世界最強の兵器にして究極のパワードスーツ『インフィニット・ストラトス』・・・通称IS。
その兵器は女性にしか使えないと言う欠陥を持ち、それにより世情は最強の兵器を操れる女性優位のものとなった。
そう、あの事件が起きるまでは・・・
その事件が起こったのはISの世界大会、第二回モンド・グロッソ・・・その準決勝戦。
既に前回優勝者にして世界最強と名高い初代ブリュンヒルデの称号を持つ女・織斑千冬は既に会場入りし、対戦相手の到着を待っていたが・・・。
「な、なんだお前は!?」
「ここは立ち入り禁止・・・グエェッ!!」
警備員の悲鳴と共に会場へと乗り込んだ大柄な一人の男。
その姿に会場全体が騒然となる。
スキンヘッドに眼帯、さらに胸元の大きな傷跡が刻まれたその風貌は見る者全てを圧倒し、何より両手には千冬を除くベスト4進出者3名が血塗れの状態で襟首を掴まれ、引き摺られていた。
「貴様、何者だ?」
「・・・俺の名はサガット。武道家として、貴様に制裁を加えにきた」
その男、サガットを千冬は冷徹に見据えながら静かに専用機『暮桜』に備えられた刀に手を掛ける。
「サガット・・・聞いた事があるな。
確か昔ムエタイの帝王と呼ばれた世界最強の格闘家だったか?
そんな貴様が私を制裁だと?貴様に恨みを買った覚えは無いが?」
「貴様個人に恨みがあるわけでは無い。
だが、世界最強とは武を志す者の最大の目標。下らん機械の鎧に身を包んで軽々しく最強を名乗るなど、世の武道家に対する侮辱よ。
だから俺は、粛正しに来た。最強のIS乗りとされる貴様を倒す事によってな」
「笑えん冗談を言う・・・!」
「織斑選手!挑発に乗ってはダメです!!」
臨戦態勢を取る千冬だが、ISを纏った一人の女がその場に割って入る。
彼女はこの大会の警備主任を務める女だ。
「この痴れ者が!」
アサルトライフルを構え、サガットを射殺しようとする警備主任。
だが・・・
「遅い・・・!」
「え?」
発射された弾丸を潜るように回避し、警備主任の懐に潜り込むサガット。
そして、そこから立ち上がりざまに放たれる拳が閃光の如く走った。
「失せいっ!!」
「グゲアァァッ!!」
顎からベキッと嫌な音を立てて警備主任の身体がIS諸共宙を舞う。
「・・・なるほど、あながち自信過剰という訳でもないようだな?
だが、私はそこの雑魚とは違うぞ・・・!」
闘志に火を着け刀を構える千冬。
それが、全てを失う序曲となる事とも知らずに・・・。
・ ・ ・ ・ ・
誰もが思った「織斑千冬に勝てる訳が無い」と。
殆どの観客が千冬に応援の声を上げていた。最初の内は・・・
・ ・ ・ ・ ・
「ハァ、ハァ・・・!ば、馬鹿な・・・そんな、馬鹿な!」
戦いが開始されて数分が経過する中、千冬はただ驚愕していた。
暮桜の装備する銘刀『雪片』の斬撃をも通さぬサガット強靭な筋肉。更には遠距離から放たれる気功の弾丸。
それら全てがISのシールドバリアや絶対防御を貫き自身にダメージを与えてくる。
「どうした?そろそろ本気を出したらどうだ?切り札はまだ使っていないのだろう?」
「クッ!後悔するなよ・・・!」
雪片にISのエネルギーを流し込み、その刀身を発光させる。
暮桜の単一仕様能力『零落白夜』。如何なるものも切り裂く一撃必殺の剣。
対IS用の能力だが、相手が生身であってもその威力は絶大だ。
「うおぉぉぉっッ!!」
雄叫びを上げながら突撃する千冬。
そんな彼女を見据えサガットは隻眼の目を鋭く細め、構えを取る。
「タイガーニークラッシュ!!」
千冬の刀とサガットの膝、その二つがぶつかり合う。
凄まじい音を立ててぶつかり合う。
しかし、直後にその音は別の音に変化した。
「あ、あ・・・雪片が・・・私の剣が・・・」
音を立てて砕け散る雪片。
その光景に千冬の表情は絶望へと変わり、直後に雪片を砕いたサガットの膝蹴りが千冬の腹に打ち込まれた!!
