〜相模の国の誰かさん〜
「小太郎、報告はまだか!?」
城下町すら取り込み堅牢な城壁で囲んだ巨城の奥深く、俺は家臣達を並べながら報告を待つ。
「若!落ち着きなされ。 そう急いては判断を誤りますぞ。」
自身でも気が昂り少々焦っているのは分かっていた。
しかしこの策は我家の行末を決める一大事なのだ。
ここからの一年で全てが決まると言って良い。
武田を滅ぼした織田信長に結衣諾々と今は従っているが、父上も叔父達も野望は棄て切れていない。
吉報が届けば正史の通りに即断で武田旧領へ攻め込むだろう。
だが其処からが四面楚歌の地獄ルートよ。
夏までに徳川を滅ぼせねば小煩い関東諸将が動き出す。
混乱している織田家は容易く退けても三河狸に抵抗されては叶わぬ。
そうして思案を巡らせて居ると小太郎の元に報告が届く
「若!お喜びくだされ、本能寺は明智勢により焼け落ち、首尾よく堺にて三河狸も討ち取れました。」
「よーしよしよし!コレで邪魔者は居なくなった!小太郎は父上に使いを出せ。信長の急報が届けば父上達は即座に約定を破棄して上野に襲い掛かろう。 皆は兵を集めよ!そのまま狸を失い混乱する東海もいただくとしようか。」
思えば、ここまで遠い道のりだった。
この地の跡取りとして産まれ変わる前の記憶が俺にはある。
正直すでに前世は朧げになっており、役者であったような経営者であったような人殺しであったような気がしなくも無い。
思い出せるのは真っ白い空間で遠くに仏に言い包められていた奴が居たことぐらいだ。
ひと通り説明が終わってさあ次は俺の番と身構えた後に掛けられた言葉は忘れられん。
「さて、あなたがたに用は無くなったので天命通りに星の海に溶けて下さい。 罪深い魂ばかりですのでキレイにクリーンオフさせていただきますね♪」
もはや失ったはずの身体が強張り顔面蒼白になっていたであろう。
そうして我は、俺は、僕は、私はグチャグチャに潰されて雑多な魂として投げ捨てられた。
そのまま溶けて自我も何もかも無くなるのが運命かと思ったが、外道が「設定がどうの、時代がどうの」と気を取られている間に隙をみて開きっぱなしになっていた門を潜れば、過去に転生していたのよ。
生まれ変わった俺は大国の後継者だった。
これこそ天命!未来知識でオレつえーをエンジョイだぜ!
と意気込み、さまざまな手を打つこと十余年。
椎茸栽培はテンプレ楽勝wと、丸太に椎茸塗りたくって湿った日陰に放置するって簡単な方法も思いつかない古代人共に教え導いたが・・・カビだらけ、毒キノコだらけとなり大失敗。
3年試したところで父上から禁止令が出た・・・
ええい!きのこなんぞ、美味くも無いんじゃ!
やはり腹に溜まる物でなければならん!
ここは救荒作物よ!芋じゃサツマイモにジャガイモを広めて人口爆増しちゃうぞ!って事で家臣に種芋を探させた。北海道に鹿児島に行けば有るやろw
だがしかし1年経っても2年経っても見つからん・・・そして父上から禁止令が・・・
クソが!農業なんぞダメダメじゃ!やはり国力は重工業よ!
まずは基本的な軽工業からなら生糸といきたいが蚕も木綿も秘匿権益で関東にねぇ!
ならば石鹸じゃシャボンって重宝されヨーロッパからの輸入に頼る高級品!
あんな小学生の家庭科実験で作れる物が高級品w
よーし俺がじゃんじゃか量産しちゃって稼いじゃうぞ〜
オイそこのオマエ、サラダ油と苛性ソーダを用意しろ。
ム、それはなんだ?だと。
馬鹿め、サラダ油は・・・そう!やさいから取れる油じゃ。
苛性ソーダは・・・ソーダなんだから泡が弾ける水じゃ。
こうして1年かけて集められた菜種油と天然ソーダ水を混ぜるが・・・固まらん!材料の質が悪過ぎる!クソじゃーーー!
その後も色々と試すも使えない部下ばかりで、薬莢もダメ、ライフリングもダメ、古土法の火薬は5年もかかり結果が出る前に拡張を禁止され、人材青田買いも戦国後期じゃ遅かった。 焙烙玉を元に作った擲弾砲は評価されたが「氏直の思い付きも偶には身を結ぶんじゃなw」とか言われてむかつく。
そんな父上や伯父共も里見や佐竹を滅ぼせないわ、上杉へ養子にやった三郎を見捨てられず財貨を無駄にして結局家の財政は火の車じゃ。
そんな苦境もこれで1発逆転よw
さて兵が集う間にゆるりと織田の混乱を聞き愉しむとしようか。
「ではその方、京の仔細を話せ。」
〜fin〜