「第二章 この湖の主に変態を!」
「カズマ!賞金首モンスターを狩ろう!!」
あの後二人にこっぴどく叱られ落ち込んでいた所、結局あのまま帰る事なく俺達を心配させた残念ヒロインが朝帰りしてきた。
それも馬鹿な事も言いながら。
「……朝帰りしたかと思えばいきなりなんだ?お前が何処の誰とヨイショしてようがどうでも良いけど、一応嫁入り前なんだから放蕩娘も大概にしろよな?」
「バカッ!!朝帰りではない!………って、それよりも!!」
こちらにドスドスとやってきたダクネスが、絨毯にあぐらをかく俺に一枚の紙を突き付けてくる。
俺が受け取ろうとすると、何時から後ろに居たのかクリスが横から掻っ攫っていった。
「あ、おいこら。」
「………賞金首モンスター『クーロンズヒュドラ』…?あぁもうそんな時期か。」
クリスから奪い取ると、そこにはクーロンズヒュドラという賞金首モンスターの、イラストや習性、詳細な説明が書かれていた。
「ほーん、なぁクリス。こいつってなんなんだ?」
「ん?あぁそいつはねぇ〜、アクセルの近くの山に住んでいるヤマタノオロチみたいな奴で、普段は深い眠りについてるんだけど十年置きに目覚めるんだよ。そして前回眠りについたのが……今から約十年前ほどになるかな?」
つまりは、そろそろそいつが目覚めそうだって事か。
「そう言う事だ。良いか?カズマ、この街を救えるのは魔王軍を倒した私達のpt以外あり得ないだろう?……さぁ今こそ、お前の出番だ!!」
拳を握り、目を輝かせて声を張るダクネスに、俺はフッと鼻で笑う。
「お前、俺が勇者だの何だので動く馬鹿だと思ったのか?もっとこう…俺にやる気を出させる餌はないのかよ?因みに金には興味ないぞ。」
俺の言葉にやや引いた目で見てくるダクネス。
暫く考えた後、ほんのり頬を染め、拳を握り言ってきた。
「……わ、分かった……。賞金首を倒せたあかつきには、お前の頬に……そ、その…ほ、頬にキスを……」
「お前馬鹿だろ。自分のキスにどんな自信持ってたんだ。」
「えッ!?」
よほど覚悟を決めた提案だったのか、俺に素っ気なく断られるのは予想外だったのか驚きの表情で固まった。
クリスがダクネスの顔の前で手を振ったり、おーいなどと声を掛けている間に俺はソファへと移動する。
俺は膝上にちょむすけを抱き上げると、その顔を覗き込む。
「おいちょむすけ。このお姉ちゃん酷いんだよ、自分のキス一つで命賭けろって本気で言ってくるんだぞ?もっと自分のアイデンティティを生かしたアイデアはなかったか……。」
「なーお。」
それに返事をするようにちょむすけが一声鳴く。
「ほらダクネス、ちょむすけもそうだってさ。」
「貴様、好きに言わせておけば!猫を降ろせ、ぶっ殺してやる!!」
クリスに引っ張られ暴れるダクネスを尻目に、俺はちょむすけの柔らかな毛の感触を楽しむ。
「と、言うかわざわざ俺が行く必要もないだろ。それこそめぐみんと二人で行って、魔法でドンだろ。それでどうにかならなきゃ逃げれば良いし、ヒュドラってあれだろドラゴンだろ?きっと鱗も硬いんだろうし、非力な俺に出来る事なんて……」
と、俺がそこまで言った時だった。
怒るでもなく、殴り掛かるでもなく。
しゅんとした表情で突然黙り込んだダクネスに、俺は言葉を詰まらせる。
……おい、やめろよその表情。
「な、なぁ……。どうしても、ダメ…か?」
ダクネスは俺の前にしゃがみ込むと、悲しそうな上目遣いでこちらを見上げる。
ツラだけは良いコイツは、うるうるした目で俺を見つめてくる。
「………チッ!おいめぐみん!出掛ける準備をしろー!!」
ダクネスがとびっきりの笑顔を見せると、近くに来ていたクリスがニヤニヤして俺を見ていた。
……なんだよ!こいつのアプローチが上手いんだよ!!
