アサルトルベルム プラス   作:入江友

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第17話 静岡戦線異状あり

 

 静岡の陥落地域にある軍の旧司令部で、未知の情報を収集せよ――

 ティシアが楓たちに命じた任務について、グルヴェイグの四人は何とも捉えどころの無い表情を隠せなかった。

 最初に手を挙げたのは葵だった。

「ティシア様、任務の内容についてお尋ねしたいことがあります」

「発言を許そう。申してみよ」

「先ほどティシア様は、この任務は軍からの依頼で、軍の手に負えない内容だとおっしゃいました。

ということは、軍は静岡の旧司令部で探したい何かがあるんですね?」

「そう考えるのが自然であろうな」

「それが何なのか、少しでも具体的に教えてもらうことは可能ですか?

単に未知の情報というだけでは、あまりにもつかみどころが無さすぎて……」

「実は、探しているものが何なのか、軍の方でも『具体的には』分かっておらぬ」

 それを聞いた葵たち四人は、一様に驚いた表情を隠せなかった。

「どういうことですか?

探すものが何なのか分からずに、どうやって探せと?」

「具体的には分かっていないということは、抽象的には分かっているということですの?」

「結梨、ティシア様の言ってること分かる? あたしはさっぱりだわ」

「わからない」

 

 ますます訳が分からなくなった四人のリリィを前に、メルクリウスの聖帝は教壇の上から講義する教師よろしく、改まった口調になった。

「もう少し事情を詳しく説明しておこう。

ある戦死者の名誉を回復するための証拠となる物、あるいは情報。

軍が探しているのは、そういうたぐいのものだ」

「ある戦死者とは誰のことですの?」

「戦死者の名は安藤総逸。安藤鶴紗の父親だと言えば、卿は分かるな?」

 ティシアが結梨の顔を見ると、一瞬の間を置いて結梨は頷いた。

「鶴紗のお父さん……」

「そうだ。安藤総逸は数少ない南極からの生還者の一人で、百合ヶ丘女学院の高松理事長代行と同じく、男性でありながらCHARMを扱える能力があった。

南極からの帰還後は軍の将校として各地を転戦の後、静岡戦線に援軍として赴き、最前線で対ヒュージ戦闘の指揮を執った。

戦況は一進一退の攻防を続けていたが、最終的にはヒュージの攻勢に敗れ、軍の戦線は崩壊、静岡は陥落地域となってしまった。

その際の戦闘で、多数の将兵とともに安藤総逸も戦死した。

言っては悪いが、ここまではよくある話だ。

問題は彼が戦死に至った経緯において、全く内容の異なる二つの情報が存在していることだ」

 

 一つ目の情報はこうだ、と前置きしてティシアは説明を続けた。

「戦場でヒュージの異常な増殖が観測された際、安藤総逸は南極での経験に基づいて、それがアルトラ級出現の前兆現象だと判断した。

彼はただちに民間人の避難と部隊の撤退を進言したが、その要請は却下された。

『現在確保している拠点を死守せよ』との命令が変更されることは最後までなかった。

最前線の兵士は死守命令に絶望したのか、前面に展開するヒュージ群に対して玉砕同然の一斉突撃を敢行した。

無論、そのような無謀な攻撃がヒュージに通用するはずもなく、現地の部隊は全滅、指揮官を務めていた安藤総逸も最後には戦死した。

当時の報告には、安藤総逸はアルトラ級が現れてもいないのに撤退しようとした無能な臆病者、そして正気を失って無謀な突撃を敢行した部下の将兵も同じく弱卒の極み――という趣旨の記述がされている。

軍の公式記録としては感情的に過ぎるきらいがあるが、これは察するに戦線崩壊の責任を問われた参謀本部の恨み言のようなものであろう」

 

