「第三章 このギャンブル大国に幸運を!」
其処に聳え立つはベルゼルクの王城よりも一回りデカい王城、エルロードの城。
その大きさに呆気を取られていた俺は、奇策を一つ思い付く。
「良しダクネスお前の家紋も次いでに俺に渡しとけ、二個も首に掛けてたら向こうもそう舐めた態度は改めるだろう。」
「絶対に断る。」
俺をジト目で見ながら己の家紋を懐に隠すダクネス、全くこれだから箱入り娘は。
「カズマカズマっ!!あんな大きな城を見せられては私の爆裂欲が抑えられません…!!撃って良いですかっ!?」
「許可する。」
「駄目に決まってるだろうっ!?」
ギャイギャイ暴れるめぐみんを何とか抑えるダクネスを尻目に、俺は緊張したのかその場で俯き祈る様なポーズのアイリスへと目を移す。
「………大丈夫か?アイリス。」
「………はい、事が上手く行く様女神エリス様へお祈りしておりました。」
「そうか…。」
その女神エリスなんだが今目の前で目をキラキラさせてエルロード城を眺めてるぞ、多分良いお宝が無いか考えてる顔だ。
そんな行く先不安の面子で王子が出て来るのを待つ事数十分、やっと大きな扉から小さなな男の子が出て来る。
「___城の前で騒がしいな田舎者、礼儀というのを弁えろ。」
年相応の甲高い声、背丈、しかし態度は横暴その物。
フンッと鼻を鳴らし胸を張って見下す様に仁王立ち。
もし、初対面のアイリスを知らなければここで我慢出来ずにチェンジの一言が出ていただろう………しかし俺は学ぶ男、貴族の子供何て物はそんなもんだと割り切れる。
「チェン___モガっ!?」
「………っ!」
何時の間に俺の後ろに回っていたのか凄い形相のダクネスが俺を背後から掴む、お陰で今頬周りが悲鳴を上げている。
そんな俺の事などつゆ知らず、何をしているのかと言いたげな目を向けていた王子は目の前に居るアイリスに目を向ける。
「あの………貴方が、エルロード第一王子…レヴィ様ですか?私はベルゼルクの第一王女、アイリスと申します。本日は貴方のお顔が見られて嬉しいです…!」
そう屈託の無い笑顔でレヴィ王子とやらに笑い掛けるアイリス………フッ、この笑顔と可憐な美しい声でこんな事言われれば即堕ちだな。
すまんなクレア、俺達の出番はどうやら無かった様だ。
俺は勝ち誇った気持ちでレヴィ王子の顔を見つめると___
「ふーん?武闘派の出世だと聞いていたが、随分と弱そうだな。もっと強そうで凛々しい姿を想像してたのだが……拍子抜けだな。」
「えっ?あ……そ、その…すいません…。」
「それに何だ後ろの護衛は!!そいつ等も弱そうな連中だな、そんな護衛しか雇えない位にベルゼルクは金が無いのか?」
そう言って此方を小馬鹿にした様子のレヴィ王子……成る程、やはりあの劇薬は必要だった訳だ。
レヴィ王子の後ろに居た家来達も此方を小馬鹿にした発言にクスクスと笑う始末、とても友好国だとは思えない態度である。
「そこのデカい金髪の女はまだ使えそうだが………何だ?ヒョロガリのっぽ二人とチビ女、良くもまぁここまで無事だったな?」
俺、クリス、めぐみんに標的を向ける王子、相も変わらずクリスは男と間違われているみたいだが。
先程まで暴れ回っていためぐみんが嘘の様に大人しいくなっているなと思っていると、後ろから魔力を感じ思わず振り返る。
其処には凛々と赤く目を光らしためぐみんと、片目に一筋の涙を流したナイフを持ったクリス。
そんな様子に気付かないのか良い気になっている王子はハッハッハと高笑いしながら家来達へと振り返る……が、何故か同調しない青褪めた家来達に違和感を覚えた様だ。