___アクセルの街から半日ほど南下すると、見えてくる小さな山。
その山の麓までやって来た俺達の前には、緑色に濁った湖が広がっていた。
「それで、結局ヒュドラを倒せなかった場合どうすんだ?俺達が攻撃を仕掛けたら、最悪今の所大人しくても、モンスターを怒らせて暴れるんじゃないか?」
俺の問い掛けに対しダクネスが。
「その事なら問題ない。今までであればクーロンズヒュドラには、大軍をもって取り囲み、暴れさせる事で魔力を消耗させ、魔力切れになったヒュドラを、再び眠りにつかせるという対処を行ってきた。」
成る程、最悪失敗しても騎士団っていう保険があるのか。
騎士団が来るのなら、その時一緒についていって倒せば良いと思うのだが……ダクネスは何故そんなに急ぐのだろう?
と、気合充分のめぐみんが、着けていた眼帯を外して笑う。
「ふはははは、今回は私に任してもらいましょうか!ヒュドラは亜種とはいえど下級のドラゴン。こいつを倒せば堂々とドラゴンスレイヤーを名乗れます!」
めぐみんの頼もしい言葉に頷くと、俺は改めて湖の真ん中に視線を向ける。
この中にヒュドラが居るのか………どんだけデカいんだろ。
「よーし!それじゃあクリス…改め、エリスさんお願いします。」
作戦はこうだ、まずクリスがエリスに変身し、湖に向かって『ピュリフィケーション』を掛けまくる、水棲型のモンスターは綺麗な水を嫌がる習性があるらしい…。
そこで、綺麗にした湖から出てきたヒュドラに爆裂魔法をドン……ってな感じだ。
正直やっぱり俺が必要なのかどうか疑問なのだが………まぁptのリーダーとして、一応形はしっかりしておかないとな。
「それじゃあ、行ってきますね。」
言うが早いか、躊躇なく濁った湖へと近づいて行くエリス。
そのまま屈んで、湖に手を入れ魔法を唱え始める。
「………なぁカズマ、ちょっと良いか?」
始まって早々、ダクネスが俺に近付きなにやら苦い顔をしている。
「ん?どうした。」
「いや、実はな…。エリス様にこう頼っているのを見ると、本当に良いのだろうか…と不安に思ってな。」
「んー…別に良いんじゃない?と、言うか今まで逆に何で手伝ってこなかったのか甚だ疑問ではあるぜ?」
まぁ、チート持ちの転生者を送るという観点では、確かに手伝っては居るが………あんまり役にたっていないようだし。
それに、多分エリスはこうやって人の役に立ちたかったんじゃないかな?
「なら、私からも一つ疑問があるのですが。クリスとエリスでは、少々口調が違うようですが…どちらが本当なのでしょうか?」
「あーそれは俺も未だに疑問だな、本人曰く『両方私です』らしいが。」
エリスが額から出る汗を拭いながら、湖に向かって魔法を唱える。
それを俺達は雑談しながら見ている訳だが………何だか申し訳なくなってきたな。
「ちょっと俺も手伝って来るよ。」
二人にそう告げ、俺はエリスの方へと歩き始める。
隣に座り湖に手を入れると、エリスが驚いた表情で俺を見る。
「あ…カズマさん。別に休んでくれてて良いのに。」
「エリスが頑張ってるのにそうはいかないだろう………と、言うか久々にエリスの敬語は違和感あるな。何時も通りタメ口で良いんだぜ?」
「あぁ…なんと言うか、癖と言いますか。此方の姿だと敬語じゃないと落ち着かないので…。」
「そうか。…良し、さっさと終わらせるぞ。」
二人で雑談も程々に、俺達は作業にうつる。
まぁ、俺の魔法じゃ効果なんてたかが知れているとは思うが……。
なんて考えているのも束の間、地面が揺れ始める。
「ッ!?カズマさん、戻りましょう!」
そう言って走り始めるエリス。
俺も慌てて立ち上がり、エリスを追い駆けめぐみんとダクネスの方へと走る。
二人も異変に気付いたのか、装備を構えていた。
「これは……っ!きました、きましたよ!凄い魔力をビンビン感じます!!」
緊迫しためぐみんの声に伴い、何かとてつもなく大きな物が湖の真ん中から浮上してくる。
「おい、これ聞いてた話よりかなりデカイぞ!大きめな民家並みって書いてあったのに、俺達の屋敷より大きいんじゃないのか!?」
湖に広がる巨大な影に、3人の顔が引きつった。
大きめの民家サイズだと聞いていたから、めぐみんの魔法でどうにかなると思っていたが……これ程大きいとなると、一撃で全体を吹き飛ばすなど出来そうにない。
巨大な影はやがて形を成し、水面下に八本の首がしっかりと映る。
その首が全てエリスへ向けられ、どんどんとせり上がる!
