この素晴らしいエリス様と祝福を!番外編 頑張れエリスちゃん
「番外編 この気の緩んだ女に黒歴史を!」
___今でも忘れられない位、鮮明にその光景は脳裏に焼き付いている。
カズマの慌てた様な顔、少し頬を染め顔を背けようと照れている顔、真剣な表情でアタシに告げる顔...実に様々な。
あの時あの瞬間、この世界で一番の幸せ者はアタシだったに違いないだろう、そう言い切れる程にアタシは幸せの絶好調であった。
...が、人と言うのはどれだけ良い事があろうが、絶対に悪い事を思い出してしまう瞬間がある。
それは...お風呂でシャワーを浴びている時、考えるよりも先に昔の事を思い出してしまう。
あぁ何故あの時あんな事をしてしまったのだろう、そんな想いに駆られる人々の中に私も当て嵌まっていた。
家へつき鼻歌混じりに一番風呂に。
元気なアタシに何処か怪しい目を向ける二人を無視、今それ所では無いのだ。
この笑顔が止まらない顔を見られれば問い詰められるに違い無い、明日には戻ってくれると信じて今は精一杯背を向けるのみ。
何て事を考えていた時...ふと思い出してしまう。
思い出してしまったその出来事に、アタシは置いてあった桶に入ったお湯を思いっきり頭に被る。
「......っ!!......はぁ、覚えてないと良いけど...。」
そんな黒歴史を、アタシは忘れる為に目を瞑る。
「___クリス、それ以上は控えて置いた方が良いんじゃないか?」
「そうですね...少し心配です。」
アタシを心配する目で見下ろす二人に、デロデロに酔ったアタシは顔を上げる。
「...何さ、何さ何さ何さッ!!こぉんなの酔ってなきゃやっrrてられないでしょぉ?」
「ダクネス、これが貴方の崇拝する女神様ですか。」
「やめてくれ...っ!!違う、エリス様はもっと...!!」
何やらアタシの褒め言葉を掛けてくれる二人、だがアタシはエリスでは無くクリスなのだ、間違えないで欲しい。
もし他の人に聞かれていたらどうするつもりなのだろうか、アタシは二人を睨みながら更にシュワシュワを補充。
「あのなぁクリス...確かに少し寂しい気持ちもしたが、カズマも言っていただろう?他の戦い方を知りたい、と。」
「...。」
「そうですよ!私達のリーダーが戦略の知恵を増やす、と言うのは実に良い事ですからね。」
二人の言葉にアタシは裏切りものであるあの男を思い浮かべる。
あろう事かあの男はアタシと言う神器、神者?を貰っておきながら...そんなアタシを他の男にほっぽり出してしまった。
それも実に良い笑顔で。
「...でも、でもでもアタシはカズマの物だよ!?折角踏ん切りもついてさ!今までの堅苦しい所から解放されてさ!それであの仕打ちってどう言う事なのさぁッ!!」
「支離滅裂で何を言っているか分かりませんね...。」
「あぁ、しかも私はカズマの物って...なぁクリス、クリスとカズマは一体どう言う関係なのだ?」
どう言う関係...何だろう。
知人?友達?相棒?どれもあまりしっくりと来ない。
それはそうだろう、知り合ってまだ間も無く...人種も違う。
アタシはカズマの物...その名の通りに過ぎないのだ。
「...カズマは、すっごく遠くの所から来て...そんなカズマをサポートする為の...アシスタント?」
「あしすたんと...とやらが何かは分かりませんが、兎も角クリスはカズマに無下に扱われたのが嫌だったのですか?」
「そう!そう言う事かもっ!!カズマってばアタシの扱いが酷いの!!」
出会ってまだ間も無いと言うのに貧乳だとやじってくる事もあれば、そもそも初めて出会った時だってアタシを連れて行く何て今でも考えられない事をしでかしているのだ。
勿論恨んでなどは居ないし、寧ろ昔担当していた世界を今度は自分の手で自由に救えると言われれば...この上なく嬉しいに決まっている。
だからこそアタシはこの世界を救う為に、カズマの神器として選ばれたからこそカズマの為に頑張ろうと...頑張ろうとしていると言うのに!!