一歩、又一歩と王子に歩み寄るクリスとめぐみん……此方に振り返った王子の顔も家来とお揃いだ。
「「その喧嘩、買おうじゃないか。」」
「すいませんすいません!!王子は世間知らずなので、まさか紅魔族の方だとは…!!」
「王子!幾ら何でも女性を男性と間違えるのは如何な物かと…!!」
青褪めた表情の王子の前に立ち杖を構えためぐみんと見た事も無いギザギザとした殺傷能力の高そうなダガーを構えたクリス。
俺とダクネスで何とか羽交い締めして抑えてはいるが、何時刺しに行くか分からない。
「フンッ!!その礼儀のなっていない王子とやらにはしっかり教育しておいて下さい!!………次はありませんよ?」
「クッ……!離してカズマ…!!私はもう限界なんだよぉぉぉぉ!!」
「落ち着けクリス!!事実ではあるだろっ!?」
「何ぉぉぉぉっ!?」
矛先が此方に向き今度は俺を刺そうとダガーを向けるクリス。
てんやわんやで収集の付かない事態になっていた時、城の扉が開く音が聞こえてくる。
「……一体、何の騒ぎですか。」
何処か特徴がある訳でもないが、この国で偉い立ち位置に居るのだと分かる佇まいの男が冷めた目で俺達を見つめていた。
「さ、宰相どの…!!」
家来の一人がそう呼ぶ、どうやら俺の考えは当たっていた様だ。
その場の皆が畏まる中アイリスが俺達の前に出る。
宰相の前に立ったアイリスを見つめる目は、何処か冷たく感じる印象を受けたが……直ぐに可愛らしい者を見る顔つきへと。
「初めまして、私はベルセルクの第一王女アイリスと申します。」
「これこれは!噂に聞くベルセルクとは思えぬ華奢な女性だ、私は宰相を務めるラグクラフトと申します。宜しくお願いします。」
そう言ってアイリスと目を合わす為屈み握手を交わすラグクラフトとやら……なーんかきな臭いんだよなぁ。
俺と同じ印象を受けたのかクリスも怪訝な目で交わす手を見つめている。
「それではアイリス様御一行はどうか此方へ、歓待の準備をしていますので。」
嫌な笑顔を浮かべた宰相に釣られ俺達は城の中へと入る。
周りを見ればそれはもう大層な成り金貴族と言った感じであった。
金、金、金……何処を見ても金色に輝いた目に悪い設備の数々、行く道を交差する人々は全員首に金色のネックレスやら、金色の指輪を身に着けていた。
こんな金ばかりの場所に居てはクリスも興奮を抑えられないだろう、そう思ってチラリと目をやるが何処か浮かない様子。
「……どうした?クリス。」
「え?いや……うん、今はいいや。」
そう言ってヘラヘラと笑顔を返すが、やはり何処か周りに目を移す姿は気分の良さそうな物では決してなかった。
先程の威勢は何処へやら、緊張して縮こまってしまっいるめぐみんとそんな彼女を心配そうな目で見ているダクネス。
アイリスはと言うと宰相の後をめぐみんとはまた違った緊張の面持ちで着いて行く……まぁ、国の一大事だからな。
「では護衛の皆様は此方でお食事を、アイリス様はあちらの席でお話をしましょう。」
あの野郎アイリスの肩を抱いて奥の席の方へと行きやがった!?もしクレアがこの景色を見てたら直ぐ様斬り掛かっていただろう。
かく言う俺も今手から血が出る程力を抑えている、もし相手が其処まで立場の低い者であれば家紋をこれ見よがしに見せびらかし殴りに掛かっていただろう。
「……!?ちょ、カズマ手から血が出ていますよ…!!」
「気にしないで良いよめぐみん、どうせアイリスちゃんの事だろうから。」
呆れた様子のクリスがめぐみんの背中を押し豪勢な食事が並べられたテーブルへ、ダクネスは俺と同じくアイリスを心配そうな目で見ていた。
………しかし、やはりどうも怪しい雰囲気の絶えない場所だ。
