その日、すべてが消えた。
家族も、友達も、町のみんなも、町そのものも消えた。代わりにあるのはすべてを壊しつくした、あおやあかの色をした人形たち。そいつらはすべて、俺を見てあざ笑うかのように囲んでくる。
俺の腕の中には、さっきまで起きていたはずの弟や妹たち。目の前に倒れているのは、俺をかばったはずの親父。あんなにも強かった親父が、あの人形の一撃で倒れている。残されたのはたった一人、無傷の俺。
「(俺、どうなるんだろ)」
それしか考えられなかった。怒りより、恐怖心が勝っている。ただ何をすることもできない、無力の俺は、次どうなるんだろう。ただただ、それだけが頭の中に浮かぶ。
目の前のあかい人形が、ついに俺に向かって腕を振り上げる。ようやく終わるらしい、あの手にしている刃か何かで真っ二つにされるのか、つぶされるのか。目を閉じてそれを受け入れようとした時。
「───オーバードライブ」
聞いたこともない声が確かに俺の耳に届いた。俺に来るはずだった衝撃もない。恐る恐る目を開けると、そこには緑色をした誰かだけが立っていた。その人は俺を見ることなく、武器を構えなおして大群の人形たちの中へ突っ込んでいく。
その緑色がひとつ流れるたびに、人形たちは次々に消えていく。まるで流星が空に降る様に、緑色の星がひとつの線を描いて人形たちを消していく。緑色の軌跡は流れた後も消えることなく、その場に痕跡が残り続ける。あれだけ大群だったの人形たちがウソのように、緑色の星によってきれいさっぱり消えていた。
「あれ、もう終わり?」
ふいに後ろから聞こえてきた別の誰かの声で我に返る。勢いよく振り返れば、そこには小さい女の子が、きょとんとした顔で立っていた。見た目はなんてことはない普通の女の子だけど、こいつはそうじゃない。
「またねぇ」
無邪気にそういうと、そいつは跡形もなく消えていた。緑色の星も、いつの間にかいなくなっている。最後に残されたのは、ひとりきりなった俺。今の俺に残されていたのは、この体と親父が使っていた大きなパルチザン。そして────
底なしの、復讐心。
◇
あの光景から夜が明けて、朝が来た。どうにか動くようになった体に鞭打って、俺は町がどうなってしまったのかを改めて見ることにする。
まず最初に視界に入ってきたのは、そこかしこに転がっているかつての町の仲間たちだったもの。みんなひどい有様でさらされていた。近寄って声をかけても、動く気配はなく、ほんとうに死んでしまったんだといやでも現実を突きつけられる。中にはものすごい形相で死んでしまった人もいて、どうやっても目を合わせることができず、思わず目をそらした。これ以上仲間たちを見るのはやめておこう。
次に見えたのは、かつての遊び場だった公園。ここでみんなと日が暮れるまで遊びつくして、帰るころにはヘロヘロになってたっけな。いまはもうそんなこともできないくらい、ぐちゃぐちゃになっていた。あれだけ上ったタワー遊具も、面影が残ってないほどひしゃげている。本当なら今頃、朝飯食ってすぐに出かけて、ここで遊んでたんだよな。思わず手を握り締める力が強くなる。
そういえば、こうなってしまった俺はどこに行けばいいんだろうか。助けを呼ぶにも、もともとこの田舎町だったこの場所に人なんて来るんだろうか。というかそもそも認知しているんだろうか。なんか助けてくれそうな人たちってのは。まあそれこそ親父が言っていたアークスという連中なんだろうけど、それはさて置いといて。
幸いにも町の少し外れに、非常用に隠されていた食糧庫があったので、当面の食い物には困らなかった。問題はこの食料が尽きるまでに、ひとりでも助けが来るかどうか。来ない確率のほうが高いんだよな、親父が「大都市からはかなり離れているからな、この町は」なんて言ってたっけ。
もし来なかったら? その時はまぁ……
「……って、パルチザンあるんだった」
