恵まれなかったウマ娘   作:any

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プロローグ
プロローグ 『神に忘れられた日』


 

 

生まれた時は普通だった。

一般の,ただの……有名なウマ娘だとか,有名人は全くいない一般人の家系。特に歴史がある家でもなく,本当に,普通の寒門の家。

 

けど,幸せだったのではないかとは思う。

 

 

両親はとても優しかったようで。

学校にもいけて、友達も多くできたらしい。

 

『ウマ娘』に生まれた私は、生まれ持った心というか性格が善人だったと言うか,友達ができるような性格だったのだと思う。

 

 

おじいちゃん、おばあちゃんは私が生まれてすぐに死んでしまっていたから,写真の顔しか知らないけど。

私を抱っこしたりしてくれていたと聞いた。

愛されていたのだ。

 

 

オモチャなどは我慢する必要もあった。

けど,親の愛,親族からの愛,友達との友情はずっと隣にいた。だから私は一人になることはなかった。何をするにも誰かと一緒……だった、らしい。

クラスの中心にも近かったんだと思う。

 

 

 

別に問題を起こしたこともなく,遅刻も寝坊以外はないらしく。

友達との喧嘩も普通にしたし,成績は悪くはなく,むしろ高い方。頭が良かったらしい。

 

『普通の幸せ』。

 

それを、至って普通に享受していた。

それが,どれだけ恵まれていることなのかを知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

……小学2年生。

両親がいなくなった。

この日から,私はどこか,ヒビが入っていたのかも,しれない。

 

死んだのだ。

ある雨の日,学校から帰った時。

親はいなかった。買い物に出かけたのだろうと。その時は思っていたけど。

 

 

後から知ることになる。その時既に,親は死んでいたのだと。

 

死因は交通事故。

居眠り運転のドライバーによる不注意。親に非はなかったという。

 

 

それだけなら,ここまでにはならなかった。

私が、壊れることはなかった。

 

 

 

次に,その親の事故がメディアに取り上げられた。

それはいいことであるか?……いや、決していいことではない。

世間の声。

それは,さまざまにある。そして,自分の目に入ってくるものは自分にとって都合のいいものであるとは。自分の求めている意見であるとは限らない。

 

 

 

少なくとも,私の目には……私の思うような意見を言う人は,ほとんどいなかった。

私への軽い同情。

意味の無い,哀れみ。

表面だけの,ドライバーへの怒り。

その怒りは,同情は、哀れみは……とても、無責任だ。

 

 

ドライバーの方も,精一杯の謝罪をした。罪も償った。減刑も何も求めず,自分に全ての非があり,私の両親は悪くないと。

そう言った。

 

 

賠償金。

懲役。

謝罪。

葬式などにかかるお金の立て替え。

裁判費用の支払い。

 

 

その全てを受けた。

どうにかすれば罪が軽くなっただろうに。何もせず,今は塀の向こうにいるらしい。

 

私は,ドライバーについては何も思っていない。

確かに,私の親を奪った人間だ。許せるはずがない。何も思っていないだけで,許してはいない。

けど,私の求めたことを全て遂行して,罪を償ったのだから許されるべきなんだと……そう,無理矢理に納得している。

 

 

そうでないと、私が私ですら無くなる。

 

今の不安定な自分すら失っていく。

 

もう,元に治れなくなる,立ち直れなくなってしまう気がするから。

 

 

でも、世間はそれについて,罪が軽いと言った。

あなたたちは当事者じゃないんだと何回も思った。無責任なことを言うな,と。何も知らない人たちの声がこれほどに鬱陶しいとは知らなかった。

 

 

そして,ドライバーの人が払った賠償金から寄付を求めに多くの人が来た。

宗教。

慈善団体。

いろいろなところから寄付を求める人だのが,そう言う声が集まった。

 

 

『私のような人を生み出さないため』

『神を信じることで,救われる。私も救われるため』

『私のように苦しむ人のため』

 

 

全て,間違っている。

事故は無くならない,人がいる限り。

私は、救われようとは思わない。誰か,自分のような人を救いたいなんて思わない。思えない。こんな時にも他人を優先するほど人ができていない。

 

それに、神様がいて,私を救ってくれるなら。私はその神様を恨む。私の親を救わず,私のことを見て見ぬ振りをした挙句、すぐに掌を返すその神を。

私は一番許せない。

 

あと、慈善団体を名乗るなら自分から寄付を求めないと思う。

 

 

 

そして、メディアに広まったことでテレビとかのインタビュアーだとか,そう言う人たちが来るようになった。

毎日,毎日。

とてもうざったくて…気持ち悪かった。

 

これも、壊れた一つの原因かもしれない。

 

そして、悪戯電話も当然かかってくる。

これについては,おじさんが色々対処してくれたから,あまり気にはならなかったが……それでも、怒りは持っている。

 

 

 

 

 