「実際にアルトラ級は出現したんですの?」

 楓の質問にティシアは首を横に振った。

「その時にアルトラ級が現れたかどうかは確認されていない。

現地の状況が混乱を極めていたため、信頼性の高い記録はほとんど残っておらぬのでな。

現在の静岡には複数のアルトラ級が存在し、それぞれがS級ネストを営巣している。

だが、それらが静岡戦線の崩壊時に出現したものかどうかは、今もって不明だ」

「死守命令が適切だったかどうかの判断は……」

「アルトラ級出現の真偽不明につき、命令の妥当性は不問に付された」

「釈然としない話ですわね。死人に口なし、口封じの可能性もあるかもしれませんわ」

「卿のように感じた者は当時の軍の中にもいた。

安藤総逸は無能でも臆病でもない。

その証拠を見つけて、彼の名誉を何としても回復したい――

軍の内部には、今でもそう考えている者が階級を問わず多数いるそうだ。

軍人でない我々は彼の人柄を知る由もないが、相当な人望があったことは間違いなかろうな」

「ですが、戦死した軍人の名誉回復のための証拠探しをガーデンに依頼するというのは、いささか筋違いではありませんの?」

「無論、軍とガーデンの職務分掌を考えれば、そのような依頼を軍がすることも、ガーデンが依頼を受けることもあり得ない。

ゆえに、安藤総逸を信じる者たちは、自らの力での証拠探しを決意した」

「まさか……」

 四人は嫌な予感がして互いの顔を見合わせた。

「そのまさかだ。どのような手管を弄したのか、偵察の名目で少人数の兵士を輸送ヘリからロープで降下させる――そのような作戦が許可された」

「蛮勇、としか言いようがありませんわね。

通常兵器で対抗できるヒュージはミドル級まで。

ラージ級やギガント級に遭遇したら、生きては戻れませんわ」

「結果として、現地への降下自体は成功した。

だが、間もなく通信が途絶し、現在に至るまで消息不明の状態が続いている」

「GPSの位置情報などは……」

「信号は確認されていない。原因は不明、今のところ情報はそれだけだ」

「何と言うか、いろいろと絶望的な状況ですわね」

「だが皮肉にも、陥落地域で軍の兵士が消息不明となったことで、彼らの捜索を名目としてガーデンが動けるようになった」

「それが軍からの依頼、ということですのね」

「いかにも。この任務は表向きは消息不明となった兵士の捜索と安否の確認である。

だが、元々の目的は『安藤総逸の名誉を回復できる何がしかの情報』を旧司令部で探索すること――というわけだ」

 

「合点がいきましたわ。でも、その情報の探索そのものは、あくまでも一部の軍人の公私混同みたいなものですわよね。

わたくしたちのレギオンが求めるべき情報とは言えませんわ」

 歯に衣着せぬ楓の指摘を待っていたかのように、ティシアの漆黒の双眸がきらりと光った。

「余は安藤総逸が戦死に至った経緯において、全く内容の異なる二つの情報が存在している、と卿らに言った。

まだ卿らに伝えておらぬ二つめの情報こそ、我々が追い求めるべき何かにつながっている可能性があるのだ」

「その二つめの情報とは一体何ですの?」

「心して聞くがよい。それは――」

 ティシアが抑制の利いた声で淡々と説明を進めるにつれ、四人の顔には次第に驚きと困惑の表情が広がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「安藤総逸は人の身でありながらヒュージと通じ、人類を裏切ろうとした――なんて、荒唐無稽にもほどがある話だけど……」

