朝の出来事から時間が過ぎ、現在はもう放課後。本来ならさっさと帰っしまうところなのだが今日はそういうわけにはいかない。
すたーりーという所で庵が推してるバンドの演奏を聴きに行く為の待ち合わせがあるからだ。
だから俺は待つ。理由があるから。
でも…………
「…………」
「ん」
一日中感じる謎の視線。まるでライオンが餌である獲物に標的を定めたかのような緊張感。
何か用事があるのかと彼女に視線を合わせようとすると同じタイミング……と言うかタイミングを合わせて光の速さで彼女は他所を向く。
あまりにも早すぎる視線外し、俺でなきゃ見逃しちゃうほどだ。
……仕方がない。話しかけづらいのも何となく理解できるから、こっちから声をかけてあげよう。
「なぁ、アンタ────」
「2秒で来たぞ! 蓮太!!」
「んあっ!?」
間の悪いタイミングで勢いよく教室の扉を開ける庵。彼の元気いっぱいな叫び声は届くはずだった俺の言葉を簡単にかき消してしまう。
「それじゃ行くぞ! 早く飯を済まそう! 時間が余ったらゲーセン行こう!!」
「いや、待ってくれ俺はこの人と話が────」
「そんな適当なこと言って逃がすと思うなよ〜!!!」
ダメだこいつ話を聞いてくれねぇ! と言うかこの辺の言い訳がましい言葉に対しての信頼度が全然ねぇ!!!
「いやあの──」
「GO!」
今日こそは逃がさないと意気込む庵は、机の間をスルスルと通って俺の腕を鷲掴みにする。
そして人でも誘拐するかのように勢いに任せて俺は連行されるのであった。
「ぁ……」
その去り際を桃色の髪の女の子は目を点にし、口を開けてポカンと眺めていた。
…………
……
……
「にしても、あの子誰なんだ? 蓮太が女の子と話してるなんて珍しくてビックリなんだけど」
結局、豪快な拉致された後、適当な店で夕飯を済まして時間まで適当に時間を潰したので二人で例のライブハウスへと向かっている途中、そんなことが会話の話題となる。
「今更かよ。つーかまだ会話してねっつの、何か用事がありそうだったから声をかけようとしたらお前が邪魔してきたんだ」
「あ〜! じゃああれって面倒くさくなって早く帰りたいからって適当についた嘘じゃなかったんだ?」
「お前俺をなんだと思ってんだよ……」
確かに今まではそうだったかもしれないけどさ。
中学の頃は春休みの予定を全部バックレ。
夏休みももちろんバックレ。
夏祭りもバックレ。
体育祭も文化祭もバックレ。
冬休みもバックレ。
……よくこんなやつと友達やってるよな。
いつの間にかコイツらって遊びの約束しなくなって当日いきなり誘うようになったよな。そういえば。
「でも知らない子だろ? 部活も入ってない蓮太になんの用だったんだろうな?」
「もしかしたら朝に陰キャって言っちゃって怒ったのかなぁ」
「蓮太ってほんとに口に出るからな……」
……思えば悪いことを言った。明日にでも謝っておこう。
「お、着いたよ。ここが目的地」
「ふーん……」
地下へと下っていく階段を下りながら、堂々とSTARRYと飾られた看板を横目に店に来店する。
するとそこそこの人数がもう既に集まりきっており各々が音を聴くことを心待ちにするように時間を潰していた。
「結構人いるもんなんだな」
「確かに……そうかも? まぁ別に気にならないけどさ…………っと、蓮太ドリンク何にする?」
「ドリンク……そういえば500円払ったな。なんでもいいよ適当に持ってきて」
「あいよ〜」
「とりあえず……ほい、セットリストでも見てたら始まると思うよ」
「ん」
受け取ったセットリストを眺めてみる……つってもこういう世界に足を踏み入れたのは初めてだからバンド名見ても誰が誰だかわからないんだけどさ。
薄暗い場所だったら見えないので、少しでも明かりがある場所に移動して、書かれている文字を流し見る。
……やっぱりちっとも分からん。
かっこよさげな名前が続いたりしてるけど……こんなの俺に見せても何も変わんないだろ。
……ん?
「ほい、蓮太の分のドリンク。それで何か気になるバンド見つかった?」
「どの名前もしらないのばっかりだけど……このチーム名面白いよな」
「どれどれ…………ってあぁこれかぁ」
俺が指さしたのはユニークな名前のバンド名。その名も“結束バンド”。
「二つの意味でかけてるのかな? ダジャレっぽいけどこーゆーの面白いよな」
「でも……オレも初めて見たとこなんだよ。多分今回が初ライブ何じゃない?」
「へぇ…………」
「あっ、ほら来たぞ来たぞ!」
そうして始まるライブ。それぞれの客が好みのチームが現れると盛り上がり、そうでないチームの出番でも皆が色それぞれの熱を見せた。
誰がどう見ても熱狂と呼べるのもあった。隣にいる庵も盛り上がってたし、きっとこの音が聴きたくて今日の客は集まってきたんだな……と強く思う。
でも……
「音が生きてない」
思わず口にしてしまう言葉。
俺にはとてもじゃないがこの音は好きになれなさそうだった。特段ミスがあるわけじゃない。楽器の整備不良でもないだろう。
これはきっと心の問題だ。
奏で手の心が伝わってくるみたいだ。
なんだろう……この気持ち、楽器を触ったことの無い俺じゃ例えようもないかもしれないけど……ありきたりとでも表現すれば良いのだろうか。
個性が無い。流行りの皮を被っている気がするんだ。この音は全員が奏でたい音じゃないんだろうか? 売れる為、死なない為に必死になってしまっている。
勿論それは悪いことじゃない、寧ろその世界で生きる為には必要なことなんだろう。
でも……そこに笑顔がない。
心から、いや……心が笑っていない気がするんだ。
気がついたらその演奏は終わってしまっていた。
聴いていて満足気な客たちは浮かれた気持ちを表すかのようにあのバンドたちを褒め続けている。感想や応援などを含めて。
「…………」
それからいくつかのバンドチームが入れ替わり、様々なライブが続いた。
皆それぞれが似た色の曲を流している中、“あのバンド”か現れる。
「初めまして! 結束バンドでーす! 今日はみんなも多分知ってる曲を何曲かやるので、聴いてください!」
会場中を駆ける明るい声。若干不安の混じった気持ちを飛ばそうとしているようにも感じ取れたが……
まだ演奏前だと言うのに、ドラムスティックを掲げた金髪の女の子は心做しか楽しそうに感じた。
そしてバンドメンバーと目を合わせ、演奏を始めようと合図する。
それを無言で答えた青髪の女の子は表情にこそ出てきていないが、その目が印象に残った。
合図と同時に始まる演奏。ネットや街でよく聴く音楽を奏で、それらは明るさを消す気配は無い。
金髪の子と青髪の子と完熟マンゴーの3人で結成されたそのバンドは心が楽しむことを忘れない、まさに“生きている”音を届けていたんだ。
……? 完熟マンゴー?
「んだアレ……」