「来るぞ!めぐみんは魔法の準備!ダクネスは万が一に備えてめぐみんの前でガードしとけ!クリスは攻撃に備えて構えとけ!俺は後ろに下がって退路を確保しておく!」
「何一人だけ逃げようとしてるのさ!?他にモンスターは居ないから退路の確保なんていらないよ!!」
何時のまに変身していたのか、クリスからお咎めが入る。
「そそそ、想定していたものより多少大きい様ですが、わわ、我が爆裂魔法の威力なら一撃ですよ!!」
「ッ!!来るぞ!!」
混乱している俺達を余所に、それは姿を現した。
あぁ……。
俺はここ最近の成功で、賞金首モンスターというものを舐め腐っていた様だ。
巨大な八本の鎌首が、水を滴らせながらゆっくりと姿を表す。
「はは……これ、アカンやつや。」
「おぉ佐藤和真。死んでしまうとは情けない!」
そこはお馴染みになってしまった白い部屋。
ふと目を開けた俺は、ノリノリでそんな事を言うアクアと見つめ合っていた。
「久しぶりですね、アクアさん。」
「久しぶりね、もうこっちに来ないと思っていたけれども……やっぱりニートには厳しかったみたいね?」
コイツッ!!
「いやいや、今回は別に俺悪くないだろ?と、言うか何ならお前の後輩が足を滑らせたのを俺が身代わりになって守ってやったんだから、感謝はされども罵倒される筋合いはない!」
「まぁまぁそんなに怒らないでよ、ほら。ポテチいる?」
何故か何時も食べているポテチを俺に差し出すアクア。
ここに来ると懐かしの味が食えるから、何だかなんだ嬉しい………まぁ条件が死ぬ事だが。
「さてと、アンタの身体だけど。ダクネス?だっけ、あの子が自分からヒュドラに呑まれに行って回収してくれているみたいよ?」
流石あの変態クルセイダー、こんな所でその変態っぷりが有効に働くとは。
だが……わざと呑まれて……って、あいつも無茶するな。
「ていうか、あのモンスターどう倒せば良いんだよ。失った首が生えてくるとか、もうどうにもなんねーよ。」
俺は思わずアクアに向けて愚痴をこぼす。
そう、爆裂魔法をを食らわせたまでは良かったのだ……だが、ヒュドラは魔力を使って再生を開始。
やがて何事もなかったかの様に活動を再開した。
忘れていたのか油断していたのか、焦ってこけたクリスをふっ飛ばした所俺がパクっと。
「…なぁ、ヒュドラに食われた遺体ってどうなってんだ?あまり損傷が激しいと、蘇生出来なくなるって聞いたんだが…。」
「あら?大丈夫よ。まぁ三割方なくなっちゃってるけど……。」
目を逸らして答えるアクア。
軽く凹んでいる俺に、アクアは渋い顔をしておずおずと口を開く。
「一応言っておくと、あんまりダクネスって子を責めないであげてね?今回は無理を言って行った討伐みたいだけど……あの子も理由があっての言葉だから。」
「………お前、そんな顔出来たんだな。」
「良しクソニート掛かってこい。」
俺とアクアが取っ組み合いをしていると、天から声が聞こえてくる。
『カズマさん!もう蘇生は済んだので戻って来てもらっても良いでしょうかー?』
聞こえてきたのは、もう俺が死ぬ状況に慣れてあまり悲しくないのか、普段の様子と変わらない感じで喋りかけるエリス。
「フンッ!タイミングが良かったみたいね、ほら。さっさとこのゲートを通って行って頂戴!次に会う時は寿命よ?良い?そん時に決着を付けてあげる!!」
「ハッ!その減らず口が少なくなっていない事を祈っているよ………アバズレクソビッチ!!」
「クソニートッ!!!」
急いで追いかけてくるアクアを振り切り、俺はゲートへと走る___
「ガズマ、おがえり。」
目を開けると、そこにあるのは鼻を摘んだクリスの顔。
「ぶあっ!くっさ!!」
鼻を突く酷い異臭に、俺は思わず跳ね起きた。
酸っぱくて生臭いこの臭いは……。
「……俺か、この臭い。」
ヒュドラに食われ暫く胃袋の中にいた事で、身体にこんな異臭が染み付いた様だ。
……そしてふと気付く。
誰も俺と目を合わせない事に。
その行動で更に気付く。
自分が素っ裸だという事に。
「服、溶けちゃったのか…。」
「そうだね、防具とか諸々ダメになっちゃったけど、ちゅんちゅん丸?は残ったみたいだよ……後、守ってくれて有り難うね。」
そう言って、頭をポンポンと撫でてくるクリスに思う………これがなでぽって奴か。
少し恥ずかしそうにしつつも、俺は生き残った刀を手にするとダクネスの方へと行く。
「………で、お前は何を落ち込んでるんだよ。」
俺と同じ臭いを放ち、離れた所で膝を抱えてうずくまるダクネス。
ダクネスは俺の言葉に身を震わせ、申し訳なさそうな顔でこちらを見上げる。
「無理に戦いを押し付けた私に、怒っていないのか…?」
「一体何を怒るんだよ。俺が死ぬのなんて今更だろ?」
やけに素直なダクネスき、何だか調子を狂わされる。