 静岡の陥落地域に位置する軍の旧司令部、そこから数百メートルの所にグルヴェイグの四人は立っていた。

 ――メルクリウスの校舎の片隅にある控室で、楓たちがティシアの説明を聞いた翌日。

 LGグルヴェイグの四人は、第5飛空艇団ラグエル所属のガンシップ予備機からパラシュート無しで飛び降り、雑草の生い茂る静岡平野の一角に造作も無く着地した。

 雲間から時折り日差しが差し込む程度の、曇りがちの天候、周囲に人影もヒュージの姿も全く見えない。

 まだ遠くに見えるコンクリート製の要塞のような旧司令部を、四人は並んで眺めている。

 半ば独り言のようにつぶやいた葵の言葉に応じたのは、結梨だった。

「ルサルカは人の言葉を話してた」

「そうだったわね。とても話が通じる相手じゃなかったけど」

「うん……人みたいな姿だったけど、ルサルカのマギはヒュージのマイナスマギだった」

 大島地下要塞での戦闘を思い出したのか、レミエは小さく身震いをした。

「あいつ、子どもみたいな喋り方のくせに殺意の塊で、すごく怖かったわ。

百合ヶ丘のサングリーズルは甲州でルサルカと戦ったけど、しとめきれなかったんでしょ?」

「討滅完了の公式記録は無いわね。

まだ甲州のどこかに潜んで、反撃の機会を窺っているのかも」

「あいつが甲州から静岡に移動してないことを、神様にお祈りするわ」

 レミエは右手で十字を切ってから、両手を胸の前で合わせた。

「黒ゴスロリの隊服で神様に祈るって、何とも言えない違和感があるわね。

まあ私たちだって、リリィとはいえ四人で陥落地域の真っただ中にいるわけだから、ギガント級が出てきたら神様に祈って逃げるしかないけど……」

「消息不明になった兵士たちは、あの旧司令部を目指していたはずですわ。

わたくしたちも行きましょう」

 

 ヒュージサーチャーに反応が無いことを確認して、四人は周囲を警戒しながら草むらの中を注意深く進み始めた。

 雑草の背丈は膝よりも少し上くらいで、視界が遮られるほどのものではなかった。

 周囲には焼け焦げ朽ち果てた戦車や自走砲の残骸らしきものが点在し、いかにもかつての戦場跡らしい光景が広がっている。

 旧司令部の建物まであと五十メートルほどの所まで来た時、結梨が急に足を止めた。

「どうしましたの、結梨さん」

「あそこ、なにか光ってる」

 結梨が指さした方を三人が見ると、十メートルほど先の雑草の間から光を鈍く反射する何かが目に入った。

「私が行くわ。あなたたちはここで待ってて」

 葵は足元に注意しつつ少しずつ近づいていき、かがみこんで『何か』を拾い上げた。

「ライフル弾の空薬莢……まだ新しい」

 最近この場所で戦闘があったことを、空の薬莢は示していた。

「一つだけじゃない。この周りに大量に散らばってる。

ここでヒュージと遭遇したんだわ」

 ティシアの話では、少人数の兵士で降下したというから、重機関銃や迫撃砲などの重火器は携行できず、兵器の火力は極めて限られていたはずだった。

(どの等級のヒュージ何体と遭遇したのか……携行していた弾薬が尽きたら……)

 葵の暗い想像を裏付けるかのように、空薬莢とは異なる銀色の金属片が地面に落ちていた。

(認識票、これも新しい。兵士はここでヒュージと戦い、敗北した)

 感情を押し殺して葵はそう結論付け、認識票と空薬莢ひとつを持って三人の所へ戻った。

「認識票と大量の空薬莢があったわ。これを証拠品として持ち帰りましょう」

 葵の掌に乗ったそれらを見て状況を理解した楓たち三人は、ただ押し黙ることしかできなかった。

「行きましょう。まだ旧司令部の中を私たちは見てないわ。

私たちが探索して、未知の情報を見つけなければいけない所を」

 

