俺が言ってしまった一言。恐らく彼女にとって一番言ってはいけないのであろう容赦なき言葉、それをまともに受け止めた桃色の髪の女の子は一際大きな声を出したあと、ぴくぴくと震えながら机に倒れてしまった。
「そう……そうです……どんなに取り繕っても私は陰キャ……なんかもう恥ずかしい……! 穴があったら入りたいぃぃ……! というかもういっその事そこら中に漂う酸素になりたいぃぃぃ……!!」(超早口)
「えぇ……っと……と、とりあえず落とした本ここに置いとくな?」
ボソボソと何か言ってるし、なんかこの人怖い…………
目は虚ろになってるし、カタカタ震えてるし、何故かこの人の周りだけ明るさが失われていってるし!
「ほ、本当にごめんなさい……の、呪わないでね……?」
呪詛のように聞こえてくる何かから逃げるようにその場を立ち去ろうとする時、彼女の隣にひっそりと立てかけられているギターのバッグが目に入った。
落ちていた本やこのギターのバッグ、そしてよく見ると彼女が使用しているであろうグッズには数々のバンドマンっぽいアクセサリーが付けられていた。
その辺に関しては良く詳しくは無いが、きっと彼女は音楽が好きなんだなって伝わってくる。
わざわざこうして学校にまで持ってきている理由は、きっと放課後にでも仲間たちと集まって演奏をするためだろう。それがどんな理由であれ、この人も
楽しんでいるんだ。
……だよね? きっとそうだよね? じゃないと意味もなくこんな大きな荷物持ってこないよね?
ま、それはともかく…………
「バンド、頑張れ」
そう言い残して、俺は教室を後にした。
《視点切りかえ》
「…………」
やった……! 私、今! 人と会話できた! (出来てない)
それに「バンド、頑張れ」って言ってた! 「バンド、頑張れ」って……バンド……バン……ド…………
あの人絶対勘違いして行ったよね……確かに今日は只者じゃない存在感すごいバンド女子に見える格好をしてるけど絶対勘違いしていってるよね。この後どこかのスタジオで素敵で愉快な仲間たちと一緒に楽しくキャハハってバンバンギター弾き鳴らしてる奴って思われてるよね。そう思われてると嬉しいって気持ちよりも先に虚しいって気持ちが激しくて……現実を見たら私は家の押し入れの中でひたすらジャンジャカしてるだけの陰キャぼっちであの人の頭の中の私とは全く違う存在……と言うよりもそっちが現実になって欲しい夢の人物……箱は箱でもドラ○もんみたいに閉じこもってるっていうかドラ○もんは別に押し入れに閉じこもってる訳でもないんだけど……
(↑読まなくていいです)
でも……どうしてあんな目をしてたんだろう。
私のギターを見た時、どこか寂しそうな感じで……
「…………」
……よし。
《次の授業終わりの10分休憩》
せっかく声をかけてくれたんだ、わかりやすいこのバンド女子アピールが実を結んだんだ! 会話の台本は頭に叩き込んだ! シュミレーションも何十回もした!
(後藤ひとり脳内)
脳内のわたし「さっき声をかけてくれた人だよね! ごめんなさい、まだクラスのみんなの名前を覚えれていなくて……良かったらお友達になってくれない?」
脳内のあの人「そっか〜、俺の名前は○▽✕□! よろしくね! さっき落ちてた本とか、その格好で気がついたんだけど、もしかしてバンドとかやってるの? よかったらちょっと弾いたりしてくれない?」
脳内のわたし「もちろんいいですよ!」
脳内のクラスメイト「え? なになに? 後藤さんがギター弾くの?」
脳内のクラスメイト2「うっそ〜! 凄い! 凄い! みんな集まってよ! 後藤さんが1曲弾いてくれるってよ!」
脳内のわたし「そんなに急かさなくてもちゃんと待ちますよ〜!」
…………
……
……
(現実)
「うへっ……えへへ…………うへへへへ…………」
うっ……! 浮かれてる場合じゃなかった、まずはさっきの会話を種にして会話を始めないと……
始め…………
ないと…………
「…………」
あの人はずっと無言でスマホをいじって時間を潰している。チラッと見える限り何かのゲーム……? 私と違って友達がいるふりをして無駄に色んなアプリを開いて消してを繰り返したり、ホーム画面を無闇矢鱈にフリックしたりしてる人じゃない!?
……
あ、あれだよね。今声をかけちゃったらきっと迷惑になるだろうし、心の準備もしっかりしたいし、もうちょっとだけ待ってから……
待ってから…………
《その次の授業終わりの休み時間》
「……」
結局さっきは声をかけられなかったから、今回こそはしっかりと…………ってええ!? あの人席から立ち上がっちゃった! そしてどこか行っちゃった!!
も、もももも、もしかして私が声をかけようとしたから!? (自分の席から少しも動いてない)
私の視線が霊体となって直感的にあの人に危機を察知させたとか!?
あ、帰ってきた。
なんだ……ジュースを買ってきただけ……
よし、それなら大丈夫なはず。いくら陰キャを極めた私でも流石に呪いの類を放出するほど進化はしてないはず……いやこれは寧ろ退化なのでは?
いやいやいやいやそんなことは今はどうでもよくて! せっかく戻ってきたんだから声を…………って休み時間があと四分で終わっちゃう!?
そ、それなら次の休み時間でゆっくりと話した方が……うん、そう、そうしよう。そっちの方が絶対良い。
…………
……
……
《放課後》
「…………」
結局話しかけれなかったぁ…………
しかもあれから誰にも声をかけられなかったぁ…………
というかそもそもそんな簡単に声をかけられたらこんなにぼっちしてないぃぃ…………!
《視点切りかえ》
「…………」
なんであの朝の女の子、一日中ずっとこっちを睨んできてたんだ……?