みんなは見た事あるだろうか? 参加者全員から最も注目される人物、その一人がダンボールの中に身を隠してパフォーマンスをする姿を。
一見面白いと思うかもしれない。発送がユニークだと評価するかもしれない。しかし、現実としてそれを目の当たりにすると案外簡単にそんな考えは失われる。
「なんか……やばい人いるよね」
「庵、お前もそう思ったか」
そしてそれは俺だけじゃない。庵は勿論、周りの客達も同じことを思っているだろう。
なんだあれは? と。
「ま、まぁ個性が全面的に出てきていていいんじゃない? あぁいうのオレは嫌いじゃないよ!」
「どっちかって言うと個性を隠してないか? アレ……」
あんなことしてたら顔も覚えて貰えないぞ……
「にしても……このバンドチーム、“結束バンド”だっけ? 演奏してたのは在り来りな流行りの曲だったけど、やけに楽しそうに聴いてたよね。もしかして気に入った?」
「ん? まぁ……な。俺の好きなタイプだ」
「確かに、あの子たち技術はともかくとして本当に楽しそうにしてたもんね。オレとしてはあの青い子がいい線いってると思うけど」
「何目線だよお前……でも、そう。そこが気に入ってる。無鉄砲と言うか自由と言うか、勿論彼女達も自分たちの将来を見据えていると思うし、夢だって目標だってあると思う。でも自分も客も楽しむこと、楽しませることを忘れていない。そんな気がするんだ」
演奏の時によくある自分の音に集中している人、それしか眼中に無い人だっているのに……
この二人(一人はダンボールの為わからない)は客たちの目すらもしっかりと見ていた。
それって凄いことだと思う。みんなで一丸となってひとつの曲を奏でるだけでも想像できないほど大変だろうに…………
客の一人一人をしっかりと見てる。
「蓮太が気に入るって相当だよ。これがキッカケで音楽の道に目覚めてくれてもいいのになぁ〜」
「はいはい、じゃお前が持ってきた全然好きじゃないコーラ飲んだからまたジュースとってくるわ」
「なっ!? 蓮太がなんでもいいって言ったんじゃないか!」
「俺炭酸苦手なの」
「知ってた」
「じゃそゆことで〜」
そうして飲み物の受付のところまで歩いていく、初めてきたような場所でも迷子になるほどの広さや入り組みではないからある程度の人混みの中でも割と直ぐに見つけられた。
まぁ人混みと言っても次のライブが始まるまでの間で各々がトイレなどを済ませているだけなんだろうけど。
「すみません、オレンジジュースください」
何気なく行って、何気なく放った一言。
最初はスタッフさんの顔なんて見ていなかったからこんな対応だったんだ。
カウンターの前に立って注文を言うと同時に顔を上げて話し相手を見てみると…………
俺の人生は動き出した。
「はい」
若干気だるそうにも聞こえる声のトーン。
一見すると怖そうな見た目だろう。ぶっきらぼうのような性格なんだろうな、と想像することも出来る印象。まるで男のような口調。皆が知る不良に近いだろうか?
美しく揺れる金色の髪。漂う大人の女性の雰囲気。睨みつけるような鋭い眼光。そしてそんな特徴とは裏腹に可愛らしく頭から飛び出ているアホ毛。
そう……それは俺の求める女性像と完全に一致していた。
この人はなんだ神か? 天使か?
これほどまでに美しさを極めた人物がこの世に存在するのか?
頭はそんなことでいっぱいだった。
「どうぞ、オレンジジュースです」
棒読みのようなテンプレ接客も全てが愛おしい。
しかしいつまでも立っているだけじゃダメだ。しっかりと「ありがとうございます」と返事を返さなくちゃいけない。
だから俺は声を出した。
「大好きです!!!!」
…………え?
俺今なんて言った?
ありがとうございます? こんにちは? おはようございます?
「はい?」
スタッフさんの困惑した返事が返ってくる。なにかに驚くような様子にも見えるが……聞き返している? 様子を見るにもしかしたら俺が盛大に噛んでしまったのかもしれない。
だから俺の「ありがとうございます」の返しが聞こえなくて、こんないかにも(何言ってんだこいつ?)って顔で見られているのかもしれない。
うんきっとそうだ。
だとしたら相手に失礼だよ。しっかりとお礼と感謝の言葉は伝えなきゃ。
もう一度、今度はしっかりと伝えなきゃ。
ありがとうございますって。
「一目惚れしましたッ!! 大好きです!!!」
「ぁ…………えっと…………」
そして更に困惑した表情。若干視線を逸らしながら(多分物音一つしなくなった会場を見渡している)どうしたものかと悩むようにも見えていた。
また噛んでしまったのかもしれない。もう一度お礼を…………
「お姉さんの事が大好────」
「蓮太ぁ!?!?!? お前いきなり何言ってんだ!?!?」
慌てて俺の元へと走ってきた庵は何故か恥ずかしそうにしながら顔を真っ赤にして俺の口を塞いできた。