「ったく、らしくないな。女神様に聞いたぞ?ヒュドラに食われた俺を助ける為に、お前も自分から呑まれたんだろ?つかお前血まみれじゃないか。」
ダクネスは、ちらと此方を見上げると。
「……この血は、お前を回収した後、ヒュドラの中なら腹を裂いて浴びた返り血ばかりだ。他に怪我はない。」
未だ暗い顔のダクネス。
「回収してくれて助かったよ、ありがとな。ほら、早く帰って風呂に入ろうぜ?」
そう言って、気にすんなとばかりに笑いかけると。
「…ね、ねぇカズマ。ダクネスを励ますのは良いんだけど…その。その格好でお風呂に誘うのは………ね?」
そういえば全裸でした。
「___しかし、どうして騎士団がヒュドラにトドメを刺さないのか良く分かった。刺さないんじゃなく刺せないんだ。」
アクセルの街への帰り道。
俺達は未だ何処となく沈んでいるダクネスを連れ、先程の戦闘を振り返っていた。
「どうやら、クーロンズヒュドラは失った首の再生に魔力を、使っている様ですね。アレを倒すには、再生が追い付かないほどの超火力で消し飛ばすか、何度も傷を負わせて首を再生させ、魔力を尽きさせた所に致命傷を与えるしかないでしょう。まぁ、どちらも現実的ではありませんが。」
めぐみんの現実的ではないという言い分ももっともだ。
ヒュドラだって馬鹿ではない。
ちまちまダメージを与え続けても、魔力が尽きれば、魔力回復の為に底に逃げてしまうだろう。
かと言って、爆裂魔法以上の火力など用意出来るはずもない。
………どうしたもんかなぁ。
「まぁ、悪い事ばかりじゃないと思うよ?私とカズマが浄化したお陰で、ヒュドラが湖の瘴気で汚染する作業に掛かりきりだと思うからね。」
「おぉ!お手柄じゃないですか二人共。」
「フフフ…!まぁ私に任せてよ!」
___その後、特に問題なく街に帰り着くと。
「私とめぐみんで報告しとくから、二人はお風呂に入って来なよ。」
俺とダクネスはクリスに言われ、先に屋敷に向かう事になった。
屋敷に戻った俺は、落ち込むダクネスを先に風呂に入らせて後、臭いがなくなるまで入念に体を洗う。
「……しかし、慣れってのは怖いな。死んだってのに、大して慌てもしなくなった自分がいる。」
独り呟き湯船に浸かると、3割ほど失っていたという自分の身体を改めてみた。
お湯の中でしげしげと、一時失われた部分を注意深く観察していると。
「……カズマ。今日は何時もより随分と長いが、どこか痛むのか?それとも、生き返ったばかりでまだ体力が回復していないのか…?」
脱衣所の方から、ダクネスの心配する声が聞こえてきた。
「ん?あぁ大丈夫だ、問題ない。」
だが、それを聞いてもダクネスは立ち去る事なく、何か言いい事でもあるのか、その場にずっとたたずんでいた。
「……なぁ、カズマ。その、今回は無理を言って悪かった。私も焦っていたのだろう…どうしても、あのヒュドラを倒したかったのだ……。」
ダクネスが、そんな事を辛そうに言ってくる。
「まぁ、もう良いって事よ。次はもっと作戦を立てて行こうぜ?今回は準備不足過ぎた、やっぱり急に行くのは良くなかったんだよ。」
「……ッ!も、もう一度行ってくれるのか…?」
驚きの声を上げるダクネスに、俺はからかう様に言ってやる。
「何だよ。あれだけ毎日民の安全だの偉そうに言ってた癖して、もうヒュドラにビビっちまったのか?」
「馬鹿を言うなっ!この私を誰だと思っている!!次こそ、次こそは!あのヒュドラをぶっ殺してやる!!」
聞き慣れたその物騒なセリフは、ちょっとだけ、何時ものダクネスを取り戻させた。
___風呂に入り、香ばしい臭いを落とした俺達は、未だ帰ってこない二人を迎えに行くべく冒険者ギルドの前にやってきた。
既にクリスとめぐみんが、報告を済ませている事だろう。
冒険者ギルドのドアを開けると……。
「おいどうすんだよ!?クーロンズヒュドラなんて大物、俺達じゃどうにもなんねーぜ!?」
「じ、実家に帰りたいよお母さん!」
「手配書を、もっと手配書を回せ!この街の冒険者全員に、手配書を配るんだよ!!」
そこは阿鼻叫喚と化していた。
冒険者やギルド職員が悲鳴をあげ、騒ぎの中心ではクリスが今にも吐きそうな表情で虚ろとしていた。
「あっ!カズマ、ダクネス!良い所に!この状況をなんとかして下さい!!」
俺達を見つけためぐみんが、混乱するギルドの中こちらへとやってくる。
逆境に弱いめぐみんが狼狽える中、ダクネスが近くのギルド職員のお姉さんを捕まえて事情を聞く。
「おい、一体何があった?確かに討伐は失敗したが、これ程までに騒ぐ必要もないはずだろう?どうせ騎士団が来るまでの繋ぎであり、ダメで元々の討伐だったのではないのか?」
「そ、それがですね。タイミングの悪い事に王都で大事件が発生したとの事でして…。」
王都で大事件!?
