テーマは「クリスマス」でした。タイトルは暗号になっています。
キラキラ、イルミネーション。
シャンシャン、ソリのおと。
ルンルン、胸の高鳴り。
ワクワク、銀世界。
冬は良い。世界が終わるんじゃないかと思うくらい真っ白になったり、煌びやかになったりする。夏までは馬鹿みたいに暑かった外は馬鹿みたいに寒くなって、本当に半年前と同じところに立っているのか少し不思議に思う。
暖かい格好をしても寒さは服と肌の隙間をいやらしくすり抜けてくるし、人混みのそこかしこから「さむい」「さむい」と恨み節のような呪詛が響いている。
これが冬かと雑踏を掻き分けて進みながら、寒さの訪れは年の締めでもあることを思い出した。
――そっか、もう今年も終わっちゃうんだ。
振り返れば劇的で刺激的な毎日だった、と思う。新しいこと、不思議なこと、面白いこと、たくさん追いかけて掴んでは笑って、前だけ向いて走り抜けて。気づけば一年もあと十日程度で終わるところまで来ていたらしい。いまいち実感がわかないが、年に一度の聖夜が差し迫っているのは紛れもない事実だった。
「すっかり寒くなったなー……そろそろ雪も降ってきそうだ」
隣から少しばかり震える声がする。口が動くたびに白い吐息が漏れ、寒さをより強調させていた。
背の高い彼。見上げながら見つめる傍らの存在。彼の呼吸と同じように白い空気を吐き出そうと、両手を顔の前に持ってきて、はーっと酸素を放出する。かじかんだ指先にわずかな暖かさが宿るもそれは一瞬で、吐息も光る夜景に呑まれて消えていく。
「はは、真っ白だ」
そんな様子の一部始終を眺めていた彼が笑う。あたたかそうな笑顔だ。なんでそんなに嬉しそうな顔をするのかピンとこない。息が白いのが面白いのだろうか――いや、面白いけれども。
「……プロデューサーさん」
「ん、どうした?」
変わらず騒がしい人混みの中を進みながら呼ぶと、しっかりと声を拾って反応してくれる。しかし目線を彼に向けることはない。もっと別の、遠くのところに『彼女』の視線は釘付けになっていた。
イルミネーションがこれでもかというくらいに飾り付けられた、広場に佇む一本の木。いまだに点灯する様子はなく、絢爛に光り輝く機会をひっそりと伺っているような、不自然な木。
街中が既に発光しているのに、あの木はまだ光らない。時がきたらぴかぴかと光り輝くのだろう。それはもちろんわかっていた。
「……クリスマスに、あれ、見に行きたいっす」
分かっていたからこそ、どうしても見たくなったのだ。
◇ ◇ ◇
聖夜。クリスマス。
語感だけで謎の感情が湧き上がってくるのは当然だ。子どもにとってこれほど楽しみなイベントはそうそうない。イルミネーション、パーティ、ケーキ、プレゼント、サンタクロース。なんて素敵な響きなのだろう。夏祭りと同じくらいワクワクする。
胸の高鳴りを確かに感じながら、芹沢あさひはショッピングモールの入り口前に立っていた。
「…………」
時刻、14時をちょっとすぎたくらい。
待ち合わせまであと30分近くある。いくらなんでも早く着きすぎたとは思うのだが――道行く人々を眺めているだけでもそこそこ楽しめるから良しとした。
ハロウィンでもないのにコスプレをする人がいる。異様に距離の近い高校生くらいの男女や、集団にしても多すぎる数でかたまる女子大学生。子連れの女性が数人並んで歩き、忙しそうに駆け回るスーツ姿のサラリーマンまで通り過ぎた。
なかなか、待ち人は来ない。
少し心がそわそわするのはどうしてだろう。クリスマスという特別な日に対する胸の高鳴りなのか、それともこれはまた別のなにかなのか。自分の頭だけでは理解できそうにない。
「……あ」
ぼーっとしていると、ふわりと舞い降りた一粒の白を見つけた。空から降ってきたソレは手に乗せるとすぐに溶け消えてしまう。手袋越しに触れたものだから、冷たさも全く分からなかった。
