この素晴らしいエリス様と祝福を!赤黒姉妹
エピローグ「拝啓幸運の女神様」
___気分はミッション・インポッシブル。
絶対に失敗してはいけない任務を遂行するべく、皆が寝静まったであろう深夜に俺は廊下を歩いていた。
片手にはライター、片手にはクリスからそっと奪っておいた某劇薬。
ドッペルゲンガーの件で一日饗させてくれと、レヴィ王子が言った時俺以外は皆渋い顔をしていたが……俺からすれば実に良い提案だと褒めたくなってしまう。
この瞬間を利用して、クレアとの約束であった婚約破棄を成功させるのだ。
やがてレヴィ王子の部屋へと辿り着く、能天気なものだ護衛の一人も扉の前に立たせないとは。
ゆっくりと施錠された扉を開け、心地良く眠るレヴィ王子を尻目に部屋を物色……例の物を探し出す。
本来婚約とは口約束で行われるものでは無い、ましてやお国同士の娘息子を結び付ける約束に口約束だけで成立などさせないだろう。
そう踏んだのは実に正解であった……目の前にある両国の王様の名が綴られた紙を見る限り。
周りに監視の目、レヴィ王子が起きていない、諸々を入念に確認し終えるとライターを付けその紙を燃やす。
魔力と言うのは人それぞれ感じ方が違うらしい。
それを利用して魔法による殺人、隠蔽、犯罪を暴く人間も居るらしいが……ライターはどうであろうか。
監視カメラも無いこの世界で、魔法を使わずに行われた犯罪……それを立証する手立て等存在する筈も無い。
まぁつまり何が言いたいのかと言われれば___
「___婚約破棄は成功した、って訳だ。」
「実に鮮やかな手口……敵に回したくないな。」
「そう褒めるなって…ほら、乾杯。」
薄暗い部屋の中、俺とクレアは酒瓶片手に美酒に酔いしれていた。
気分は上々も上々、俺はクリスとの件や婚約破棄の成功に…クレアは婚約破棄になりアイリスの未来が安泰となり、互いに気持ちの悪い笑みが溢れる。
今頃皆食堂でドッペルゲンガーの件もあり豪勢な食事を楽しんでいるだろう。
正直昨日に続きそんな量の食い物に俺は興味等示さなかったが、食い意地を張るめぐみんとそれに競う様にアイリスも続き……あの小さな二人の身体の何処にそれだけ食べ物が入る胃袋があるのだと言うのだろうか。
「あぁ後これ、返しとくわ。」
「ん、そう言えば貸していたな。」
そう言ってポケットに仕舞っていたシンフォニア家の家紋をクレアに投げ渡すついでに、あの日パクったままにしておいたアイリスの指輪を渡しておく。
それに気付いたクレアの目が見開くと、やはりと言うべきか驚き半分分かっていた半分と実に複雑な表情でそれを見下ろしていた。
「サトウカズマ…これは……。」
「拾い物だ。本来なら俺みたいな一般冒険者が拾うだけでも危ないらしいが、婚約破棄に免じて……な?」
「それは……しかし、うーむ……。」
困ったと言わんばかりに眉を潜め腕を組む。
「だが何故今になって?もし此れが知られれば、幾ら私と言えど直ぐ様引っ捕らえる可能性だってあった。」
「……まぁ、元々俺が持ってちゃいけないってのは分かってたんだ。それでまぁ、ちょいと色々あってな。此処らで全部にケリ付けとこうかなぁ…と。」
「……そうか。」
そう静かに頷くと、ゆっくりとそれに手を伸ばし懐に仕舞い込む。
色々とクレアには迷惑を掛けてしまうな。
クレアも此処でケジメを付けるのだろうか、今までに無い程に酒を注ぐとグイッと飲み込み……勢い良く飲み干す。
「次は無い、そう言っておこう。」
「そう言って貰えると助かるよ。」
互いに苦笑し合うと、この場も解散。
これ以上二人で話していると可愛い妹が嫉妬するかも知れないからな、今も貴族に口説かれているであろうダクネスをからかいに行くとしよう。
「第一章 このヘタレ野郎に進展を!」
___あー...頭痛い。
一昨日と昨日とで色々上手く行き過ぎて絶好調、口は周り酒は浴びる様に飲んだ結果……自宅のベッドの上で転がる事となっていた。
なっていた、と言っても普段と何ら変わりはしないのだが……今は少し、身体を動かしたい気分であった。
