アサルトルベルム プラス   作:入江友

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第9話 大島情報収集任務(1)

 

 雲一つ無い快晴の空の下、太平洋の広大な海原の中を、一隻の白いクルーザー船が白波を立てながら航行している。

 

 横須賀港を出港したそのクルーザーは、浦賀水道を約1時間前に通過し、大島の波浮港へと近づきつつあった。

 

 ゆったりとしたスペースが確保されている船内には、四人の少女――すなわち聖メルクリウスインターナショナルのLGグルヴェイグに所属するリリィたちがいた。

 

 船の操舵輪を握っている楓は前方を見つめたまま、後ろの座席に座っている三人に向けて呼びかけた。

 

「あと少しで港に着きそうですわ。

葵さん、ヒュージサーチャーの状況はいかがですの?」

 

「ヒュージサーチャーに反応無し。このままの進路で問題無いわ」

 

「それは結構。では皆様、上陸の準備を速やかに」

 

 四人が乗船している船はメルクリウスが保有するものではなく、ヌーベル家の私物だった。

 

 正規レギオンの定員に遥かに満たないLGグルヴェイグには、ガンシップは配備されていない。

 

 軍に要請して艦船か航空機で大島まで移動することも不可能ではなかったが、楓たち四人とティシアが協議した結果、ヌーベル家所有のクルーザー船を使用する運びとなった。

 

 移動中にヒュージの襲撃を受けた場合に、ラージ級以上には効果の無い軍の兵器よりも、リリィだけであれば対応が容易だから――というのが一応の理由だったが、本音は移動中に無用の気遣いをしなくて済むからだった。

 

 毎時30ノットを超える速度で進むクルーザーの船内は、それ相応に揺れを感じるものではあったが、操舵手を務める楓以外の三人のリリィは、苦も無くバランスを取りながら後部にある収納スペースへ向かった。

 

 収納庫に収められていたケースからそれぞれのCHARMを取り出し、各部の動作に異常が無いかチェックしていく。

 

「楓、オートクレールはどこに置いておいたらいい?」

 

 レミエが楓のCHARMを持ちながら尋ねると、楓は先程と変わらず前を向いたまま簡単に答える。

 

「適当に私の後ろに置いて下さいな。

――願わくばヒュージ以外の何者にも、CHARMを向ける機会が訪れないことを」

 

 楓は小さく呟くと右手を操舵輪から離して、胸の前で小さく十字を切った。

 

「私たちはG.E.H.E.N.A.のことを調べに来ただけで、G.E.H.E.N.A.と戦いに来たわけじゃないんだよね」

 

 楓の呟きを聞きとめた結梨が、隣りにいた葵の顔を心配そうに見た。

 

 葵は普段と少しも変わらない落ち着いた様子で結梨に答える。

 

「ええ、そうよ。私たちの目的はG.E.H.E.N.A.の施設を威力偵察することじゃない。

戦闘を行わずに調査を終えることができれば、それが最善なのは間違いないわ」

 

 そう言った後、葵は分離させたトリグラフを両手に持ったまま、器用に腕組みをしてみせた。

 

「……それにしても、この調査の目的が『内容を問わず、未知の新しい情報を持ち帰ること』とはね」

 

「なんだか、すごく曖昧な指示ね。

ティシア様やメルクリウスのガーデンも、G.E.H.E.N.A.のことよく分かってないみたい。

――ねえ、結梨もそう思わない?」

 

 レミエは愛らしい顔立ちに似合わず、眉をしかめて結梨に同意を求めたが、結梨とて明確な答えなど持ち合わせてはいなかった。

 

「うん……G.E.H.E.N.A.もヒュージとの戦いに勝つために、いろんな実験をしようとしてるのは分かる。

でも、そのためにリリィが実験の犠牲になったり、街が壊されたりするのは間違ったやり方だと思う」

 

「そうね。それにほんとはG.E.H.E.N.A.には別の目的があるんじゃないかって、私は思ってるの」

 

「別の目的って?」

 

「それはまだ分からないけど……そうよ、ヒュージや強化リリィの力を使って世界を征服しようと考えてる、とかじゃないかしら」

 

 名案を思いついたかのように得意げにレミエが言うと、二人の会話を傍で聞いていた葵は苦笑せざるを得なかった。

 

「全くろくでもない仮説ね。

でも、多分そんなに単純な話じゃないでしょうね……G.E.H.E.N.A.の目論見というものは。

ひょっとしたら、人類社会の在り方を根本から変えてしまおうとしているのかも……」

 

 葵が何やら考え込み始めて間もなく船は減速を始め、それにつれて船体の揺れもほとんど感じられなくなった。

 

「これから接岸の操船に入りますわ。全員、例の装備を」

 

 楓は初めて後ろを振り返って三人に指示を出した。

 

 葵たちは小さく頷くと、CHARMケースの片隅に収めていた変装用の仮面を取り出す。

 

 それは目の周囲を覆うベネチアンマスクと呼ばれるもので、『御前』が一柳隊の前に姿を現した時に着けていた仮面と同種のものだった。

 

「今回の任務、必要が無い限りは顔を隠しておくようにと、ティシア様からは申しつけられたけど、この隊服と合わせると逆に悪目立ちするわね」

 

 仮面を装着した葵は、複雑な表情で鏡に映った自分の姿を確認し、次いで結梨とレミエの方へと視線を転じた。

 

 この任務からLGグルヴェイグにはオリジナルの隊服が支給されていた。

 

 ティシアの個人的趣味が存分に発揮されたと思われるその隊服を、四人のリリィは着用して船に乗り込んだのだが――

 

「この服、ゴスロリっていうんでしょ?みんなお人形さんみたいね」

 

 フリルの付いた黒いドレスに身を包み、仮面で目元を隠したレミエはその場でくるりと一回転してみせた。

 

 するとプラチナブロンドの長い髪が優雅に広がり、黒いドレスとのコントラストは非現実的な光景を出現させた。

 

 その姿はどう見ても仮面舞踏会へ赴く少女のそれであり、無数のヒュージが蠢く地へと上陸する特務レギオンのものではなかった。

 

「本当にこれでいいのかしら……すごくキワモノっぽい感じがするんだけど」

 

 葵が頭を悩ませている間に、楓の操船でクルーザーはゆっくりと港の岸壁に接岸した。

 

 エンジンを停止させ、楓はすぐ後ろにレミエが置いて行った得物のオートクレールを持ち上げた。

 

「では参りましょうか。未知の情報を集めに」

 

 軍の艦船は出払っているのか、港内に他の船の姿は見えなかった。

 

 グルヴェイグの四人はクルーザーから下船すると、手早く船をロープで係留する。

 

(海のすぐ近くまで山が迫ってる。この山の中に軍の地下要塞があるんだ……)

 

 結梨は両手に持ったトリグラフを握りしめて、鬱蒼と樹木が生い茂った山林を見つめた。

 

 この日、結梨が装備しているCHARMはエインヘリャルではなく、葵と同じトリグラフだった。

 

 今次の任務では地下要塞内部の探索が主となることを考慮した結果、狭い場所での取り回しに優れるトリグラフが選定されていた。

 

「ここから一番近くにある地下要塞の入口へ向かいますわ。

要塞の中に入ったら単独行動は避けて、二人一組のツーマンセルで探索を――」

 

 楓が先頭に立ち、四人のリリィが一列縦隊で島の内部へ向かって歩き出そうとした時、突然に背後から少女の声が聞こえてきた。

 

「そこの怪しいゴスロリ四人組、止まってCHARMを足元に置きなさい。

言うことを聞かないと痛い目に遭うわよ」

 

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