三年前―――。
何時だったかは定かじゃないが、街で妙な噂が囁かれるようになった。
白い装束に薄気味悪い能面のような仮面を付けた、キヴォトス救済を謳う教団。
この世界の神秘は輪廻している。
終わりは近い。楽園へ往こう。
その頃の私は高等部への入学準備と、運び屋の仕事で忙しなく動き回っていた。その時に聞いた噂話。
そんな変な輩はキヴォトスじゃ珍しくもない日常風景だ。チラシをばら撒いたり、布教活動したり、そしていつの間にか爆発したり。
(邪魔にならなければいっか)
私の障害にならないのなら好きにしてくれ。良くも悪くもゲヘナ生まれの私だ。気にも止めなかった。
それが当たり前だったから。それが日常だったから。争いも諍いも。ここじゃ普通と変わりない。
暫くして、急変する――。
「行方不明?」
「ええ…。もう、一週間も帰ってこなくて…」
「そう、ですか……」
一人の友人が、行方知れずとなった。
お得意さんの山海經から行方が分からない子供が。更にはトリニティ、ゲヘナ、百鬼夜行の初等部生徒の何名かも行方不明になっていた。しかも攫われたとの目撃情報もある。
緊急事態と警察やトップが動いたらしいが、初動が遅れた分芳しくなく。
一人、また一人と姿を消してく事態に、トリニティの陰謀だのゲヘナの謀略だの、責任の擦り付け合いで、事態を他所に酷くなる一方。
理解も無ければ交わし合う言葉すら、罵倒と蔑みの嵐だ。
頼みの連邦生徒会がなかなか動かなかったのも混乱に拍車を掛けた。
それが巡り巡って、たかがいち運び屋の私にも捜索の協力要請が来た。
運び屋であり、多方に顔が利くからという理由で。
多分、それが私とあらゆる事象
因縁の始まりだったんだと思う。
あの黒煙で覆われたキヴォトスの空を一生忘れない。
泥のような目をして、ひれ伏す凶信者に囲まれ、祈り微笑む姿。
理解できない。したくない。してはいけない。
差し出されたその手に、微笑みに。私は「恐怖」に陥った。
「カザナは、神様って信じる?」
「さぁ? 信じる信じないで言うなら……信じない、かな」
「どうして?」
「祈って憎しみとか諍いが収まるならいくらでも祈るよ。ゲヘナでもさ。でもそうならない。ゲヘナの私、トリニティの████がこうやって話してるだけで白い目で見られるんだ」
「……そうね」
「活気が無いよりはマシだけど、ここはホント平穏って言葉とは無縁だよな」
「……ええ。酷い、話よね」
「…████は、いつもなんて祈ってるの?」
「私…、私は……いつもこう祈ってるよ――」
―――世に、平穏のあらんことを。