その理由は単純明快、何もせず何も考えていないとクリスの事を思い出し恥ずかししてしまう。
何故彼処で素直になれなかったのか、何故少し濁してしまったのか、あの時の俺の言い分も分かるが今の俺からしたらやっぱり勿体無いと感じてしまう。
……もし彼処で素直になれていたら、今頃クリスが俺の隣で看病でもしてくれたのだろうか。
酔っ払いに看病も糞も無いとは思うが、やはり気分の悪い時や体調の悪い時は人肌寂しくなってしまうものだ。
何て考えて居たからだろうか、扉からノックの音が聞こえてくる。
別にクリスが来たとは限らないのに少し気分が高揚、喉から声が一旦躊躇してしまう。
「…っ…ど、どうぞ……。」
「あ、起きてんだ。大丈夫そう?」
「クリス……。」
何時もと変わらない様子で俺の部屋へ入って来るクリスの手元には水が汲まれていた。
「いやーカズマも馬鹿だねぇ、未だに自分のお酒のキャパが分からない何て……めぐみんに言えないね?」
「……うっせ、言ってらぁ。」
ケタケタと笑いながら水を机の上へと置きベッドに腰掛けるクリス。
その姿に、ただ腰掛けただけだと言うのに、俺は何て単純な人間なのだろうか。
「あ、そう言えばダクネスから伝言。何かエルロードの方でまた色々とあったらしくて、その調査に駆り出されてるから暫くは家を開ける……だって、一体何の事だろうね?カ、ズ、マ
、くん?」
「さぁ?また魔王軍でも出たんだろ。」
「はぁ……全く、だからあの時カズマだけ乗り気だったのか……。」
今更気付いてももう遅い。
あの現場を見た者等存在せず、かと言って証拠も何一つとして残していないのだ……ダクネスには申し訳ないが、暫くの間茶番に付き合って貰うとしよう。
……と、互いに沈黙が流れる。
別に不思議では無い。
何だかんだかなりの時間を共にしているのだ、毎日の様に顔を合わせ同じ屋敷の下で暮らしている以上会話は途絶えない。
必然と会話の内容も無くなっていくものだろう。
其処に疑問は抱かなかった、それが普通、それに何か支障があった訳でも無かった……そう、無かったのだ。
今はどうだろうか?ハッキリと言えば今何とか話せる話題が無いか必死に頭痛の酷い頭を回している所だ。
いやまさか、本当に、未だ信じていないのだがどうやら俺達は両想いであったらしい……本人の口から聞いても尚信じられないのだが。
お陰で話したいけど話題の無い、照れ臭くて行動もしない、付き合いたての中学生カップルの様になってしまっている。
そんな空気感を何となくクリスも汲み取っていたのだろう、少しソワソワとしていたものの腰を上げ部屋を去ろうと___
「そ、それじゃあアタシはそろそろギルドの方に___え?」
咄嗟に、布団が被っていた右手でクリスの腕を掴む。
……やべ、やっちゃった。
「………カズマ…?」
「あー………何だ、その……。」
何処か期待した様な目で……いや、クリスの顔を見るだけじゃ何も伝わらない。
布団を蹴り飛ばす様に起き上がると、そのままクリスの方へとベッドから腰を下ろし隣へと立つ。
「……ちょっと出掛けないか?」
「……っ!…うん!!」
そう屈託の無い笑顔で頷くクリスを見ると、勇気を出して良かったと心の底から思えてしまう。
__________________________________________
___サトウカズマ、苦節十六年の時を経て今……女の子と手を繋ぎながら外を歩いています。
……不思議な気持ちだ、ただ手を繋いだだけだと言うのに。
手汗は酷く無いだろうか?強く握りすぎて無いだろうか?正解を経験してこなかったが故文字通り手探りで模索中ではあるが、やはりと言うか何と言うか……照れ臭いなやっぱり。
クリスはどんな気持ちなのだろうか、やはりモテるから経験とかあるのだろうか……いや、これは考えても仕方が無いな。
さて出掛けるとは言ったものの何処へ行こうか……正直街の中心へと行くと見知った顔ぶりと顔を合わせる事になる、そうなってしまえば噂が広まるのも直ぐだろう。
だから俺は街の外へ出ようと、何処か近い別の街へと行こうと、出口側へと足を向けようとしていた筈なのだが……。
