「…………ん」
闇の中、果てしないブラックホールのような黒の中、そんな世界から一筋の光が差し込んでくる。
空に手を伸ばすと、少しずつ引きずられていって…………
「ここは……?」
知らない天井だ。ここは……どこだ?
「ん……気がついた?」
その声に反応するようにムクリと状態を起こす。辺りを見渡してみるとやはり知らない場所……ではあるが、雰囲気からしてあの箱の中……控え室だろう。
そして俺が眠っていた近くでどこかで見た覚えがある青髪の女の子が無表情で音楽を聴いていた。
「アンタは……確かさっきライブしてたバンドの……」
「山田 リョウ」
「そっか、俺は竹内 蓮太。よろしく」
椅子を連ねて置かれている簡易的なベッドから体をひねり、足を着く。体の状態を確認し終えると目の前の女の子に質問をした。
「俺……なんで倒れて?」
「店長に大声で告白したあと、鼻から大量の鼻血を吹き出して気絶した」
「告……白……?」
「……? 覚えてないの?」
「全然……」
俺が人に告白? そんなまさか……はじめましての人に、しかもあんな人がいる状況の中で愛の告白?
何かの間違いじゃないか?
「とにかく、アンタが助けてくれたんだな。ありがとう。助かったよ」
「いや、私は特に何も」
「あ……そう……」
それはそれで素直に感謝しにくいんだけど…………ま、まぁ実際一人で寝てたところを見守ってもらってたわけだし、事実として何もしていなくても感謝の必要はあるだろう。
「キミ、私たちのライブ聴いてくれてたよね」
なくなりかけた会話、適当なところで店の人にお礼を言って立ち去ろうかと考えたいた頃、山田リョウは話題を振ってくる。
「ん? あ、あぁ……見えてたのか?」
「人、少ないからね。それに他のバンドがライブを始めた時は近くにいた」
人が少ないってのはきっと、自分たちを目的としてくれた人がって意味だろう。最初の方の印象しか残っていないが、人気バンドが終わると少しずつ人が少なくなって来た気がするから。
「近くに? へぇ……」
正直あの時はこんな特徴的な女の子が近くにいた記憶なんて全くないけど……ほとんど下か前しか見てなかったし気が付かなかったとしても仕方がないか。
「どうだった?」
「どうだった? って言われてもな……専門的なことなんてもんはわからんちんなんだよ。だから感覚で味わってる」
「その感覚でいいから」
なんでこの人は俺にこんなことを聞き求めているんだろう。
そりゃ客として来たわけだし、特段変な風には聞こえない会話ではあるけど……俺はその道に達観してるわけでもないし、友達ですらない。初対面なんだぜ?
まぁ……別にいいけど。
「……パッとはしないかな」
ちょっとは考えた。お世辞でもここは褒めておくべきかどうか、素人の意見なんだからそれっぽく答えるべきかどうか、でもそれらはどちらもこの人が入ってるバンドのためにもならない。
元々俺は隠し事が苦手なタイプなんだ。すぐに顔に出たりもするだろう。
それに、ほんの少しでも俺の言葉がこの人の力になるのなら、伝えたいと思った。
「音はバラツキがあるように感じた。あの感じは……多分ギターだと思う。一定のリズムを先走ってしまった時があったり……その逆も」
「音の強弱もブレて感じるところもあったかな。個々のミスは少なかれど、単純にチームワークがまだ完全に固まってないだけなんじゃないかな……と」
「…………」
「でも、聴いてて楽しかった」
「ん……」
「演奏している人達があの瞬間を心から楽しいって思ってたからだと思う。その心が音に乗って響いてきた。あの時、音は生きていた」
素人にこんなこと言われるのはムカッとくるポイントかもしれないけど、それでも俺はあの音に惹かれた。それは事実。
あのカラフルな音がこれからどう進化するか、どう変化するのか、それが楽しみになってきてもいる。
「だから、また聴きにくるよ。次も……きっとその次も」
「……、ありがとう」
彼女のお礼が聞こえたきた時、タイミング良く部屋の扉が開かれる。その聞こえてくる足音から何人か集団でいるのが予想出来た。
「ただいま〜! って、あぁ! よかったぁ……無事に目が覚めたんだ!」
第一声は明るい女の子の声だった。視線をその先に向けると、サイドポニーテールで結んだ金髪の女の子。
あの子は確か……山田リョウと一緒に演奏してたバンドのドラム叩いてた人だ。
MCもやってて蒼髪の子よりもより強く印象に残ってる。
「あ、あぁ……ごめんなさい。迷惑かけたみたいで……」
「いいのいいの! 大した怪我もしていないし、その様子だと頭の方とかも大丈夫そうだね。よかったよかった」
トコトコと元気よく俺の元へと歩いてきた金髪の子は、買ったばかりであろう飲み物を手渡してくれた。
「はいっどうぞ」
「あ、ありがとう……」
キンキンに冷えているアヌエリアスを受け取り、一口飲む前にと思って財布を取り出す。そして中身開けて二百円を渡そうとすると……
「あ! いいよいいよ! お金なんていらないから! 気にしないで!」
「や、でも流石に」
「いいから受け取ってよ! ライブ来てくれてありがとうってことでさ」
……!
この人も。
「虹夏、私も喉乾い──」
「リョウはさっき飲んでたでしょうが」
「……。ありがとう、それじゃコレ貰うよ」
「うん! 気にしなくていいからね!」
そうして受け取ったアヌエリアスのキャップを開けて一口つける。最初はほんの少しだけ飲むつもりでいたけど、自分が思っているよりも喉が渇いていたようで途中で呼吸を整えながらたっぷりと飲み出してしまう。
「そういえばぼっちは?」
「ん? え!? さっきまで一緒にいたのにどこ行ったの!?」
ぼっち? え? ぼっち? 何? もしかしてバンド内でイジメでも起きてるの? こんな優しい人なのに?
ぼっちって悪口じゃない?
なんてことを思いながら彼女たちを方を見ていると、俺の座っている場所の真隣を見て、金髪の子が忙しなく声を上げた。
「あ! ぼっちちゃんまたそんなの被ってる!」
ん?
なんで俺の隣を見て……?
と疑問に思った俺は、金髪の子の視線の先に目を向ける。と言っても真隣だから頭を横に動かすだけなんだが…………
隣に誰かいるのk
「……………………」
「ぶぅぅぅぅぅぅ──────!!!!」
なんの心の準備もしていなかった俺は、いつの間にか真隣に佇んでいた完熟マンゴーのダンボールに吹き出してしまった。