「第二章 この六花の少女にお話を!」
「……では行くぞ。いいか、アイリス様の相手は私がするから、お前達は飯でも食って適当に相槌しろ、良いか?」
言いながら、ダクネスが先頭に立ち扉を開けた。
そこは広く、そして派手過ぎないながらも高級感が醸し出されていた。
そして数名の使用人が、テーブルを遠巻きに囲み無言で待機している。
真っ赤な絨毯が敷かれたその部屋には、大きなテーブルの上に色とりどりなご馳走が並べられ、テーブルの奥に純白のドレスを着た少女が座っていた。
その少女の両隣には、二人の若い女性が立つ。
「お待たせしましたアイリス様。こちらが我が友人であり冒険仲間でもあります、佐藤和真とその一行です。さぁ三人とも、こちらのお方がこの国の第一王女、アイリス様です。失礼のないご挨拶を……。」
そう言って俺達に、真ん中の少女を手で指した。
それはまさしくお姫様と言えばこういうの……と、いわんばかりの少女だった。
にしても、本当に12歳だよな………12歳にしては、気品が感じられる。
そんな物珍しいものを見て、感動していた俺の隣で、クリスがドレスの端を軽く摘み、完璧な作法と仕草で一礼した。
「盗賊を務めている、クリスと申します。どうかお見知りおきを………。」
………なんか、何時ものクリスから感じられない"何か"があるな。
やっぱり腐っても女神だったか、最近は酒ばかり飲んだくれていたからな、女神だと言う事の再確認になった。
___と、王女様を見ると、意外そうな顔をしていた。
やっぱり、冒険者と言うともっとこう荒いイメージなのだろうか。
そんな俺の視線に気付いた王女様、お付きの白スーツの女性に俺を見ながら耳打ちした。
恥ずかしがり屋さんなのだろうか。
「下賤の者、王族をあまりその様な目で不躾に見るのではありません。本来ならば身分の違いから、同じテーブルで食事をする事も直接姿を見ることも叶わないのです。早く挨拶と冒険譚を。………こう仰せだ。」
白スーツのその言葉に、俺は動きを止める。
成る程、ダクネスの親父さんで、貴族に少し親しみを持っていたが………やはり本来は王族というのはこういうもんなんだろう。
あの一瞬で全てを理解した俺は、夢に見た妹像を捨て一言。
「チェンジ。」
「アイリス様、少々お待ち下さいませ!」
俺はダクネスに思いっ切り頭を殴られ、腕を掴まれ広間の隅へと引っ張られた。
「貴様と言う奴は!貴様と言う奴は!チェンジとはどういう事だっ!それに、何だか最近のお前は私の知ってる和真ではないぞッ!?」
首を締めてくるダクネスに対し、俺は三つ編みを引っ張って抵抗する。
「お前どういう事もなにも、全然期待してたもんと違うじゃねーか!それに、元々最近の俺が素の俺だ!!」
そんな争いをしている俺達を尻目に、めぐみんが自己紹介していた。
「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、爆裂魔法を操る者……!以後、お見知りおきを。」
そんな真面目なんだかふざけてるんだが分からない自己紹介をすると、隣にいたクリスが何か取り出していた。
あれは………何時ぞやの変身タガー?
