「第二章 この変態鎧にご主人を!」
真っ白い部屋から、見慣れた天井へと視界が移る。
そこには苦笑いしたクリスが、膝枕をしながら頬を掻いていた。
「和真…キミってば本当にアホだね。」
「起きてそうそう罵倒される俺の気持ちにもなってくれ。」
そう言うと身体を起こし、ふと周りにクリス以外居ない事に気付く。
「あれ、あいつらは?」
「ん?あぁ、ダクネスは拗ねて親父さんの所に、めぐみんはゆんゆんちゃんと遊びに行ったよ。」
なんだそう言う事か、全くこれだから頭の硬い貴族育ちのお嬢様は困る……冗談を真に受けてたらこの先やっていけないぞ。
「それで…和真。ちょっと良い?」
クリスが急に真剣な表情になると、一つ咳払いをする。
………何だか嫌な予感がする。
「まさか、また神器探しに手伝えって言うんじゃないんだろうな?」
警戒気味の俺に向け、クリスがニカっと笑みを浮かべる。
「流石は和真、理解が早くて助かるよ!えっとね、今回狙っているのは……」
「聞きたくない聞きたくない!!もう危ない橋は渡りたくないんだよ!!」
そう言って俺は耳を塞ぐと膝を抱えうずくまる。
「なッ!?キミってやつは!女神様の言う事が聞けないって言うのかいッ!!」
耳を塞ぐ俺を揺さぶり、クリスが喚く。
頑なに動かない俺に諦めがついたのか、クリスがピタリと動きを止める。
ようやく諦めたのかと思い、ゆっくりと顔を上げると……。
「佐藤和真さん、お願いです……。どうか…どうかこの世界の為に協力してもらえませんか……?」
そこには、祈るポーズでこちらを見つめるクリス……ではなく女神エリス。
物憂げな表情をたたえるエリスを見て俺は。
「……それはズルいよ、エリス。」
___と、そんな経緯でクリスから依頼を受け、それからしばらく経ったある日の事。
俺の屋敷の広間において…
「諸君。人というものは会話が成り立つ種族でもある。我輩と話をしよう。」
両腕を強力な呪縛ロープで縛られ、広間の中央で正座させられているバニルが言った。
その両脇には、あと数センチも近付けばくっついてしまうぐらいの至近距離で、それぞれクリスとウィズがしゃがみ込み、眉間にしわをよせていた。
そんなバニルの前では、ずっと自分の屋敷に引き籠もっていたものの最近ようやく出てきたダクネスが、仁王立ちしていた。
「あの騒動で一番得したのって、キミ何だよねぇー。和真から色んな商品を安く買い取ったみたいじゃない。」
「バニルさん、私に内緒でなんて事をしてくれたんですか?まさかあの大金が和真さんの足下を見て巻き上げたお金だったなんて……返そうにも、もうお金が……!」
ウィズが顔を覆いながら、申し訳なさそうに謝ってくる。
「まぁ落ち着くのだ鉄壁女に穀潰し店主よ。……ん?いやまて、天災店主よ。あのお金はどうした?おいそれと使い切れる額ではないぞ。」
鉄壁に反応して今にも刺しそうなクリスと、おいおい泣いていたウィズを宥めていたバニルが動きを止める。
顔を覆っていたウィズはバッと顔を上げるとパアッと顔を輝かせる。
「あれですか!聞いて下さいバニルさん!私のお得意さんがマナタイト結晶を大量に持ってきてくれまして、相場の半分というので金庫のお金で買えるだけ買いましたよ!私が見た所、あれは間違いなく最高純度のマナタイトですよ!!」
マナタイト……結晶の質に応じてそれに相当する魔法を一度だけ肩代わりしてくれる物。
ただでさえ高価な上に使い捨て……なので、駆け出し冒険者が多いこの街ではそんな物に需要なんてない。
それを聞いて呆然とするバニルが、ちょっとだけ気の毒に思えてきた。
「ま、まぁもう金は手元に戻って来るみたいだし。バニルはバニルで天罰受けてみるみたいだし……もう許してやったらどうだ?」
「と言ってもな和真。父上に掛かっていた呪いを掛けれる程の悪魔など、コイツ以外に見当がつかないんだ。」
クリスとウィズがバニルの両肩を掴む。
今回の件で、父親に呪いを掛けた可能性が一番高いバニルが、高らかに笑い出すとクリスへと首を向ける。
「フハハハハ!まぁ落ち着け諸君らよ。我輩に聞くよりも、そこの最近仲間が色付き初め何だか分からない感情に駆られている鉄壁の……」
「わあああああダクネスの親父さんの敵ー!」