 葵が促し、再びグルヴェイグの四人のリリィは黙々と歩き始め、ほどなくして四人は旧司令部の入口の前にたどり着いた。

 鉄製のゲートは原形を留めないほどに破壊され、その向こうの建物は至る所が崩落して廃墟の様相を呈している。

 旧司令部の建物の中に入る前から、焼け焦げた匂いが四人の鼻をついた。

 煤、灰、硝煙、瓦礫、ありとあらゆるものが破壊され、燃え尽きた廃墟の中へ、グルヴェイグの四人は足を踏み入れた。

「楓、最初にどこへ行くの?」

 結梨は前を歩く楓の背中に向かって問いかけた。

「まずは安藤総逸が使っていた部屋へ行くべきだと思いますわ」

「そこへ行けば、鶴紗のお父さんの何かがあるの?」

「あることを願いますが、建物の中がこの有様では、期待はできなさそうですわね」

 目的の部屋へ続く通路を歩いていても、コンクリート製の壁も床も天井も、全てが破壊と焼失の限りを尽くした状態であり、およそ原形を留めているものは何一つ存在しないと言ってよかった。

 

 瓦礫に埋まった通路を歩くこと十分あまり、四人は安藤総逸の部屋に到達し、大きく破壊された扉から室内へと入った。

 通路と同じく、それほど広くもない部屋の中も炎で焼き尽くされ、木製の机や棚は完全に炭化していたが、その中でただ一つだけ四人の目を釘付けにするものが存在した。

「楓。これ、いくら何でもあからさますぎない?」

「ですわよね、葵さん」

 真っ黒な炭の塊と化した机の上に、真新しい小さめの白い封筒が一つ置かれている。

 それは余りにも場違いな異物であり、この場に存在すること自体が強烈な違和感を惹起させた。

「どこからどう見ても文句なしのブービートラップ。

絶対に手を出しちゃいけない代物だけど……」

「ええ、普通なら無視してやり過ごすところですけれども……」

 楓と葵の後ろから室内を見ていた結梨とレミエも、困った様子で顔を見合わせている。

「この封筒のことは今は無視しましょう。

皆さん、まずは封筒以外のあらゆる所を調べますわよ」

 楓の発言に異議を唱える者は、当然ながら皆無だった。

 四人は安藤総逸の部屋の中、次いで旧司令部内の他の場所を、時間の許す限り捜索した。

 だが結果として四人の努力も空しく、何らかの意味のある情報は何一つ発見することはできなかった。

 再び安藤総逸の部屋に集まった四人は、全員が難しい顔をして机の上の封筒を見つめている。

「これを無視してガーデンに戻った場合は……」

「得られたものは空の薬莢と認識票だけ……ということになりますわ」

「でも、この封筒は確実に人為的な罠に違いない。

誰が何のために、ここにこれを置いたのか。

そもそも、こんなものを陥落地域に置きに来られるなんて、普通の人間じゃないわ」

 それが可能なのはリリィか、強化リリィか、それともヒュージの姫か――いずれにせよ、ろくでもない可能性しか楓と葵の頭には浮かばなかった。

「ガーデンに連絡して、どうすればいいか聞いてみる?」

 結梨の発言は単純に思いついただけのものだったが、それは実のところ今のグルヴェイグが取れる最も妥当な選択肢だった。

「……そうですわね。絶対にわたくしたちだけで判断しなければならない、という状況ではありませんものね」

 しかし、四人が携帯している通信端末は、その全てが通信不能の状態になっていた。

 何度か回線の接続を試みた後、四人は嘆息して端末をスタンバイモードに戻した。

「気象条件によるものではなさそうですし、この一帯にジャミングがかけられている可能性は否定できませんが……」