「……なぁクリス、そっちはギルドがある方向だぞ。」
「うんそうだね。だからさ、ほら早く行こうよ。」
「いやいやいや待てクリス!!良く考えろ、もし今の俺達をダストとかに見られてみろ……其処ら中から冷やかしが飛んでくるぞっ!?」
そう言うとクリスは何を言っているだとばかりに首をコテンっと傾げる、その仕草にドキッとしてしまう俺はもう末期だろう。
「だから行くんじゃん、見せ付けに行こうよ!!」
「何でっ!?」
コイツ...!!羞恥心が存在しないのだろうか。
そりゃそうか、当時好きでも無い...かどうかは分からないが、付き合っても居ない男に挑発されただけで一緒の風呂に入る馬鹿たれなのだ。
......くそ、変な事しか思い付かない。
別にその行為に問題無い...訳では無いが、クリスはあくまで女神なのだ、何年も生きてきて俺なんか当時ちんちくりんも同然だろう。
だから別にクリスが誰とでもそう言う事をしているのでは無いか、と変な邪推はやめよう...そう分かっているのについしてしまう。
これ程までに俺は嫉妬深かったのだろうか?それとも初めて付き合った人間はこうなのだろうか?嫌な考えばかりが頭に過ぎる。
「カズマ、どうしたの黙り込んで?」
「...い、いや何でも無い。うん何でも無いからほらあっちに___」
「___何でも無く無い!!」
急な大声についビクッとなってしまう。
クリスに怒られる事や、呆れられる事、様々な場面でクリスの大声を聞いてきたが...この様子は初めて見るものだ。
怒っているのだろう、しかし悲しんでいる様にも見える、心配している様にも...と、片手をギュッと強く両手で包み込んでくる。
「何でも無く無いよ...カズマ、隠さなくて良いんだよ...?」
「...。」
「連れ出しといて何だけどさ、無理しなくて良いんだよ...ただ少し、アタシが我慢出来なかっただけ...カズマに無理強いをするつもり何て無いんだから...ね?」
...こう言う所が、女神たる所以なのだろう。
聖母の様に俺を見つめながら、そう言い聞かす様に手を撫でる。
「今日はお家で過ごそっか。カズマも二日酔いで頭痛いだろうし、奮発して良いお肉でも......」
「クリスは、俺以外とそう言う関係になったりしたのか...?」
「え?」
咄嗟に口を覆うが、時既に遅し。
顔がブワッと熱くなるのを感じる。
「...も、もしかしてカズマ...そんな事で悩んでたのッ!?」
「そ、そそそんな事って何だ!!こっちは彼女居ない歴=年齢の男だぞ!?」
「そんな悲しい事を誇らしげに言われても...。」
等と呆れつつも、何処か安心した様に胸を撫で下ろし俺に微笑むクリス。
「アタシも、カズマと一緒だよ...これだけ長く生きてきて、見た事はあっても経験した事が無い...お揃いだね?」
クスッと笑いながらそう俺に告げる、その姿に思わずドキリときてしまうのは仕方が無い事だろう。
ただでさて恥ずかしい気持ちで顔が熱かったと言うのに、クリスの言葉で更に真っ赤になるのを感じる。
温泉にでも入ったのかと、のぼせている気持ちだ。
「でも良かった、またあの時みたいに自分はパーティーにいらないんだ...何て落ち込んでるのかと思っちゃったよ!!」
「何時の話してんだ...もう思わねぇよ、俺が居ないとお前達は駄目そうだからな。」
「アハハっ!少なくとも、アタシはそうかも...何て?」
色々と吹っ切れたからだろうか、やけに積極的になったクリスを止められる人間はこの世に存在しない。
そんなイケイケクリスが、何か悪い事を思い付いた時の様子で俺を見上げる。
「...ねぇカズマくん?他にはどんなアタシの事で嫉妬してるの?ねぇねぇ。」
「......別に、特にねぇよ。」
「ふーん?」
ニマニマと悪い顔で俺に詰め寄ると、片手を所謂恋人繋ぎと言うやつで強く握ってくる。
そのまま両手を繋ぐ勢いでグイッと顔を寄せると、またキスでもするのかと喉を鳴らしてしまう。
「本当に?」
「...。」
「あーあ、また嘘付くんだ...カズマくんったら悪い子だなぁ?」
う、うぜぇ...!!
