インフィニット・ファイター   作:神無鴇人

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今回楯無ファンには結構キツイと思います。

が、俺は謝りも後悔もしません!!


sub story『楯無と簪〜屈辱の接吻〜』

織斑一夏が全国中学生格闘技選手権に優勝してから数ヶ月後が経過した頃、先の決勝戦での敗北から、楯無の日常は大きく変わった。

 

「今日こそアンタに勝つ!織斑一夏!!」

 

「またアンタかよ・・・」

 

マイナーな格闘大会にて、楯無は一夏と相対して雪辱に燃えていた。

対する一夏は若干うんざりしたような表情だった。

あの日から楯無は一夏にリベンジすべく、彼の行先に幾度となく現れては勝負を挑み続けた。

今回の様に出場した格闘技の大会に自分も参加するのは勿論、時にはトレーニング中にストリートファイトを仕掛けてくるなど、所構わずにだ。

 

しかし、結果はどれもこれも楯無の敗北。

最初はまだそこそこに渡り合えていた部分もあったが、回数を重ねるに連れて一夏との差は開き、より酷く惨敗を繰り返していった。

 

「アンタの技は研究済よ!前みたいには、行かない!!」

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「あ、ぐ・・・っ・・・!」

 

「そこまで!勝者・織斑一夏!!」

 

そして今日もまた、楯無は傷だらけになって地に這いつくばり、無惨な敗北を喫する。

そんな彼女を一夏は憐れむように見下ろしていた。

 

「技もスタイルも、ブレ過ぎだぜ。

正直言って今のスランプに陥ったアンタと戦っても、全然達成感が無い・・・小手先だけの作戦に頼らず、自分を鍛え直して出直してこい!」

 

「クッ・・・!アンタなんかに、何が分かるって言うのよ・・・!?」

 

吐き捨てるように言い放つ一夏に楯無は唇を噛み締め、睨み付ける事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「痛っ!」

 

「ああ、動かないでください。本音、絆創膏ある?」

 

「うん。このサイズで良い?」

 

その日の夕刻、更識家の屋敷で楯無は従者である虚とその妹である本音から手当を受けていた。

 

「お嬢様、前から言おうと思ってましたが、彼に固執し過ぎです。

負けて悔しいのは分かりますが、今のやり方では体が保ちませんよ」

 

「・・・分かってるわよ。けど!あんな無様晒して嘗められっ放しのまま終わるなんて、私のプライドが絶対許せないのよ!」

 

「随分安いプライドもあったね?」

 

「っ!?」

 

不意にドアの方から聞こえてきた声。

振り向いた先にいたのは、とある事情から別組織に出向している楯無の妹、更識簪の姿だった。

 

「簪ちゃん!?どうしてココに・・・?」

 

「お姉ちゃんが負けてスランプになったって聞いて様子を見に来てみたけど・・・予想以上に酷過ぎて、呆れて物も言えない。

いつからお姉ちゃんの目はそんな節穴になったの?」

 

肩を竦めて嘲笑を浮かべる簪。

そんな妹の姿に楯無はカチンと来て目を鋭く細める。

 

「節穴って、どういう意味?」

 

「言葉通りだけど?あれだけボコボコにやられて織斑君との実力差に気付かないだなんで、これが節穴でなくて何て言うの?」

 

「クッ!」

 

「お姉ちゃんなら一度戦えば相手と自分の差ぐらい理解出来る筈。

なのに、馬鹿な悪役みたいに毎回毎回彼に挑んではやられるの繰り返し。

本当は解ってるんでしょ?今の自分じゃ彼には勝てないって事ぐらい。

それを認めたくないから虚勢を張って誤魔化してるだけ。

最初に卑怯な手を使って負けたもんだから、余計意固地になってる。

お姉ちゃんの心の中言ってあげようか?『こんな筈じゃない』『あんな歳下の男に負けたなんて何かの間違い』『あの時だってもっと別の搦手を使えば勝てていた筈』・・・こんな感じでしょ?」

 

「ぐ、ぐ・・・っ!!」

 

簪からの指摘に、楯無は悔しそうに押し黙る。

 

図星だった。一夏にリベンジする為なら、彼に言われた通り自分を鍛え直せば良かった。

だが、出来なかった。それをすれば自分は一夏より弱いと認めたも同じだと、自分が一夏より弱いと認めたくなかったのだ。

 

「安いプライドに縋って、やってる事は研鑽ではなく小手先だけの研究と小細工だけ」

 

「うるさい・・・!」

 

