〜元アクアマリン〜
和尚が俺の教育係を降りると聞いたのは、朝餉の後だった。
説法こそ長いが決して嫌いな人ではなかったのだが・・・幼児に論戦で負けたのは相当にこたえたらしい。
「若君の才は、もはや拙僧の手に余りまする。」
そう言って、和尚は父上に深々と頭を下げ逃げるように去っていったそうだ。
……なんか、ごめん。
代わりに来くるのは、礼法を教える南伊勢の貴人だという。
どんな立派な先生が来るのかと思えばさぁ
開口一番が、これだ!
「ん?・・・坊主よ、わしが教える聡明(笑)な若君はどこかな?」
コレはどう答えたらよいかなぁ。
そもそも齢3つの幼児へ教える内容でも身分でもないらしい・・・
「こんな無駄な時間を過ごすなら、エルきゅんへの贈り物をもっと吟味したかった・・・ルソンで探した壺への反応はイマイチだったから、次は蝦夷で毛皮を狩るか?・・・」
色々と隠せ!と思うが、大丈夫かなこのオッサン!?
コウメイが横でハッハッハと悪びれなく笑いながら言う。
「若君、アレでも文武両道の元大名でございますよ。
ちょっと精神が推し活に寄りすぎているだけの親衛隊では極々普通の隊員でございます。」
そうなんだぁ・・・ダメじゃん!!
「では改めまして中納言殿。 こちらにおわすのが本日より貴殿が教育する若君ですよ。」
その男は値踏みするような視線を向けた後に、俺へ向かい合うと今度は妙に落ち着いた声で言った。
「それでは若君。我は本日より礼法を教える者、皆には伊勢中納言と呼ばれておる。 そなたは好きに呼ぶが良い。」
ますますだらけたテンションですねぇ。
和尚の時と違って、先生にやる気のない授業であったが、ちょっと意外な展開となっていた。
「ふむ・・・ふむ・・・んーーーまぁいい、まずは和歌でも詠んでみるか」
「はぁ・・・」
まさかのノープラン!?適当に詠んで時間を潰すつもりだったのね。
ところが。
「若君、良い和歌とは推しへの想いを詠むものだ!推しとは“心の主”である。」
「えっ! そんなのでいいの!?」
「その通り! 例えば――」
そこから始まったのは、
時代を超え形を変えたアイドル談義だった。
話の流れでB小町の話をしたら、先生は目を輝かせて語り出す。
「アイ姫は尊い! さりな殿は清楚! だがエルきゅんは未来を担う光である!そう!時代はエルきゅん! 衆道は武人の嗜みだから! ノーカンだから!」
なんか、ウマが合う。 ちょっと危険な道に向てるけど・・・
気づけば、俺も普通に喋っていた。
その流れで、先生が正式に名乗った。
「心の友に適当に呼ばせては失礼よな。我が名は正三位権中納言源朝臣北畠左京大夫具教である。若君は変わらず先生と呼んでも構わぬ。」
長い。偉い。堅苦しい。
「名前、長いし偉そうっすね」
俺がそう言うと、具教はニヤリと笑った。
「事実偉いのだ! それと若君の父君や祖父君も、同じであるぞ?」
「え?」
「父君は従三位左近衛中将平朝臣織田秋田城介三郎信忠、祖父君は、正二位右大臣兼右近衛大将平朝臣織田上総介三郎信長であられる」
その瞬間、俺は初めて知った。
俺が、信長の孫だということ、時代が戦国後期だって事、
いままでなんとなく思い描いていた未来図が音を立てて崩れ落ちた。
~fin~
うーん、毒が足りない!!
スランプだ