「おい、どういう事だ?俺の可愛い妹が危機にさらされてんのか!?」
「い、妹…?いえ、王都で事件が起こったのは少し前の事らしく、何でも王都で銀髪盗賊団と呼ばれる連中が、事もあろうに王宮に侵入したそうで……。今、その後処理に追われている現状です。」
俺とダクネスは、それを聞いて同時に吹き出す。
「たった二人で、王都内の騎士団や腕利きの冒険者を蹴散らした挙げ句、大胆にも城からいくつか宝物を盗み出したそうで……。」
そう言って、手にした紙を見せてきた。
それは『銀髪盗賊団』と書かれた手配書だった。
そこには、仮面をかぶった怪しげな男、そして銀髪の少年のイラストが描かれている。
賞金首は2億エリス。
「2億エリス……。2億エリスか…。」
「お、おいダクネス。なんでこっちをみるんだよ…?」
普段は金に興味を示さないダクネスが、手配書を手に何故か血走った目を俺を見る。
すると、何時のまに後ろにいたのか俺の肩に手を置き、死にそうな顔をしながら俺に問い掛ける。
「カ、和真。一緒に逃げよう…?二人で遠い新天地でやり直そう…?ね……?」
震えた手で俺に諭そうとするクリスをダクネスに預け、俺は又もオロオロしているめぐみんの方へと行き、伝える。
「めぐみん………屋敷に帰るぞ。」
「え?あ、はい…。」
俺達はヒソヒソと屋敷へと帰って行った。
「あるーひー。もりのなーかー。ドラゴンにー。でああったー。」
ソファーでちょむすけにブラッシングしながら歌う。
そんな平和をぶち壊すかの如く、現在この広間ではめぐみんがいきり立っていた。
「和真、リベンジです!あのヒュドラにリベンジするのです!」
冒険者ギルドから逃げ出しはや3日。
自分が指名手配を受けていると知った俺は、バニルの未来視を警戒し、さっきからうたた寝しているクリスの傍から離れずずっと屋敷に籠もっていた。
あの守銭奴悪魔は、クリスの傍にいる人間を見通し辛い。
幸いというか、クリスはあの日以来死にそうな顔をしている、『女神様なのに、人達に目の敵にされてる……女神様なのに…。』と。
そんな引き篭もり生活に業を煮やしたのか、めぐみんが毎日の様にリベンジを催促していた。
「お前そう言うが一体どうやってあの化け物を倒すんだよ?」
「火力です!さらなる火力を浴びせるのです!爆裂魔法一発で沈まないなら、和真のドレインタッチでエリスから魔力を貰い、何度も浴びせれば良いのです!!」
熱く語るめぐみんに、何時起きたのかクリスが眠い目を擦りながら。
「嫌だよ。なんで私が汚らわしいリッキーのスキルを受けなきゃいけないの?アレはもうお断りだよ。」
俺はちょむすけの尻尾に優しくブラッシングしながら。
「ていうかめぐみん、どうしてお前はそんなにリベンジしたがるんだよ?ヒュドラに何かしらあるであろうダクネスなら兎も角、お前までも何か因縁があったのか?」
「それはまぁ……私にだって色々思う事がありますよ。何せカズマを殺した相手ですからね、この手で仇を取りたいではないですか。」
「お、おう……。そうか…。」
まぁ、そう言われて悪い気はしない。
「さぁ!早く支度をするのです!クリスも、女神なのにどうしてそんなにぐうたらしてるんですか!もしヒュドラによって、クリスの信者が死んでも良いのですか?」
その言葉に、クリスがピクリと反応する。
ムクリと起き上がると、未だ悩んだ顔をしつつも何処かやる気の出した雰囲気だす。
「そうだね……そうだよね。うん、やっぱり私がこんな所でうじうじしてちゃ駄目だよね!よーし!」
なんてこった、クリスがやる気を出してしまった。
遂に多数決で負けてしまった訳だが……どうしようか。
「それに…。最近のダクネスは、やっぱり様子がおかしいのですよ。」
先程風呂場に向かったダクネスの方を見て、めぐみんがぽつりとこぼす。