「原因が何であれ、今は私たちだけで判断しないといけなくなったわね」

 炭化した机の上に置かれた封筒を、葵は忌々しそうに睨みつけた。

 そんな抜き差しならぬ状況に我慢できなくなったのか、レミエは断固として積極策を主張した。

「そんな封筒の一つや二つ、さっさと回収してガーデンに持ち帰ればいいじゃない。

封筒が何かの罠でも、あたしたちはCHARMを持ったリリィなんだから、簡単にやられはしないわよ」

「……わたくしたちの任務は未知の情報を収集すること。

この封筒は未知の情報そのもので、これ以外に未知の情報は何もありませんわ。

それなら、取るべき選択は一つだけですわね」

 楓は覚悟を決め、封筒が置かれている机の前へと歩を進めた。

 そして立ち止まると、ゆっくりと三人の方を振り返った。

「わたくしと葵さんで、この封筒を確認いたしますわ。

結梨さんとレミエさんは通路に出て周囲を警戒してくださいまし」

「うん、わかった」

「わかったわ」

 結梨とレミエは楓の指示に頷いて、足早に部屋を出ていった。

 部屋の中に残された楓と葵は、顔を見合わせて皮肉っぽい笑みを浮かべた。

「結局、こうなるわけね」

「封筒を置いた何者かは、必ずこうなるように仕向けたのでしょう。

わたくしたちがこの選択をせざるを得ないように」

「そうね。それじゃ、鬼が出るか蛇が出るか、封筒を確認してみましょうか」

 葵は慎重に手を伸ばして机の上の封筒を拾い上げ、裏返してみた。

「封がされてない。中身は……何も入っていないわ」

「本当に何の変哲も無い、ただの封筒ですの?

そんなものをどうしてこんな所に置いていったのか、さっぱり分かりませんわ」

「これ自体は単なる封筒でも、存在していた場所は普通じゃない。

ガーデンに持ち帰って調べてもらいましょう」

 

 葵が封筒を隊服の内ポケットに収め、楓と一緒に部屋を出ようとした時、頭に装着していた猫耳型のヒュージサーチャーが警告音を発した。

「やっぱり出たわね。見た目では何も分からなかったけど、封筒に何か細工がしてあったのかも」

「生きてここから脱出して、ガーデンに戻らないことには話になりませんわね」

「そういうことね。サーチャーの反応はまだ遠い。まず建物の外へ出ないと」

 二人は部屋を出て、通路で警戒に当たっていた結梨とレミエに合流した。

 グルヴェイグの四人は通路を全力で疾走しながら、壁が破壊されている箇所から外へと飛び出した。

 着地と同時に散開、目視で周囲の状況を確認する。

「五百メートルほど先にうじゃうじゃいますわ。大半はミドル級とスモール級。

ラージ級は三体。ここを包囲するように、じわじわと距離を詰めているようですわ」

「包囲の輪が縮まる前に、一点突破で脱出するわよ。

私が前衛で『缶切り』役をするから、結梨は私のすぐ後ろでエインヘリャルの操縦に集中して。

マギビットコアで上空から進行方向のヒュージを掃討するのよ」

「わかった」

「では、わたくしとレミエさんは結梨さんの左右について直掩にまわりますわ。

レミエさん、最短時間での包囲突破になりますので、カリスマは最初から全力でお願いいたしますわよ」

「お安い御用よ。何ならサブスキルもありったけ使ってあげるわ」

 葵を先頭とした陣形を組み、両側を楓とレミエに守られた結梨がエインヘリャルのベースユニットからマギビットコアを分離しようとした。

 その時、再びヒュージサーチャーが鋭い警報音を発した。

「西の方角に極めて強力な反応。ギガント級ですわ」

 