テーブルに並べられたご飯はどれも高級な物ではあるが、ここまで来る道中は此れでもかと金を使っていたのにも関わらず、案内された部屋はギャップもあり何処か質素さを感じる。
別にその待遇が不満だとかそう言う事ではないが、何故人を向かいれる場所を豪勢にしなかったのかと疑問を残ってしまう。
「なぁダクネス、実はこの国ってお金不足って事はない?」
「急に何を言い出すかと思えば……そんな事はないだろう。何よりこの国は財力が全てだ、それにベルセルクも完全にこの国に頼ってしまっているからな、もし無いと言われたその時は……。」
「そんな…!それでは困りますっ!!」
ダンッと大きな音と共にアイリスと宰相が話し合っていたテーブルの方で声がする、何やら不都合が起きた様だ。
俺は二人の方へ『読心術』のスキルを使い盗み聞きを試みる、どうやらお兄ちゃんの力が必要になりそうだからな。
「___と、言われましても。無い物は無いのです……唯でさえこの場所も歓迎するのに相応しいとは言えない出来………これ以上はそちらの防衛費に援助出来ません。」
………成る程ねぇ。
「……なぁカズマ、二人は何て言ってるんだ?」
「家紋を渡さないドMに教えてくやる事はねぇよ。」
「なっ!?き、貴様ぁ…!!」
「それより、お前は彼処でストレス食いしてるめぐみんをクリスと一緒に止めてこい。助けを求めるクリスの顔が居た堪れないぞ。」
バッとめぐみん達の方へ振り向くと、其処にはバクバクとテーブルの上に盛り付けられた食べ物を口に放り込むめぐみんと焦った顔でその様子を止めるべきか悩んでいるクリス。
やはり女神と言う立場である以上めぐみんの出生を聞いて停めれないのだろう、心優しいのか馬鹿なのか分かりかねる。
そんな二人に走って行くダクネスを見送ると、俺は可愛い妹の為重い腰を上げる事に。
「___ので、此方も………おや、どうなさいました?」
「お、お兄ちゃん…!!」
助けを求める様な、そんな目で俺を呼ぶアイリス。
アイリスのお兄ちゃんと言う言葉で眉がピクリと反応し俺を驚愕な反応で見上げる宰相。
「お兄ちゃん…っ!?ま、まさか貴方がかのジャティス第一王子……いや、彼は今魔王軍侵攻に向けて現場で指揮を執っていた筈では……。」
ボソボソと何やら本当の兄貴の方に反応する宰相、いや俺とアイリスを見比べれば本当の兄妹じゃない事など分かるだろうに……だが今はそんな事どうでも良い。
「悪いが話は聞かせて貰ったぞ、何やらそっちの金銭面の援助が受けられないらしいな?」
「え、えぇ。何度聞かれても返事は変わりません。遠出して貰っておいてすいませんが、そのまま帰って頂く必要があります。」
「ほーん……なぁ、金銭の援助が出来ねぇってのはあくまで国としての交友関係を切るってので構わねぇんだよな?」
そんな俺の台詞にスンッと落ち着きを取り戻したのか、俺を品定めするかの様な目で見つめ返す。
「………はい、そう思って頂いて構いません。」
「うし、それともう一つ。俺達がこの国の設備を利用するのは別に良いんだよな?」
「えぇそれはもう勿論です。………が、何も致しませんよ?」
それが聞けたら満足だ、俺はアイリスの手を引きクリスの方へと歩き出す。
「お、お兄ちゃん…?」
「残念だがアイリス、俺達はこの国から金を受け取る事が出来ねぇみたいだ。」
「そ、それでは困ります…!!なので何とか交渉しようと、お兄ちゃんに頼らずとも…!!」
俺に頼らず……か、何とも成長を感じられる言葉に涙が出そうにもなるがハッキリ今回はアイリスの出る幕では無い。
