アサルトルベルム プラス   作:入江友

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第6話 それぞれの思惑(2)

 

「さあ、行きましょう。ゆりさん、レミエさん。

難しい話は他の人たちに任せて、私たちは水入らずで親睦を深めましょう」

 

 結爾は結梨とレミエの手を引いて、上級生のような余裕に満ちた仕草で、楓たちのいる場所から離れていった。

 

 結爾たちは三十メートルほど離れた小高い瓦礫の丘に上り、三人が並んで腰を下ろした。

 

 結梨とレミエの間に結爾が入り、無数の星が瞬く夜空を指さして、あれこれと星座の位置を教えているようだった。

 

 その様子を離れた所から見ていた楓と葵は、結爾の素振りに不審な点が見られないことを確認した上で、優珂と美岳と蒔菜が移動した所へと歩いて行った。

 

 結爾たちと同じく、楓たち五人のリリィは周囲がよく見渡せる場所に腰を下ろす。

 

 ただし結爾たちとは違って、三対二で向かい合う形となったのは至極当然だったが。

 

「LGクエレブレの方々――」

 

 楓が何か言い出そうとした矢先、それを遮ったのは優珂だった。

 

「先に言っておくわ、楓・J・ヌーベル。

あんたが私たちに尋ねたいって言ったことは全部答えられないから、そのつもりでいて」

 

 優珂はビシッという効果音が聞こえそうな勢いで楓の顔を指さした。

 

「そうですの、それは残念ですわね」

 

 ちっとも残念そうに見えない表情で楓がわざとらしく溜息をつくと、隣りに座っている葵が記憶を反芻し始めた。

 

「楓が尋ねたいって言ったことっていうと……」

 

「西村教頭がどうだの、中原っていう研究員がどうだの、ジャガーノートがどうだの、TILがどうだの、一切合切全部よ」

 

 優珂の横に座っていた美岳は、優珂の言葉を聞いて、さもありなんという様子で頷いた。

 

「当然だな。それらは全て第一級の機密事項に指定されている。

私たちが何かを知っていたとしても、口外することは決して許されない」

 

 それを聞いた優珂は我が意を得たりと言わんばかりに、畳みかけるように眼前の楓と葵に強い口調で言う。

 

「もし、あんたたちの任務が私たちからそういう機密情報を聞き出すことなら、あんたたちに話すことは何もないわ。

あんたたちの協力なんて私たちは必要としていないし、ましてや協力と引き換えに情報を漏らすなんて論外よ。

だからこの話し合いは何の意味もないわ。もう帰っていいわよ」

 

 相変わらず取り付く島もないという態度の優珂は、あっちへ行けと言わんばかりに楓たちを手で追い払う仕草をした。

 

 だが、楓はそんな優珂の態度など始めから予想していたかのように平然としていた。

 

「私たちは今夜、取引をするためにここまで来たわけではありませんわ。

私たちが何に関心を持っているかを知っていただくことがまず一つ。

そして、もう一つはあなたたちLGクエレブレが孕んでいるリスクを軽減すること――」

 

 楓の言葉を聞いた優珂は、訝しむように形の良い眉をひそめた。

 

「妙なことを言うわね。クエレブレに何のリスクが存在するっていうのよ」

 

「――今のLGクエレブレが置かれている立場は、非常に微妙なものですわ。

もっとはっきり言わせてもらえば、薄氷を踏むようなものだと私たちは考えておりますの」

 

「はぁ?何言ってんの。

エレンスゲで序列2位のレギオンの何が危ういっていうの?

ヘルヴォルが変な計画の実験対象になっていなければ、このクエレブレがエレンスゲのトップレギオンでもおかしくなかったのよ」

 

「その危うさってのは、あなたたちがガーデンの経営母体に面従腹背してることよ」

 

 優珂に答えたのは楓ではなく葵だった。

 座ったまま腕組みをしている葵は、まっすぐに優珂の顔を見据えて言う。

 

「エレンスゲ近隣の研究施設が運悪くヒュージの襲撃に巻き込まれ、破壊された施設から被検体の強化リリィが逃亡した――

今のところは事故扱いとされていて、『偶然』現場に居合わせたクエレブレの作為的行動の結果とは思われていない。

……今のところは、ね」

 

「……どこからその情報を得た?」

 

 美岳は重苦しい声で葵に問いかけたが、葵はそれを無視して言葉を続ける。

 

「こんなことをずっと続けていたら、いつかはガーデンにバレるわよ。

そうなれば、クエレブレも高島校長も粛清の対象になる」

 

「……」

 

 葵に指摘されたクエレブレの三人のリリィは一様に押し黙ったが、それに耐えかねたように美岳が絞り出すような声で反駁した。

 

「だが、他に方法は無い。

ヒュージの襲撃を利用して強化リリィを救出する作戦は、続けなければならない。

そうしなければ、ラボや研究所に囚われている強化リリィは、死ぬか廃人になるのを待つだけだ」

 

「その結果、自分たちの身が危うくなっても……ですの?」

 

 楓の言葉に反応したのは、優珂でも美岳でもなく蒔菜だった。

 蒔菜は本心からだったのかどうか、短く口笛を吹いてから、いつもの軽い口調で答える。

 

「あたしはヤバくなったら、ずらかるつもりだけどね。

だけど、校長や隊長がどう考えてるかは知らない。

案外、ガーデンに反旗を翻して蜂起したりして」

 

 にやりと笑って蒔菜は横目で試すように優珂の顔を見た。

 

「そんなこと……するわけないでしょ……」

 

 それまでの強気な発言とは打って変わって、優珂は途切れがちに弱々しく呟いた。

  

 楓と葵に指摘されるまでもなく、そのリスクは常にクエレブレと高島八雲の頭の中にあった。

 