………はぁ…しょうがない、あんまり乗り気がしないが、取り敢えず出来る限りの事はしてみよう。
「なぁめぐみん、ダクネスの鎧を持ってきてくれないか?」
「?別に構いませんが……変な事しないで下さいよ。」
ジト目で俺に鎧を渡してくるめぐみん。
なんかあの日以来信頼度が落ちた気がする……、これは頑張って取り戻さなければ。
俺はダクネスの鎧を受け取ると、作業に移る。
「それは何をしてるの?」
クリスが横に座り、俺の作業を眺める。
「ん?あぁこれはな、あいつの鎧、最近傷付いてきただろう?だからさ、丁度前に取った鍛冶スキルで直してるんだよ。」
「ふーん。」
「___ふう…。………?カズマ、私の鎧に一体何を?」
風呂から上がったダクネスが、鎧の前で屈み込む俺を見て首を傾げた。
俺の隣では、めぐみんとクリスが作業中の手元を眺めている。
「お前、ここ最近めぐみんとヒュドラの所に行ってただろう?二人は隠してたみたいだが………まぁ、今はお前の鎧を直してるんだよ。」
鎧のへこみを木槌で叩き、久しぶりの鍛冶スキルを発動しながら鎧の傷を直していく。
「………あーそれと、明日遂にヒュドラに行くぞ。悪かったな、あんな事言っといて今までサボって。」
ついさっき思いだした、あの時ダクネスに宣言しておりながらめっちゃ忘れてた。
思い出した俺を心の中で褒めつつ、俺は修復に集中する。
それを聞き、ダクネスははにかみ___
「…そうか。分かった、無理を言って悪いな。」
「別に。もう乗りかかった船だしな、今更なんとも。」
それから、ダクネスも一緒に屈み込み、3人で俺の作業を見守る。
………なんか、女子に囲まれているからか凄いいい匂いするな。
なんて邪な事を考えていると、クリスが俺の脇腹を小突いてくる。
「ちょっと、今エッチな事考えてたでしょ。」
ちょっと照れた様子で俺に囁いてくる。
そう思われるのが嫌なら、正直作業の邪魔だから離れてて欲しいなぁ………。
翌日。
俺は朝早くから出掛けると、湖へと向かっていた。
昨日は結局、大まかな作戦会議をした後、昼からの決行ということで皆就寝についた。
俺はとある事を済ませ、眼の前に広がる湖を前に3人を待つ。
やがて時刻が昼に差し掛かった頃、クリスとめぐみんと共に姿を現したダクネスが、俺達を見てポカンと口を開けていた。
そう、俺の後ろに居並ぶアクセルの街の冒険者達の姿を見て。
「おっ!来たなララティーナ!」
「ララティーナちゃんが来たよー!」
「ララティーナ!」
俺が連れてきた冒険者は、固まったまま動かないダクネスを口々きからかい始めた。
「………」
「や、止めろよララティーナ!こいつらはお前の素敵な名前を呼んだだけだろ!た、助けてくれクリスー!!」
冒険者にからかわれたララティーナが、涙目で俺の胸ぐらを掴んでくる。
因みにクリスはめぐみんと一緒に呆れた顔をしていた。
「おいカズマ、これは一体何の騒ぎだ?新手の嫌がらせなら私にも考えがあるぞ。」
「ちげーよ!俺は皆にララティーナがヒュドラに立ち向かってるから、その手伝いを頼めないかって言っただけだ!」
「ッ!?」
それを聞いたダクネスが、掴んでいた胸ぐらを手放して慌てて皆を見渡す。
「おっ!ララティーナが照れてるぞ!」
「ねぇやめなさいよ!ララティーナちゃんってアレで繊細なのよ?」
「和真には色々世話になってるからな…ララティーナの我儘くらい聞いてやんよ!」
そんな声が、冒険者達の間に投げ掛けられた。
「見ろよララティーナ。アホなお前は分かんねーかも知れないがな、お前は自分が思うより人に好かれてんだ。」
顔を赤くしたダクネスが、小さな声でぽつりと言おうとする。
「あ、ありが……」
「えっ?なんだってッ!?」
ダクネスは、大きな声でリピートを強要する俺を涙目で睨め付けながらも、照れ臭そうに改めて冒険者を見渡す。
それらを見たダクネスは、笑みを浮かべながら。