「おいダクネス、早速何か始めてるが……大丈夫なのか?」
俺の指す先では、クリスが一本のタガーを丁寧に分解していき、組み立てている。
そしてあっという間に完成したのは、かなり完成度の高い精度で作られた人形。
「こちら、お近付きの印として作りました、アイリス様に変身するタガーです……。」
それを受け取り、凄く目がキラキラしている王女様。
そんな微笑ましい光景を見ていためぐみんが、何かに気付き王女へ手を伸ばす。
「おや?口元にソースが付いてますよ、どれ、拭いてあげましょう。」
そう言って口元を袖で拭うと、めぐみんはやっちまったと言う顔をして一瞬止まり、こちらに振り返る。
………多分妹味を感じたんだろう、こめっこにやる様な感じだ。
「も、申し訳ありませんアイリス様!!なんと言うかこの三人は、別に悪い奴ではないんですか………!」
必死にそんな事を言い募る中、アイリス様が白スーツに耳打ちする。
「別に怒ってなどありません。これ程までに見事な完成度の人形、それにそちらの紅魔族も善意でやってくれたのでしょう。特に聞いしていません………と、仰せだ。」
白スーツがそう言い、ダクネスは安堵の息を漏らす。
恥ずかしそうに俯いたダクネスが、頬を赤らめながら王女様の右隣の席へと着く。
俺は王女様に手招きされ、左隣に座る様指示された。
「貴方が、魔剣の勇者御剣の話していた人ね?さぁ聞かせて、貴方の話を………と、仰せだ。私も気になっている、あの御剣殿が一目置く貴方の話を。」
へぇー、ミラルギってそんなに有名なのか。
ていうかあいつ俺の事を何て言ったんだろう………あんまり期待されると、こう心が落ち着けないんだが………。
「そこで俺は、機転を利かして罠を張った訳です。あえて封印を解き、その中にシルビアを閉じ込めるためにね!」
「凄いわ!これまでに色んな冒険譚を聞きましたが、こんなにハラハラドキドキした話は初めてです!………と、仰せだ。」
俺の冒険譚を、王女様は子供の様に目を輝かせて聞いていた………まぁ実際子供だしね。
身分の高い人が俺の話を期待しながら聞いている、そんな状況に俺も多少なりとも気が大きくなるのは仕方がない。
「………ねぇ、ねぇめぐみん。あの男、どうする?」
テーブルの斜め向かいから聞こえてくるクリスのヒソヒソ声。
俺はそんな声は気にせず話を続けた。
「それはですね王女様。俺は常に格上の相手に挑む為、確実がない、これが他の冒険譚との違いですね。」
「素晴らしいわ!貴方は日々上を目指しているとの事ですが、日頃どのような生活を……?と仰せだ。」
感心している王女様と、白スーツに。
「そうですね……。日頃は昼間はあえて屋敷で身を休め、ギルド直接からの依頼をこなす為、あまり日中は外へ出ません。しかし夕方暗くなる頃、人知れずこっそり街の中を巡回し、治安維持のお手伝いをさせて頂いております。」
俺は豪勢な料理にはあまり手は付けず、飲み物だけを口に運びながら説明していた。
テーブルの向かいから、クリスに続きめぐみんの小さな囁きが聞こえてくる。
「クリス、あの男どうします?あんな大見栄切る和真は初めて見ました。」
「え?いや前もめぐみんに対して貼ってた気が………。」
とここでまさかのカミングアウト。
あの日の夜の話の真実が、まさかこんな所で明かされる事になるとは……。
そういや一人喋ってない奴がいるな。
ダクネスの方を見ると、クリスとめぐみんに三つ編みを揉み揉みされ、恥ずかしそうに俯いていた。
「貴方はとても変わった冒険者ですね。冒険者になる前は、一体どんなお仕事をしていたのですか?と、仰せだ。」
前の仕事、か……。
俺は日本での暮らしを懐かしくも振り返りながら。
「この国に来る前は、家族を守る仕事をしていました。日々黙々と腕を磨きながら、襲い来る厄災から大切なその場所を守り………それでいて、誰にも理解されず、評価もされない悲しい仕事をしてましたね。」
そんな俺の言葉を受け。
「それは………首都のお城を守る様な仕事でしょうか?彼等と、日頃はあまり評価されないのですよ、それだけ平和だという証拠なのに…。」
その白スーツの言葉に、俺は深く頷いた。