あくまで今回俺達は金を受け取りに着たのだ、直接交換で受け取る事が出来ないと言うのならば、また違った別の方法で金を受け取れば良い。
「まぁ落ち着けアイリス。お兄ちゃんに考えがあるんだ……それには、アイリスともう一人の手助けが必要何だ。」
「も、もう一人ですか?」
「あぁ、女神の様な人物であり面倒くさい先輩に恵まれ其処で疲労困憊中なお前にナンパを教えてくれた女だよ。」
ダクネスと共にめぐみんを止めるのに注力していたクリスは、俺達が目の前に来るまで接近している事に気付いていない様子だった。
「………?どうしたの、上手くいった?」
「いや、今から無理矢理上手くいった様にするぞクリス。」
そんな俺の言葉に理解が及びないと首を傾げていたが、気不味そうな顔で俯きがちなアイリスを見て合点がいったのか目を光らせ立ち上がる。
「てことは、打つんだね…?」
「それだけじゃねぇ、カードを照らし合わせたりもしに行くぞ。」
「……一体お前達は何を企んでるんだ?」
同じく疲労困憊であったダクネスが、首だけを上げ疲れた顔で俺達を見渡している。
「決まってるじゃん!!エルロードでお金を稼ぐと言えば___」
「___そっちはどんな感じだ?ダクネス。」
「ま、待てカズマ……後一つ揃えば良いのだろう…?」
身長に目まぐるしく回るルーレットを押そうと、やっぱりまだ速いと押すのをやめる……いや日が暮れるわ。
ただこれは感覚によるものなので難しい、あくまでめぐみんとダクネスには楽しんでもらう目的で破産しない様にやらせるだけで良い。
今回この場所に荒稼ぎに来たのは俺とクリスなのだから。
「す、凄いですお兄ちゃん!!またまたせぶんが揃いました!!」
「まぁ見とけって、まだまだこんなもんじゃねぇから。」
ピョンピョンと俺が次々揃える図柄に跳ねて喜びを露わにするアイリス。
当時何が面白いのか分かっていなかったが、こうして隣で持て囃してくれる人間が居るだけでこんなにも気分が良いとは思わなかった。
もし魔王を倒し終わった暁にはアクセルにも作って貰おうかと本気で悩みつつ、俺はまた慣れた感覚でコインを入れボタンを等間隔で押していく。
「この図柄は何て言うんですか?」
「ん?これはベルって言うんだ……まぁ、あんまし嬉しくはないかな。」
「べるですか…これでまた賢くなれました!!」
まさかエルロードから帰ってきたらギャンブルに詳しくなっていたアイリスとか、もし教えたのが俺だとバレたらクレアにでも殺されるだろうか。
まぁ出会った当初じゃないんだ、呆れられて終わるだろう……多分。
「……よっと!どう、良い感じ?」
「おぉ……ておい、アイリスの前で煙草吸うなよ……ってか煙草何てあったのかこの世界。」
「アハハ違う違う!!其処で売ってる煙草を模したお菓子だよ、ほら子供の頃にあったんじゃん?此方でも咥えながらギャンブルしたらカッコいいから……って理由で人気なんだよね、このお菓子。」
相も変わらず俺の前に来た転生者の思考があまり理解出来ない、なら煙草そのものを布教させれば良い物を……カッコつけたがりなのだろうか。
とか何とか思っても自分も昔咥えていた事を思い出し、スッと一本差し出したそれを受け取り咥える。
「はい、アイリスちゃん!」
「あ、有り難う御座います…!!」
キラキラとした目でそれを見つめるアイリス……まぁこの顔が見れただけ感謝しておく事としよう。
「クリスはどうだったんだ?ポーカー。」
「まぁボチボチかなぁ……根こそぎチップを集めてたらディーラーさんの泣きそうな顔が目に入っちゃってね、一旦席を外してきたってとこかな。」
アハハと申し訳なさそうにしながらも、この後換金するのだろう大量のチップをスロット台の上に起き悪い顔で図柄を眺めるクリス。