これじゃクリスと言うより、アクアと言うか...後輩が故先輩の面影を感じてしまうがそれを超えて可愛いが勝ってしまうのもまた困ったものだ。
思わず顔を逸らすと、溜め息が漏れつつ我慢が効かなくなる。
「...前、風呂に入っただろ...一緒に。」
「そんな事もあったねぇ。」
「......その、やけに慣れた素振りしてたから...。」
ガキか俺は。
と、クリスが手を離しギュッと俺に抱きついて来る。
背中に手を回しゆっくりと撫で下ろすと、俺のバクバクとなる心臓に耳を当てながら口を開く。
「アレはまだカズマをただ一人の人間としか見てなかったから、って言ったら良いかなぁ...自分で言うのも何だけど、これだけ長く生きてると...ね?十代の人間何か赤ちゃんも同然だよ。」
「つまりクリスはショタコンって事か?」
「なんっでそうなるかなぁ!?」
嫌だってその言い振りだと赤ちゃんの俺に惚れてる事になるんじゃ...。
等と邪推していると、俺の考えている事に気づいたのか溜め息混じりに胸元から顔を離すと、改めて俺と顔を見合わせる。
「カズマは特別、って言ったら納得してくれる?」
「...まぁ。」
「それは良かった。」
側から見れば今の俺達は周りの目など一切興味の無い馬鹿ップルなのだろう。
ピタッと俺にくっつき抱きついているクリス、の背に手を回し顔を赤くさせている俺。
ここは人通りがそんなに少なくも無い場所、今日はたまたま人通りが無かったからこそこんな事が出来ているのだ。
...だが、こうも長時間話し込んでいると人の一人や二人通ってもおかしく無いのだ。
だからこそ、俺はふと何の気無しに見下ろしていたクリスから目を離し前を見上げて見る...いや、見てしまう。
俺の目に映っていたのは、何時からそこに居たのか物陰から俺と目が合うダストが顔だけヒョッコリ出していた。
向こうも俺と目が合った事に気付いたのだろう、少し考えた様にしたその瞬間、グッと親指を立てその場をスタコラサッサと...。
「...いや待て待て待て待てッ!?」
「うわっ!?急にどうしたのさ大声出して...。」
「ちっ!ダストに見られた...悪いけど、俺はまだ公表するつもりは無いんだぁぁぁぁッ!!」
覚えている支援魔法を有りったけ自分に唱え、尋常じゃないスピードでダストが曲がった道を追いかけると...その背中を捉える。
向こうも気付いたのだろう、ふと振り返ると嫌な顔で俺を見ながら___
「___カズマ!!今日は皆の奢りだ、一緒に楽しもうぜ!!」
「馬鹿め!!自分から直線に逃げ込んだな...『バインド』ッ!!」
「うぉっ!?こ、こんにゃろぉぉぉぉッ!!」
「___さて、どうしてやろうか。」
「思いっきりダガーの持ち手でコツン、ってやるのは?」
「おい何て事言いやがる!!カズマ何恥ずかしがってんだ、俺は心の底からお前を祝福してやろうと...!!」
呆気なくバインドで捉え裏路地へと運びこび終えたダストを、俺とクリスで見下ろしていた。
クリスの意見では記憶を消去する可能性はあるが、そのまま亡くなる可能性もある為却下。
ダストの言い訳は聞くだけ無駄な為どうしたものかと頭を悩ませる。
「...つーか、クリスはさっきまで乗り気だったじゃねぇか。何でダストは俺と一緒に止めたんだ?」
「えーと、アハハ...アタシって気分が良い時は結構何でも出来る気がしちゃうんだけど、今落ち着いて考えると...ね?」
と、自分の先ほどまでの振る舞いに今更ながら恥ずかしがっているみたいだ。
正気に戻ってくれたみたいで何より、そのままさっきの事も忘れてくれると助かるのだが。
人間気分の良い時は変な言動、行動に走りがちなのだ。
俺然りクリス然り、後から考えれば何故あんな事を言ってしまったのかしてしまったのかと後悔するものだ。
今から今までの貧乳弄りやイケメンムーブ等、冗談でもクリスに出来る気がしない。
「まぁ良いや、それじゃあダスト三つ選択肢があるんだが...どうする?」
「へっ!!今更お前にビビるかってんだ...まぁ、一応聞いといてやるよ。」
俺は懐から使わなかった某劇薬を取り出し、ダストの前に置く。
と、みるみる内に顔を青ざめて行くダスト...おや?知っていたのか。
「どうやら知っているみたいだから説明は省くが、一つ目の選択肢はコレだ。まぁ使わない事を祈っておくが...。」
「...。」
「二つ目はクリスのダガー、三つ目は...エリス教会へと入り、懺悔してこの事を他言無用とする...さぁどうする?」
流石にコレを知っておいてまさかペラペラと喋る事は無いだろう、返事を待たずにバインドを解除すると何時の間に撮っていたのか写真を現像する魔道具をその場に置く。
「良し、教会に行ってこい。」
