アサルトルベルム プラス   作:入江友

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第8話 それぞれの思惑(4)

 

「大島地下要塞って、国防軍の防衛拠点でしょ?

元々あったS級ネストの動きを監視するための。

なんでメルクリウスのリリィが、G.E.H.E.N.A.の施設じゃなくて軍の要塞で情報収集なんてするの?」

 

 特務の情報を持たないアルテアが、腑に落ちない顔をするのは当然だった。

 

 ティシアは手に持っていた報告書を静かに卓の上に戻すと、視線を報告書の表紙に落としたままアルテアに答えた。

 

「大島の要塞は長年に渡り増改築を繰り返した温泉旅館のように、内部の構造が複雑極まりなく、全容を把握している者は軍の中にも居らぬそうだ」

 

「例えが緊張感に欠ける気もするけど、意味は分かったわ。

で、そのややこしい要塞の構造が何だっていうわけ?」

 

「要塞の内部は、軍の管理が行き届かぬブロックも少なからず存在しているという。

途中まで工事が進められていたが、計画の変更に伴って放棄されたままの通路や施設が各所に点在し、それらは半ば廃墟のような状態で残されていると」

 

「開かずの部屋みたいな場所が幾つもあるってことね」

 

「そうだ。そして、そのような区画の中には、軍以外の第三者が不法に空間を占拠しているものがあると思われる」

 

「一から秘密基地を作るより、途中までできているものを拝借して有効活用しようって?

軍の縄張りで、よくもそんな大胆不敵なことをするわね、G.E.H.E.N.A.は」

 

「余は第三者としか言っておらぬが」

 

「話の流れ的にG.E.H.E.N.A.以外ありえないでしょ。

ということは、大島近海に突然現れた四つのC級ネストは、G.E.H.E.N.A.の実験の結果?」

 

「その可能性は高いが、例によって因果関係は特定できぬであろう。

人工的にヒュージネストを発生させる方法など存在しない、ということになっているからな。

卿の見立て通り、四つのC級ネストを発生させたのがG.E.H.E.N.A.なら、彼奴等は何のためにデスゾーンを成立させようとしているのか。

……いや、違うな。四つのネストはリリィをおびき寄せるための舞台装置か。

デスゾーン成立阻止のために大島に展開したレギオンは、限界を超えた力を発揮しなければならない状況に追い込まれる。

その結果、未知の能力や現象を出現させることこそが、G.E.H.E.N.A.の目的なのかもしれぬ……」

 

 話の途中からティシアは自分の思考に入り込み、眉間にしわを寄せて黙り込んでしまった。

 

 その様子を見たアルテアは、わざとらしく大きな溜息をついてティシアの注意を引いた。

 

「それでメルクリウスの聖帝様は、私のかわいい妹をそんな訳の分からない伏魔殿みたいな所に潜入調査させようってわけ?」

 

「特型の実験体ヒュージと戦っているだけでは、その背後にいるG.E.H.E.N.A.の尻尾を掴むことはできぬ。

何らかの目的があってG.E.H.E.N.A.が裏で動いているのなら、彼奴等の考えを知らねば先手を打てぬ。

敵を知り己を知れば百戦危うからずというが、百合ヶ丘も御台場もこのメルクリウスも、未だにG.E.H.E.N.A.についての情報は全くもって不足している。

その未知の部分を知るために、G.E.H.E.N.A.についての情報収集を専らとするレギオンの必要性を、余は強く認識したのだ」

 

「今夜グルヴェイグを出撃させたのも、その一環なのね。

それで、今夜の成果はどうだったの?何か新しい情報は手に入ったの?」

 

「先程の楓からの連絡では、特に何も無い」

 

 素っ気ないティシアの答えを聞いて、アルテアは拍子抜けした表情になった。

 

「それでいいの?レミエたちは任務に失敗したってこと?」

 

「創設したばかりの特務レギオンが、最初の任務でいきなり機密情報を聞き出せるとは思っておらぬ。

LGグルヴェイグは、メルクリウスがLGクエレブレに協力の意思があることを説明し、その内容を高島八雲校長へ持ち帰らせることができた。

それで此度の任務は充分に良しとすべきであろう」

 

「その場で物別れにならなかっただけでもいいってことか。

聖帝様にしては随分とお優しい評価ね」

 

「グルヴェイグをラグエルのリリィと同じ物差しで評価するのはお門違いだ。

グルヴェイグの四人の1年生はいずれも麒麟児ゆえ、細かい口出しはせぬようにしている。

余に確認や承認を逐一求めず、自らの判断で決めよ、とな」

 