「......このやる気に満ちた意欲は何処に吐き出せば良いのさ...。」
無理強いをするつもり等毛頭無い。
何せつい最近まで温厚な世界で、戦争も言葉としてしか知らなかった生活を送ってきていた只の少年。
異世界其の物に憧れていたのは知っているが、今の所カズマの思っている様な事柄は行われていない。
アタシを選んだのだ、そりゃアタシ自身でしか出来ない範疇の事柄しか起こり得ない...そんなものは重々承知なのだろう。
だから内心どう思っていても、アタシに何か文句を言う事も無い。
...何故女神であるアタシが人間に気を使われなければいけないのだろうか。
それも言っては悪いが家でゴロゴロしていたニートに。
「...ならば、直接言えば良いのではないか?」
「えぇ〜?でもぉ、それはぁ...。」
「何クヨクヨしてるんですか!言葉にしなければ分からない事何て沢山あるんです、さっさと女神らしくビシッ!と下々に言ってくれば良いじゃかいですか!!」
だからアタシは女神じゃ無くて...何て心の中で思っていると、お酒も周り上手く回らない頭のまま二人に押され外に放り出される。
フラフラと千鳥足で何処へ向かえば良いのか迷いつつ、夜空を見上げ...綺麗な星空が目に映る。
先程まで酔っていたお酒がスッと抜ける様な感覚、別に何か特別な光景でも世界一美しい情景でもなんでも無い、只々見慣れた風景。
上から眺めて計り居たのに嫌気を刺し、コッソリとこの世界に降り立ったその日を思い出し...少し、笑みが溢れる。
今は先輩がこの世界を見守ってくれているのだろう...もし、いつか、その機会があれば...又、あの人を見つけ出し、先輩の前へと連れて行ってあげたい。
それが叶わぬ夢だと言う事はアタシ自身充分理解はしているが、もしかしたら、あの三人となら...何て。
ノスタルジックな思いに駆られるが、今はそれ所では無い。
アタシをこの世界に持ち込んだにも関わらず、このアタシを置いて別のパーティーを組もうとしたあの男をどうにかしなければいけないのだ。
晴れた顔でアタシ達にダストを押し付け、自分は他の人間に鼻の下を伸ばし意気揚々と...此れではアタシをこの世界に持ち込んだ意味が無いのだ。
神器としてこの世界に来た以上、神器としての働きをしなければいけないと言うのに...。
やはりあの二人の言う様に、本人に直接言いに行った方が良いのだろう。
酔いが冷めたと思いきや段々と復活して来たアタシは宿へと足を運ぶ。
今頃部屋でゴロゴロしているであろう元ニートであるあの男...何だか考えるだけでムカムカしてきた!!
そりゃそうだろうアタシはれっきとした女神なのだ!それも幸運の!!それも国教の!!!
...それと同時に、彼は、サトウカズマは...只のニートに過ぎなかったのだ。
戦争はあれど平和と言う言葉が一番近しい場所に身を置き、争いを避けただただのんびりと過ごしていた只の人間。
それが運が悪いからと、丁度良いからと、そんなカズマを利用しているのは...アタシなのだ。
碌に争いをしなかった人間を、強大な力を、身に余る力を与えてこの地へと送り出す。
それはこの世界にとって善にも悪にもなり得る事...それを承知でやる程に、追い込まれているのだ。
それを何の力も持たずに、アタシを連れこの世界に生身で降り立った彼は遂最近魔王軍幹部討伐を成し遂げた。
勿論カズマだけの力と言う訳では無いが、少なくともカズマが居たから倒せたと言っても過言では無いだろう。
そしてカズマは、この世界のルールを良く知らないまま、酷く理不尽に殺された。
...少なくとも、もしアタシがサトウカズマと言う人間であったなら冬将軍に殺された時点で復活は望んでいないだろう。
それでも戻って来た、それもケロッとした表情で。
何て思い出に浸っていると、アタシはカズマが泊まっている宿へと辿り着く。
アレだけムカムカとしていた心は今や平穏、寧ろカズマに何かしてやれないかと...八つ当たりする気分では到底無くなっていた。
二階へと上がり扉を軽くトントンと叩いてみる。
「カズマ?起きてる?」
「ん?起きてるぞー。」
そう疲れ気味の返事が聞こえて来た。
アタシは一つ深呼吸するとゆっくりと扉を開ける。
ベッドへと寝転び此方をチラチラと少し顔を赤くさせたカズマが、其処に居た。
...何か話す口実、カズマに何かしてあげられる事は無いか、アタシなりに模索した結果...もう酔いに任せる事にした。
「いやぁ、今日は随分と楽しそうだった見たいだねぇ?」
事実、アタシ達と戦う時よりも幾分か晴れた表情でギルドへと戻って来ていたのを覚えている。
アレは相当自分の作戦が上手くいったに違い無い。
「...い、いやぁ今日はすまんかった!だ、だがやっぱり俺はお前等とじゃないとあんまり上手く立ち回れねぇわ!!いやぁやっぱり俺のptはお前達だけだな!!!うん!!」
...酷く動揺した様子、ウロチョロと泳ぎ中々に合わない目線、わざとらしい声の大きさ。
そして、何処か嗅いだ事のある獣混じりの臭い。
思わずグイッと顔を近付けカズマに覆い被さってしまう。
この臭い...やはり、リーンちゃんだろう。
いや、正確にはリーンちゃんの尻尾の臭いだ。
...そうか、そう言う事だったのか...!!
