〜side 語り部〜
その時、太史子義は焦っていたと言う。
自ら主人と仰いだ方は遥か先、僅かに集めた騎兵と共に馬を限界まで飛ばすも差は縮まらない。
この先は何処で敵と出会うか分からぬ窮地である。
1人2人なら主人は軽々と凌ぐだろう、10人なら自分が追い付けば蹴散らせる、100人なら・・・自分と同行する騎兵を犠牲にすれば主人を逃がせるだろうか?
1,000人では隊に無事合流出来ねば無理だ。
太史子義には万の兵を率いる相手の斥候が1,000を下るとは思えなかったのである。
そんなガチムキの予想は最悪一歩手前で顕現する。
「MEMちょ姐さん!」
視界に捉えた主人は無事。
だが周辺の敵兵は100人に迫る。
掠奪のため散会しているであろう敵が集う前に主人を逃がせるかと更に焦る。
しかし、そこから彼ら護衛兵が見たものは想像もしない結末である。
宿ヌシ殿は普段厳しくも愛嬌良く、腕力も体力もあれど武など片鱗も見せない。
古参の周倉達は主人は恐ろしいと言うが太史子義のように平原以降で加わった者には分からない感覚だった。
朝日よりも眩しい輝きに目を焼かれ、視界が戻る僅かな間に付近の敵兵100余が地に臥せる。
「何が・・・」
彼らの理解の範疇外、こんな事は噂に高い飛将軍でも出来ぬのでは無いか?
これが出来るなら周倉の言う通りに劉備軍最強どころか人外の領域、御伽話に伝わる神仙の域にあると、それまでの古参の話がようやくストンと腑に落ちたのであった。
「姐さん!ご無事で!」
聴くまでも無いがもはや様式美であろう。
「子義!子供達の治療をして、後方の部隊を進出させて残敵の掃討をしなさい。 生き残りの民草の保護を最優先にして」
「よろしいのですか?民衆の救助を行えば曹操軍の本体に捕まります。」
周辺の戦力配置を考えれば至極最もな疑問であるが・・・
「気にしなくていい。 駆除して置く。」
そう言い残すと宿ヌシ殿は一際大きな跳躍を行い、皆の前から西の空へ消えたのである。
それから暫くして太史子義達は西の地から輝く先ほどより遥かに大きくて明るい光を見たのであった。
空高く跳躍した宿ヌシ殿は西の街を目指す。
宿ヌシ殿はテックランサーをボゥ形態に変え、道中に見かけたゴミを次いでとばかりに射抜き駆除していく、掃討でも倒すでもなく駆除と認識させて宿ヌシ殿の心を護る吾輩はとっても良い子であるな。
道中の亭で見かけたゴミを駆除しながら街に着くと掠奪虐殺の疲れを癒し休んでいたのか周辺にはまだ3万近いゴミがたむろしていた。
上空から観察すると先の亭同様の首塚があちこちに作られ人ばかりか家畜の頭も数増しとばかりに積まれている。
ここに生きているものはどうやらゴミだけのようなので遠慮は要らないようである。
後に分かった事だが、ここを率いるのは曹仁とか言うゴミの親分らしい。
高そうな鎧を着たのが二人並んでいるから副将の曹洪とか言うのと一緒なのだろう。
宿ヌシ殿は二人の居る宮門に降り立つと試しに問いかけて見ることにした。
鳥と見まごう大きな影に遮られた後にズダンッ!と衝撃を伴った着地音。
「むむっ!屋根に刺客が潜んでおったか?」
「一晩中隠れ潜んで居たとは見事なものよ。 しかし飛び降りたまま一人を狙えばチャンスがあったであろうが、下手をうったの。」
曹仁と曹洪はヤケ酒の二日酔いも微塵も見せず臨戦体制をとる。
曹操に連なる一族の宿将と言えど青州兵の限度を知らぬ蛮行に付き合い切れず深酒を煽っていたのである。
「ひとつ問いたい・・・何故このような無体な真似を兵に命じる?」
「女か? ますます不思議よな、折角の復讐を成し遂げる機会を好奇心や感情で捨てるか・・・」
「徐州の兵は曹嵩伯父上を害した。 理由はそれで十分よ。」
「それこそ理に合わない。 殺人の罪は犯した犯人のものだ。数千数万の民草が、赤子が、地に満ちるほどの血潮で償うものでは無い。」
「我ら曹家を害したのだ。勝手に湧き出る下賤の者どもの命など何万あっても釣り合うものかよ!」
「そうよ!孟徳の哀しみを慰めるには徐州の者ども殺し尽くしても足りぬは! そのような大それたことを問うとは身の程をわきまえろ!」
ンアーー、中華の基本的な考え方とは言え宿ヌシ殿のメンタルに燃料ガンガン投下なのである、ヤバヤバであるよ。
「そっか〜〜、いやぁ私が間違ってたんだよ〜」
急に明るい声で自戒する宿ヌシ殿を訝しみ敵将が警戒を強めたのだが・・・
「ゴキブリ以下の害虫さんに問いかけても、意味ある答えが返ってくる訳ないんだったね♪ 失敗♪失敗♪」
アレ?吾輩また脳内麻薬の投入量を間違えたのであるか・・・いやない(やっぱり認めないスタイル)
「消えてね♪ ボルテッカ・・・」
そう呟いて宿ヌシ殿が両手を組むのに合わせて、肩が肘が胸に腰の装甲がスライド、今までなびいていたリフレクターもピンっと張り、露出したレンズ状のクリスタルより反物質フェルミオンの光が迸る。
宿ヌシ殿を中心に半径1kmに達する光のドームは周囲の物質と反応し爆縮すると膨大なエネルギーにて青州兵全軍を跡形も無く吹き飛ばすのであった。
〜fin〜
やっとここまで来たのである最初のプロットではこの話は・・・影も形もありませんでした!
何故生えたのだろう???