後ろから冷たい目を受けながらも、俺は振り返らない、過去は見ない男なのだ。
それは、皆がほどよく食し、歓談も一通り終わった頃。
調子に乗ってペラペラ喋っていた俺に、白スーツが突然言ってきた。
「まさかあの魔剣の勇者、御剣殿に勝った事があるとは………。無礼だとは思いますが、和真殿の冒険者カードを拝見させてはもらえないでしょうか?」
それはとんでもない事を。
俺の持つ冒険者カードを見せられる訳がない、どこでリッチーのスキルなんて覚えたんだと聞かれれば本気で不味い。
そんな俺の焦りを察したダクネスが。
「えーと……実はその男は最弱職と呼ばれるクラス、冒険者なのです。その事を知られるのが恥ずかしかったのでしょう。どうかカードを見るのは勘弁してやっては頂けないでしょうか?」
ダクネスが、言いながら白スーツに微笑を浮かべる。
俺が少し照れ臭そうに頭をかくと、白スーツが呆れたように態度を変えた。
「なんと最弱職……。今までの話は本当だったのですか…?」
かなり疑った目で聞いてくる白スーツ………と、王女様が白スーツの服の裾をクイクイと引っ張り耳打ちする。
「……そ、その…。イケメンの御剣殿が最弱職の者に負けるだなんて信じられない。彼はイケメンですし、王族である私に嘘をついてるのではないでしょうか?あのイケメンでソードマスターの彼は、駆け出しの最弱職に負けるとはとても信じられません。……と、仰せだ。私もそう思います、彼はイケメンですし。」
「引っ叩くぞお前ら。」
やべ思わず声に出ちまった。
そう、相手が王族だと言う事も忘れて、何時もの調子で。
それを聞き、突如白スーツが激昂した。
「無礼者!貴様、王族に向かってお前ら呼ばわりとは何事だ!」
そう叫ぶと同時に、腰に携えた剣を抜刀する。
うぉっ、やっべぇ!
「申し訳ない、私の仲間が無礼な事を……!何分、礼儀作法も知らない男なので………しかし、この男が華々しい戦果を挙げているのは事実。会食を求めたアイリス様が、それを罰してしまいますと外聞というものも……!」
ダクネスが俺の頭を掴んで一緒に頭を下げる、それを見て王女様が立ち上がる。
「気分を害しました、冒険譚の褒美はちゃんと取らせます。そこの最弱職の嘘吐き男はそれを持って立ち去りなさい!!」
………なんだか大変な事になったな。しかしダクネスのお陰で助かった、まさかあれが突っ込み待ちではないとは。
俺ももっとお笑いを理解しないとな。
………しかし意外だ、めぐみんが暴れずにこんなに大人しいとは。
チラリと後ろを見ると、今にも暴れ出しそうなめぐみんを抑えるクリスの姿が目に入った………クリスには迷惑を掛けるな…。
ダクネスも後ろの二人を見る、するとその場で立ち上がる。
「申し訳ありませんアイリス様。先程の嘘吐き男と言う言葉を取り消しては頂けませんか?この男は大袈裟には言ったものの、嘘はもうしておりません。それに、いざという時は誰よりも頼りになる男です。彼に謝罪を頂けませんか?」
ダクネスの言葉に白スーツがいきり立とうとするのを静粛、アイリス様が見下ろして口を開く。
「謝りません。嘘ではないと言うのなら、そこの男にどうやって御剣様に勝ったのか説明してみせなさい。それが出来ないと言うのなら、その男は口だけの嘘ッ!?」
その王女様の言葉が、途中で遮られる形となった。
ダクネスに無言で頬を引っ叩かれて。
「何をするかダスティネス卿ッ!!」
激昂した白スーツが、頬を張られて呆然とする王女様の前に立ち、怒りに任せてダクネスへと斬りかかる。
………がしかし、キンッという堅い音と共に、クリスがタガーでそれを受け止めていた。
白スーツはびっくりした様子でクリスを見ていた。
恐らくは腕を切り落とすつもりで振るったのだろう、幾ら怒りに任せているからと言って、相手の刀は貴族の特注品………かなりのパワーがあったのを、たかがタガー一本で受け止められる。
驚愕の表情で動けない白スーツに目もくれず、ダクネスは無言で王女様へ向き直る。
「アイリス様、失礼しました。ですが精一杯戦い、あれだけの功績を残した者に対しての物言いではありません。彼にはどうやって魔剣使いに勝ったか説明する責任もなければ、彼が罵倒されるいわれもありません。」
