「第二章 この無垢な王女に現実を!」
「___うぷっ…!カ、カズマ……もう少しゆっくり歩いて下さい…!!」
未だ顔色の優れないめぐみんが背後から不穏な事を言ってくる。
結局ゲロ塗れの便器に顔面を突っ込んだめぐみん、当の本人は毒が回って当時の事を微塵も覚えていなかった様子で目を覚ましたのだが___
「……カズマ、良い加減あの時何が起こったのか教えて下さい!!私の髪の毛が少し臭いのと、鰒を見ると鳥肌が立つ理由を。」
「い、いやぁ?何の事か分からんなぁ……ほら最近新しく作られた商品の香水、試作品バニルから貰ったから掛けてやろうか?」
最近と言う程最近でも無いが、ダクネスの結婚式騒動の時に渡した俺の世界の商品の中にあった香水を再現した物がつい最近発売されたらしい。
アクセルの街では女性にそれなりに売れている様で、このまま行けば王都にも行き渡る勢いだと言う。
それに、何よりもサキュバス店に居るサキュバスも試しにつけてみた所まぁ受けが良かったらしくバニルが高らかに笑っていたのを思い出す。
………ウィズに無駄にされなきゃ良いが。
「何ですかコレ……何故得体の知れない物を私自身に吹きかけなければいけないのですか。」
めぐみんが香水を自分の手に吹きかけ匂いを嗅ぐと、少し黙りおずおずと口を開く。
「………カズマは、この匂いが好きですか?」
「ん?あぁまぁ良い匂いだとは思うよ。」
そう答えると後ろでシュッシュッと吹きかける音が聞こえてくる。
何て単純な奴なんだろうか、もしクリスと出会ってなかったら間違いなくめぐみんに惚れていたであろう程良い女だ。
まぁ少し若いから躊躇してただろうが。
………しかしなんだ、さっきから俺にも掛かってるからちょっと首周りが冷たいと言うか何と言うか。
めぐみんもめぐみんでちょっと掛け過ぎと言うか___
「お前さっきから俺にわざと掛けてるよなッ!?」
「なっ!ち、違いますよ初めてだったので少し間違えただけです!!」
「なら何で背後だけじゃなく顎下からも良い匂いがするんだよ!!」
めぐみんとギャーギャー言い争っていると、クリスとダクネスが呆れた目で俺を見てくる。
「はぁ…カズマってば女心が分かってないねぇ。」
「全くだ、何故あんな男を好きになってしまったのか……。」
「よーし良く聞けめぐみん、お前の髪が少し臭い理由はあの二人が原因だ。あのドMが鰒何て買って来てクリスが___」
全てを聞く前に先程の体調が悪いめぐみんは何処へやら、元気よく背中から飛び降りたと思えばダクネスとクリスに掴み掛かって行くめぐみん。
アイツアークウィザードだよな……?何故クルセイダーと互角の腕力なのかは置いといて、クリスの胸をチラリと見て鼻で笑いまたダクネスに掴み掛かり……あぁクリスも参戦してしまった。
この争いは止めるべきか否か、少し考えどう考えても二人の自業自得な為寧ろめぐみんを応援する事に。
「良いぞやっちまえめぐみん!!胸だけが取り柄の筋肉ダルマと最近デレ初めた貧乳女神なんて……!ておい此方に矛先を変えるなぁぁぁぁぁぁ!!」
何故か、嫌明白ではあるが凄い形相のダクネスとクリス、そして何故かダクネスからクリスに矛先を変えためぐみんと言う三人が俺目掛けて走り出す。
端から見れば四人仲良く縦になって走っている微笑ましい光景ではあるが、俺は捕まれば最後人間じゃない力と本当に人間じゃない者に制裁を下される事になってしまう。
この状況をテレポート屋に何て説明しようか悩みつつ、俺は『逃走』スキルを発動させ全力で逃げるのだった……。
結局テレポート屋で殴り合いに発展し店主を困らせたが、何とか無事……無事…?テレポートで王都へと送られていた。
王城へと脚を進めていると城の前で二人の門番を発見。
「あ、おーいすいませーん!!」
そんな俺の掛け声に気付いたのか少し怪訝な顔で俺に立ち直る。
「何の用だ。」