「クッ!!お、覚えてろよカズマぁぁぁ!!」
何て三下の様な叫びを残しその場を去って行った。
これにて一件落着、ダストには悪いがここまでしないと絶対に喋るだろうアイツは。
これはある種信頼の証なのだ、信用していないと言う信頼の。
「...それ、どうするのさ。」
劇薬に指を指す。
「どうするつってもなぁ...まぁ、持っておいて損は無いだろ。来る時に備えておくって事で。」
「えぇ...?間違ってぶち撒けないでよね...。」
何て不穏な事を聞き流しつつ俺は懐に仕舞い込む。
もし何かの拍子で容器が割れれば...などと考えると、やはり家に置いておくのが一番良いかも知れないと思ってしまう。
「...何だよ。」
「べっつにー?」
俺をジトーと見つめながらシラを切ると、背中を向けてしまうクリス。
チラチラと此方の様子を観察しているのか、何かして欲しいのだろうと理解出来るが...何をして欲しいのだろう。
「おいクリス、先に言っておくが俺は察してちゃんは嫌いだぞ。どれくらい嫌いかと言うとギャルゲーに出て来る察してちゃんは見た目問わず全員漏れなく攻略しない位には嫌いだ。」
「具体的な説明どーも、じゃあ...はい。」
少し不貞腐れた様な、ぶっきらぼうに手を此方に差し出す...それでも手は握って欲しいのか。
やはり慣れない気持ちで再びクリスの手を握ると、見るからに不機嫌でしたよと言わんばかりであった表情はにやけを必死に押し殺そうと、元に戻っていた。
非常にチョロくて助かる半面、俺も別に手を握ると言う行為は慣れて無いが故恥ずかしい感情が湧き出てしまうのだ。
「...何か不思議だね、ただ手を繋いでるだけなのに。」
「そうだな。」
「しかも、ムードもへったくれも無いのにさー?」
ブンブンと握った手を振りながら先程の発言に苦言を呈してくるクリス。
悪いが俺の意見は変わらない。
「そんなにムードを大事にしたいんなら、またアルカンレティアにでも言って温泉上がりに二人で外をブラブラと...何て、どうだ?」
「アッハハ!!カズマってロマンチストだね、そりゃモテないか。」
一言余計な言葉が聞こえた気がするが、今までの俺からクリスに対する発言を加味して聞かなかった事にしてやろう。
「でも、アタシは好きだよ?そう言うロマンチックな事。」
上目遣いで甘える様にそう言うと、俺の手を引いて一緒に置いてあった綺麗な石の上へと座る。
そのままコテンっと首を肩に預けると、何時の間にか夕暮れと言える程に日の沈んだ空を見上げながら...二人でこの沈黙を楽しむ。
特段何かをする訳でも、喋る事もしない。
ただ少しだけ何時もとは違った、非日常的な要素をほんの少しだけ...日常に混ぜるだけで良いのだ。
俺達は俺達のペースで、進んで行く。
「...へたれ。」
そう、俺達のペースで進んで行くのだ。
周りの意見に流されず、お互いにその時したい事をする、今でも言えばこうして肩を預け預けられ、恋人繋ぎしながら空を見るだけで良いのだ。
「へーたーれ。」
生き急いで何になると言うのだろうか、人生はまだまだ長いのだ...それはクリスも嫌と言う程理解しているだろう。
十数年しか生きていない俺ですら、ここまで育つのにかなりの時間を有したのだ...人生短いなどと良く聞くが、こうして俯瞰的立場で見てみると案外長いと感じるものだ。
「...カズマ?」
「ん?どうしたクリ___」
___思いの外近くまで接近していたクリスと顔を見合わせる。
少し怒った様な表情で、勢い任せと言わんばかりにそのまま顔を近付けると...またしても、俺はさせる側へと。
「...ばーか、カズマのへたれ!!」
「あ、ちょおい待て!!」
ヘラヘラと笑いながら俺に暴言を吐くと、そのまま路地裏を出て家の方へと走り出す。
俺は決してヘタレなどでは無く、ただクリスの言う通りムード等をしっかりと考えた上で今はまだその時では無いと結論を出したまでだと言うのに。
...と言うか、別に俺達はまだ付き合って無いんだよな。
俺が側から見ればクリスの告白をキープする最低やろうに見えていると言うのは置いといて、ただ気持ちに気付いているが互いに付き合っていない男女があの様な行為をしても良いのだろうか?
まぁ、所詮は俺の言い訳に過ぎない。
周りの奴らの事を考えて保留にする、などと言う割には場に流されている人間に物申す資格は無い。
全てはクリスが可愛いのが悪いのだ、俺に非は無い。
「次は、カズマからしてくれるのを待ってるからねー!!」
流石盗賊職と言った所か、バフテンコ盛りの俺を置き去るスピードでそう言い残し先に屋敷へと戻って行った。
ポツンと一人残された俺は、もう次の事を想像する自分の卑しさと...正直さに、嫌気がさしてしまった。