パーカーにジーンズに手袋。暖かい格好をしたことで寒さをあまり感じられないというのは如何なものだろう。そう思ってあさひは手袋を外してバッグに仕舞った。突き刺すような冷たい空気が手のひらを覆う。
「雪、掴めるかな」
一つ目をはじめとして空から降り始める雪に触れようと手を伸ばす。できるだけ早く冷たさを知るために、天に届く気持ちで腕を掲げ――
◇
「よっ……はっ!」
着いた頃には既に何か始まっていたようで、プロデューサーは目の前の光景に苦笑した。
待ち合わせの場所に10分ほど早く到着したが、彼女――芹沢あさひはもっと早くから待っていたらしい。いつからかは分からないが様子を一目見れば分かる。結構長い間ここにいるのだと。
「……なにやってるんだ、あさひ」
「ほっ! ……んー……あっ、プロデューサーさん! いたんすか?」
「おう、丁度今来たところだ。あさひはいつからいたんだ?」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら虫でも払うような動作を繰り返していたあさひは、プロデューサーの存在に気が付いて動きを止めた。
「んーっと、多分一時間くらい前からっす」
「一時間!? す、すまん。俺ももう少し早く来ればよかったな……」
「? そうすか?」
「いや、まあ……退屈してないならいいんだけどさ」
かなり寒いというのに手袋を外して飛び跳ねる。傍から奇怪な視線を送られても不思議ではない行為だ。具体的に何をしていたのか、プロデューサーは空を見上げて理解する。
「……雪を掴もうとしていたのか?」
「そうっす! 雪って、一粒だとどのくらい冷たいか知りたかったんすけど……掴もうとしているうちに、手が冷えてわかんなくなったっす」
そう言って両の手のひらを見えるように開くと、確かに温度が判別できなさそうなくらい赤くなっていた。
こんな寒い中で肌を晒していたら当然だろう。
「あさひ、とりあえず店内に入ろうか。まずはどこに行くんだ?」
「えーと、メセドでクリスマスドーナツが食べたいっす!」
「じゃあ行こう。これ以上冷えると寒さでドーナツが持てなくなるぞ」
「それは大変っすね……早く行くっすよ、プロデューサーさん!」
にぱっと笑って目の前の建物へと駆け出していくあさひを、プロデューサーは少し早足で追いかける。
今日はクリスマス。なぜ彼女と二人で待ち合わせをすることになったのかというと、数日前彼女が唐突に「イルミネーションが見たい」と言いだしたからだ。街の広場に佇む巨大なクリスマスツリーのイルミネーションが付く瞬間を間近で見てみたい、ということらしい。
そのほかにもクリスマス限定のドーナツやアイスクリームなど、12月24日限りのものをすべて楽しみたいとも言っていた。今年のクリスマスは仕事も早く終わることを知っていたため、プロデューサーも同行することとなったのだ。
とはいえ、予定に関係なく最初からあさひの中では「二人で行く」と決まっていたようなものだろうけれど。
「おぉー! ドーナツが光ってるっす! どうなってるんすか、これ!」
「光ってる部分は食べちゃだめだぞ」
「なーんだ、ただのライトっすか……あれ、じゃあどうやってつながってるんだろ……」
今日のプロデューサーは、聖夜に乗じて変な気を起こす輩とあさひが出くわすのを防ぐため、という意味の、ある意味保護者のような役回りを担っているともいえる。それに芹沢あさひという少女をよく知るためのいい機会ともいえるだろう。
それにイベントのある日にだれかと共に過ごすのは良い。特にあさひのような活発な人と一緒だと、自分も少し昔に戻ったような感覚になれる。
「食べてみればわかるんじゃないか?」