「こっ、こらっ仮面を!いちいち仮面を折ろうとするな!!というか、貴様は真犯人が分かっておるではないか!!それにまだ死んではおらん!!」
突如暴れ始めたクリスをオロオロした様子で見るウィズと、何だか複雑そうな表情でクリスを見つめるダクネス。
それを眺めていた俺の服を、めぐみんがクイクイと引いてきた。
「和真、何だか面倒くさそうなので爆裂散歩に行きませんか?」
「ん?あぁクリスのアレも気になるけど、ここはしばらく収拾つかなそうだし付き合うよ。」
俺はそう言うと、一応の装備を付けてめぐみんと共に出かける。
街から出てしばらく歩き、岩肌の多い山沿いへと向かう道すがら。
「___まだ、和真にお礼を言っていませんでしたね。」
俺の隣を歩いていためぐみんが、そんな事をぽつり。
「お礼?俺、お前にお礼される様な事したっけ。」
「和真には、ダクネスを助けてもらったお礼を言いたいのですよ。」
山すそに適当な大岩を発見しためぐみんは、そばに近寄りぺたぺたと具合を確認しながら、こちらを見ずに言ってくる。
「そんな事か。まぁ、ダクネスには色々貸しがあるんだよ…そう簡単に…ptを抜けられてたまるかってんだ。」
俺は肩をすくめながら、大岩から距離を取るめぐみんに軽い口調で言ってやる。
それを聞き、くすりと笑っためぐみん。
「それでもですよ。いつかの紅魔の里でも言いましたが……。」
俺に背を向け大岩に杖を構える。
「やっぱり、文句を言いながらも皆を助けてくれる和真の事が好きみたいです…!『エクスプロージョン___!!』」
「………お前ってさ。時々男らしいよな。」
めぐみんをおぶり、背中に男らしさを感じながらそんな事を言う。
「なんですか、それはどっちの意味ですか?」
「両方だよ。」
背中で暴れるめぐみんを放っておき、屋敷へと足を運ぶ。
流石にもうそろそろ一段落付いているだろう…そう願いながら屋敷の中へと入る。
「ただいまー!……あれ、バニルとウィズは?」
そこには、ダクネス御用達の紅茶を啜るクリスと疲れ果てたダクネスの姿。
「和真にめぐみん!お前たちが何処かに行っている間に、クリスを止めるのがどれだけ大変だった事だか……。」
「悪かったよ、ちょいと爆裂散歩に行ってんだよ……ほれ、そろそろ降りろめぐみん。」
めぐみんを降ろし、ダクネスから受け取った紅茶を飲みクリスへと目を向ける。
……なんでさっきからこっちをチラチラ見てるんだろ。
「何だよクリス。何か言いたい事でもあるのか?」
「えっ!?い、いやーなんでもないよ!うん、本当に……。」
そう言って、また俺をチラチラ見てくるクリス……本当になんなんだ。
と言うか、ダクネスもさっきから俺とクリスをチラチラ見てるし…なんて事を思ってたら、めぐみんも何か怪訝な目でクリスをみている。
「成る程……はぁ、これまた厄介な事になりそうですね。」
なんて事を呟くめぐみんに、同意とばかりにダクネスは頷く。
……なんだよコイツ等。
「おいお前ら、俺に内緒でなに意思疎通してやがる。」
「別に、何もないですよ和真。……ダクネス、私も紅茶を下さい。」
「あ!この野郎!!嘘つきは鉄壁の始まりなんだぞ!!」
「何処の言葉ですかそれは!!和真こそ、適当言わないで下さい…!」
そんな俺とめぐみんを見て、紅茶を汲み終わったダクネスが小さく笑う。
「……ふふ。お前たちを見ていると、本当に帰ってきたという実感が湧くな。」
そう言って、穏やかな表情で俺達に向けて笑みを浮かべた。
「お前、こないだまで引き籠もってた癖に随分とご機嫌だな。あのバツネスは何処に行ったのやら……。」
「バツネス言うな!!……というか、私はバツイチになどなってはいないぞ。私の籍は綺麗なままだ。」
ダクネスはそう言って不敵に笑う。
「……?あっ!!この野郎、貴族権限を使って戸籍をいじったんだぜ!!」
「ダクネス、昔に比べて随分と変わりましたね。」
権力にものを言わせて籍を改竄した事をあっさり見抜かれ、ダクネスの頬が朱に染まる。
涙目になったダクネスに、更にどういじってやろうか考えていた時だった。
「あ!ねぇ皆、そろそろあのイベントの時期じゃない?」
急に元気になったクリスが、そんな事を言い出す……イベント?