「・・・だから嘗められるんだよ。()にも仇敵(織斑君)にも」

 

「うるさいって言ってんのよ!!」

 

プツン・・・と、楯無の中で何かが音を立てて切れた。

それと同時に、虚達が止める間も無く楯無は簪目掛けて拳を繰り出していた。

 

「遅い・・・!!」

 

だが、簪は身を屈めてこれを回避し、楯無の拳は空を切る。

その隙を見逃さず簪は楯無に肉薄し、彼女の前髪を乱暴に掴んで、そして・・・

 

「んむぅっ!?」

 

自らの唇を姉の唇に重ね・・・いや、押し当てた。

そのまま楯無の口内に舌を差し込み、自身の口の中に仕込んでいたある物を流し込む。

 

「ぷはっ!ゲホッ、ゲホッ!な、何飲ませたのよ!?」

 

「安心して。ただのビタミン剤だから。

けど、これがもし痺れ薬や劇薬だったら、お姉ちゃんやられてるよ?

それから、安易に隙を晒し過ぎ・・・!」

 

口元を押さえて咳き込む楯無に冷たい声色で語りつつ、簪は間髪入れず楯無の着ている上着を一気に引き下ろし、両腕の動きを封じる。

 

「っ!?」

 

「相手の上着は簡易な拘束具に出来る。ルール無用な対人戦の基本でしょ?そして・・・!」

 

「ガッ!?」

 

そのまま楯無の顔面・・・その中で人体の急所に当たる人中に拳を叩き込んだ!

 

「あ、が・・・っ・・・」

 

「安易に挑発に乗り過ぎ、怒りで視野が狭まってる証拠・・・!」

 

急所を打たれ、ふらつく楯無に簪は容赦無く足払いを仕掛け、うつ伏せにダウンさせる。

 

「あぐっ!?」

 

「これで、終わり・・・!」

 

倒れた楯無の手を取った簪は懐から紐を取り出し、慣れた手付きで楯無の両手を後ろ手に縛り上げる。

この時点で、完全に勝負は決まった。

 

「生殺与奪の権を握られる事の意味・・・解るよね?」

 

「あ・・・ぁ・・・」

 

眼前に苦無を突きつけられ、楯無は力無く呻くしかなかった。

 

生殺与奪・・・即ち生かすも殺すも自由の権利。

これを握られるという事は戦う者にとって完全敗北を意味する。

 

楯無はそれを握られた・・・他ならぬ妹に。

 

「ねぇ、どんな気分?妹にコケにされた上に負けた気分って?

私はね、嬉しくもなんともない。

寧ろ虚しいよ。こんな無様晒してるお姉ちゃんに勝っても、何の自慢にもならない。

お姉ちゃんは私が強くなったと思ってるだろうけど、それは半分はずれ。

私は確かに強くなったけど、それとは別にお姉ちゃんが弱くなってるの」

 

「私が、弱く・・・?」

 

「だってそうでしょ?少し前のお姉ちゃんなら、見え透いた挑発になんて乗らなかった。

最初の口移しだって、見抜いて避けていた筈!

なのに今のお姉ちゃんは何?織斑君に惨めに負けて、下らない意地張って、自分の弱さも認められない・・・こんな有様で織斑君にリベンジ!?笑わせないで!!

私が勝ちたかったのは、こんなお姉ちゃんじゃない!

今のお姉ちゃんは、天才でも何でもない・・・ただの弱虫だよ!!」

 

「グガァッ!!」

 

顔面を床に叩きつられ、楯無は成す術無く意識を失った。

そんな姉を見下ろす簪の目は・・・どこか悲しげで、寂しそうだった・・・。

やがて簪は姉と従者達に背を向け、部屋を退室し、去っていった、

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

「う・・・ん・・・ハッ!?」

 

簪が去って十数分ほど経過した頃、楯無はベッドの上で目を覚ます。

その側には悲しそうに俯く虚と本音の姿があった。

 

「お嬢様・・・」

 

「ねぇ、簪ちゃんは・・・?」

 

「あの後、すぐに出て行きました・・・。『悔しかったら、強くなってリベンジしに来い馬鹿姉!』と、そう伝言を残して・・・」

 

神妙な表情て報告する虚の言葉に、楯無の心は大きな敗北感に包まれる。

 

「私、負けた・・・織斑一夏だけじゃなく、簪ちゃんにも・・・。

う、う・・・ぅ・・・、

 

うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!畜生ぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!!