ふと、今手にしている武器を見る。そうだ、食料が尽きても俺にはこの親父の武器であるパルチザンがある。もっとも、形見にはなっちまったけど、使わないよりはましだ。いざとなればこれを使って、外を飛び跳ねてるウサギ的なやつをとってくればいい。そんで焼いて食えばいい。火の起こし方なら知っている。さんざん母さんに叩き込まれたから。まさかこんな形で実践することになるなんて思わなかったけど。
「もしかして意外とどうにかなる……?」
と、口にこぼしていたけどすぐに頭を振って、その考えを消す。何があるかわからないんだから、今のうちにパルチザンで敵を倒す練習でもしないと。助けがいつ来るかわからない、もしかしたらまたあの人形たちが来るかもしれない。そいつらを倒すためにも、強くならないと。そうだ、あいつらをぶっ潰すためにも。あの───クソ野郎どもを、殺すためにも。
「……練習、しとこう」
パルチザンを改めて手に持ちまずは1回振り回す。瞬間、あらぬ方向へ体が引っ張られた。
「のわっ!?」
ずしん、とパルチザンが地面に落ちる音がして、俺も地面に転がる。
「いっててて……」
擦りむいた、完全に擦りむいた。めっちゃくちゃ痛い。そんでもってパルチザンめっちゃ重い。なんでこんなに重いんだこれ。よく親父ぶんぶん振り回せてたな!? 軽そうだと思ってたのに、こんなにも重たかったのか。
「でも、まだまだぁ……というか、これしか武器ないから頑張らないと……」
と、パルチザンを握ったとき、ふいに視界の端に何かが飛び跳ねているのが見えた。そいつは俺のほうへじっと視線をよこしているみたいだった。たしかあれって、母さんが言ってたサニィってやつだったはず。
「チャンス……」
パルチザンを引っこ抜いて、サニィに近づく。俺に視線をよこした後は、興味をなくしたのかすぐに別の方向を見ていたので、今がこのタイミング。音をなるべく立てないように近づいて、目を閉じた俺は思いっきりパルチザンを渾身の力で振り回した。
「でぇいっ」
ずどん、という大きな音が鳴る。恐る恐る目を開ければ、最初に見えた光景は地面に向かって突き刺さったパルチザンの姿。そこにいたはずのサニィはいつの間にか逃げていたらしく、どこにもその姿はなかった。つまりは俺は最高のチャンスを逃したらしい。
「嘘だろぉ~……」
がっくりとうなだれる。うなだれたくもなる。だって最高のタイミングを、盛大な空振りで台無しにしたんだから。これに関しては本当に俺自身のせいだから誰も責めることはできない。こうなったらもう、とことん練習するしかない。
「やってやる、絶対やってやる」
気持ちを確かに、俺はまたパルチザンを構えなおして振り回し始める。
◇
もうどれだけの日がたったんだろうか。相変わらず助けという助けは来ていない。それどころかそろそろ食料も底をつきそうだ。あれだけあったはずなのにどうしてだろう。答えは簡単だ、俺は究極の腹減らしだからだ。パン1つ、肉1つで満足するはずがない。どれだけ食っても腹は満たされない。むしろ、食えば食うほど腹が減る。そんな調子で食い続けていたら、見事に底をつきそうになっている、というわけだ。
そんでもってパルチザンの腕は上達したかといわれるとそんなわけもなく。どうやってもあらぬ方向に振り回されるだけだ。せっかく食料になりそうなやつも来るには来るんだけども、結果はお察しの通り。すべてが空振り。運よく当たったとしても、倒しきれずに逃げられる。つまりは収穫0。ないない尽くしだ。
「……さすがにもう無理」
立つこともままならなくなり、その場に倒れる。指はしびれてきたし、目の前はぐらぐら揺れている。ずきずきと頭も痛み出してきた。さすがにもう、体が終わろうとしている。
結局何もできずに終わるみたいだ。命を助けてもらったのに、親父のパルチザンを使ってたのに、食料だってあんなにあったのに。全部何もできずに終わる。復讐するって決めたのに。始めることすらできていない。
「ごめん、みんな……」
急激な眠気に耐え切れず、俺は目を閉じた。
◇
「───新種?」
「明らかに発見されたダークファルスとは全く違うシロモノでしたね」
「そうか……して、それと交戦したのはどこだ」
「北エアリオらへんですよ」