クリスは俺達を見渡すと。
「皆は、女神様大感謝祭って知ってる?」
と、突然そんな事を言ってきた。
___女神様大感謝祭。
それは、一年を無事に過ごせた事を喜び感謝し、女神様を称える祭り。
毎年この時季になると世界各地で執り行われる恒例行事だという。
「女神祭りはこの街でもやるのですね。なんでも、この日に女神様の仮装をすると次の祭りの年まで無事に過ごせる様ですね。」
へぇ、そんな粋な事までやってんのか。
俺は感心しながらクリスを見ると、気不味そうに首を振る。
迷信らしい。
「女神祭りには当家も毎年関わっているぞ。我がダスティネス家は代々敬虔なエリス教徒だ。毎年多額の寄付をしたり、エリス様の仮装をしたりしている。」
と、クリスをチラリと見ながら言うダクネス。
それを聞いて顔を真っ赤にするクリス。
「まぁ、クリスには申し訳ありませんが…私はあまり好きではありませんでしたね。仮装するのが女性だけとは限りませんので。」
……それは聞きたくなかった情報だな。
「ま、まぁ皆でやればきっと楽しいから……女神様本人が言うんだから間違いない!!」
「そうだぞめぐみん。それに、俺自身お前らの仮装に興味がある。」
と言うと、クリスが悪戯を思い付いた表情で俺に向き直る。
「ならさ!和真も女神の仮装したら?」
……コイツは一体何を言い出すのだろうか。
「あぁ、確かにそれは良いですね!それなら私も初めてやってみても良いです!!」
「そうだな、それなら私も久々に仮装してみようか。」
と、女三人がニヤニヤしながら俺を見てくる。
なんだよ、そんな目で俺を見るなよ。
「……幾らお前らでも、やらねーぞ?……おい、ジリジリ躙り寄ってくるな、おい!くんな!!絶対やんねーぞ!?やらねーからなぁッ!!!」
「和真!早くこっちこっち!!」
結局三人の圧に負け、俺も仮装する条件で皆でイベントに行くとの約束になった。
皆で材料を買いに行こうかとも思ったが、俺とクリス以外は各々用事があるため二人で買い物へと行く。
……まぁ、あの事を聞くのにも丁度良いかもそれないな。
「なぁクリス、言ってた神器の行方は分かったのか?」
「あぁ、場所までは突き止めたよ。でも、ちょっと厄介な所にあるんだよねぇ…。」
とクリスが説明するには、今回の神器を持っているのがアンダインという貴族らしい。
この貴族がこれまた変わった貴族で、なにやら変な物を好んで集めるクセがあるらしい。
「相手が貴族なら、ダクネスに頼んでみるのはどうだ?」
「それは無理だね。アンダインはあの神器を非合法な手段で手に入れたみたいだし、きっととぼけられるよ。」
つまり……。
「という事は、目には目を、歯に歯を……って事ですか?」
「うん、アレだね。助手君?」
また、あの仮面を被る事になりそうだ。
「まぁ今はそれよりも、仮装の材料集めだよ!!……それで、和真結局誰の仮装をするの?」
「誰の……って言われてもな。俺女神様お前とアクアしか知らねーんだよ。」
すると、クリスが苦い顔をして口を開く。
「そんなもんだよ、女神祭りって。皆私か先輩の仮装ばかりで……たまに別の女神の仮装がいたりするけど、本当に一人か二人くらいなんだよね。なんでも巷では、女神祭りじゃなくて先輩vs後輩の決戦!……なんて言われてたり。」
……他の神様も入れてやってほしい。
まぁ他の神様知らないけど。
「クリスとダクネスはエリスの仮装だろ?めぐみんは何するんだろ。」
「えっとね、なんでもアクシズ教徒に知り合いが居るから先輩の仮装するって言ってたよ。ささ、ちゃっちゃと決めちゃってよ!!」
急かしてくるクリスに、俺は人数合わせも込め決める。
「なら、俺もアクアにしようかな。そうすれば2.2で同じになるだろ?」
そうクリスに伝えると、目を細め少し素っ気ない態度をとるクリス。
「ふ〜ん、和真は先輩を選ぶんだ。」
「……なんだよ、嫉妬か?可愛い奴め。」
「べっつに〜?」
また歩き初めるクリス……これだからクリスは可愛い。
「まぁまぁ、また来年にでも交換してやれば良いじゃないか。」
「へぇ?来年もやってくれるんだ?」
悪い顔でニヤつくクリスを尻目に、優しさ故の墓穴発言に少し後悔する。
ま、機嫌を取り戻してくれたみたいだ助かった。
生地などが売っている店へとつき、俺達は材料を買いに店へ入る。
クリスはエリス用の、俺はアクア用の材料を探す。
………あれだな、アイツの服をあんまり見た事がないせいで良く分からないな。
確か緑色のリボンみたいなのつけてたよな、後はフリフリの青いスカートだったり___そう言えばこの世界にウィッグってあるのだろうか?