 四人が西の方を見ると、角の生えた巨人のようなシルエットが、遠くの森林から突き出るように立っている。 

 結梨の右隣りにいたレミエが、目を細めてギガント級との距離を推し測る。

「距離はまだかなりあるわね。ざっと五千メートルってとこかしら」

「あのヒュージと戦うの?」

「そんなわけないでしょ。四人でギガント級は倒せないわ。逆方向に逃げるのよ」

「でも、こっちに近づいてくるみたい」

 結梨の言葉どおり、ギガント級のシルエットは少しずつその大きさを増しているように見えた。

「まずいわね。あれに追いつかれたら、包囲を破るどころか生きてガーデンに戻れなくなっちゃうわ」

「あのヒュージの動きを止めたらいい?」

「どうやってできるっていうの?あたしたちのCHARMの射程外よ」

「エインヘリャルでやってみる」

「ほんとにできるの?」

「わからないけど、やってみる」

 特段気負った様子も無く、結梨は五機のマギビットコアをエインヘリャルのベースユニットから分離させた。

 マギビットコアは機体後部から青白い噴射炎を吐き出しつつ、四人から数十メートル離れた所で機首を上方へ向け、ホバリングの状態へと移行した。

「きゅーじょーしょー、ぜんりょく」

 結梨が短くつぶやくと、噴射炎が急激に拡大し、爆発的な加速でマギビットコアは上空へと消えていった。

 瞬く間に五つの小さな光点に過ぎなくなったマギビットコアは、上昇開始から二十秒後に一万五千メートルの高度に到達した。

「ぜんきはんてん。きゅーこーか、ぜんりょく」

 結梨の二度目のつぶやきは、遥か上空の成層圏を飛行するマギビットコアに届くはずもなかった。

 だが、結梨の意思はエインヘリャルのメインユニットを介してマギビットコアに伝達され、即座に五機のマギビットコアはギガント級の頭上へと急降下を開始した。

 重力と推力の加算により、マギビットコアは上昇時を超える速度で降下し、ギガント級との距離は二千メートルにまで縮まった。

「ぜんりょくぜんかい、てーっ!」

 結梨が三度目に発した言葉はつぶやきではなく、叫びだった。

 それぞれの機体の先端から純白のビームが発射され、それらは五本の光の矢となって直上からギガント級に殺到した。

 ギガント級は瞬時に百メートル上方にマイナスマギの防壁を展開。

 マギビットコアから放たれたプラスマギのビームが防壁に直撃する。

 ビームのプラスマギは圧倒的なエネルギーゲインによって、防壁のマイナスマギを相転移させて侵食、貫通した。

 防壁を貫通したマギビットコアのビームは、そのままギガント級の頭部に命中し、炸裂した。

 爆発によって発生した火球は直径百メートル近くに達し、ギガント級の巨体を全て飲み込んで余りあるものだった。

 火球は数千度の熱線で地表面に存在するあらゆる物質を蒸発させた後、消滅した。

 爆発地点には数千メートルの高さに及ぶ巨大なキノコ雲が立ち上り、それは四人が立っている場所からも見上げるほどだった。

 

「あたった」

 ごく簡潔に事実を口にした結梨を、レミエは驚愕の目で見た。

「ノインヴェルト戦術じゃなくて、CHARMの攻撃であんな威力があるの?」

「あれ以上は無理だけど」

「いや、どちらかというと、やりすぎだと思うわ」

「でも、まだやっつけてない」

 不満げに言う結梨の視線は、ギガント級がいた西の方角に据えられている。

 爆発によって発生した煙と塵が風に流されて視界が回復すると、そこには頭部を欠損したギガント級の姿が依然として残っていた。

「頭が無くなってるわ。あれでもまだ生きてるの?」

 レミエの問いに答えたのは、結梨ではなく葵だった。

「ギガント級はノインヴェルト戦術じゃないと倒せない。

頭を失っても、いずれ修復、再生するわ」

「あたしたちは、どうしたらいいの?」

「ギガント級が頭部を再生して動き出す前に、この包囲を突破して東へ脱出する。

それ以外に私たちが助かる道は無いわ」

「わ、わかったわ。要するに初めの作戦どおりに戦うのね。

結梨、マギビットコアをこっちに戻せる?」

「もう戻してる」

 結梨が指さす真上をレミエが見上げると、曇天の空に紛れるように、灰色の小さな飛行物体が五つ、悠々と上空を旋回していた。 

「これでこちらの態勢は整いましたわね。

では皆さん、一人も欠けることなくメルリウスのガーデンに戻りますわよ」

 楓の言葉が戦闘開始の合図であったかのように、グルヴェイグの四人は鎌倉府のある東の方角を目指し、包囲網を展開するヒュージの群れの真っ只中へ突入した。

 





なんとか四月中に更新できました。
この先しばらくは、アニメ・舞台・ラスバレなどで放置状態の設定を拾いながらストーリー構成していく予定です。
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