「わかった。今からその場を見てこよう。なにかしらの痕跡が残されているかもしれん」
セントラルシティ、指令室。つい先ほど帰ってきた一番弟子から、気になる情報をもらう。この一番弟子が持ってくる情報はいつも正確なので、私自身も頼りにしている部分がある。そうと決まれば早速外に出ようとした矢先、一番弟子がとんでもない爆弾発言を落としてくる。
「あと、
それを早くいえ、
「目が光る少年、ですか? いいえ、直近ではそもそも子供が運び込まれたことはないですね」
セントラルシティのメディカルセンターにまず問い合わせたところ、そんな答えが返ってきた。運び込まれていない、ということは例の子供は今どこにいるのだ? ウィリディスがああいっていたことだから、十中八九生きてはいるのだろうが。どちらにせよ、例のその場所に行く予定ではあったから、そのついでに子供も探してみることにする。もし別の場所で治療などを受けていたとしたら、その子供から状況などを詳しく聞き出せるやもしれない。端末でワールドマップを開き、例の場所の近くのリューカーデバイスにワープした。
降り立った先はたしかに酷い有様だった。例の場所───田舎町に近づけば近づくほど、あたりの建物が破壊しつくされた跡が増えていく。
「これは……ひどいな」
ついにたどり着いた田舎町は、目も当てられない状況だった。壊された住居、そこら中に転がっている死体。すべてウィリディスが言っていた新種のダークファルスがやりつくした後だろう。静かに手を合わせ、しばらく黙祷する。おそらくシティからかなり離れた場所にあるからだろう、救難信号が間に合わなかったかもしれない。もしくはまた別の理由があったのか。今ではもう推測することなど余計でしかないが。
黙祷を終え、町の跡地の調査に乗り出す。なにかしらの手がかりの発見と、子供の捜索。どちらかでもつかめれば今日は戻るとしよう。できれば子供を見つけておきたいところなのだが。
「う……」
ふと、どこからかうめき声が聞こえた。その声のもとを慎重に探していく。まだ息があるかもしれない、急いで見つけてメディカルセンターへ送らなければ。
「誰かいるのか、聞こえているか」
少し声を張り上げて言えば、またうめき声が聞こえた。さっと聞こえた場所のほうへ向かうと、そこには1人の子供が倒れていた。すぐに駆け寄り、子供に声をかける。
「大丈夫か、私の声がわかるか」
懸命に声をかければ、子供はわずかながらに目を開ける。そこから現れた瞳に、思わず息をのむ。
「……あー、くすの、ひと?」
子供の右目に宿っていた瞳は、まるで宝石のように輝いており、見るものすべてを黙らせるような、そんな美しさがあった。しかしその瞳は今にも消えてしまいそうなほど揺らめいており、私はすぐに端末を開いて、通信をセントラルシティのメディカルセンターへつなげる。
『はい、こちらメディカルセンターです』
「私だ。急患少年1名。重篤な生命危機にある。そちらへ向かう」
『了解。すぐに準備します』
通信を終えると、すぐさまワールドマップを開き、子供を抱えたままシティへとテレポートした。
◇
シティのメディカルセンターに子供を送り届けた後、軽い報告のために指令室へと戻る。その途中、珍しく向こうから声をかけられた。ほかでもないウィリディスだ。
「どうでした」
「たったひとりだけ生存者がいたのでな。メディカルセンターでいま治療を受けさせている」
お前の言っていた少年だったぞ、といえば、ウィリディスは表情一つかえずにやっぱり、とぼそりとつぶやく。
「にしても情報がシティまで届いていないとはな。何かの理由があったのか」
そう、そこが今非常に気になっている点だ。どんなに救難信号が壊れたとしても、シティが生存者の反応を感知すれば、近くのアークスがその場所に駆け付けるシステムになっている。だというのに先ほどの子供は何日もあの場所にいたらしい。少しばかりメディカルセンターの担当者に聞いたが、数日間栄養失調が続いていた状態だと。本来ならばそうなる前に回収されるはずなのだが、いったいなぜ?
