「第四章 この愚鈍な王国に制裁を!」
「___それでは行って来ます!!カズマもクリスも、留守番を頼みましたよ!」
何時もより元気なめぐみんが目を爛々と光らせながらそう告げる。
隣にはめぐみんと同じくらい元気一杯なアイリス、とそんな二人の面倒を見る為着いて行くダクネス。
今朝方急に出掛けると言い出しためぐみんをダクネスが問いただした所、何やらその話がアイリスにも聞こえてたらしく俺達には内緒と言う条件でアイリスも混ぜてもらう事に。
何故内緒なのか、何を企んでるのかは……まぁハッキリとは分からないがダクネスが着いて行くのなら大丈夫だろう……多分。
意気揚々と部屋を出て行く三人を見送り、俺はこの後の予定を確認……まぁ何も無い。
かと言って昨日の様に金を稼ぎに行くのも疲れる、残った俺とクリスで後出来る事と言えば……。
「……何で持ってきてんだよ。」
「そりゃもう私達は有名な義賊何だよ?何時、如何なる時でも変装出来る様に持っておくのは当たり前だよ!!」
「なら何であの時俺達は黒装束を無くしたんだろうな。」
結局無くした黒装束を見つける事は叶わず、かと言って女神の格好で行くのも俺は俺で恥ずかしいし本物の女神として印象が下がる様な事はしたくない、と言う事で新しく購入する羽目になってしまった。
「安心してよ、今回はカズマのも勝手に持ってきておいたから。今日の夜早速決行しよっか!!」
「えぇ…。」
「あ!ちょっと露骨に嫌そうな顔しないでくれるっ!?」
ぎゃいぎゃい言いながら俺の襟を持ってやろうやろうと揺さぶってくるクリス、ここ最近……と言うか割と前からクリスとエリスのギャップが凄すぎてかなり驚いている。
クリスは今みたいに駄々を捏ねたり、急に真面目になったり、冗談も言ったりと……本人は嫌がるだろうが要所要所でアクアの面影を感じざるを得ない。
やはり先輩と後輩、エリス本人がアクアを能力の面では尊敬していると言っている所から影響は受けているのだろう。
だが逆にエリスとなると話は別だ。
物静かでお淑やか、本当に女神何だなと感じると共に……酷くドジである。
「ねぇ、今凄く失礼な事考えてない?」
「失礼なのは露出に見合わないその胸だろ。」
「カズマは良い加減殺されたいのかなッ!?」
相も変わらずおっかない奴だ。
「全く……そんな事ばっかり言ってるとモテないよ?折角お金も持って名前もそこそこ知られてるのに。」
モテない……ねぇ。
くどくどとまるで母の様に説教紛いな事をしてくるクリスを眺めつつ、俺はこの気持ちをどうしたものかととも考えてしまう。
別にモテないのはどうでも……は良くないが、そりゃある程度はチヤホヤもされたいがやはりクリスに認められたいと言うのが一番だ。
只の人間が女神様に何思い抱いているのだと言われればそれまでだが、やはり欲と言うものは止められない。
「だから、カズマも良い加減めぐみんかダクネスか……アイリスちゃんかハッキリ決めた方が……っ!?」
「あ、わりぃ。」
無意識に俺はクリスの頭を撫でていた。
先程まで無い胸張って説教していたクリスは今や借りてきた猫の様に大人しく……このまま文句言われるまで撫でてみるか。
そう思い立ちゆっくりとクリスの頭を撫で続ける。
髪が乱れない様細心の注意を払いつつ、一度だけ寝ている所を触った事のある感触を思い出しながらサラサラとした髪を………と、我に返る。
一気に顔が熱くなる感覚に陥り慌ててクリスから手を離すとバクバクとした心臓の音に包まれる。
「………カズマの癖に…。」
朱色に染まった顔をプイッと背け口元を手で隠すクリス、癖にとは何だ癖にとは。
互いに気不味い空気感が暫くの間流れる……て言うか、クリスのこの反応的に押したらワンちゃんいける…?
もし俺が恋愛漫画の主人公であったならば、このままクリスを押し倒してそのままゴールイン……あまりにも夢物語が過ぎる。
「……カズマはさ、どうしたいのさ。」
「え…?」
「………。」
隠していた口元から手を離し股の間へと仕舞い、グイッと身体をのめりだし俺を見つめる。
どうしたいのか……その質問の真意も分からなければ、ここでの正解の回答も全く思い付かない。
クリスは何を思って今質問をしてきたのか、このまま答えて良いものか、悩みに悩んで無い頭をフル回転。
そうして俺が導き出した答え……それは。
「……ちょ、ちょっと一旦外の空気吸ってくるッ!!」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
なんとでも言え!!カズマのカはヘタレでゴミカスのカだ!!