そんなクリスをまるで見たくなかったとばかりに目を逸らしながらゆっくり図柄を揃えるダクネス……まぁ、確かに信仰している神様がギャンブルしてる所何か見たくないか。
クリスが女神だと知らないアイリスはそんなダクネスをキョトンと見ながらも、クリスを尊敬する様な顔で見上げていた。
「それで、めぐみんはどうしたんだ?」
「え?あぁ……あっちでまたポーカーとは違ったカードゲームがあってね、私はさっぱり何だけどめぐみんが気に入っちゃって………それで、彼処で今椅子の上で立ち上がって叫んでるよ。」
と指を指した方向へ顔を向けると………今しがた負けたのだろう、頭を抱え叫んでいるのだろう民衆に囲まれ悔しそうな顔でカードを握っていた。
へぇ、面白そう。
「ちょっと俺もあっち言ってくるは、アイリスは俺の台を引き継いで……分かんない事があったらクリスに聞いてくれ。」
「分かりました!!」
「いってらっしゃーい。」
ヒラヒラと手を振り俺を見送るクリスを尻目に、悔しそうに机に突伏しているめぐみんの傍へと近寄る。
「よぉ、調子は良さそうだな。」
「………何処がですか。冷やかしに来たのなら帰ってください……。」
どうやらそうとう悔しそうだ。
と突伏しためぐみんの頭の横に置いてあるカードの束を手に取り中身を確認……てこれ、某デュエル・◯スターズじゃねぇか…。
まさか小学の頃死ぬ程やり込んだカードゲームが此方では賭け事に成る程大流行してようとは、これを持ち込んだ転生者には頭が上がらないな。
見た所出ているパックはどれも俺がまだしていた頃の物ばかり、どうやら俺の知らないデッキ等はなさそうだ。
しょうがない、めぐみんの為にそれはもう爆裂魔法と似通ったデッキを見せてやろう。
一撃必殺、その名が相応しいカードを一枚手に取り俺はパックを在庫を無くす勢いで掻っ攫い定員の前へ置く。
「これ、全部下さい。」
まさかこの言葉は言う時が来ようとは、そう思いながらも財布からエリスを取り出しテーブルへ置くとめぐみんの横に腰掛ける。
「ほらめぐみんも手伝え、これ一人で挙けるのは相当時間掛かるぞ。」
「何ですか……カズマの癖に随分と大人買いしたんですね。」
癖にとは何だ癖にとは。
「なに、前にも言った俺が前居た世界にもあったんだよこれ。当時は出来なかった事を財力で解決しようかなと。」
「嫌な大人ですね……っしょと、分かりました。私の敵討ちをお願いします。」
身体を起こしパックに手を掛けていくめぐみん。
安心しろ、運が良いとはカードゲームに置いてどれだけのアドバンテージになるのかその目にとくと焼き付けるんだな。
次々とお目当てなカードを引き当て、ここでも運の良さをハッキしながら買ったパックの半分も剥き終わらない内に四十枚の束が完成。
後はもう八枚と十二枚を準備すれば完成だ、正直運が無くても使えるデッキではあるが……俺が握ればその本性を発揮する。
「対戦者求む!!」
そうデッキを抱えながら声を張り上げ観衆の目を引く……と、随分とオタクチックな野郎が前に出てくる。
「クフフ……ず、随分と自信のある目をしていますね……。良、良いでしょう……貴方の様な女性を侍らした奴に負ける程、この『陰気のトリガー』が負ける筈がありませぬ!!」
ざわざわと最早罵倒に近い二つ名を持った奴がデッキをシャッフルしながら対面に座る。
何やらここらでは有名らしい、まぁだから何だと言いたいが。
どうやら二つ名でビビらすのが一つの戦術なのか、所々で名乗りを上げる……まるで紅魔族の様な連中だ。
なら、此方も盤外戦術でビビらさせて貰おう。