「……」
「多分、考えてても出てこないですよ、
ウィリディスから名前を呼ばれ、は、と我に返る。たしかにここで考えていても答えは出てこない。となると、今やるべきことはひとつ。
「あの少年の回復を待つか……」
少しため息をつくと、指令室へと足を進めることにした。
◇
ふわふわ浮いている感覚がする。そのふわふわはちょっとしたらなくなって、代わりに体に重しみたいなものがのしかかる。なんだろう、体が重たくて思うように動けない。でもそれだけじゃなくて、なんだかまぶしい気もする。なんだこれ、変な感覚だ。
「ん-……」
ぐぅっと目を開けてみる。目の前はぐんにゃり曲がっていたけど、しばらくしたらはっきりと物が見えるようになった。まず確認できたのは真っ白い天井だか壁だか。次にきょろきょろと眼を動かしたら、なんだかカーテンのようなもので仕切られているのが分かった。てことは俺がついさっき見たのは、真っ白い天井。ここはどこだろう。さっきまで俺何してたんだっけか。
「あ、起きました? おはようございます」
「うぇ?」
しゃっとカーテンを開けて入ってきたのは、見たこともない人。誰だろうこの人、見たことない服着てる。その人は少し笑ってまた話し出す。
「まだ混乱してますかね。大丈夫です。ここはセントラルシティのメディカルセンターですよ。あなたはここに運び込まれました」
セントラルシティ、確か聞いたことがあるような。だけど寝起きだからか、あまりうまく思い出せない。
「本当にすんでのところでした。レイジさんが発見してなかったら今頃……」
そこまで言うと、その人は口を閉じた。何かあったのかな。
「とにかく、しばらく安静にしててくださいね。1週間眠ったまんまだったんですから」
それだけいうと、その人は別の場所へ行ってしまった。1週間、1週間かぁ……1週間? 俺そんな長い時間寝てたの? ぐっすり寝てたんだぁなんて思っていたら、また別の人がカーテンを開けて入ってきた。今度の人はなんというかデカかった。確か、こういう人のことをキャストとか言ってたっけな、母さんに教えてもらったっけ。町にはいなかったけど。
「目を覚ましたか、少年」
なんかすっごいかっこいいなこの人。開口一番目を覚ましたか少年って、俺も言ってみてぇ。
「君には聞いておきたいことがあってな。今話せるか」
その人がそういうので、俺はどうにかして起き上がれるか試す。けど、起き上がろうとしたときに、あまりの痛さが襲い掛かってきたので、結局元に戻る。その人は無理に起き上がらなくていい、話せればいい、って言ってくれたので、声を出してみる。
「たぶん、だいじょうぶでず」
「大丈夫じゃないな、水を持ってこさせよう」
思った以上に喉はガラガラだった。聞いたこともないひっどい声が自分から出てきてびっくりしている。その人はセンターの人からストローのついた水を受け取ると、俺に差し出してくる。飲めばいいのかな。
「さて改めて、話せるか」
ごくんと水を飲み干すと、また俺は声を出す。
「大丈夫です、たぶん」
「今度はいけそうだな」
その人は椅子に座ると、俺に向かって話し始めた。
「まずは名乗らせていただこう。私はレイジ。アークスだ。君を発見したので、ここまで運ばせてもらった。君の名を聞いてもよいか」
その人───レイジさんがそういうので、俺も自分の名前を名乗る。
「ウィキッド。ウィキッド・ソーンって言います」
「ふむ。ではウィキッド。私は今から君に酷な質問をする。覚悟はいいか」