クリスの絶叫を後に、俺は街の外へと繰り出した。
「___いやぁやらかしたな。」
この世でクリスにあの状況、あの顔、あの気持ちで居て逃げ出せる人間等世界を探し回っても俺だけだろう。
嫌な汗を拭いながら街を散策するフリをして、何とか別の事を考え様とする。
しかしどれだけ美味そうな食べ物を見つけても、どれだけエロい女を見つけても、結局脳裏によぎるのは先程の言葉と迫られた時のクリスの顔だけ。
ヘタレ鼻垂れとは誰が言ったか今の俺にピッタリな言葉だ。
だが逆に考えて欲しい、あの状況で身を流す者はそもそもあの状況になれないだろう……と。
そもそも今はアイリスと許嫁の一件、そして両国の金銭面の解決を目指しているのだ。
そんな時にクリスとうつつを抜かす様な物なら……考えるだけでも恐ろしい、あの劇薬が我が身に降り注ぐ事と成りうる。
好きと言う気持ちは自覚し、成熟させたく、溢れてしまうが、今はまだ……せめて魔王を倒し、クリスを天界へと返した時初めて行動に移すべきだ。
……言い訳はこんなもんで良いだろう。
それにクリスもクリスだ、自分が女神だと言う事を忘れているのか只の一般人冒険者仲間である俺との距離感を考え、言動にも改めて欲しいものだ。
「あれ?彼奴って……。」
等と考えていると見た事のある人物に目を付ける。
目線の先に居た人物……それは、俺とクレアを悩ませる張本人である一人……レヴィ王子。
護衛も付けずこんな人目の付かない所で何をしているのか、一度頭をリフレッシュしたい俺からすれば実に好機であった。
ついでに金銭面と臭い話の正体も見つかるかも知れない、そんな淡い期待を込めながら『潜伏』スキルを発動させつつ後を付ける事に。
人通りの少ない道を進み、路地裏へと足を運び、本当に何処に向かっているのか検討も付かないその後ろ姿に気圧される。
あの日、あの時見たレヴィ王子とはまた違った印象を受けるその後ろ姿には何処か哀愁漂う様で……この短期間で何かあったに違いない。
何処を目指しているのか路地裏を抜けたその先には、何処か古びた小さな家がポツンと建っていた。
此処に一体何があるのか、持ち前の義賊心を昂らせながら俺も足を踏み入れ様と___
「___っぶねぇッ!?」
「ッ!!」
レヴィ王子が扉を開けた隙に自分も入ろうとしたその矢先、足元に糸を張っていたのか足を引っ掛け危うく顔から地面に突っ込む事になる所だった。
……まぁ、咄嗟に出た声のせいで追尾相手に見事にバレてしまった訳だが。
「………。」
「あーとだな王子、これにはふかーい理由が…!!」
ギョッとした目で俺を見下ろすレヴィ王子にどう言い訳しようか考えていると、そのまま後ろの扉を閉め一言。
「……着いてこい。」
スタスタと俺から目を離し家の奥へと突き進む。
これは……一体どう言う事だ?
