アサルトルベルム プラス   作:入江友

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第5話 それぞれの思惑(1)

 

 中天に高く上った満月が、真夜中の廃墟に佇む八人のリリィを青白く照らし出している。

 

 八人は四人ずつの陣営に分かれ、数メートルの距離を置いて相対している。

 

 片方は夜目にもはっきりと見える白い制服、もう一方は対照的に夜の闇に溶け込むかのような漆黒とダークブラウンの戦闘服を身に纏っている。

 

「蒔菜、結爾。どうしてここへ来たの。

私はエレンスゲのガーデンに戻るように指示したはずよ、クエレブレの隊長として」

 

 優珂は目の前に立っているメルクリウスの白い制服の四人――LGグルヴェイグのリリィをそっちのけで、仲間であるLGクエレブレの二人に向かって問いただした。

 

 足早に優珂と美岳の傍まで歩み寄っていた蒔菜と結爾は、悪びれる様子も無く優珂の顔を見返した。

 

「それがさあ、ガーデンに戻ってから八雲校長に事情を話して、あたしたちも優珂たちの野暮用とやらに付きあいたいって言ったら――」

 

 そう言って、蒔菜は自分のすぐ隣に立っている結爾の顔をちらりと見た。

 

 結爾はそれに応じて頷き、蒔菜の言葉の後を淡々と継ぐ。

 

「校長の指示は隊長のそれに優先します。

ですから私と蒔菜が優珂から責められる筋合いは何もありません」

 

「……だそうだ。八雲校長の判断なら是非も無いな」

 

 美岳が苦笑して優珂の反論を先回りして封じ込め、あらためて楓たちLGグルヴェイグのリリィと向き合った。

 

 優珂たちのやり取りを間近で見ていた楓は、しげしげという様子で優珂たちの着用している黒っぽい戦闘服を眺めた。

 

「それが新開発のソルギナックというスーツですの?

百合ヶ丘やメルクリウスの特務レギオン顔負けの物々しい装備ですわね」

 

「どんな装備を身につけようと、私たちの自由よ。

逆に、あなたたちの格好は特務レギオンとしていかがなものかと思うけど」

 

 優珂が指摘したように、LGグルヴェイグの四人は白を基調とした制服を身に纏っている。

 

 それは月明かりに照らし出されて、遠目にも容易く視認できるものだった。

 

 秘密任務につく特務レギオンの装備としては、優珂たちの目には如何にも似つかわしくないものに映っていた。

 

 優珂の咎めるような視線を受けて、葵と楓が順に事情を説明する。

 

「まだレギオンの隊服が仕上がってないから、今はメルクリウスの標準制服で出撃してるのよ」

 

「隊長が色々とデザインに凝っているようで、なかなか隊服が完成に至りませんの。

おそらく十中八九、隊長の趣味全開の黒ゴスロリ調になると思いますわ」

 

「隊長はあなたじゃないの?楓・J・ヌーベル」

 

 意外そうに優珂が楓の顔を見ると、楓はそれを予想していたかのように、肩をすくめて苦笑いした。

 

「今日はこの場に来ていませんが、LGグルヴェイグの隊長は別のリリィが務めておりますの。

私は隊長が出撃しない時の、さしあたっての指揮役みたいなものですわ」

 

「で、その隊長って誰なのよ」

 

「今は申せませんわ」

 

「どうしてよ」

 

「隊長の言葉によれば、『余は抑止力の代行者たる魔女として現れるその時まで、不可知の存在でいなければならぬのだ。

さもなくば抑止の力は調和を失い乱れ、やがて世界を混沌と騒乱の極に導くであろうからな』――だそうですわ」

 

「……はぁ?抑止の力?魔女?不可知の存在?

シエルリントの中二病リリィみたいなこと言ってんじゃないわよ。

あんたたちの隊長の人格には、少なからず疑問を抱かざるを得ないわ」

 

「まあ、立ち位置としては名誉隊長というか、あなたたちの校長先生みたいなものだと考えてもらえればいいんじゃないかしら」

 

 楓の説明を補うように葵が言葉を続けたが、それを聞いても優珂の表情は晴れなかった。

 

「分かったような分からないような説明ね。

どうせ他にも色々と隠しているのでしょうけど、そんなことは私たちには関係ないしね」

 

 釈然としない顔をしている優珂の背後で、蒔菜が美岳に小声で囁く。

 

「こんな所でいつまでも立ち話も何だから、場所を変えて腰を下ろして続きをした方がいいんじゃないですかね、美岳様」

 