「それもそうっすね! プロデューサーさんも一緒に食べるっすよ!」
赤くコーティングされたドーナツを美味しそうに頬張るあさひ。プロデューサーが注文したのは同じく限定メニューの緑色で、ライトこそついていないがかわいらしいデコレーションが施されていた。
「じーっ……」
「……欲しいのか?」
「よくわかったっすね、欲しいっす!」
もぐもぐと食べながら送られる視線に気づいて、ドーナツを差し出す。まだ食べていない部分があさひの正面になるように渡したが――彼女はそんな意図には全く気付かず、食べかけの部分からぱくりといってしまった。
「はむっ」
「あっこら」
つい反射的に声が出る。
何かしたかと口を動かしながら見つめられ、言葉に詰まった。
「……うーん、まあ、気にしてないならいいか……」
「ふぁひはっふは?」
「食べてから喋ろうな」
元々自分のものを口に含んでいたのに急いで食べようとするものだから、あさひの頬はリスみたいに膨らんでいる。プロデューサーの言葉を受けて彼女は静かに頷くと、純真無垢な瞳でじっと見据えたまま、口をせわしなく動かして限定ドーナツを消化。それからごくん、とすべて飲み込んだ仕草をした。
「どうだ? 美味しいか?」
「二ついっぺんに食べたからよくわかんないっす」
「……もうちょっと食べるか?」
「いいんすか? じゃあ食べたいっす!」
そんな様子で、食べかけという事実など意にも介さず二つのドーナツを完食。休憩を挟むことなく二人は(主にあさひがプロデューサーの袖を引っ張りながら)次の目的地へと向かった。
「プロデューサーさん! これ、冬優子ちゃんが好きそうなブレスレットっす!」
「はは、ほんとだな。ん? いや待てこれは……どっちかというと愛依が好みそうじゃないか?」
「あぁ、確かにそうっすね。じゃあ冬優子ちゃんはこっちのよくわかんないやつ!」
「それは怒られると思うからやめ――もうレジに向かったか……」
目的地、といっても所詮はメインイベントまでの時間潰しでしかない。本命は巨大なクリスマスツリーの点灯する瞬間を見ることだ。それまでにはあと数時間の余裕があり、店内をぶらついた後に食事ができる程度にはゆっくりと過ごせそうだった。
「あはは、なんすかこれ? サンタコス水着……これって、水着なんすか? 冬なのに?」
「サンタとかクリスマスとか付ければ誰かしら買うからな……まあこれは趣味で買う人がいるんだろう」
「じゃあわたし欲しいっす!」
「あさひ! あっちで抽選くじやってるぞ! 行こう!」
「え、ほんとっすか!? 今行くっすよー!」
時間の消費の仕方は、普段と全く変わらない。あさひがあれこれ興味津々で食いついて、疑問や発見を生み出していって、プロデューサーが隣でそれを聞きながらたまにコメントをして――そんな、今年から始まった二人の日常だ。
「そういえば今日ってクリスマスなんすか? それともイブ?」
「あー、俺もたまに分からなくなるんだよな。イブって本当は、25日のことを指すらしいんだ」
「前の日って意味じゃないんすかね」
「まあ常用時はクリスマスの前夜ってことでもいいらしいぞ。だから一応、今日の夜はイブになるな」
「へぇー……あ! あれなんすか! 面白そうっす!」
「あれはケーキの試食会……お、おいあさひ! 服屋はよかったのかー!」
春に街中であさひを見つけた時のことを思い出す。あの時から今に至るまで様々なことがあった。
ストレイライトの結成、マジシャン探し、知恵の輪ほどき、夜のクワガタ、夢の中で小さくなるあさひ。
それ以外にも、他ユニットとの交流や感謝祭、数多くのライブなど、様々なイベントがあった。きっとプロデューサーが見ていないところでも、彼女は――芹沢あさひは、アイドルになってからたくさんの経験を積み重ねていることだろう。