瞬間、俺は察した。レイジさんはあの日について聞こうとしている。確かに思い出すだけでも正直つらい。目の前で死んでいく町の人たち、家族、友達。できれば二度と見たくないし、思い出したくもない。でも、言わないと伝わんないだろうし、知ってもらえない。あの時、何があったのか。何も言わずにぎっとレイジさんをにらみつけるようにまっすぐ見ると、レイジさんはどこかわかったようにまた話し出す。
「あの日。君は何を見た? なんでもいい、話せる範囲で聞かせてくれ」
俺は話した。突然人形みたいなあかとあおが町にやってきたこと。そいつらが家族も友達もみんな殺していったこと。けど、緑色の星がその人形たちを全部消したこと。そして、最後に出てきた子供みたいなやばいやつのこと。話せるだけ全部を話した。その間、ずっと頭の中が痛かったけど、それをこらえて全部話した。とにかく知ってほしかった。何があったのか、何がいたのか。そして俺も知りたかった。そいつらが何なのか、緑色の星は一体何だったのか。
「……成程、そうだったのか」
レイジさんは考え込むようにして黙る。その時間がしばらく続いた後に、またレイジさんは話し出す。
「状況は理解した。君の勇気ある行動に感謝したい。そして私からも君の疑問に答えを持つものがある」
「答え?」
いったい何だろう。レイジさんの答えを待つ。
「君がその日見た緑色の流星……間違いなく私の一番弟子だ」
「……へ」
まったくあいつは、なんてレイジさんは言ってるけど、俺は突然の爆弾に頭が追い付かないでいる、あの流れ星がレイジさんの一番弟子? わぁ~世界って狭いなぁ~じゃないが? 意外な場所にいたんだけど、俺の中の英雄が。
「……まあ、話を変えよう。当たり前のことを聞くようだが、君は、やつらが憎いか」
その一言に、俺は全身の毛が一気に逆立つのを感じた。当たり前だ、憎いに決まっている。この世の何よりも、あいつらが憎い。それ以外に何があるってんだ。
「ならば、アークスになる、というのはどうだ。試験は必要だが、私のもとへ来れば十二分に戦えるように鍛え上げてやる。君からすべてを奪っていった、あのドールズたちを消し去ってやろう」
まず耳を疑った。この人何を言ってんだ。俺パルチザンすらまともに振り回せないんだぞ。あてられたとしても逃げられるんだぞ。そんな調子なのに俺がアークス? 冗談じゃない。絶対に無理だ。
「俺パルチザンすらまともに扱えないんだぞ、どうやって倒せるようになるってんだよ……」
絞り出すように出てきた言葉は、確かにレイジさんの耳に届いたらしく、返事を返してくる。
「それはそうだ。君のその体格では、パルチザンを振り回すのはそれは難しいだろう。だからこそそれも含めて私の下で、修行を積まないか。必ずアークスとしても大成する」
そこまで言われると、さすがに断るのは失礼な気がしてきた。俺はどうにか腕を動かして、手をレイジさんに向ける。
「じゃあ、よろしくお願いします……
そういうと、レイジさん───師匠は少し間を開けたのちに、俺の手を握り返した。
◇
しばらくの入院生活を終えて、どうにか復活。嘘みたいに体が軽いや。メディカルセンターを出て、入院中にもらったメールの通りにとある場所へ行きつくと、レイジ師匠がそこにいた。まるでずっとそこで待っていたかのようだ。師匠は俺を見つけると、無事退院できて何よりだと言ってくる。
「ところで、今から何を?」
そう聞けば、師匠は何も言わずに、俺の目の前にあるものを差し出してくる。
「これは……」