「そうだな。こちらからも彼女たちに確認しておきたいことが幾つかある。

今後の私たちの活動にプラスとなるかマイナスとなるか、判断するための材料が必要だ」

 

「じゃあ決まりですね。

――あんたたち、向こうに座れる所があるから、そっちに行ってじっくりと話をしようじゃないか」

 

「ちょっと、何を勝手なことを」

 

 気色ばむ優珂だったが、蒔菜はまあまあと優珂をなだめすかして話を誘導しようと試みる。

 

「今この子たちを無視しても、遠くないうちにまた、あたしたちの前に現れると思うけどね。

それをエレンスゲの他のリリィやマディックに見られたら、厄介なことになるかもしれないし。

幸いなことに、今夜はあたしたち以外のリリィやマディックは出撃していない。

向こうの思惑をある程度知っておくためにも、今夜のうちに話を聞いておく方がいいんじゃない?」

 

「まあ、それはそうかもしれないけど……」

 

 釈然としないながらも、優珂が態度を軟化させる兆しが見えた時、結爾が蒔菜に声を掛けた。

 

「待ってください、蒔菜。私に考えがあります」

 

「何よ、あんたはあのリリィたちと話をしたくないっていうの?」

 

「いえ、そうではありません。

難しい話になりそうなので、あちらの後ろにいる二人と私は、少し離れた所で待機する方がいいかと」

 

「後ろにいる二人って……」

 

 蒔菜が前方を見つめている結爾の視線を追うと、楓と葵のすぐ背後に立っている結梨とレミエの姿があった。

 

 結爾の意図を察した蒔菜は、呆れた表情で小さく溜息をついた。

 

「……いつものことながら、あんたの幼女趣味には恐れ入るわ。

いついかなる時も己の欲望に忠実なその生き方、私も見習いたいもんだわ」

 

 楓や葵と比べると、結梨とレミエは明らかに子供っぽい雰囲気を放っているのは事実だった。

 

 だが結爾は蒔菜の言葉を微塵も気にした様子は無く、饒舌に反論を開始した。

 

「蒔菜が自分の欲望に忠実でないとは片腹痛いですね。

臍が茶を沸かすとは正にこのことです。笑止千万です。

それに彼女たちは幼女ではなく私と同じ高等部のリリィです。

同年代のリリィ同士が仲よくすることに何の問題があるのですか。

私は断じて不純な目的で彼女たちに近づこうとしているのではありません。

私のこの穢れなき目を見てもらえれば、嫌という程よく分かると思いますが――」

 

「はいはい、分かったよ。さっさとあの二人をナンパしてきな」

 

 蒔菜は諦めたように結爾を手で追い払う仕草をした。

 

 そんな蒔菜の塩対応を完全に無視して、結爾は軽い足取りで楓と葵の横を通り抜け、結梨とレミエの手を取った。

 

「お二人とも、私と一緒にあちらへ行きましょう。

今夜は星がよく見えます。

夜空を見上げながら星座の神話などお話ししませんか」

 

 唐突に結爾から好意を向けられた結梨とレミエは、戸惑いながら楓の顔を見た。

 

「楓、私たち行ってもいいの?」

 

 結梨の問いかけに、意外にも楓は即答で肯定の返事をした。

 

「構いませんわ。ただし私と葵さんの目の届かない所へは行かないように。

――1年生の森本結爾さん、ですわね。

ゆりさんとレミエさんをよろしくお願いいたしますわ。

くれぐれも間違いなど起こらないように」

 

 結爾についての情報をどこまで知っているのか、楓は意味深な視線を結爾に向けた。

 

「この私の命と名誉にかけて、お二人の身の安全は保障します。

どうかご心配無きよう」

 

 楓と結爾のやり取りを聞いていた蒔菜は、そっぽを向いて小声でぼそりと呟く。

 

「危険なのはあんたのリビドーだよ。思いっきりバレてんじゃん」

 

「何か言いましたか、蒔菜」

 

「いいや、何も。あー今夜は月がきれいだなー」

 

 結爾の突っ込みを蒔菜は白々しくはぐらかし、優珂と美岳に従って移動を始めた。

 

 LGグルヴェイグとクエレブレ双方の思惑は、現時点では決して一致してはいなかった――が、とりあえずの話し合いへと至る運びとなり、楓は湧きあがる安堵の感情を意識せずにはいられなかった。

 

 





話が進まない&文字数少なくてすみません。
(スマホの機種選びで泥沼に嵌っていました)
次回更新は11月26日ごろの予定です。
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