張った王女様の頬を申し訳無さそうに撫で、まるで子供に優しく諭すようにダクネスが静かな声で言った。
俺は未だ青い顔で驚いている白スーツと、ダクネスを呆然と見上げる王女様に。
「……よし分かった、ここまで仲間にお膳立てされては仕方ない、俺がどうやって御剣に勝ったのか、しかとその目で見とけよ?………あまり格好良くはないが。」
俺は立ち上がりながら、両手を二人に向ける。
白スーツは俺の言葉に目を開くと、剣を手元に引き寄せ構えを取る。
「………お前が良いのなら、私には何も言うまい。やってやれ和真。」
少し笑いながら、ダクネスは後ろへ下がる。
俺は白スーツに右手、王女様に左手を突き出し。
「行くぞ……『スティール』ッッ!!」
未だ俺の出方を窺っている白スーツの刀目掛け、そして王女様本体に目掛けて放つ。
………良かった、成功だ。
「なッ!?」
右手には、白スーツが握っていた剣、そして左手には……。
「え、えっと……。」
王女様をしっかりと抱き抱え、俺は王女様を人質に取ることに成功していた。
「その……。こんな事になってしまい申し訳ありません……。」
俺達に謝る白スーツ。
その隣では王女様が隠れる様に、白スーツの腕に顔を埋めていた。
「お気になさらず。それに、和真が如何にして魔剣使いに勝ったかも分かってもらえたでしょうし、お互い水に流しましょう。」
言いながら、ふっと優しく笑いかけた。
それを見て白スーツが恥ずかしそうに頬を染める。
「………しかし、人一人をスティールする、というのは初めて見ました……それに、私の刀をいとも容易く受け止める盗賊、上級魔法も簡単に操れると言われている紅魔族、このpt編成なら魔王軍幹部を撃退した事にも頷けます。」
と、その隣でモジモジしていた王女様が、白スーツじゃない方。
今まで一言も話さず身動きすらしなかった為、ずっと存在を忘れていた魔法使いのお姉さんに耳打ちした。
「アイリス様。それは御自身の口で仰った方が良いですよ?大丈夫です、和真殿は多分アイリス様みたいな方には甘い筈です。」
そう独断と偏見で決められた俺に対し、王女様は俺の前に俯きながら歩いてくる。
「……嘘吐きだなんて言ってごめんなさい。……また冒険話を聞かせてくれますか?」
恥ずかしそうにしながらも、王女様は上目遣いに言ってきた。
そうだよ、俺はこういうのを求めてたんだ!!
「喜んで!」
「___さて。では我々はこれで城に帰るとします。皆様方、大変ご迷惑お掛けしました。」
魔法使いのお姉さんが、そんな事を言ってくる。
その隣では王女様が先程とは打って変わり、ウキウキした年相応の笑みを浮かべていた。
「こちらこそ、あまりお構い出来ませんでしたが……、アイリス様。また城にでも参じた時にお話ししましょう。」
ダクネスがそう言いながらニコリと笑いと、王女様がはにかんだ。
その二人の姿は、何だか姉妹の様だった。
………さて。
「それでは。これまでの貴方方の多大な功績は、王国の記録に残され、後世にも伝えられる事でしょう。これを差し上げます。」
言いながら、白スーツが賞状と何かの袋をダクネスに渡す。
ダクネスがそれを受け取り、アイリス様の頭を撫で、めぐみんもその隣でバイバイと手を振っている。
「それじゃ、また何時の日か、俺の冒険話をお聞かせに参りますので!」
そう言って、俺も王女様に手を振ろうとしたその時だった。
魔法使いにのお姉さんが、テレポートの詠唱を終える中、王女様は俺の腕を取ると。
「何を言ってるの?」
王女様は不思議そうな表情を浮かべ。
「『テレポート』ッ!?」
そんな魔法使いのお姉さんの声と共に、俺は王女様達と共に光に包まれた光景に目を瞑る。
……やがて、目を開けると。
大きな城を背にした王女へが、無邪気に笑いかけていた。
「「アイリス様!?」」
白スーツと魔法使いのお姉さんが、声を揃えて驚く中。
「"また"私に、冒険話をしてくれるって言ったじゃない?」
王女様はそんな事を言って笑いかけてきた。
拝啓クリス、めぐみん、ダクネス、俺はどうやら王女様に拉致られたみたいです。