見逃されたのか、将又この後何か言われるのか、どちらにしろ怒られていないこの状況を見るに今はただレヴィ王子に従った方が良いだろう。
それに多分襲われても勝てるし。
ギシギシと今にでも壊れそうな家を進んで行くと突き当たり奥の部屋でレヴィ王子が立ち止まり、扉を開ける。
そのままその部屋へと自分も入ると、その部屋の光景に驚かされる。
「これは……宰相の野郎…か?」
「そうだ、この人間の姿とは口が裂けても言えないこの醜い魔獣!!……これが、あの宰相の正体だったんだ。」
……きな臭い正体はこれか。
魔王軍と思わしき魔物と金品の受け渡しをするその姿、宰相が身に付けていたアクセサリーと全く同じ物を同じ位置に付けていた。
「一体どうやってこんな写真撮ったんだ?」
「……ふと、ラグクラフトの部屋から話し声が聞こえてきてな……興味本位で耳を立ててみたのだ、そしたら……。」
「……そしたら?」
少し、ほんの少しだけ悲しそうな表情でぽつりぽつりと語る。
「……魔王軍の幹部として、内側からの破壊工作は順調だと。舐められたものだ、その様な話しを誰が聞いているのか分からない城の中でしていたのだからな。」
自分の無力さを嘆く様な、あの日見た王子の面影など微塵も残っていない様なレヴィ王子は悔しそうに歯軋り。
やがて暫くの無言の後、俺を見上げ手を差し出す。
「一緒に戦ってくれサトウカズマ!あの時の事は水に流そう……あのラヴクラフトを倒し、しっかりとお前達へと金銭援助を再会しよう!!」
硬い決意を決めた様な、街中で噂される馬鹿王子とは決して呼べないその勇ましい姿に俺も思わず答えざるを得ない。
互いにガッシリと手を握り、俺はレヴィ王子の目を見つめる。
「………なぁ、俺ってお前にフルネーム名乗ったっけ?」
「………。」
「………。」
時刻は深夜を回る頃。
クリス、めぐみん、ララティーナ等と共にエルロード城裏口へと回り作戦会議を立てていた。
「___それじゃあ改めて確認しますが、カズマは昼時にレヴィ王子の後を着いて生き宰相が魔王軍である証拠を発見、共に戦おうとレヴィ王子に問われた時ふと知る筈の無い情報を漏らし、不審に思ったカズマが其処を問いただした所……。」
「化けの皮が剥がれその正体はラグクラフト本人であった、と。」
「あぁそう言ってるだろう?あの野郎分が悪いとか何とか言って逃げやがって、絶対許さねぇからな驚かしやがってッ!!」
改めて確認した後、俺の言葉に何処か不信感が拭えないのか疑いの目で俺を見つめるめぐみんとララティーナ。
「しかし、ラグクラフトと言う魔物はドッペルゲンガーと聞きます。もし先程の話が本当なのだとしたら……。」
……まぁ、俺が怪しいよな。
しかしこれ以上の説明は出来ない、なぜならこれ以上でもそれ以上でも無いからだ。
語った事柄が事実であり、証明のしようがラグクラフト本人を見つける事しか出来ない。
それを分かっているからこそ疑いの目は向けつつも作戦実行しようとしているのだ。
「まぁまぁ!!もしカズマがドッペルゲンガーだとしたら私が一発で分かっちゃうから、このカズマは本物だよ!!ね?」
「あぁ……クリスもこう言ってんだ、今は信用してくれ…頼む。」
クリスの有り難い助言もあり一先ずは信用する方針に至ったのだろう、重い腰を上げ裏口の扉に手を書ける。
スキルにより施錠された裏口の扉をゆっくりと開けると、中は深夜と言う事もあってか静まり返っていた。
城の警備はどうしたのか、そう呆れてしまいそうになりつつも逆に助かっているこの状況に複雑な心境にならざるを得ない。
「それじゃ、私とカズマ、めぐみんとダクネスで別れよっか。二人はラグクラフトを探しつつ王子の行方も、私達は魔王軍との連絡方法を見つけてラグクラフトを探そう。」
それぞれクリスの提案に頷きつつ、二手に別れる。
真っ暗な部屋を手探りで進みつつクリスの後を着いて行く。
互いの小さな足音だけが響きつつ、何時何があっても良い様に腰の変な形の剣に手を掛けつつ腰を落とす。
浅い呼吸を耳に入れ、月が見えない曇った空に文句の一つも言いたくなってしまう。
「……ねぇ。」
と、クリスが俺に語り掛ける。
「今朝の事さ……ごめん、ちょっと調子に乗り過ぎちゃった。」
「……いや、俺の方こそ……ごめんクリス。」
やらかしてしまった事を悔いる様に、悲しむ様に、か細い声で俺に語り掛ける。
「本当はあんな事してる暇無いのにね、やっぱり私……カズマの事さ。」
クルッと此方に振り返り、ニコリと俺に笑い掛ける。
「……好き、何だよね……ごめん。」
「………今…?」
「………うん。」
何故今この瞬間なのか、頭を抱えてしまう。
クリスのその言葉に固まってしまった俺にゆっくりと近付いてくる。
やがてその距離はゼロセンチ、顔を少し赤くさせ勇気を出すかの如く目を瞑り俺に抱き着いて来た。
胸に頭をピッタリと付け、心臓の音を聞くかの様に頭を擦り付ける。
「………こんな時じゃないとさ、言えないよ……私、カズマと同じ位ヘタレだもん。」
「にしても今じゃなくたって……。」
「それに、私がこんな気持ちを持ってるのだってカズマに知られたら不味いからね……カズマも多分、自惚れじゃなかったら……私に好意を持ってくれてるから…。」
………?