「グハァッ!!」
口から血反吐を吐きながら千冬は吹っ飛ばされ、アリーナの壁に叩きつけられた。
「あ、ぁ・・・!」
「終わりだ・・・!」
「ひっ!」
今まさに放たれようとするサガットの両手に集約される無慈悲かつ強大な気の砲弾。
織斑千冬は生まれて初めて心の底から震えあがった。真の恐怖と決定的な挫折に・・・。
恐ろしさと絶望に涙すら流した。これも初めての事だった・・・。
気付かぬ内に身に纏うISスーツの股間部にじわじわと染みが広がり、ビチャビチャと音を立てて濡れていく。
千冬はこの時、完全に戦意を失っていた。
そして、そんな彼女に出来るのはただ一つしかなかった。
「嫌ぁぁっ!!私の負けだぁぁっ!!
も、もう許してくれぇぇーーーーっ!!」
頭を抱えて蹲り、悲痛な叫びを上げる千冬。
世界最強のブリュンヒルデの姿はもうそこには無かった。
そこに居るのはただ強者に怯える哀れな女の姿でしかなかった。
「やめろぉーーーーッ!!!!」
そこに飛び込み、千冬を守るように割って入る一人の少年。
千冬の弟・・・織斑一夏は激昂の咆哮を上げ、怒りに身を任せてサガットの顔面に拳を見舞った!
「もう勝負はついただろ!千冬姉にこれ以上手を出すな!!」
「・・・小僧、その女の弟か?」
「それが何だ!?これ以上やるって言うなら、俺が相手だ!!」
足こそ震えているが、一夏は怒りで己を奮い立たせ、サガットに立ち向かう姿勢を崩さない。
そんな一夏を見て、サガットは僅かに笑みを浮かべ・・・。
「強いな。お前は・・・」
「へ?・・・ガッ!?」
突然の賞賛に呆気に取られる一夏。
直後に額にサガットからのデコピンが打ち込まれ、一夏は地面をゴロゴロと転がりながら吹き飛ばされた。
「う・・・ぐ・・・!」
「小僧、貴様は未熟だが、それ故に強くなれる。
貴様と、この戦いを見て俺を敵と認識した者全てに告げる。俺を倒したいのなら、どこまでも強くなれ。
俺は生きている限り現役だ。いつでも挑戦を受けてやる」
そう言い放ち静かに立ち去るサガット。
直後に警備部隊が彼を取り囲むが、その様子はどこか皆怯えていた。
そんな者達にサガットは静かに両手を差し出す。
「逮捕したいのならするが良い。
このような舞台を破壊したのだ。相応の報いは受ける覚悟はある」
ムエタイの帝王、サガット。
彼はモンドグロッソにおける暴行・傷害の容疑で逮捕された。
「す、凄え・・・!」
「に、人間って鍛えればあんな格ゲーみたいな事出来るんだ・・・!!」
そして、後に世に史上最大の格闘技ブームを広めた、名誉の逮捕者として、その名を刻まれる。
そして、数年後・・・
IS操縦者育成機関『IS学園』にて、
「待ってろよ、サガット!千冬姉の借り、そして俺自身の野望を果たすために、絶対にお前より強くなってやる!!」
愛用の青い道着を背負い、逞しく成長した少年・織斑一夏はその学園に足を踏み入れた。
その学園で待つ各国の若きファイター達との出会いと戦いに胸を躍らせながら。
続くかどうかは、読者様方の感想次第という事で(苦笑)