そう冷たくあしらう門番、しっかり仕事を全うしている様子で何よりだ。
俺は懐からクレアから送られた手紙を取り出し告げる。
「えーと、シン……シンフォ……シンフォギアだっけか?」
「シンフォニアだ馬鹿者。あーシンフォニア家が令嬢クレア殿からの依頼で呼ばれた冒険者である、上へ通してくれないか?」
「あぁクレア様の!畏まりました、そちらの封筒を預かっても?」
「良いとも。」
そう言って偉そうに手紙を渡すとダクネスに横から小突かれる、すんません。
俺から受け取った手紙を読み本物だと確信したのか改めて向き直る。
「それでは、客室へと案内させて頂きます。」
俺達は門番の後をついて行っていると、クリスにちょいちょいと肩を叩かれ耳を傾ける。
「カズマってシンフォギア知ってたんだね、もしかしてその歳でパチンコにでも行ってたの?」
何て決めつけ来るクリス。
「………何でパチンコって決め付けるんだよ。俺の世界で生きてたら名前位は聞くだろ?」
「じゃあじゃあ、初代シンフォギアの大当たり確率は具体的に幾らでしょう!!」
「んな事知ってる訳ねーだろ……。」
どうすんだよダクネスがパチンコの意味を聞いてきたら、自分の尊敬してやまない女神がほぼアウトな遊びに手を出してたって知ったら………いや、義賊の件もあって案外何ともなさそうか。
「なーんだ知らないのか、因みに正解は7.4分の1でしたー!!」
未だ疑いの目を向けるクリスがつまらないと言った表情で答えを発表する、そこで俺は反応した……いや、反応してしまった。
「あれ、それは電サポ中図柄揃いの時のじゃ……。」
「………。」
「………。」
ニヤーと嫌な顔で俺を見上げるクリス、とても女神がして良い表情では無い。
「間抜けは見つかった様だね?カズマ君。」
「一回だけだ!友達と運試しに一回だけ、信じてくれ!!」
「いやそもそもキミの歳で行くのが駄目なんだよ。」
いやまぁそれはそうではある。
がこの佐藤和真、誓って最初の一回以降行った事は無い。
「て言うかそういうクリスこそ行ってるじゃないか!!」
「フフン!別に私は行っても問題ない歳だからね!!」
「つまり二十歳以上……と、」
「あ!?い、今の無しっ!!」
と、分かりきっていた事ではあったがこのptの最年長はクリスである事が判明した。
そんな感じで客室に行く道すがら話していると俺とクリスの間にズイッとめぐみんが割って入ってくる。
ジトーと俺とクリスを見上げる不機嫌そうなめぐみん。
「……どうした?めぐみん。」
「いえ、私の知らない話しで盛り上がる二人が気に入らないだけです。気にしないで下さい。」
「あ、ご、ごめんねめぐみん…?」
「何ですか?そこで謝罪すると言う事は何かやましい理由でもあるのですか?ほら白状して下さいよクリス、私達は仲間ではありませんか。」
と鰒の件の恨みも有ってかクリスの肩に手を乗せほっぺをうりうりと押すめぐみん、オロオロとした表情で俺に助けを求めてくるが勿論素知らぬフリ。
俺は記憶に新しい王城を改めて見渡していた。
ズンズンと客室に向かう道すがら様々な人物と顔を合わせる。
ここに仕えているであろうメイドさんや執事、端や何処ぞの貴族達だったりと実に多くの……ってあの執事あん時のセバスチャンじゃねーか。
そんな俺の視線に気付いたのか俺の方向に身体を向けると軽く会釈、それに答える様に俺も手を振っておいた。
「……なんだカズマ、知り合いか?」
「あぁ、お茶目で面白い人だよ。」
その後冗談ですと笑われたが俺なら分かる、あの野郎俺に止められなかったら絶対あらぬ噂を広めていたに違いない。
そんな事を考えながら辺りを再度見渡していると、客室に着いたのか俺の前を歩いていたダクネスが止まった事に気付かずぶつかってしまう。
「っと、大丈夫?カズマ。」
倒れそうになった俺を肩を抱き支えるクリス。
対照的にピクリとも動かないダクネス……これがフィジカルの差か。