何か可笑しい。
目の前のクリスは、俺と話している様で心此処にあらずと言った……まるで、"俺"の事を見ていない様に。
やがて強まる包容にも何処か過ぎた力強さを感じ、良い加減探索に戻ろうと……そう言おうとした時だった。
「だから……さ、私にしては感謝してるんだ……人生で、いや…神生で唯一魔物に感謝したよ?」
その瞬間気付いた………今、この女は、初めて、この俺の目を見た。
腰に掛けていた変な剣を抜き俺の喉元に突き付けてくる。
「……お、おいクリス…剣を向ける相手を間違えて……!!」
「カズマはね、二人っきりの時私を親分って呼ぶの。」
「はぁっ!?あんたらどう言う仲だよッ!!」
剣を弾き女を殺そうと首元に手を向けるその一瞬、俺の右腕は切り落とされていた。
「……はっ?」
「冗談、言ってみたかっただけ。」
嫌な笑顔で右腕を抑え崩れ落ちた俺を見下ろし理由のわからない事を言う女。
ニタニタと笑うその顔は整った顔立ちとは思えない、俺ですら恐怖を感じる笑み。
痛みを抑える為左手で右腕を強く握ろうと、左腕の感触が無くなる。
凄まじい速さの剣筋、両手から繰り出される洗礼された剣捌きを支えているのは見た事も無い素材で出来たもう一つの武器であるダガーだろうか。
「こんな事普段なら小っ恥ずかしくて言えないや……けど何でだろうね、君達魔物風情なら想いの縁をぶちまけられるや。」
そう言って高笑いするイカれた女。
ここまで俺達魔物と言う存在に増悪が満ちた人間等存在する訳が…!!
……いや、一人居る。
人間ではないが、過言急に観測された神の力。
俺がここイカれた国に派遣された要因、原因である女神の反応。
まさか、コイツ…っ!?
「カズマってさ、私の事好きな癖に負い目を感じて一歩引いて私を見てるんだよね……それってさ、何だかズルくない?」
「……一体お前が何を言ってい」
ガクッと視線が下がる。
右足が切り落とされた……今はただ、この現状を魔王様に伝えるべく出来るだけ生きなければならない。
少しでもコイツの、このイカれた女神エリスの情報を魔王軍に伝えるのだ。
「私だってカズマの事が好きなのに、女神だから、カズマがあんなだから……折角長く生きてきてやっと心躍る出来事がおこったのにさ!!」
ドンッドンッとその場で足踏みし、怒りを、不満を顕にする。
「……まぁ、普段はこんな事誰にも言えないんだけどね。君達増悪の対象を前にした場合、怒りが優先されて何だか気分がスッキリするや。」
そうニッコリと笑い掛け、最後の左足も切り落とされる。
……残酷、魔王軍の俺が言うのも何だが。
何処が女神だ、何処が救いの手だ、正義が違うだけでやっている事は同じじゃないか。
魔法で、剣で、拳で、対話で、陥れようと、潰そうと、殺そうと、している事に違いはないじゃないか。
薄れ行く意識の中で、最後までその顔を脳裏に焼き付けようと歪んだ笑顔のその女を、女神エリスを見つめる。
「でも、君はカズマを騙り、カズマの邪魔をして、ついぞ私の友達にも危害を加えようとして……此れだけそれても文句は無いと思うんだ。」
「化け物が…。」
「もし相手が私じゃなかったら、先輩だったら、めぐみんだったら、アイリスちゃんだったら……一瞬で死ねたかもね。」
……もう駄目だ。
残った意識で、最後に言い残す。
「
「……
蔑んだ目で俺を見下ろすその光景を最後に、俺は身体が崩れ始めた。
「___ほんっっっっとぉうにすまなかった!!俺とした事が、もっと周りの大人を頼っていれば…!!」
そう悔む様に俺達に頭を下げるレヴィ王子とその他。
結局あの後、俺は隔離されていたレヴィ王子に化けていたラグクラフトにレヴィ王子と同じ所に拉致されていた所をクリス達が助けに来た形となった。
クリス曰く俺に化けたラグクラフトは一発で分かった様だったが、一対一の方がやりやすかったとの事でめぐみんとダクネスには嘘をつき怠慢へと。
外傷一つ無く済んでいるのを見るに結果的には良かったのかも知れないが、もしもの事を考えると心配してしまう。
ただまぁ……結果オーライと言うやつだ。
ラグクラフトを倒した事により魔王に流れていた資金を従来の様に此方の国へと援助に、レヴィ王子もラグクラフトの尻尾を掴んでいたお陰か民からの株は右肩上がりらしい。