「皆、ありがとう!!」
「「「うぉぉぉぉぉーっ!!!」」」
ダクネスのお礼を受け、冒険者達は皆鼓舞する。
俺はさっきから遠い目をしているクリスに近づく。
「どうしたんだ?クリス。」
「んー?いやぁーねぇ…。何だか、これが親の気持ちかなぁ…って。」
母親面しているクリスから離れ、俺はめぐみんに最後の確認をしにいく。
「おいめぐみん。お前、最初のヒュドラは戦はビビってたみたいだけど、今回は大丈夫なのか?家でお留守番でもしとくか?」
「フッ!馬鹿を言わないで下さい!ここ最近ダクネスと一緒に撃ちに行く過程でもう慣れました!所詮、魔物など爆裂魔法の餌食でしかないんですよ。」
そんな頼もしい事を言うめぐみんに、思わず頭を撫でる。
「そうか、頼りにしてるぜ?お前はうちの火力担当何だからな。」
「なっ!?子供扱いしないで下さい!!」
照れつつも、少し嬉しそうにしているめぐみんが離れ、各々準備が出来た事を確認する。
すると、急に地面が揺れ始め、ヒュドラが浮かび上がってくる。
「お相手からのお出ましだ!お前ら!気を引き締めろ!!」
戦闘開始___!!
「盗賊職は、鋼鉄製のワイヤー持ったな?アーチャー職の連中は、フックロープ付きの矢を用意して待機!!頑丈な連中は後衛を守るため、盾としてその場で待機!」
鎧で身を固めた前衛職が、ヒュドラの攻撃から後衛を守る。
「魔法使い職は何時でも魔法が撃てる様、準備をして後方待機!使う魔法は、各自が持てる中で一番強いヤツをたのむ!次弾はないから、全魔力をとびきりこめたのを用意してくれ!」
魔法使い達にはヒュドラにトドメを刺すため、必殺の魔法の準備をしてもらう。
そして……、
「ダクネス、お前はヒュドラの正面でおとりスキルを使ってくれ!お前の硬さが勝負の決め手だ!!」
「任せろ!!」
ダクネスがヒュドラの注意を引いて、真っ向から受け止める。
そして、ダクネスがヒュドラの動きを止めているところを……!!
「ダクネス、任せた!」
「お前の相手はこの私だ!『デコイ』ッ!!」
水際に陣取ったダクネスが、おとりスキルを発動させる。
ヒュドラがダクネス目掛け一斉に首を向けると同時、俺は潜伏スキルで出来るだけ気配を消しつつ、ヒュドラに向かって駆け出していた。
「「「『『『バインド』』』ッッッ!!」」」
ダクネスを追って陸に上がってきたヒュドラが、八本の首を1ヶ所へと集めた瞬間、盗賊職の面々がワイヤーを使って長い首を結束させる……その中には、クリスの姿もあった。
それと同時に、アーチャー職の連中がフックロープ付きの矢を放つ。
フックが掛かった事を確認した冒険者達が、こぞってロープの端に取り付き、綱引きの要領でそれを引っ張り始めた。
その間も気配を消しながら近づいた俺は、首を拘束されながらもダクネスから視線を離さないヒュドラの背に乗り、硬い鱗にペタリと触れる。
「魔力が尽きないと倒せないなら、俺が魔力を吸ってやるよ!!」
俺がドレインタッチで魔力を吸い上げると同時、ヒュドラがビクンと身を震わせ暴れ始める。
「おーし効いてる効いてる!!……って、やべッ!!」
魔力を吸われるのを察したヒュドラが、首の拘束を解こうともがき始める。
だが、バインドで結束されな八本の首は自らの背には届かない。
「ハッ!馬鹿め、所詮は魔物!めぐみんの言葉を借させてもらうぜ!」
俺がそこまで言ったのと、ヒュドラが身をくねらせ、背中を地面に擦りつけようとするのは同時だった。
「おわあああ潰れるー!!」
「馬鹿ッ!お前は何をやってるんだ!!」
ヒュドラの前にいたダクネスが、背中から投げ出された俺をとっさに捕まえ覆い被さる。
地面に押し倒される形になった俺は、こんな状況にも拘わらず超至近距離のダクネスの顔に狼狽してしまう。
何だか胸がドキドキしてきた………これが、恋…!?