「それでは、クレア様を呼んで参りますので少々お待ちを。」
ビシッと敬礼をし颯爽と去って行く門番を尻目に、俺達は客室で時間を潰す事に。
相も変わらず窓を観察するクリス……今にして思えば、アレは脱走経路を確保する為の癖みたいな物なんだろう。
ダクネスは流石貴族といった所かソファーに座り落ち着いた雰囲気で本を読んでいる。
そんな二人とは対照的に落ち着かない様子のめぐみん、オロオロとする訳でもなく何処か居心地の悪そうな感じだ。
まぁ、かく言う俺も庶民肌な為慣れてなかったらめぐみんと同じ感じだっただろう。
ここは一つカズマさんが一肌脱いで緊張をほぐしてやろう……そう思った時___
「___ッ!!はぁっ…!はぁっ…!カズマ!サトウカズマ!!」
多分急いで来たのだろう肩で息をしながら扉を勢い良く開けたクレア。
部屋の中で俺を見つけるなり潤んだ目で俺の両肩に手を置き名を呼ぶ……色々と不味い絵面な為少し離れて欲しいが、その心の内は痛い程に分かる。
「……落ち着けクレア、まずは状況確認だ。座って知っている全てを話してくれ。」
「……!!あぁ、すまない…!」
俺はダクネスの隣に座りクレアを落ち着かせる。
そんな俺達の気迫にクリスとめぐみんが息を飲み顔が引き締まる、やっと事の重大さが分かった様だ。
一つ深く息を吐くと落ち着いた表情で、しかし急いでいるともとれる表情でクレアは口を開く。
「………まず、この結婚に関してだが……」
「言い、皆まで言うな。政治的な理由…だろ?」
「……っ!流石カズマだ、察しが良くて助かる。」
そもそもアイリスが政治的理由以外で結婚するなど有り得ないのだ、それに可愛い俺の妹に手を出す不届き者等碌な奴が居る訳が無い………目の前の奴がそれを証明しているからな。
「それよりも情報だ。相手の知りうる限りの情報を俺に知らせろ、まずはそれからだ。」
「あぁ……とそれともう一つ。ララティーナ殿、二階でレインが話があるとお呼びだ。」
「………向かおう。」
何時になく真剣なダクネスが部屋から出ていくと改めてクレアがこちらに向き直る。
「まず、相手は隣国の第一王子だ………が、何をどう育てられたのか実に我が儘で手の付けようのないクソガキだ。戦闘センスは皆無、外面に関してはアイリス様が美しすぎる余りか霞んで最早顔を思い出すのが不可能な程には特徴のない。……更に、隣国であるエルロードは我が国を下に見ていてな……アイリス様が嫁ごう者ならそれはそれは可哀想な目に合うに決まっている…!!」
そう力強く説明してくれるクレア……と、懐から何やら怪しい瓶を俺に渡してくる。
「……これは?」
「この世で最も貴重な劇薬だ。貴族御用達、この名を知らぬ貴族はいない。」
「リスクは?」
「貴様がこの薬を初めて見るのが何よりの証拠だ。」
俺は無言でクレアを見つめ返し、懐に瓶をそっと仕舞う。
「いやいやいや何してんのカズマ!?」
「あ、ちょおい!!」
「おいは此方のセリフですよ!!何目の前で人を殺す計画を企てているのですか…!!」
先程の俺達の話し合いを無言で見ていたクリスとめぐみんに瓶を奪われる、全くコイツ等にはアイリスの危機を理解出来ているのか?
「………まぁ良い、それにどちらかと言えばこっちが本命だ。」
そう言って胸元に下げているペンダントを外し俺に渡してくる。
「家紋入りのペンダント……。」
「あぁ、今回ばかりは失敗は許されない。着いて行けない分当家の権力を思う存分使ってくれ、これが有れば多少は融通が効く。」
「フッ…任された。」
俺は受け取ったペンダントを自分の首に掛け直そうと……あれ、上手くいかない。
後で誰かに付けて貰おうと俺はこいつを懐に仕舞う。
「今回事が上手く運べはそれはもう報酬は弾む、任せたぞカズマ。」
「いや報酬はいらない。俺は自分のするべき事をするまでだ……そうだな、もし上手くいったなら酒でも飲んでアイリスを語り尽くそうじゃないか。」