「バレットボウだ。お前の体格を考えたとき、これが一番いいのではないかと思ってな」
少なくとも、パルチザンのように振り回されることはないだろう、と付け加えると、す、と師匠は遠くにいるサニィを指さした。
「まずは試しに、あの離れた場所にいるサニィを撃ってみるといい」
それだけ言うと、師匠はその場から少し離れる。これはマジでやるしかなさそうだ、と理解したので、静かにバレットボウを構える。目標は遠く離れたあのサニィ。集中しろ、見えるのは1匹だ。そいつだけを見るんだ。確実に、
「そいっ」
一気に引き絞った矢を放つ。矢はまっすぐに飛んでいき、バシン、と音が鳴ったと同時にサニィは見事に崩れ落ちていった。まずは1匹、倒すことができた。
「では、次はあの場所にいるリザド・フレイたちだ。すべてを倒してみろ」
師匠は間髪入れずに別の方角を指さす。そこには確かに群れているりざどふれい?ってやつがいた。続けて弓を構える。
「確実に……仕留めるポイントを狙って……」
リザド・フレイたちに向けて矢を引き絞る。見ろ、相手の弱点を。お前には見えるだろうウィキッド。そうだ、見るんだ。たった一撃で倒せる弱点を見るんだ。見えろ、見ろ、見るんだウィキッド。ほら見えただろう、
「せいっ」
バシュン、と音が鳴ったと同時に、群れていたリザド・フレイたちは跡形もなく消えていた。全部倒したみたいだ。ふう、と思わず息をつく。瞬間。
「あっっづ!」
急に右目だけが尋常じゃなく熱くなる。なんか肉焼けたみたいな音したけど大丈夫かこれ!? いや大丈夫じゃないなあっつい! 痛いし熱いしなんだこれ!?
「ウィキッド、大丈夫か」
「大丈夫じゃないです……あっつい」
「待っていろ、冷やすものを出す」
熱がる俺に、師匠はどこからともなく氷嚢を取り出して、俺の右目にあてる。じゅわじゅわ冷えて行ってきもちがいい。しばらくそうやっているとどうにか落ち着いてきたので氷嚢を外す。だけど師匠がそれを止めたので、氷嚢をつけたまま師匠の話を聞くことにする。
「いったいどうした。というよりお前のその右目には何が見えていた?」
「えっと……なんか、よくわかんないんですけど、集中したら見えたんですよ。なんていうかその、一撃必殺ポイントてきなやつ」
「……つまりはあれか、敵の急所が透けて見える、とかそんな感じか」
「たぶんそれであってます、ハイ」
そこまで言うと、師匠は何かを考えるようなしぐさをする。そしてまた話し出す。
「……しばらくその目も練習する必要がありそうだな」
「へっ。あの、俺この目のことマジでなんもわかんないですよ。いいんですか」
「それの調査も含めてだ。狙撃の筋もいいし、猶更鍛えるからな」
「え、ええ……?」
その後。宣言通り師匠のスパルタ修業が始まったわけだけれども。あんなにもへぼかった俺は、そのスパルタ修行のおかげで格段に戦えるようになった。そしてついにアークスとしての試験を通って、正式にアークスに任命されることになった。
「アークス、ウィキッド・ソーン。任務を開始します」
今日も俺の右目は輝いている。あの日すべてを奪った連中に復讐するために。そして───
もう一度、あの
終
ウィキッド・ソーン ♂ 18
種族:ヒューマン
クラス:ブレイバー(レンジャー)
メインウェポン:バレットボウ
所属:セントラルシティアークス
レイジ ♂ ?
種族:キャスト
クラス:レンジャー(ファイター)
メインウェポン:ランチャー
所属:セントラルシティアークス……?