「ダクネス…俺、胸のドキドキが止まらないよ。」
「言ってる場合かっ!くっ、これは無理だ、もう保たない……っ!!」
このまま押し潰されれば、ダクネスは多分耐えるだろうが、俺は大変な事になってしまう。
赤い顔して耐えるダクネスの下で、俺はヒュドラに手を伸ばしドレインタッチをする。
「ダクネス、まだだ!まだ耐えるんだ、気を抜くんじゃないぞ!!」
「ッ!?この期に及んでお預けプレイか!?クッ!しかし和真、これは無理、もう本当に無理で……っ!」
この状況でも変な事言ってくるダクネスに、俺は叱咤する。
「お前こそ言ってる場合か!?お前が耐えないと、お前の好きで好きでしょうがない和真さんがお前の下でぐちゃぐちゃになって死んじまうぞ!?」
「別に好きじゃないが……!嫌な想像をさせるなぁーッ!!!」
赤い顔でぷるぷる震えるダクネスが瞳を潤ませ、首筋から汗を滴らせながらもなんとか耐える。
俺に全力で魔力を吸われ続けるヒュドラは、拘束された首を振り回しダクネスの上で激しく暴れ続けていた。
「引け、引けーっ!」
ヒュドラに射かけられたロープを掴んだ、今まで後衛職の盾になっていた重量のある冒険者達が、綱引きの要領でそれを引く。
ダクネスは満足気な微笑みを浮かべ、途切れ途切れに囁いた。
「も、もう……無理……、和真。死ぬ時は……一緒だ……。」
「待て待て待て!もうちょい待ってくれ!!今救出を試みてくれているみたいだからさ!!ね!?」
……と、まさに絶命のピンチに陥っていたその時だった。
「見ろよ、ヒュドラの奴随分と弱ってきたんじゃねぇのか!?よーしクーロンズヒュドラの首は俺がもらった!!」
「ちょ、ちょっとあんた何言ってんの!?あぁーっ!ダスト!ダストーっ!!」
聞き慣れた誰かの悲鳴が聞こえ、それと同時にフッと俺達に掛かる重さが減った。
勇敢な誰かがヒュドラを引き付けてくれたらしい。
俺達はなんとか這い出し、めぐみんの元へと駆け寄った。
「『ライト・オブ・セイバー』ッッッ!!」
紅魔の里で何度もみた魔法の叫びを聞きそちらを見れば、何時のまに居たのかゆんゆんがヒュドラの首を跳ね飛ばしていた。
どうやらどっかの馬鹿が食われたらしく、それを救出した様だ。
「おい見ろ、切り落とした首が再生しないぞ!?」
その声にそちらを見れば、確かにヒュドラの首は七本に減ったままだった。
「魔法使いの皆さーん!!」
俺が大声を張り上げると、全力で魔力を練り上げ自身が持てる最も協力な魔法を準備した魔法使い達が、目を輝かせて合図を待つ。
「攻撃開始ー!!」
俺の号令と共に、大量の攻撃魔法がヒュドラを襲う。
ファイアーボールやライトニングが乱れ飛ぶ中、二人の紅魔族が猛威を振るった。
「『ライト・オブ・セイバー』ッッッ!!」
ヒュドラの首に向けて光り輝く手刀を一閃させた後、めぐみんにドヤ顔を見せるゆんゆん。
それをみためぐみんは、口の端をフッと上げ赤い瞳を輝かせてヒュドラに向けて杖を構える。
「爆裂魔法が飛ぶぞー!水際にいるやつは避難しろー!!」
「耳を塞げーっ!」
長くアクセルの街で暮らしている間に、既にめぐみんの魔法にも慣れっこになった冒険者達が手際良く耳を塞ぐ中。
「さぁ、和真の仇を取らせてもらいます!天国にいるあの人への、手向けの花にのるがいい……!」
なんか勝手に殺されたけど………やっちまえめぐみん!!
「『エクスプロージョン』___ッ!!!」
めぐみんの杖から放たれた閃光が、幾多の魔法をくらい虫の息だったクローズンヒュドラへと突き刺さる。
長い間この一帯を枯れ地にしてきた大物賞金首は、悲鳴をあげる間もなく永遠の眠りに就かされた___。