そんなレヴィ王子が頭を下げその姿にどう返事を返せば良いかオロオロとしているアイリスを尻目に、物陰からちょいちょいと此方に手招きするクリスを見付ける。
お国通しの話しはあの子達に任せるとして、俺はクリスに連れられ路地裏へと足を進める。
「……どうしたクリス?」
「んー?いや、ちょっとね。」
そう言って気分良さげに鼻歌交じりに返事を返す。
そのままクリスの後を着いて行っていると、開けた野原へと出る事に。
いつの間に街の外へと出ていたのか、クリスの後ろ姿に素直に見惚れていた為か気付けなかっていた。
……しかし、こうして俺が何もせずとも魔王軍を討伐するのは二度目だろうか。
俺の存在意義が薄くなってきた今、活躍の見込みが見えない為そろそろまた商売で手柄を上げようかと悩んでいた時。
「あ、見てカズマ!!」
クリスの声に反応し顔を上げた先には、見た事のあるクレーターが二つ地面を抉っていた。
「これは……めぐみんのか?」
「うん、一つは。もう一つはアイリスちゃんがドラゴンを倒すのに使った技らしいよ……ダクネスが言ってた。」
「ほーん、ドラゴンかぁ……ん?ドラゴンッ!?」
まさかあの日、コソコソと外に出ていたのはそう言う事だったのか……。
苦笑気味にクレーターを見下ろすクリスの横に立ち、その圧巻な光景に息を飲む。
草木の匂い、鳥の声、普段は意識しない様な事を聞きながら匂いながら見ながら、クリスのただならぬ雰囲気を汲み取り口を開こうか迷う。
しかし本人から話してそうにしている様子を見るに、これは俺から催促する事では無いのだろう。
数十秒、数分、数十分、どれだけ待っただろうか。
そろそろ向こうの話もついている事だろう、俺はクリスへ流石に待てないと言おうかと顔を向け……直ぐ側にまで近付いていた顔と目が合う。
そのままの勢いで俺に顔を近付けるとそのまま……押し倒される様に、芝生に雪崩れる様に。
それこそ数時間も経ったと思う位に長く感じたその時間、息が苦しくなったのか顔を離すクリスの吐息が顔に当たる。
煩い心臓の音、荒い息、暑い顔、クリスも同じ状態だろうか。
ガバっと俺に抱き着くクリスが、俺の胸に耳を当てる様に頭を押し付ける。
「……ちゃんとするね、心臓の音。」
「そりゃまぁ………煩くないか?」
「うん、とっても……。」
それでも尚耳を離そうとしないクリス。
やがて息も落ち着き、顔の暑さも落ち着き、だが心臓の音は慣れない女性の感触により煩いまま。
細い身体に手を回し互いに抱き着くその時間は非常に心地が良いと思えた。
何故、急に、そんな野暮な事は聞かない。
「……私はさ。」
クリスが口を開く。
「私はさ、カズマと…もっと、深い関係になりたい。」
「………。」
あの時のアンサー、だろうか。
俺に対するものではあったが、答えない俺に痺れを切らし自分から。
そう言って俺を上目遣いで見上げるクリスを見下ろしながら、綺麗な銀髪を撫でる。
ピクッと反応しつつも何処か気分が良さそうに頭を委ねるクリスに、どう反応しようか、だが逃げる選択は無く覚悟の決まった俺が其処に居た。
カズマのズはズルい事を止め真剣になるのズだ。
「……俺も、クリスと……もっと、深い関係に……なり…たい。」
「………うん。」
銀髪を撫でながら、スベスベな頬に手を添える。
目を細め俺の言葉の続きを待つクリス。
「でも……負い目が無いって言ったら嘘になるんだ。」
「……うん。」
それはめぐみんやダクネスに対して、此処に連れて来た事に対して、女神と言う事に対して、様々な想いが重なっている。
「だからもし、負い目が無くなったその時はまた……。」
「………。」
カズマのマは。
「もう一度、同じ質問をして欲しい。」
マダのその時じゃない、のマだ。
「……質問をして欲しい、ってのがカズマらしいね。」
「それは……褒めてるのか?」
「ううん、だから___」
___そう言って、また顔を近付けるクリス。
今度は触れるだけの優しく、短いもの。
「質問の返事は、カズマからして?」
「………善処する。」
「あははっ!カズマらしいね!!」
自分から、果たして俺に出来るだろうか。
その瞬間には勇気が付いている事を祈ろう、未来の事は未来の自分に任せるのだ。
しかしまぁ……此れだけ笑顔のクリスが見られるのであれば、自ずと勇気は付いてくるだろう。
………あ。
婚約解消の件、忘れてた。