今日の出来事も、彼女にとって大切な思い出となるのだろうか。
「へぇ、クイズゲームなんてやってるのか。紙にはなんて書いてある?」
「『てくちかにとかくにとくいちかめ』って書いてあるっす。なんなんすかね、これ」
「クイズっていうか暗号みたいだな……炙ったら文字が浮かんだりして」
「なるほど! プロデューサーさん、ライター買いに行くっすよ!」
「すまんあさひ、冗談! 冗談だから!」
特別な日であることを理由にいろいろな場所を訪れては、彼女の気の向くままに店内を散策し続けた。時間のことも忘れて歩き回ること約3時間。夕食を食べてもいい頃合いになり、二人は適当なファミレス――ではなく、あさひの要望で『とつぜんハンバーグ』にて立ち食いすることになった。
肉汁が熱に溶ける音と濃厚な香りが支配する空間に、カウンターテーブルに並んで立つ。店名のとおりふらりと立ち寄ってすぐに食べることのできる肉料理店だ。
「早く来ないかな~、楽しみっす!」
「……なんでこの店がいいんだ?」
スーツに料理の臭いが吸収されることを懸念しながら店内を見渡す。いかにも仕事帰りのサラリーマンたちが無心に肉を貪りつくしているが、あさひくらいの年齢――それも女性の姿はない。彼女があまりそういったことを気にしないのは知っている。しかし何故、今日という日に『とつぜんハンバーグ』なのだろうか。
「食べてみたいからっす」
あっけらかんとして答えられる。
「わたし、ここのハンバーグ食べてみたかったんすよ! でも冬優子ちゃんは嫌だって言うし、愛依ちゃんはあんまり美味しくないっていうんす」
「まあ、好みにもよるだろうなあ……」
「プロデューサーさんは来たことあるっすか?」
「一回だけな。肉が食べたいときには丁度いい店だと思うよ」
へー、と会話の区切りのように彼女は前を向く。
今時立ち食いをすることになるとは思ってもみなかったが、立ちながら食事をするのはあさひにとって新鮮だったようで、ぴょこぴょこと可愛らしく体を上下に揺すっている。厨房が見えるのもポイントが高いのだろう。
「良いにおいっすー!」
「口に合うといいな、あさひ」
「はいっす!」
その後彼女は目の前に置かれたハンバーグをあっさりと平らげ、「普通に美味しかったっす!」と会計時に告げて店を出た。普通に、は特に深い意味もなくその通りの言葉だと思う。
「お腹いっぱいになったっすよ、プロデューサーさん! 力がみなぎってくる感じっす」
「それはよかったな。けどあさひ、口にソースがついてるぞ」
「え? どこっすか?」
「そっち……あぁそっちじゃなくて。あー、ちょっと待ってくれ」
素手で口元の汚れを拭き取ろうとするのを制止してティッシュを取り出し、彼女の白い肌に優しくあてる。柔らかな感触の上をさっと拭き取ってやると、あさひは満足げに笑みを浮かべた。
「プロデューサーさん、ありがとっす」
「どういたしまして。さて、そろそろかな」
時刻を確認。もう少ししたら外に出てもいいころだ。メインイベントの接近に伴い、あさひ自身も期待値が高まってきているようで、ウキウキしているのが見た目からでもわかる。
その表情はどこまでも真っ直ぐで、魅力的で。
「……」
プロデューサーは、ふと天を仰いだ。屋内だから吹き抜けの先には天井があるのだが、見上げても視界が空に届かないことを少しだけ想う。彼女はこれから先、どこまで283プロダクションのアイドルとして活動を続けるのだろうか。
常に新しいことや好きなことを追い求め続ける姿には際限がない。今後も多くの疑問と発見を繰り返してあさひは成長を続けていくだろう。そんな得体の知れない才覚が、底の見えない可能性が、彼女の魅力なのだ。
「……っと、ちょっと考え事をしてたみたいだ」
はっとなって振り返ると、そこに少女の姿はなかった。
