐっすり眠れて、疲労がしっかり取れる薬だよ。安心したまえ、副作用は特に無いよ。強いて言うなら、飲んで10秒ほどで眠るから眠る直前に飲んで欲しいね。」

 

「あんがとな。助かる。…じゃあな。また明日。」

 

「あぁ、また明日。」

 

 かくして、議論は終わった。後は、専門の人達がなんとかしてくれるだろう。しかし、この議論は、人類が空間跳躍の力を手にする大きな一歩であった。

 

 十年後人類はとうとう空間跳躍の安定化及び実用化に成功する。そこにはこの議論で生み出された理論が使われたのだった。

*1
時空連続帯を歪ませて物体を包み込み超光速で移動させること

*2
ちなみに現実ではワープバブルを偶然発見したというものがある。

*3
例として挙げればコストと時間が信じられないぐらいかかる。

*4
より正確に言うと別宇宙という名の第四の壁の先を観測しているようなものなのでほとんどズレの無い観測が行える。未来予知とは言い得て妙である。




アグネスタキオン……「その時、ふと閃いた!」してトンデモ理論の端掛けを作ることになった。この後お薬を飲んでぐっすり寝た。
         実はだいぶ正気じゃなかった。

エアシャカール……頑張って理論についてきた人。アグネスタキオンに誘われて理論の実証を手伝った。ぐっすり眠れるお薬を飲んで眠ったらほんとに疲労が全部取れて「これこそ世紀の大発見では?」と思った。
         実は少し正気を失ってた。

ネオユニヴァース……この後寮に戻ってぐっすり眠った。
          口調ムズすぎんか?by作者

ゴールドシップ……今回のMVP(ガチ)。この後雨後のしゃちほこを探そうとしたが赤外線サーモライトが実装できなかったので中断した。

キュリー&Parcae……頑張って演算やってた。縁の下の力持ちとはこのこと。途中から空気にしてすまん。

謎の声……今回の話の黒幕。残基が無限にある。ゴルシの提案がなければバッドエンド一直線だった。え?「お友達」でどうにかならんのか?三女神ですらその接近に気づけなかった相手ですよ?なお、天敵がいる模様。

アイツ……謎の声の天敵二つのうちの一つ。普段はトレセンで働いており、三女神と協力している。ちゃんと『人間』。ちなみに作中最強の存在である。
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