カズマはリーンちゃん狙いだったのか!!!
あの急なptメンバーの交換を呑む所、晴れやかな顔で任務を終えた所、やけに臭いのついたこの服、成る程...全てを理解した。
そうか、そうだったのか...それは、あまりにもカズマが可哀想過ぎる話だ。
何故ならリーンちゃんにはもう...いや、これは伝えるべきでは無いだろう。
顔を赤くさせキョトン顔でアタシを見上げるカズマを、哀れな目で見ぬ様出来るだけ首元へと顔を近付け隠す。
アタシは表情に出やすいのだ。
「ふーん...じゃあさ、何でこんなに他の女の匂いが君に付いてるのかなぁ?しかもかなり近距離に居たみたいだねぇ…。」
「...。
一応念の為に確認と言わんばかりにそう問い掛けるも、やはり返答は沈黙...図星、なのだろう。
クッ...!!あまりにも、あまりにも可哀想過ぎるじゃ無いか!!こんな劣悪な環境に飛ばされても、めげずに魔王軍幹部討伐まで行い、殺されてもやる気が無くなる所か好きな女性を見つけ頑張っていると言うのに...この仕打ち!!
アタシがこの世界に送っている様なものだが、思わず同情してしまう。
もしこの事実を知ればカズマは本当にこの世界から居なくなってしまうかも知れない、そんな状況でアタシが出来る最大限の事と言えば...!!
「...カズマ、今日は一緒に寝よっか。」
「えっ!?」
急にそんな事を言われて戸惑うだろう、しかも意中の相手が居ると言うのに。
しかしもうこうするしか無い、アタシの出来る事はカズマに優しくしてあげる事だけ。
「お、おう勿論良いぞ...!?」
「ん、有り難う。んじゃ...はい。」
スッと手を開きハグの体勢で待つ。
アタシも恥ずかしい事ではあるのだが、それ以上にあまりにも不憫なこの状況に同情せざるを得ないのだ。
クリスとして、女神として、人を癒すのはアタシの仕事。
幸運とは名ばかりと言われてしまうかも知れないが、出来る限りの事はしてあげるつもりだ。
小声で何か言いながらアタシの背中に手を回す。
アタシもカズマの背中に手を回しながら、包み込む様に頭を撫でながら...そのまま、お酒の副作用と共に夢の中へと落ちていく。
「___アハハっ...とんでもないじゃん、アタシ。」
結局あの後リーンちゃんと話したりしている内に只の誤解である事が判明、カズマからすれば出会って間も無いと言うのにそんな事をして来る人だと見えていた訳だ。
しかしまぁ...うん、やはり憶測で物事を見る事は良く無いとアタシも学べたのだ。
それにまぁまぁ前の事だから時効だろう、多分。
もし時効じゃ無くても、まぁ、今はもう...結果良ければ全て良し!そう日本の偉い人は言っていた筈だ。
だだっ広い風呂の天井を見上げつつ、今思えば恥ずかしい事はあれどこうして幸せなのだから...まぁ、良いだろう。
それでも又こうして思い出す事でもあれば...それはもう、カズマに上書きして貰う事にしよう。
湯船から上がり風呂上がりで早速と悪いが、カズマにハグしに行くと言うのもまた乙な物だろう。
フッと笑みが溢れるのを皆にバレぬ様隠し通さなければ、何て考えながらこの後カズマと何しようかと...ふと、もう一つ思い出す。
それが何だったのか、ゆっくりと浸かっていた風呂場へと顔を向け...アタシは又思い出す、思い出してしまった。
顔を両手で覆い被さり思わずその場にしゃがみ込み、思い出してしまったその出来事に思わず元凶であるアタシの身体を見下ろし...思わずため息を吐く。
そんな黒歴史を、アタシは忘れる為に目を瞑る。