〜side 語り部〜
賊の頭目がさっそく味わおうとでもしたのか?
宿ヌシ殿を抱き寄せようと試みる。
「いやーーーー!」
ぎゅっと目を閉じた宿ヌシ殿は、渾身の力でビンタ1発儚い抵抗をするのだが、「ぱピュッ」って変な声と平手から腐ったトマトを叩き潰したような不快な感触が伝わり更に大混乱。
拳をガッチリ握り締めブンブングルグル駄々っ子パンチを振り回す。
「よくも頭をーー、ぱゲラッ」
「お助けーー、たわば」
「く、来るなーーべっぶっ」
拳からは何か脆いものが、ボキボキバキバキグチャっと砕け散る感触が続くがテンパってる宿ヌシ殿は気が付かない。
掴まれた腕からは暫しくっついていた賊の手がスポーンっと何処かへ飛んで行ったが気にしない。
振り回していた拳に触れるものも無くなり、辺りが静寂に包まれると宿ヌシ殿はこわごわと目を開ける。
10数人ほど居た失礼な賊は何処かへ消え、目の前には賊の略奪虐殺で出来たと疑いもしていない血の池地獄。
ナザリックでグロ耐性を鍛えられている宿ヌシ殿は、ちょっと青い顔している程度で胃から逆流してくる物を堪える事に成功した。
周辺どころか遠目の住民も賊も視界に入る全ての人々が言葉も無く凍りついた様に宿ヌシ殿を凝視している。
「こんな酷い事をするなんて!お前ら人間じゃねぇ!」
宿ヌシ殿はその惨状に憤り言葉を紡ぐ、先ほどまでは脳内でネオ・ジャパンのモラルと現実の惨劇との間で激しい葛藤が起こっていた。
退役して予備役自衛官となっていても宿ヌシ殿は、しっかり戦闘教練を受けている。
給料が上がるからと士官教育もレンジャー課程もこなした割と軍人向きな才能に溢れていた。
ゾンビやモンスター相手なら英雄級を超え逸脱者の領域に踏み込むほどに戦闘実績もある。
そんな彼女の枷は対人戦、殺人への嫌悪であったのである・・・それでは面白く無いので吾輩が偉人の名言をプレゼントさせて頂いた。
曰く『悪人に人権は無い!』
曰く『討っていいのは討たれる覚悟のある奴だけだ!』
曰く『逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ!』
そしてダメ押しは振り向いた先、庇っていた少女からの嘆願である。
「MEMちょ・・・様、ど・・どうか爸々と媽々を助けて下さい」
引き攣った顔に怯えた目でガチガチと舌を噛みそうに鳴りながらも言い切った幼女尊い・・・のである。
「わかったよ!大船に乗った気持ちで私に任せてね!」
宿ヌシ殿は少女を少しでも安心させようと力強い笑顔と共に宣言する・・・うむ逆効果であるな幼女は失神した。
「えーと武器武器何処かな〜、あっ!これ良さそう♪」
宿ヌシ殿は周囲の肉片から手頃な武器を探して頭目の佩いていた剣を手に取る。
「ちょっとショボイけどー、贅沢は言ってられないよねぇ。 それじゃイックよー」
宿ヌシ殿の宣言を合図に信じたく無い所業を見てフリーズしていた周囲も動き出す。
「鬼だァーーー!」
「大将が死んだーーー、負けだぁーーー」
「お、俺ぁ死にたくねぇ、抜けるぜ」
攻守入れ替わって逃げ惑う賊ども、恐怖で蹲る者、混乱して只々喚く者、黄色の頭巾をかなぐり捨てて門を目指して一目散に走る者とドタバタ見苦しい。
「ひとーつ、ふたーつ、みぃーつ・・・」
馬どころか風よりも速く駆け抜け蜂や蝿すら超える立ち回りを見せる宿ヌシ殿から逃げられず、賊は1人また1人と意識を狩られていく。
さすがに正気の宿ヌシ殿は手加減が出来ておりワンパン肉片は量産しなかった。
街中の賊全ての意識を僅かな間に刈り取った宿ヌシ殿は追撃&逆襲とばかり門外に躍り出る。
そこには、盗賊の増援らしく見窄らしい集団がおり、名乗りを上げていた。
「黄賊どもよ!観念しな!劉備三兄弟が末弟、燕人張飛が成敗してやるぜぇ!」
〜fin〜
久々にコーエーのゲームやってたのです