「……しまった」
どうやら感慨に耽っている間に見失ってしまったらしい。
時刻は18時40分。イルミネーションの点灯まであと20分だ。
そろそろ屋内を出て広場に向かい始めるべき時間帯だが、あさひとはぐれてしまった。今日一番の目的が疎かになっては意味がない。プロデューサーは近辺に彼女の姿がないか探し始める。
「おーいあさひー……どこに行ったんだ……?」
と、独り言をつぶやきながらもなんとなく見当はついていた。ひととおり周囲の確認を終えた彼は、フードコートを抜けて下の階に降り、そのまま外へ出る。待ち合わせ場所にしていた入り口には数時間前よりも人影が増えており、きらきらと光る夜景の中に未だ暗いままの場所があった。広場のクリスマスツリーだ。
駆け足で進んで広場の人混みへ。人混み、というには密度が若干薄いけれど、みんなが点灯する瞬間を見たくて集まっているのだけは間違いなかった。
「――あさひ!」
若干息を切らしながら声をかけると、最前列で口を開けて眺める少女がぴくりと反応して振り向いた。
「あ、プロデューサーさん! 遅いっすよ!」
「すまん! はぐれたのに気付かなかった」
「はぐれた? 何の話っすか?」
「あー……いや、なんでもないよ。イルミネーション楽しみだな」
「はいっす!」
おおよそ、呆けている間に「先に行くっすよ!」などと言われていたに違いない。なんにせよ合流できたのだから一安心だ。
「……大きいっすね」
そびえ立つ一本の木を見上げて、あさひが息を漏らす。言葉通り本当に大きなクリスマスツリーだ。
無数のライトが線で繋がれて飾られ、頂点には金色に輝く星が君臨している。クリスマスカラーの赤によく似合う緑色の、あさひやプロデューサーの何倍もある大きさだった。
「光ったら、すごく綺麗なんだろうな」
「プロデューサーさん見たことないんすか?」
「あんまりこういうの、見ようと思わないからなあ」
「じゃあ今日はいーっぱい見るっすよ!」
「……そうだな」
がやがやと響く街の喧騒。雑踏に揉まれて時を待つ。
穏やかな時間。今か今かと待ち望んでいる傍らの少女と、聖なる夜に光を見るというなんとも幸せな時間。たまにはこんな過ごし方もいいものだと息を吐くと、あさひがはたと瞳の色を変え動きを止めた。
「……プロデューサーさんって、サンタさんを信じるっすか?」
「え、サンタ? あー……うーん」
一瞬返答に困った。質問の意図が読めない。
「……あさひは、どうだ?」
「わたしは信じてるっす。毎年、プレゼントをくれるんすよ」
でも、と付け加える。
「サンタさんって誰なんすかね。毎年正体を見ようと思ってるんすけど……」
なんとなく察した。
サンタクロースの正体を暴くために毎年夜更かしするあさひの姿が目に浮かぶようだ。ワクワクしながら起きていられるように目を見開いて待って、眠気に負けて熟睡して――或いは、翌朝にサンタを探しに外へ飛び出していたのかもしれない。
想像すると非常に彼女らしいというべきか、活発に雪景色の中を走り回る様子を思い描くことができた。
「……はは」
「なんすか?」
「いや……今年はサンタの正体、掴めそうか?」
「今年こそは絶対に見つけるつもりっす! 今夜は寝ないっすよー!」
「そこはちゃんと寝てほしいところだけどな」
「――あ!」
苦笑していると、あさひがプロデューサーに手を伸ばしてくる。肩あたりの服を掴んで反対の手で正面を向くよう指差してくる彼女の眼はこれ以上ないくらいキラキラ輝いていた。
誘導されるがままに前を向く。ぽつり、ぽつりと木に光が灯り始めている。
「お」
「おぉ――!」
隣から感嘆の声が聞こえ、それを合図にするかのようにイルミネーションが一斉に輝きを放った。赤、黄、青、紫、橙――カラフルに彩られたラインが一息に色を持ち、あたりが瞬時に彩られていく。暗闇を照らす冬の光が眼前に繰り広げられ、思わず息を呑んだ。
