ブルーアーカイブ ~青い空と黒い鳥~   作:謙虚なハペロット

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Day.██ 光と出逢う

 彼女と出会ったのは中等部に入って間もない頃。

買い物帰りの途中、運悪くトリニティのヤバい奴らに目を付けられてしまった日。

あの頃の私に邪魔だから叩きのめす…なんて力は無く、なけなしの資金で手に入れた陶器入りの小包を守るだけで精一杯の子供だった。

原因は「私がそこにいたから」。下らな過ぎて笑えもしない。しかも、私が持っていた荷物が上等な品に見えたらしく、ゲヘナが生意気だと。虫の居所が悪かったのも重なった。

小包の中身はそんな大した物じゃない。世話になった整備部へのお礼にとちょっと良いお菓子を差し入れるものだ。隠された秘密のチップがある訳でも、本当は爆弾じゃないかとか、邪推されるようやものは一切無い。

整備部と一緒にカタログで選び、高いとか安いとか、あれがいいこれが気になると他愛もない会話で決めた。ただそれだけのもの。

 

「ああもう!トリニティのクソッタレ共が!!」

「下級生狙うとかマジキテんなアイツら!」

「後輩、無事!?」

 

 たまたま通りかかり、見兼ねて庇ってくれた先輩達の問い掛けに、物陰に隠れながら頷くことしかできなかった。

あの時はあんな奴らでもあの目を見るのが怖かった。蔑み、自らが上の存在だと疑わないあの見下した目。いくらゲヘナとトリニティの仲が最悪と教えられているものとはいえ、あの頃の私には厳しいものだ。

 

「づあっ!? …っ、後輩!来い!」

「えっ」

「行け行けー。殿はやるから学園まで走れー」

「クソどもがー!死ねー!!トリカスゥー!!」

 

 先輩に抱えられた瞬間一発の銃弾が近くを通り過ぎていく。

当たりはしなかったりが、奴らの狙いが私だというのを思い知らされる。更に数発が掠めていき、遂には先輩の足に当たってしまう。

 

「ってぇ…!」

「先輩…!」

「いいから行け!」

 

 置いていけない。しかし私はお荷物。どうすることも出来ない。

半分涙目になりながら走ったと記憶している。無我夢中だった。

 それからどれだけ走ったかは覚えてない。とにかく離れなければ。

 

 瞬間、目の前の道が爆発する。

無意識に跳び上がり、爆炎を辛くも避けたが着地に失敗し地面に転がってしまう。……慌てて小包を確認するが、どうやら無事――

 

 

 

 ではなく、横から小包が撃ち抜かれ、無惨にも粉々に砕け散ったお菓子が散らばる。

 

 

 

「………」

 

 

 

「あらぁ?小鬼が抱えたお宝が何かと思えば、単なるゴミでしたか」

 

 

 

 薄暗い路地から姿を現したのは、私に因縁を付けてきた集団のリーダーらしき奴。

 

 

「全く全く、わたくしの興味を惹くものかもと期待しましたのに。まさかまさか!ゴミを大事に抱えていたとは!」

 

「…ッ! ――がっ…!?」

 

「あらあらごめんあそばせ? 忌々しいゲヘナの餓鬼がこのわたくしを睨むという無礼を働いたものですからつい撃ってしまいました」

 

(クソ女が…!)

 

 怒りに任せて奴を撃とうとしたが、それよりも速く右肩を撃たれもんどり打って倒れてしまう。

それに気を良くしたのか長銃を片手でこちらに向けながらゆっくりと歩いてくる。そして、落とした銃を拾おうと伸ばした痺れる右手を踏み付けられ、しかもグリグリと念入りに潰しにきている。

 

「っ…!! ぎ…っ!!」

 

「…忌々しい。忌々しいことこの上ありませんわ」

 

 顔を苦虫を噛み潰したように顰めてそう言うと、私のこめかみに長銃を押し付けてくる。

 

「このわたくしに赦しを乞いなさい。次期フィリウス代表となる、この!わたくしに!!」

 

「……くたばれ」

 

 あの時はそう返すしか思い付かなかった。痛みもそうだが、悔しさと自分の情けなさで叫びそうになっていた。

 

「ええ、ええ!邪悪なゲヘナはそうでなくてはなりません! 穢らわしき悪魔に、トリニティの正義の鉄鎚を!!!」

 

 ギリリと銃爪を絞る音が耳に届く。

思わず目を閉じ、撃たれる覚悟をした……

 

 

 

 

「そうです。邪悪には正義の鉄鎚を!」

 

 

 

 この殺伐とした路地に凛と響き渡る声。

私でも、こいつでもない。

 

 

「……何者です?」

 

 

 恐る恐る目を開けると、こめかみに当てられていた長銃が離れ、その声の主に向けられている。

逆光でよく見えないその姿は、両手に大きな銃を持っていた。

ゆっくりとだが、確実にこちらへ歩み寄ってきている。

 

「止まりなさ――」

 

