いつからだろう……こんなにも毎日を退屈に感じるようになったのは。
いつからだろう、欠伸をしながら玄関のドアを開けるようになったのは。
いつからだろう? 全てが面倒くさくなったのは。
そう思うことは多くても、程なくして俺は考えることを放棄する。それが当たり前になってしまったのだ。
「
「んぁ?」
桜もすっかり散り去ってしまい、緑に染っていく木々のトンネル道を歩きながらそんなことを考えていると、不意に背後から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
「はぁ……! はぁ……! 蓮太……お前呼んだんだから止まってくれよ……!」
「そんな荷物持ってよく追いつけたな」
「わかってんなら少しは気を使ってくれませんかねっ!?」
「歩くペースは落としただろ」
「微妙に気を使ってくれたのね……」
冗談交じりの会話を適当に投げ合いながら、今日も今日とて学校へと歩いて行く。
見慣れた景色。見慣れた街並み。そして見慣れた友達。
「つか、お前その背中に背負ってんの何? ギター?」
さっきから友人である“
「そ! オレの可愛い可愛いギターちゃん! 響子って言うんだ」
「名前付けてんのかよ……」
「オレと響子は互いに引き付け合い離れられないかけがえのない存在……! だからこうして常日頃から一緒に生活してるのさっ」
「そんな大切な子を袋にぶち込んで持ち運ぶなんて大した愛だな」
「え、何……お前響子の事好きなの?」
「アホか」
コイツが音楽が好きなのは昔から知っている。出会った頃はそんな素振りは見せなかったが……仲良くなってしばらくした後、中学に入る頃にはどんどん音楽の世界にハマって行ったのか、楽器を弾くようになった。
だからたまに聴いていた。コイツの家に遊びに行った時は大体ギターを持って何かを弾いていたから、意味もなく遊びに行ったりもした。
俺は、庵の弾く音が好きだ。
「でも急にどうしたんだよ、ガッコーで弾くつもりなのか?」
「さすがにひけらかすようなことはしないって! 放課後にスタジオ借りてるから、
「へぇ〜」
「自分から聞いてきたのに心底興味無さそうだよな……」
カマすってのがちょっと意味わかんなくて引っかかるけど……まぁ楽しそうならそれでもいいか。まぁ普通に演奏するって言えばいいのにって思うけれども。
「つーかバンド組んでたんだな、お前ら」
「よくぞ聞いてくれた!!!」
いや聞いてないけど。
「蓮太がいくら誘っても入ってくれなかったから、仕方なく2人で細々とやってた時! 偶然知り合った奴と仲良くなれてスリーピースバンドを組むことになったのだ!」
「入ってくれないって言われてもな……俺楽器とか触ったことねぇし、聴くのは好きだけど弾くのは別に興味無いし」
何年か前の話になる。中学の頃からずっと言われ続けてたんだ。庵と咲真と蓮太の三人でバンドやろうって。
「んで、そのスヌーピーバンド? ってのは何?」
「なんだよその犬みたいな名前!? スヌーピーじゃなくてスリーピース!! 三人組のってことだよ!」
「あぁなるほど」
「本来ならお前が入るはずだったベース枠だったんだけどな!」
「いや知らねぇよ……」
それにしても、とうとう2人が夢に向かって動き出したのか。
バンドマンとして生きていく決心がついたって事。つまりは未来に向かって歩き始めた。俺とは違って“現在”を生きてるんだ。
そんな所は、憧れる。
俺には将来の夢も、やりたいことも何も無いから。きっとのほほんと生きて、それなりの会社に入って、それなりに過ごして、それなりに死ぬ。
そんな普通な人生なんだろうなって。
「それでさ!」
「ん?」
「今日、オレのオススメんトコでライブがあるんだけとさ! 一緒に見に行かないか?」
「ライブ? しかも今日?」
「あぁ! 流石に意味はわかるだろ? チケット余っちゃっててさ……せっかくだから一緒に行かないか?」
「一緒にってお前……それこそバンド仲間と一緒に行くべきだろ? 俺と行ったってあんまり意味は無いんじゃねぇの?」
「それが二人とも今日に限ってバイトが入れてて来れないらしくてさ……オレが勝手に咲真の分も買ってたこともあって1枚余ってんだよ」
「なんで勝手に買ってんだよ……」
そんなちょっとお馬鹿な庵から手渡される1枚のチケット。
「場所は…………すたーりー?」
「そ、案外気に入るかもよ? お前ロマンを感じる所って好きだろ?」
「まぁ……」
そんなこんなで、流されるかのように受け取った1枚のライブチケット。この時は何も思いもしなかった。
この1枚のチケットが俺の人生を大きく変えることになるなんて。
「竹内」
ZZZ……
「おい、竹内」
ZZZ…………
「竹内 蓮太」
「ぐごー……」
「起きろ」
「へぶっ!」
突如として伝わってくる刺激。今までまるで天国にでも行くかのように気持ちの良い睡眠をしていた俺をその衝撃か叩き起す。
「ぉえ?」
「お前なぁ……まだ高校生になって1ヶ月だぞ? いつまで中坊気分なんだよ」
「う〜ん……」
「ま、いいけどさ。サボった分は後で自分に帰ってくるんだぞ〜」
いいのかよ。
と、心の中で軽くツッコミを入れてると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「ん、じゃあ今日はここまで〜おつかれさん〜」
ちょっと面倒くさそうなオーラが滲み出る先生が、適当な挨拶を終わらせてそそくさと出ていってしまう。
そしてほんの少しの休み時間、数分程度しかないそんな時間ですら、庵は俺にメッセージを送ってきていた。
『蓮太、一応聞いとくけどお前、約束忘れてないよな? 放課後になったらそっちの教室に行くから先に帰んなよ?』
そんなメッセージを読みながら思った。
多分コイツ誰かがいないと店の中に入れないタイプなんだな、と。
日常的に行く場所ならともかく、映画とかイベント事とか好きだけどあんまり行く機会がない場所に行く時は1人はなんかいやって感じのタイプだ。
『二秒で来い』
『行けるかっ!』
返事早!?
なんてノリを続けながら飲み物を買いに歩いていると……
「ん?」
「ヴッ」
スマホを見ながら歩いていたせいで周囲に注意を着配れずに片足が他人の机に当たってしまい、机の上の物が落ちてしまう。
なんか変な汚い声も聞こえてきた気もするけど、とりあえず落ちてしまった物を拾おうと手を伸ばす。
「これ……」
落ちていたのは一冊の本だった。表紙に大きくROCKJAPONと書かれたそれは、3人の男性が格好よくキメている姿が使われている。
けれどそれは決してファッション雑誌などではなく……
「ごめん。机蹴っちゃって悪かった」
明らかに見てわかる音楽系の雑誌。何も知らない素人の俺すらもパッと見でわかるほどだ。
「はい、これ」
「…………ぁ」
「ほんとに悪かっ────ッ!?」
それが彼女との出会いだった。
俺はきっと生涯忘れることなんてないだろう。それほどまでに強烈に印象に残っている。
桃色の長い髪。
透き通るほどの白い肌。
何故か妙にしっくりくるジャージ。
死んだ魚のような目。
某砂の忍者と見間違うような目のクマ。はちょっと言い過ぎか。
曲がりまくった猫背。
香る防虫剤の匂い。
キノコでも生えてきそうな陰気。
思わず口にしてしまう。
「あ……あ……あり……ありが……」
「陰キャ?」
「グハッ!!」