それとも髪は地毛のまんまなのだろうか、まぁ後でいいや。
なんて考えていると、もう材料集めが終わったのかクリスが近付く。
「どう?良いのあった?」
「はえーな。なぁアイツの服の見本とかってないのか?後は青色の髪のウィッグだったり。」
「フッフッフ…そう言うと思ってこちら!先輩の分もある程度探しておきました!!」
そう言って手に持っている生地などを見せてくる……おぉ緑色なの合ってた。
「流石クリスだ助かる、んじゃ会計してさっさと戻って作業に取り掛かろうぜ。」
何だかんだ楽しみになっている俺が居る、まぁ仮装なんて日本のハロウィンでもやらなかったしな……しょうがない。
ある日の夜。
時刻は深夜を回り、後数時間もすれば夜が明ける頃。
俺とクリスは標的となるアンダイン邸の前に立っていた。
「よし、そろそろ良い時間だな。さっさと帰って仮装作るぞ!」
「助手君、何だかんだ私達より楽しみにしてるね?」
例の仮面を被った俺は、黒装束に身を包み大きな荷物を背負っていた。
今宵は月の明かりもなく辺りは闇に包まれていた。
「……ねぇその大荷物って結局何なのさ。そろそろ正解を教えてよ。」
「残念、当たりませんでしたね。因みに正解は衝撃吸収材用の防音材です……ほら、プチプチですよ。」
それを聞き、思い出したかの様に顔を上げ引き締め直す。
___俺達は闇夜き紛れて屋敷に向かう。
正直言って今回はあまり難易度は高くない。
王城へ侵入するのに比べれば容易いものだし、アンダイン家は貴族と言っても……比べたら悪いが、ダクネスの家ほど大きな家柄でもない。
「それじゃお頭、手を握ってて下さいね。俺が先導しますんで。」
「助手君、別に手を握らなくても大丈夫だよ。王都でも大丈夫だったじゃないか。」
「何言ってるんですかお頭、お頭は千里眼スキル持ってないじゃないですか……ほら、さっさと手を……」
「和真、今セクハラするなら強烈な天罰を下すよ?もしくは例の店に行ってる事をめぐみん達に___」
「すんませんでした。」
俺は軽く震えながら壁に沿って先に進むと、屋敷の裏口へと辿り着く。
クリスが解錠スキルを使い扉を開け、中へと忍び足で入る。
___アンダインの屋敷内は予想通り見回りもいない。
クリスが宝感知スキルを使い、反応があった方へと進んでいるのだが……。
「お頭、いちいちお宝の前で止まらないで下さい。」
「う、うん。それは分かってるんだけどね…なんというか、盗賊の血が騒ぐっていうか……。」
道中の絵画や調理品の前で、クリスが度々引っ掛かっていた。
とても女神の発言とは思えないクリスの宝感知を頼りに進んで行くと、やがて重厚な扉のある部屋に行き着いた。
と、罠感知スキルに反応が。
「流石に罠の一つくらいは仕掛けてあるよねぇ。どれどれ……おっと、警報の罠だね。」
クリスがジト目で俺を見てくる……なんだよ、何が言いたいんだよ。
「……俺だって馬鹿じゃありません、以前の様にはなりませんよ。」
未だ疑う目でクリスが罠を解除している間に、俺は念の為に敵感知スキルを使い、誰も起きて来ないか辺りを探る。
「………?」
敵……ではないのだが、宝物庫の中から妙な気配が一つ。
それも何か鎧の様な。
「よし解除出来た!鍵も開いたよ助手君!」
そう言って扉を開ける……が、何も居ない。
気の所為か。
「……?どうしたの助手君?」
「いや、なんでもないです。」
勘違いかと思うも、未だにその辺から気配を感じる。
しかし、そこにあるのは大量の変なアイテムとお宝の山。
「助手君助手君見てごらん!これなんてかなりの値打ち物だよ!」
「あっ!それ俺も狙ってたのに!」
俺はそんな気配などとうに忘れ、お宝漁りに夢中になっていた。
「一応言っとくけど、盗んだお宝は全額寄付するんだからね?」
「分かってますって。お、これなんかめぐみんが好きそうだな……これ何てクリス好きなんじゃないか?」
「おぉ!良いねぇ〜……じゃなくて!駄目だからね?本当に駄目だからね?」