隣でお互いにシャッフルするデッキを真剣な目つきで見ていためぐみんの肩を寄せると、トリガーと名乗った奴の目がギョッと敵を見るかの様な目へと変わる。
「あぁ掛かって来いよ。此方は負けても後でこんな可愛い女に慰めて貰うからなぁ、お前とは大違いだ?」
「……あ、あのカズマ……少々恥ずかしいのですが…!!」
「グッ、き、きき、貴様の様な奴はここから追い出してやるぅぅぅぅ!!」
互いにシャッフルを終え、カードを並べ終えた俺達はジャンケンを……と、これまた運の良い。
「じゃ、先行で。コイツ埋めて、コイツ使って、さぁ選べ。」
「ふんっ、何だ運任せじゃないか。……ここで良い、どうせ当たらないからな。」
「……おっ、当たりだ。オー◯デリートで俺の勝ち。はい次の奴ー!!」
「………は、はぁぁぁぁぁぁっ!?た、たまたまだ!!もう一度、もう一度だ!!」
ダンッとテーブルを叩きチップを乗せる……そうだ、それを待ってたんだ。
「___ん、煌銀可能最終形態ギラン◯レイルでコイツ等全部出すな。さーてどれでトドメ刺してやろうか。」
ざわざわ……どころではなく、その場は阿鼻叫喚……でもなく、沈黙を守っていた。
単純に絶望しているのだ皆、俺の運の良さに、外れの引かなさに、ジャンケンにすら勝てず何も出来ないまま俺の最初のターンに終わらせられるその状況に。
最初に動くには十分の一と言う決して高くはない運を手繰り寄せる必要がある……が、俺はその全てを突破している。
『黒のカタリナ』だとか、『謀略のクロード』だとか、『鉄壁のマリネス』だとか言われていた連中も今や無くなったチップを名残惜しそうに、俺の横に積まれたチップタワーを見ている。
「良し、それじゃあ次の相手は……何だ誰もいないのか。」
「いやカズマ、確かに敵討ちしてくれとは言いました……言いましたがこれはあまりにも酷いです!!見て下さいこの惨状を、困り顔で汗を流す店員が可愛そうではありませんか!!」
「んだと!!俺はあくまでルールに則る範囲内で楽しんでるだけだぞ!?」
「限度がありますよ限度が!!」
ウンウンとめぐみんの言葉に同調する様に頷く周りの連中………まぁ良い、最初の金を稼ぐと言う目的は達成出来たのだ。
この現状を作り出したデッキをめぐみんに押し付けると俺はチップを抱えクリス達の方へと戻る事に。
全く折角敵を討ってやっただけでなくパックに使った金を倍以上に増やしたと言うのに、白状な奴だ。
と、カードゲームに夢中になってかれこれかなり時間が立っていたのかボーっとしながらただ虚ろにスロットを打つクリス、ダクネス、まだまだ楽しそうなアイリスが三人仲良く横に並んでいた。
「……あ!お兄ちゃん!!見て下さい、ちぇりーさんが揃いました!!まだまだお兄ちゃんの様にせぶんさんやべるさんとはいきませんが、私もそこそこ上手くなってきましたよ!!」
「おぉそうかそうか!!……それで、お前達はどういった状況だ?」
「………ただ、ただ疲れた。私はもう、当分フルーツは見たくないな……。」
そうボソリと呟きボタンに掛けていた手を降ろしたダクネス、折角なので図柄を揃えてやりクリスの方へ目を向ける。
「ダクネスに同意。まだ演出のあるパチンコの方が良いや……。」
女神が気安くパチンコ等と言って欲しくないが、疲れたのには同意出来る。
事実俺もずっとカードをシャッフルして、シャッフルして、シャッフルして、と同じ動作を繰り返すだけだったので非常に腕が痛い。
チラリとアイリスに目を向けると、まだまだ元気そうにスロットをしていたが良い加減俺達の身体共々疲労が溜まっていた為一度宿に戻る事にしたのだった。