「カズマ…!!お前と言う奴は全く…っ!!」
歓喜の目で俺を見つめるクレア、俺は右手を差し出すとそれに力強く応えてくる。
「………ねぇ、何か幹部討伐よりも気合入ってない?カズマ。」
「ですね、色々と手遅れでしょう。」
何やらコソコソと後ろで話しているが全て聞こえている、せめて聞こえない声のボリュームで話して欲しいものだ。
「それで、何時出発なんだ?」
「あぁそれはだな……。」
「___今からですよ、お兄ちゃん。」
何時の間に来ていたのか、キィと扉を開け顔だけをこちらに覗かせるアイリス。
久しぶりに会ったからなのか何処か照れ臭そうにモジモジしてチラチラと俺の顔を伺う。
「久しぶり、アイリス。」
「お久しぶりです!お兄ちゃん!!」
「ささ!お兄ちゃん私の隣へどうぞ!!」
もう待ち切れないとばかりに竜車に乗り隣の席をパンパンと叩く。
「全くお兄ちゃんっ子だなアイリス?」
俺は顔を綻ばし戦士風な格好をしているアイリスの隣に座ろうと………。
「おぉっとアイリス、カズマの隣に座りたくばまずは私を倒してからにするんですねぇ!!」
そう四天王の雑魚っぱ的なセリフを言いながら俺を退かしアイリスの隣に座るめぐみん、それに応える様にアイリスが気合を入れめぐみんと取っ組み合いを初めた。
………しょうがない、俺はクリスかダクネスと一緒に座ろう。
そう思い前の席を見ると二人で仲良く座っていた。
「………なぁやっぱりクレアも着いて来いよ、道中俺一人なのは寂しいからよ。」
「くっ…!ならば仕方あるまい、レイン!私はカズマの話し相手として、な!?だからその手を離せぇぇぇぇ!!アイリス様ァァァァァ!!」
「は、早く出発して下さいダスティネス教!!」
無常にもダクネスが鞭を振るい竜車を出発させてしまう。
「ア、アイリス様ァァァァァ!!」
地面に膝を付き今世の別れだと言わんばかりの嘆きが後ろから聞こえてくる。
当の本人であるアイリスはめぐみんとボードゲームに夢中だが……。
「後は任せたぞぉぉぉぉぉカズマァァァァァッ!!」
そんなクレアの熱烈な見送りを受けながら、俺は今回の依頼を思い出す。
あくまで今回の依頼はアイリスの同伴、皆で許嫁に文句を言いに行く依頼では無いのだ。
つまり向こうの国エルロードに着いてしまえば俺達の役割は終わり、残りは皆好きに観光しても良いのだ。
だがそれはあくまで依頼内容に過ぎない、俺はクレアとの個人的な約束が本命だ。
それとなく婚約を破棄にする様に………最悪アイリスの身柄さえ無事で居ればなんでも良いと、潔白であれば何をしても、まぁもし王様に怒られたらアイツも道連れだ。
代わりゆく景色を見ながら俺はどう破棄してやろうかと考える。
当初の薬殺は女神と爆裂女によって阻止されてしまった、だが一つ安心なのは向こうがあくまで此方を下に見ている事。
向こうからアイリスの利用価値を見出させなかったら良いのだ………だがそれも難しい、何故ならアイリスは居るだけで利用価値はあるからだ。
「……何やら考え事かな?カズマ。」
どうしたものかと頭をうねらせて居ると、ダクネスと一緒に前に座っていた筈のクリスが俺の真隣に来ていた。
「あれ、どうやってきたんだ?」
「フッフッフッ。聞いて驚く事なかれ、この身一つで扉を開けて中に入って来ましたとも!!」
「……器用なこって。」
「それ程でも。」
随分とアグレッシブな女神な事だ……いや、それは今に始まった事じゃないか。
俺はまた景色に目を向け考え事をしようと………
「……成る程、そう言う事か。」
「そ、命が何個あっても足りやしないよ全く……。」
目まぐるしい景色の移り変わり、つまりこの竜車は信じられないスピードで進んでいるのだ。
こんな状況で外にでも居よう物なら景色など楽しむ余裕はないだろう。
俺はその元凶であるダクネスの方を見てみる………アイツ、まさかこの死の間際を楽しんでいるのか…?