綺麗だ、とても。
「圧巻だな……」
見上げるほど大きな存在が一瞬で輝きをもつ。それは筆舌に尽くしがたいほどの迫力を持ち併せて、我こそが主役だといわんばかりに冬景色の中央に君臨していた。
頂上の星が煌めく。まるで夜空に浮かぶ一等星のように。
「……まぶしいっす」
「さすがにこの量はまぶしいな……と、そうだ」
鞄の中を探って目当てのものを取り出す。それは赤い袋に包まれた物体で、先ほどあさひを探している道中で目に付いたから購入したものだった。袋の数は二つ、柔らかい大きめのものと、固くて小さいものだ。
「はい、あさひ」
「……? なんすか、これ?」
言われて彼女はキョトン、と目を丸くした。袋を素手で受け取って、不思議そうに見つめては頭上に「?」を浮かべている。
「メリークリスマス、だな。いつも頑張ってるから、俺からのプレゼントだ」
「プレゼント……?」
目をぱちぱちさせながら袋を開けた中から出てきたのはマフラーとブレスレット。どちらも包まれていた袋よりも赤く、強い色をもっている。
「プロデューサーさん、これ」
「冬優子と愛依のぶんは買ってたけど、自分のは買ってなかっただろ、ブレスレット。折角だしお揃いのほうがいいかと思ってさ。マフラーは……雪掴むなら、もうちょっと暖かい格好しような」
「――……プロデューサーさん……!」
一気に今まで以上に明るくなる表情をみて安心。喜んでもらえたらしい。
彼女はさっそく腕にブレスレットをはめ、首にマフラーを巻き付けてにぱっと笑顔になる。それは今にも飛び跳ねそうなほど上機嫌な表情で、見ているだけで心が和やかになるくらい純真で。
「プロデューサーさんが、サンタさんだったんすね……!」
「え?」
全然想定していないコメントが飛んできた。
「だって、こんなにキラキラしてるとこで、プレゼント渡してくれて……! 今、すっごく嬉しいんすよ! なんか、なんていえばいいかわからないっすけど……とにかく、嬉しいっす!」
「そ、そうか、よかったな。俺も準備した甲斐があったよ」
悩んでるうちに時間なくなっちゃって、急ごしらえみたいになったけど――というのはさすがに避けた。無粋だろう。
「どうだ? いいクリスマスになりそうか?」
「はいっす! サンタさんのおかげで……最高に、わくわくっす!」
「はは、やっぱり俺はサンタクロースなんだな」
色鮮やかに光り続けるクリスマスツリーの横、降り始めた雪が新たな色を天から運んできた。微かな冷気と風が街を駆け巡り、ぽつぽつと降り注ぐ白が冬らしさを醸し出す。
降雪に気づいたあさひが空に手を伸ばし、手中に舞い降りた雪の欠片を掴んだ。
「あははー! 冷たいっすね!」
「そりゃそうだ」
「でも」
言葉を遮って、首元のマフラーをもって。
もう一度屈託のない笑みを浮かべて、あさひは冬景色の中、幸せそうな声をこぼした。
「あったかいっすよ、プロデューサーさん」
◇
おはよっす! ……なんすか、それ?
おはようあさひ。見ての通り、パソコンでみんなのスケジュール表作りだよ。
ふーん……面白そうっすね。
見るか? キーボードたたいてるだけだけど。
もちろんっす!
……あ、そういえばこの前のクイズ、答え分かったか?
わからないんすよー。昨日の夜も考えてたんすけど――あ、プロデューサーさん、ちょっと手をどかしてほしいっす。
え? あ、はい。
……て、く、ち、か、に…………。あー! わかったっすー!
ほ、本当か! 答えはなんだ?
答えはっすね! ……。…………、いや、やめとくっす。
えっ!? なんで!?
なんでもないっす! わからないっすよ!
おーいあさひ! 待ってくれ! というかどこに行くんだ!
あははー! 楽しいっすねー!