 そして一応は、妥協的なものであったとしても善後策も考えてはいたのだが――

 

「ガーデンに面と向かって敵対する行動は取れませんわね。

そのようなことをすればどういう事態になるか……かつてのルド女を思えば明らかですものね」

 

 G.E.H.E.N.A.急進派が支配していたルドビコ女学院では、自主結成レギオンのLGアイアンサイドがガーデンの方針に真っ向から対立した結果、多数の教導官が死亡し、ガーデンの体制は事実上崩壊した。

 

 そしてルド女崩壊によって、現在はエレンスゲ女学園が東京地区における親G.E.H.E.N.A.主義ガーデン――とりわけ急進派に分類される――の筆頭と言っても過言ではない。

 

 LGクエレブレがLGアイアンサイドのように、急進派が支配するガーデンに公然と反旗を翻せば、再び惨劇が繰り返されるのは火を見るよりも明らかだった。

 

「私たちはエレンスゲのガーデンとは戦わない。

もし私たちの救出作戦が、ガーデンの知るところとなった時には……」

 

 優珂の途切れた言葉を引き継いだのは、美岳だった。

 美岳は目に見えない何かを振り払うかのように、楓と葵に向かって言い放った。

 

「LGクエレブレと高島校長はエレンスゲを出奔するつもりだ。

エレンスゲの教導官やリリィと戦うことは、絶対に回避しなければならない」

 

 美岳の答えは楓と葵の想定から外れるものではなかった。

 

 LGクエレブレが特務レギオンに等しい作戦に従事していると言っても、それはあくまでも救出が目的であり、敵対勢力を武力で排除することではない。

 

 ましてや教導官やリリィの命を奪うことも辞さない戦闘行為など、自ら進んで選択できよう筈も無かった。

 

「あなたたちの覚悟はよく分かりましたわ。

その場合、行き先は……なんて、教えてくれるはずはありませんわね」

 

 ちらりと楓が隣りの葵に視線を送ると、葵は小さく頷いて、確信に満ちた目で優珂を見つめた。

 

「教えてくれなくても、私たちにも見当はつくわ。

LGクエレブレの指導者である高島八雲校長は、イルミンリリアンラボから派遣された人物。

当然、万が一の場合の緊急避難先は、穏健派ガーデンのイルマ女子ということになるわね」

 

「そこまでお見通しなら、もうこれ以上私たちが話すことは無いわ。

もしもの時は私たちはイルマ女子のガーデンへ逃れ、そこで今後の対応を考える」

 

「もう一つ、念には念を入れていただけませんでしょうか」

 

「どういうこと?」

 

「何らかの事情でイルマ女子に身を寄せられなかった場合、あるいはイルマ女子を離れなければならなくなった場合に、メルクリウスのガーデンを頼っていただきたいんですの」

 

「メルクリウスに匿ってもらえっていうの?」

 

「いざという時の手札は一枚でも多い方がいいと思いますわよ」

 

「反G.E.H.E.N.A.主義ガーデンに身を寄せるなんて……」

 

 複雑な面持ちで黙り込む優珂に代わって、美岳が渋い表情を浮かべながら楓に応じた。

 

「……理屈としては分からないでもない。

安全策を多重に確保することによって、一種のリスクヘッジをかけようというわけだろう。

だが、仮に私たちがその申し出を受け入れたとして、見返りの要求は何だ?」

 

「何もありませんわ」

 

 楓はあっさりと答えた。

 

「分からないな。

メルクリウスがエレンスゲの関係者をただ匿って、何のメリットがある?」

 

「あなたたちのような人材を失うのは、反G.E.H.E.N.A.主義ガーデンにとっても重大な損失であると、メルクリウスのガーデンは考えていますの。

急進派の企てを阻止するためには、急進派が何を考え、何をしようとしているのか、それを知ることが欠かせませんわ。

そのために、G.E.H.E.N.A.の内情に通じた人物を保護することは、メルクリウスにとっても大いにメリットがありますの」

 

 しかし、楓の説明を聞いてもなお、美岳は釈然としない気持ちのままだった。

 

(クエレブレを反G.E.H.E.N.A.主義ガーデンの特務レギオンに組み込む構想でも持っているのかもしれない……いや、まだ判断するだけの材料に乏しいか)

 

 すると、それまで素知らぬふりで会話を聞き流していたように見えた蒔菜が、実に気安く優珂に話しかけた。

 

「いいんじゃない、その話に乗っても。

いざという時の保険が一つ増えると考えれば、悪い話じゃないと思うけど」

 

 だが、蒔菜の提案に対して、優珂は首を横に振って否定の意を示した。

 

「いいえ、この場での回答はできないわ。

LGクエレブレは八雲校長の麾下にある以上、私たちの一存で決定はできないもの。

――楓・J・ヌーベル、あなたたちの申し出は、いったん持ち帰って検討させてもらうわ。

それで文句ある?」

 

「いいえ、校長先生とよくご相談してお決めください。

良いお返事をお待ちしておりますわ」

 

 門前払いされずにこちらの話を持ち帰ってくれるだけでも、楓と葵にとっては肩の荷が下りる上首尾だった。

 

 ひとまず今夜はお開きにして、四人そろってメルクリウスのガーデンに戻る準備を進めよう――楓は結梨とレミエを呼び戻すべく、二人のいる方へ声をかけようとした。

 

 ちょうどその時だった――結爾と結梨とレミエがいた場所から、感情を高ぶらせた少女の大きな声が聞こえて来たのは。

 

 





 次回は結梨ちゃんたち三人の会話と、メルクリウスでのティシア様とアルテア様の会話になると思います。
 12月の舞台で良いネタが出てきたら、今後の展開に盛り込むつもりです。
 次回更新は年末年始のどこかになる予定です。
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