今此処にはアイリスが居ると言う事をすっかり忘れてしまっているのか、恍惚とした表情で竜に鞭を振るっている。
ドMも行く何処まで行ってしまえば公害でしかないな。
「おい可愛い信者が殺人未遂を起こしてるぞ、止めなくて良いのか?」
「止めたよ。どんどんスピードが上がっていく竜車のスピードを落とそうって、でもダクネスに私の声届いてないんだもん。」
そう遠い目でダクネスを見ながら答える……どうやら随分と手の焼く信者をお持ちの様だ。
「お兄ちゃんお兄ちゃん見て下さい!マンドラゴラの求愛です!!私、実物は初めて見ました!!」
後ろの席でキャッキャとはしゃぐアイリスには悪いが、俺はこのスピードで景色の細部を楽しめる程良い目を持っていない。
「フン、王女である立場の人間が何そんな事ではしゃいでいるのですか。私達の街に来ればマンドラゴラに限らず人間の求愛だって……」
「おま馬鹿!!何教えてんだお前ッ!?」
とんでも無い事を口走るめぐみん。
「?何ですか、私は告白や婚約の事を言ったのですが……それ以外にも何かあるんですか?」
「え、わ、私気になります!!教えて下さいお兄ちゃん!!」
………。
「お、俺はそんな経験ないから良く分からないけど……あ!そういやクリスは経験豊富だったよな!?ほーらアイリス、クリスが答えてくれるさ!うんうん!!」
「えっ!?ちょ、や、やめてアイリスちゃん!そんな期待した目で私を見ないでぇぇぇぇ!!」
何とか難を逃れクリスに押し付ける事に成功、悪いなクリス女神として馬鹿な人間の尻拭いを頼むよ。
「さぁクリスさん!私は世間知らずな王女です……この国を背負う王族として、知らない事は極力減らしておきたいのです!!」
「う、うがぁぁぁもう!!そんな事言われたら……!!あ…!」
と、何やら思いついた様子。
「そうナンパ!硬派の逆の軟派が語源でナンパって言うのがあるの!!」
「ナンパ……初めて聞いた言葉です!どの様な意味合いなのですか!!」
「え、えーとねぇ…!」
………女神が王族にナンパの説明、何て面白い絵面なんだろう。
必死にあれこれ手を使い説明、それを大真面目に聞き入れるアイリス……まぁナンパの意味を知った所で何になると言うのか考えてはいけない。
「随分と面白い光景ですね。」
「お前が作り上げたんだろうが。」
「酷い言い掛かりですね、私は知らなかったから聞いただけなのですが……。」
「___な、成る程…つ、つまりその…え、えっちな事をしたい相手に誘う為の言葉なんですね…!!は、恥ずかしいですけど勉強になりました!!」
アイツもアイツで何て偏った知識を植え付けてるんだ。
と、そんなどうしょうもない雰囲気をぶち壊すかの様に俺はふと思う。
「なぁそもそもエルロードってどんな国なんだ?」
「あら、聞かされていなかったんですかお兄ちゃん?」
そりゃまぁ暗殺計画と破棄計画しか聞かされてないですとも。
「うーんまぁでも簡単に言えば、私とカズマにはうってつけの国だよ!」
「うってつけ…?」
「そそ、言わばギャンブルの国!…と言っても差し支えない位にはギャンブル大国だよ。何やら初代国王が賭け事で得た大金で成り上がったって歴史もある位だからね。」
ギャンブル………随分とタイムリーな国な事だ。
しかしそんな国に俺達が言っても大丈夫なのだろうか?俺とクリスで食い散らす未来が見えるが………いや逆に有りか。
ここで巨万の富を得て今後の生活を楽にさせて貰おう、それにここで予め教会に寄付しておけば今後の幹部討伐のお金がより多く手元に残ってくれるかも知れない。
それはクリス次第ではあるが。
辺りも薄暗くなってきた頃。
あの馬鹿なドMも我に返り段々とスピードが落ちてきた所で野宿のスタート……と、思っていたのだが。
「……おいおい何だよこれは。」
「これか?これはこの国でもかなり高価で希少な魔道具の一つ、モンスター避けの結界が張られた簡易的な屋敷だ。しかも持ち運び便利ときた。」
そこには俺達の屋敷と引けず劣らずの立派な屋敷が森の中へ建っていた。
いやまぁ確かに王女を野宿させるのは如何な物かとも一瞬考えたが、アイリスの事だ逆に楽しみそうだと思っていたんだが…。
その屋敷も見て興奮気味のクリスとめぐみんはさておき、暗い森を見渡しているアイリスに話し掛ける。
「?どうしたアイリス。」
「いえ……何だか新鮮だなぁ…と、思いまして。」
そりゃそうだ、こんな時間に外に出た事などないであろうアイリスからすれば未知の領域。
俺はこれまた別の意味で目を輝かせているアイリスを見て、先程の思いは杞憂であったと悟る。
もう待ち切れないとばかりに我先にと屋敷へ走って行くめぐみんとクリス、続いて納車し終わったダクネスがこちらに振り返る。
「さぁ、時間も時間です。そろそろ中に入りましょうアイリス様。」
そんなダクネスの言葉に名残惜しそうに眉を顰め俺を見上げるアイリス。
……悪いが幾らアイリスの願いと言えど、真夜中の危険な森を彷徨かせる訳には行かない。
だから俺は冒険のもう一つの醍醐味を伝授する事にした。
「___うし!飯だ飯!!手伝ってくれるか?アイリス。」
「………!はい!!お兄ちゃん!!」
パァと顔を綻ばせ俺の手を握ってくるアイリス。
そんな御転婆王女様は今日、初めて城の外で眠りにつくらしい。