 

あまりにも無残、あまりにも惨め、あまりにも無様な敗北。

その事実を心底から理解した・・・いや、理解させられた楯無の感情は爆発し、楯無は喉が潰れんばかりの大声で、およそ彼女らしからぬ言葉遣いで叫び、吠え、慟哭する。

目から涙が滝のように流れても、鼻から鼻水が垂れ落ちようとも、口から涎が溢れても、それは止まらない。

堰き止めていた激情は止まる事なく、叫びとなってしばらくの間吐き出され続け、泣き疲れる事で漸く落ち着きを取り戻すまで続いた。

 

 

 

 

 

「強く・・・強くなってやる・・・!強くなってやるわよ!!

負けたままで終わる私じゃない!私は、絶対に強くなって・・・織斑一夏にも、簪ちゃんにも、絶対に勝ってやる!!」

 

やがて、それは一つの決意へと変わる。

最早、そこにいたのは先程までのスランプに苦しみ迷走した少女ではなく、強く熱い決意を抱く闘士の姿だった。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

楯無が再起を決意する中、虚と本音の姉妹はある事を思い浮かべていた。

あれはそう、簪が去った直後の事だ・・・。

 

 

 

「かんちゃん!ちょっと待ってよ!!」

 

「・・・何?」

 

去ろうとする簪を二人は呼び止め、そんな二人に簪は冷たく返す。

 

「何じゃありません!いくら何でも、あんなやり方は酷過ぎます!!」

 

「・・・酷い?」

 

「そうだよ!あんな心を抉るような言い方しなくたって・・・」

 

「あんな様になるまで放置してた人達に言われる筋合いなんて無いよ」

 

「そ、そんな・・・」

 

あまりに辛辣な簪からの返答に本音は思わず目に涙を浮かべてしまう。

そんな彼女を簪は不意に鋭く睨み付けた。

 

「何泣いてんの?

泣きたいのは・・・泣きたいのはね・・・一番泣きたいのは、アンタ達じゃない!私なんだよ!!」

 

突如として大声を上げた簪は、二人の胸ぐらを両手でそれぞれ掴み、壁に押さえつけた。

 

「か、かんちゃん・・・?」

 

「簪様・・・?」

 

虚と本音の目が驚きで見開かれる。

簪は、泣いていた・・・。先程までの冷たさが嘘のように悲哀に満ちた表情で涙を流していたのだ。

 

「私はね!信じてたんだよ!

お姉ちゃんなら、きっと自力で立ち直れるって!きっとリベンジ出来るようになってるって!!

さっきの戦いだって、お姉ちゃんならもっとやれる筈だって!そう信じてたんだよ!!

なのに、いざ戦ってみたらあの様・・・!!

私が一番悲しんでるんだよ!アンタより!アンタ達より!虚さんよりも!本音よりも!お姉ちゃんの強さを、才能を信じてたのは私なんだよ!!

私の勝手な願望だとしても、それをあんな形で崩された私の気持ち、2人に解る!?」

 

「かんちゃん・・・」

 

「アナタは、そこまでお嬢様の事を・・・」

 

己が胸中を吐露し、簪は二人を掴んでいた手を離し、涙を乱暴に拭い去る。

 

「私が憧れた更識楯無は、あんなもんじゃない・・・。

妹に負けて悔しいなら、強くなれって、あの馬鹿姉に伝えといて・・・」

 

 

 

布仏姉妹の脳裏に焼きついた簪のあの姿。そして、楯無の慟哭・・・。

二人は恥じていた・・・従者でありながら、自分達は主をまるで支え切れていなかったのだと。

 

「お姉ちゃん・・・!」

 

「ええ。分かってるわ、本音・・・!」

 

 

 

私達も強くなろう・・・その決意を胸に二人は頷き合う。

 

更識の従者として、布仏家の者として、そして楯無と簪・・・愛すべき主にして友人の隣に立つに相応しいように。

 

 

更識楯無、布仏虚、布仏本音・・・彼女達3人は、これよりそれぞれ海外へと渡り、己が腕を磨く事となる。

 

楯無は更識家の伝手を使い、アメリカ空軍の凄腕軍人の下へ

 

虚はメトロシティの民間警備会社を拠点に実戦向の戦闘術を学び、

 

本音はブラジルのジャングルへと、

 

これより2年後・・・。

楯無は1年生の二学期時にIS学園へと編入し、瞬く間に学園最強の称号を得て生徒会長に就任していた。

そして、4人の運命が交錯する日が近づいて行く・・・。




次回から本編へ戻ります。
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