〜side 語り部〜
前日よりも余裕を持って劉玄徳一行は登城した。
見知った案内人に通されたのは後宮内の大きな館。
男どもはちょっとまたぐらに危機感を持ち居心地悪そうなのが気の毒である。
そんな宿ヌシ達にお構いなく見事な一室には、大勢の偉そうな宦官達が集まっていた。
運び込んだ棺桶にも似たデカイ行李は主賓を待つかのように鎮座している。
「みな、ご苦労」
先日同様に帝が多くの共を引きつけれ入室する。
前回は見なかった偉そうな老婆に郭淮が仰天している
「董太后まで、いらっしゃるとは・・・」
小声で聴くにケバ女とめちゃ仲が悪い帝の母親らしい、噂の広がりが中々早いのである。
帝とケバ女に婆さんが腰掛けると、さあ見せよと仕草で急かされる。
郭淮も劉玄徳も視線で宿ヌシ殿へ催促だ・・・劉玄徳よ此処で自分を売り込まなくて良いのか?
「それでは御用意いたしました品物をお見せいたしま〜す。」
宿ヌシ殿はそう言って劉玄徳に行李を開けさせる。
中身はベルベットを緩衝材として厳重に包まれ抱えるほどに大きい、重く人の背丈ほどもある品が取り出されると「まさか」と唸り声が呟かれるほどである。
「どうぞ、御拝見をお願いいたします。」
そう言って立てられた品物を覆い隠していたベールが取り払われると大きな姿見が現れた。
透明で大きな板ガラスは歪みも無く、裏面に施された銀メッキが見事に光を反射する。しっかりとした脚部により自立した鏡は要所に色鮮やかな宝玉があしらわれ、自ら光輝くようである。
外枠には硬く風合いの落ち着いた木材に四隅は貴金属で補強がなされていた。
「なんと巨大な!」
「近くてもくっきりと全身が見えるぞ。」
「噂に違わぬ鮮明さじゃ。」
初参加の方々も加え、先日のコンパクトミラー以上に度肝を抜かれヤンヤヤンヤと大騒ぎである。
「想像以上の物じゃ!見事ぞ。」
「お言葉感謝いたします。 こちら高貴なお方は日々の身嗜みにも気を使われるとお聴きいたしました。よろしければ陛下に御愛用いただきたいと同じ物を御用意いたしております。」
「これはなんとも殊勝な心遣いよ!」
宿ヌシ殿のヨイショに帝も良い気分になっている。予想以上に良い物が出たから欲しくなっちゃったのであろう。
しかし欲しくなちゃったのは、帝だけではない様だ・・・先ほどより老婆からのプレッシャーが凄い!宿ヌシ殿がストレスでニュータイプに目覚めそうである。
ケバ女は早速姿見に夢中でニッコニコ、帝も自分の姿を写してどうだどうだと宦官へ見せ付けるのに忙しい。
『プレッシャーが上がってくなりー、神様、仏様、ルビーちゃん助けてー』
しかし宿ヌシ殿の祈りはルビーちゃんに届かない。
『自助努力で頑張ってね!』
と返事が届くに見てはいるようである・・・撮影を頑張っている吾輩の手柄であるな。
プレッシャーから解放されたい宿ヌシ殿は帝のはしゃぎっぷりが一段落した頃合いに行李から3つ目を取り出す。
勿体ぶって一度に並べなかった事に絶賛後悔中である。
「最後にもう一台ご用意してございます。 お気に入りいただけましたら功臣への褒美などにお使いいただければと考え納めさせていただきます。」
「あいわかった。受け取ろう。」
上機嫌の帝は宿ヌシ殿の罠に気が付かない。
「ゴホン!」
老婆から部屋に響くほどの咳払いと矛先を変えたプレッシャーが帝を射抜く。
「あっ、えっと・・・」
ようやく気が付いた帝が言葉に詰まった。
実の母親で苦手のようだ。
「こたびの献上品は陛下が夢中になるほど噂通りに素晴らしい品ですね。 わらわも感心いたしました。」
笑顔は崩さないが眼は変わらずプレッシャーを与え続けている。
『最後の一つをよこせやー!』と言外に訴える圧が凄いのである。
帝と老婆を除き郭淮も劉玄徳も宦官達も顔を伏せて必死に嵐が過ぎ去るのを待っている。
宿ヌシ殿は窮地を逃げきり、ほっとひと息ついておる。
「も・・・もちろん!余の感謝を込めて、こちらの逸品は母上に贈らせていただく所存。」
これに老婆もニッコリ、窮地を抜け出し部屋の空気も和らいだ。
ケバ女は自慢の機会を逃してちょっと不機嫌気味だぞ。
「これこれその方、この鏡の銘は何じゃ?」
再び雰囲気をぶち壊されてたまるかーーっと宦官より質問が飛ぶ。
「大きな鏡は初めて(小さいのを作ったとは言ってない)作りましたので、全身が見える事から「姿見」と呼んでおりました。よろしければば天子様より名を賜われれば僥倖にございます。」
だいそれたことを申すな!と叱責が出かかる
「良い良い!これほどの銘品なれば余が名付けるに相応しかろう。 そうよな魂魄すら写し出すゆえ、霊明鏡とするが良い。」
「なんと!陛下自ら・・・」
「霊の字を使う事を許されると・・・」
「これからもより一層商いに励むが良い」
「はい!我ら義勇軍はこれからも粉骨砕身天下安寧に努めます。」
そこでちょっと時が止まった。
宦官達も首を傾げたり、互いにアイコンタクトと世話しない。
「・・・義勇軍?」
「はい!幽州にて旗揚げし、皇甫嵩閣下の指揮下にて、黄巾が首魁張宝を打ちました。」
えっ?マジ?誰か聞いてる?って顔の帝
正しいですよーとコクコク頷く郭淮と数名
やべぇと目を逸らす偉そうな宦官
「こたびは、武勲により謁見の栄誉をいただき私、劉玄徳は感激の極みにございます!」
言外に武勲に対する褒美カモーンって催促である。
ちょっと困った空気感が実に心地よいのである。
〜fin〜