 言うが早いか拳銃にしては似つかわしく無い、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、腹の底に響く重低音を立て長銃を粉砕していた。

 

「……は?」

 

 弾くとかではない。()()()()()()

たった一発の弾丸で、粉砕なんて事はキヴォトスではあり得ない。

 

 

「な……なぁ…!?」

 

「私から見れば、上級生が下級生を虐めているようにしか見えません。

 更に言うなら、品行方正の表。裏は醜悪窮まりない行為…」

 

 逆光から現れた彼女は

 修道服を身にまとい、銀に煌くヘイローを戴く。

 

 

「トリニティにあるまじき愚行の数々。

 ティーパーティーが赦しても

 シスターフッド所属、トリニティ中等部

 百々犠(ももさ) アティが赦しません!」

 

 二丁の銃のトリガーガードに指を掛け高速で回し、右手を上、左手を下にしたら止め、勢いよく銃同士の背をガチンとぶつけポーズを決めた。

 

「………」

 

「………」

 

「っ~~~…! 決まったぁぁ…!! 主よ見てますか!アティ、遂にカッコよく登場ポーズをキメられました…!」

 

(やべぇやつだ…)

 

(やべぇやつですわ…)

 

 こちらをそっちのけで悦に浸るやべぇやつ。これが彼女、アティとの初対面だった。

 

 

「……はっ! そうだ、速やかにその方から離れなさい!」

「っ、シスターフッドがゲヘナを庇い立てするのですか!? 中等部の分際で、上級生であり、次期フィリウス代表の――」

「貴女の素行は全てシスターフッドが把握しています」

「っ!?」

「大人しく聴聞会の場に着く事を提案します。貴女の取り巻きの方々は既に制圧済です。これでもまだ何か、懺悔したいことがあるならシスターフッドとして聴きましょう」

 

 ……微かな足音が聞こえた。

周囲を見れば、いつの間にか修道服にアサルトライフルを持つ生徒、シスターフッドのメンバーが取り囲んでいた。

 

「くっ…、陰気な修道士どもめ!普段は我知らずなクセに、都合よく出てきて仇敵を助けて救世主気取――」

 

 言い終わる前に先程の重低音がしたと思えば、そいつが錐揉みしながら吹き飛んで壁にぶつかり白目を向いて気絶した。……ヘイローが消えていて、額から煙が出ているって事は、一撃…。

 

「あらら、アティちゃん。どうして撃っちゃったの」

「だって先輩!いつまでもごちゃごちゃと言ってあの子から退かないから!」

「ええまぁ解らなくもありませんが…。ほら、あれは私達が片付けますから、あの子を」

「はい!」

 

 場が解散と言った雰囲気を出し始め、シスターフッドの何名かは気絶した生徒を簀巻きにして運んでいき、あのやべぇやつは私に駆け寄ってきて、銃を地面に置いて私を優しく抱え起こし、踏み付けられた手を両手で包みこんだ。

 

「大丈夫ですか…?」

「…ああ」

「痛いの痛いの~飛んでけ~」

「……」

 

 踏まれた程度じゃ掠り傷も付かないが痛いものは痛い。それよりも今は壊された小包が気になった。…そちらに顔を向けると、シスターフッドが丁寧に拾い集めてくれており、申し訳無さそうにこちらに持ってきてくれた。

まさかトリニティの生徒がゲヘナにそこまでするのは、当時は驚きだった。

 

「ごめんなさい、うちのカス共が…」

 

 身内を身内とも思わないあんまりな言い方に唖然とするが、まぁ…それだけあんなのがうようよいるんだろう。

少し気恥ずかしくなり、視線を逸らすとその先に、やべぇシスターが置いたあの銃が視線に入る。

黒い銃身の中心から十字架のような装飾がしてあり、片方は赤、片方は白で彩られている。

……と、身内からカス呼ばわりされたあいつが引き摺られて行くのと入れ替わりに、庇ってくれた先輩達が駆け込んできた。ところどころ掠り傷があるが、全員無事だったらしい。口々にこちらの怪我を心配し、口々にトリニティに対する愚痴をこぼした。

 

 その後、やべぇやつ…アティに付き添われて整備部へ赴き、事情を話した。

……整備部は気にしないと笑い飛ばし、私と先輩達の心配をしてくれた。それに、ゲヘナに珍しいトリニティの生徒が来たことに驚き、先輩とアティを巻き込んでの菓子パーティとなった。

 

 

 

 

 

 

「皆さん、良い方々ですね」

「うん。…テキトーなとこがあるけど、根は良い人達なんだ」

 

 あらかた騒いだ後、夜のキヴォトス。

アティと二人でぽつぽつと会話しながら帰り道につく。私の家とは反対方向なのは、アティを途中まで送るため。

 

「送ってもらって、ありがとうございます」

 

「いいよ。私も助けてもらったお礼もあるし」

 

「ふふっ。…では、また会えますように。

 あなたに平穏のあらんことを!

 

 

 

 


 

 

 

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