「楓と葵とレミエは私もよく知ってるから分かるけど、北河原っていう百合ヶ丘からの転校生も?」

 

「彼女はLGロスヴァイセ隊長の従姉妹だ。リリィとしての能力に問題は無い」

 

「その子、本当の名前は別にあるのよね?」

 

「何のことだ、知らぬな」

 

「ほら、例の捕縛命令が出た時の手配書に載ってたリリィがいたでしょ。

手配書の写真とは髪形が違うけど、顔立ちはそっくりだと思うわ」

 

「埒も無い。人違いだ。他人の空似だ。世界には同じ顔をした人間が三人いるというやつだ」

 

「そうかなあ。まだガーデンの資料写真でしか見たことないけど、別人とは思えないわ」

 

「……」

 

 ティシアは剣呑な目でアルテアを睨みつけたが、アルテアは気にする様子も無く独白するかのように話を続ける。

 

「――捕縛命令の取り消し直後に出現した特型ギガント級を単騎で撃破するも、爆発に巻き込まれて生死不明、その日のうちにCHARMだけが発見された。

その後、規定に基づいて戦死扱いとなり、百合ヶ丘女学院の霊園に彼女の墓が建てられた。

墓石に刻まれたリリィの名は、一柳結梨。

でも彼女は生きていて、G.E.H.E.N.A.の目を逃れるためにガーデンから別の名を与えられた。

ただし正体を明かせない以上、リリィとして表に出せば色々と面倒なことになりかねない。

だから最低限の情報以外は全て非公開とするための方便として、百合ヶ丘は彼女を特務レギオンであるロスヴァイセに所属させた。

隊長である北河原伊紀の従姉妹として。

彼女が百合ヶ丘からメルクリウスに転校した理由までは分からないけど、大体こんなところかしら?」

 

「……卿がそう思うのなら、そうなのであろう。卿の中ではな」

 

 苦虫を嚙み潰して仏頂面と混ぜ合わせたようなティシアの顔を見て、アルテアは大げさに肩をすくめてみせて軽口を叩く。

 

「つれない返事ね。メルクリウスの聖帝と暴君の間柄だっていうのに」

 

「先程の発言は卿の妄言として余の胸の内に収めておく。

くれぐれもつまらぬ噂を流したりするでないぞ」

 

「私だってそのくらいはわきまえているわ。

でも、よく百合ヶ丘が彼女ほどのリリィを手放したわね。

この間まで楓を引き抜こうと、あの手この手で誘いの手を伸ばしていたのに」

 

「余も詳しい事情までは知らぬが、状況次第では再び百合ヶ丘に戻る可能性もあるようだ。

今は百合ヶ丘よりメルクリウスの方が、彼女の身の安全に都合が良いと判断したのかもしれぬ。

だが、メルクリウスに在籍している間は、メルクリウスのリリィとして活動する義務が彼女にはある。

それゆえ、貴重な戦力としてグルヴェイグの一員に加わってもらったのだ」

 

「その貴重な戦力を大島に向かわせて、G.E.H.E.N.A.の情報収集ね……

とりわけ最近はヒュージやネストの異常な現象が、全部G.E.H.E.N.A.と関係してるみたいに思えてくるわ」

 

「事実、そうなのであろうな。だが決定的な証拠は無い。

であればこそ、G.E.H.E.N.A.の計画を先回りして未然に阻止し、計画の首謀者を特定して組織的な犯罪として立件する――そのための手がかりとしても情報の収集は不可欠だ。

それゆえ、どのような些細なことでも、グルヴェイグが未知の情報を持ち帰ってくることを余は期待している」

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、か。

ま、一朝一夕に事が進むような任務じゃなさそうだし、長い目で見守るのが良さそうね」

 

「そういうことだ。要注意人物の情報は、追ってグルヴェイグの四人に連絡する。

今週中には大島へ向けて出撃することになるであろう」

 

「名誉隊長の聖帝様は出撃しないの?」

 

「余は四人の誰かが絶体絶命の窮地に陥った時にのみ、G.E.H.E.N.A.に裁きを下す黒き魔女として戦場に降臨する。

それまでは四人の力のみで、己の為すべき事を持てる力の全てで挑まねばならぬ」

 

 そうはっきりと言い切ったティシアの態度は、リリィというよりもむしろ教導官のそれだった。

 

 ヒュージとの戦いの背後に隠されている未知の何か――それを知るための第一歩を踏み出す任務は、メルクリウスの四人の1年生リリィが担うこととなった。

 

 





 八雲校長とクエレブレの場面も書きたかったのですが、時間切れで書けませんでした……
 次回更新は2月12日ごろの予定です。
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