と、俺はふと気が付いた。
この部屋には金目の物はあるものの、肝心の鎧がない事に。
先ほどの気配がなんとなく気になった俺は、そちらの方に目を向ける。
その方向には壁があり、特に不自然な物も…。
「うぉっ!?」
壁をペタペタと触っていると、その一部がボコリと凹み忍者屋敷の回転壁の如くクルリと回る。
「隠し扉か、やるねぇ助手君。」
「こう見えて、お頭の次に運が良い自信がありますから。」
そんな軽口を叩き合いながら、俺達は壁の向こうの部屋に入る。
部屋の真ん中には、まるで封印でも施されたかの様に鎖ががんじがらめに縛られた鎧があった。
白銀のその鎧は、完成された芸術品を思わせた。
継ぎ目の一つも見当たらない滑らなかな表面の全身鎧。
「……これですか?」
「うん。これこそが、例の神器……聖鎧アイギス。この世で最も頑強で、これを身に着ける者に勝利をもたらす神器だよ。」
俺達は縛られた鎧に近付くと、改めてそれをみる。
クリスが感慨深そうに鎧に手を置く。
鎧についた小さな傷を、一つ一つ確かめる様に。
「……キミはこれまで、良く頑張ったね。」
クリスは鎧に向かって小さく溢すと、触れたその手で優しく撫でた。
『おい坊主、気安く触ってくんじゃねーよ。』
しんみりしていた空気を壊し、突如として頭に響いた男の声。
「えっ。ぼ、坊主?それって私の事!?というかちょっと待って、今の声ってキミなの!?聖鎧アイギス!?」
『おっ、なんだよ坊主じゃねーのか。ならもうちょっと触っても良いぞ。では改めて、初めましてお二人さん。俺の名は聖鎧アイギス、喋って歌えるハイブリットな神器さ!愛称はアイギスさんでよろしく頼むわ。』
何だよこのペラペラ喋る神器は。
俺が敵感知で感じた妙な気配はこいつだったのか。
「え、えっと……。神器が喋るって情報はなかったからちょっと驚いちゃったよ。それでね、アイギス。」
『さんを付けろよデコ助小僧。』
「小僧じゃないよ!ていうか、神器のクセしてなんでそんなに態度デカいのさ!!」
「ちょっとお頭、夜中に侵入してるってのに喧嘩してる場合じゃないですよ!そんな事より目的を!」
口の悪い神器の胸元をポカポカ叩き喧嘩を初めたクリスを押さえ、俺は当初の目的とばかりに背負っていた荷物を下ろす。
クリスはふと真顔に戻り、叩いていた鎧の胸元に手を置く。
「そうだったね。ねぇアイギスさん、私達がこうして侵入してきたのは、もう一度キミの力を借りたいからなんだよ。キミの新しい持ち主を探してあげる。」
そう言って、アイギスを力付けるかの様に笑みを浮かべ……!
『あ?何言ってんだお前ら何で今更そんな事をしなきゃいけないの?俺は嫌だよ?鎧だって叩かれりゃ痛いし、この格好いいボディに傷もつくっつーの。大体、俺の持ち主ってどんなやつよ、俺のお眼鏡に叶うヤツなのか?』
アイギスの罵倒に、笑顔のまま固まった。
『巨乳か?スレンダー系か?言っとくけどガキはNGだぞ。あ、美人系よりも可愛い系が良いかな。鎧の下は薄着で頼むわ。』
………。
「なぁ、この下品な鎧って本当に必要なのか?こんなもん海に沈めちまおうぜ。」
「助手君、気持ちは分かるけどこれでも神器。うん、気持ちは凄く分かる。」
この訳の分からない鎧を一応持って帰るらしい。
俺は無言のまま黙々と荷物から梱包材を取り出し……、
『ん?おいおいそこの黒髪、お前は一体何しようとしてんだよ。つーかよ、お前ら誰?夜中に侵入……とか言ってなかったか?』
アイギスは俺に向かってそんな事を。
「そうだよ、俺達は侵入者だ。今からお前を持って帰って、ちゃんとしたに持ち主に渡すんだよ。」
俺の作業を横目に見ながら、クリスがアイギスを縛る鎖に手を掛ける。
「日本から送られてくる人って、女の子はあまりいないからなぁ……ま、キミの希望二出来るだけ添える様先輩にお願いしてみるよ。」
と、そこまで言った時だった。
アイギスは屋敷に響く大声で。
『人さらいーッ!!』
お前は人じゃなく鎧だろのツッコミたくなる事を絶叫した。