その中で,私に次の不幸が訪れる。

親戚が……そばから,いなくなった。見放されたわけじゃない。いなくなるといっても,定期的に来てくれることにはなっていた。

でも、肝心な時に,私から離れる、いなくなる……これが、私の心には大きく響くことになった。

 

 

 

私は,元々親戚は母さんの弟、おじさんただ一人だけ。おじさんだけが親戚だった。そして、そのおじさんは私を自分の子供のように扱ってくれた。結婚していなくて母さんに色々言われていたけど……

 

 

けど……おじさんはトレーナーだった。

おじさんは,差し切られたのだ。担当のウマ娘に。

実は,私よりも歳が上の娘がいた。それも,ウマ娘。そのウマ娘は、今4年生。おじさんが行くのは、どこかの有名な家だとおじさんは言っていた。

 

 

おじさんがその担当のウマ娘に子供を産ませたわけではなくて。ただただ,姉に…母さんに,そのことを隠していたから誰も知らなかった。

その家から直々に家族に迎える準備をしているから,家族にはまだ伝えるなと言われていたようで。

 

 

 

私が事故にあった直後,その準備が完了した。

準備っていうのは、当主引き継ぎだとか。そのための,経営。作法。あとは,いろいろなところへの挨拶回りから手続き,そのほかにもいろいろ。

 

名家の一員に、それも当主になるとはそういうこと。

 

 

 

これは,ずっと昔から決まっていたことだから。

そうやって自分を納得させて……おじさんとは、別れた。おじさんは,最後まで私のことを考えていてくれた。私もおじさんについてくるか,と聞かれた。

 

 

私は断った。

だって,私にはそんな……知らない人たちから愛情は注がれないと思ったから。

親が死んでからあった大人は,おじさんを除けば、私を愛してくれる人なんていなかったから,人間不信になっていた。

 

 

 

でも,おじさんは私を見捨てなかった。忘れずにいてくれた。そしてその家も。

私に中学校……トレセン学園に入学するまでの面倒を見てくれることを約束してくれた。家に来て、私の世話をするとも申し出てくれたが、それについては……人間不信もあって、断った。

 

けど,学校のお金だとかを払ってくれたのはありがたかった。

私にはとても払えなかったから。

トレセン学園に入って,レースに勝ちさえすれば私は自立できる。収入が入るから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうやって,親が死んでから色々あって……あっという間に。

2年が過ぎていた。

その間に,ストレスで私にはいろいろな変化があった。

 

すっかり痩せて、黒だった髪には白が目立つように。

目からは光が薄くなった。

切っていなかったから,髪もすっかり伸びてしまっている。

 

 

そして、大きな変化が二つある。親が死んだショックと、それに付随するストレスに起因するもの。

 

 

私は,親が死んでから、記憶の大部分を失って,前世の記憶を一部思い出した。

だから、親の顔が思い出せない。事故にあったこととか,小学2年生以降のことは明瞭に覚えている。でも,1年生よりも前。

 

 

幸せだった時。

その時の記憶が思い出せない。ぼやけて,薄くは思い出せるがそれが正しいかわからない。だから、『らしい』で終わる。

推測で終わる。

 

そして,思い出した記憶。前世の記憶。男だった。名前はわからない。いつ死んだかも,何をしていたかも,何もかも。

でも,生きるための知識が与えられた。人生の経験が。確立した確固たるもう一つの自我を得た。

 

 

そして,その心は鎧となって、外殻となって私の元の弱っている自我にまとわりつき,繋がった。結果として生まれたのが,今の自分。

俺、なのか……私なのか。区別がつかないような自分。

 

気持ち悪い,二つの心がツギハギになっている心。

そんな自分が嫌になっていた。

 

 

 

それと,もう一つ。

声を……失った。

 

ストレスだとか,精神に起因する病。精神病の一つ……失声症。

耳は聞こえる。でも,話せない。話したくても,心が……精神がそれを拒んでいるから。

 

 

確固たる自我という鎧を纏った話すことを拒む弱い心。

そして,今までの自分と,前世の自分が合わさった奇妙な自分。

明らかに周りと違った自分が少し嫌になるのと同時に,自分を俯瞰して見ることを覚えた。他人の視点を自分の中に持っているような感覚。

 

 

でも、周りと違うというのは人間……特に,同調意識の高い日本人の私には違和感があった。周りと違う自分に疑問を持って,認められず,私は学校に行かず,不登校になった。

けど幸い前世の記憶のおかげで高校までの知識ははっきりとしている。学校に行かなくても勉強ができるのだ。

 

 

 

 

こうして,学校にも行かず。

たった一人で,買い物以外は外出もせず,家の中にこもる状況ができた。おじさんの家は不干渉だった。

だって,私の人生を最後に曲げたのが自分達だとわかっていたから。

 

おじさんという拠り所を失わせたのは自分達だから。

たとえ,それが昔から決まっていたことだとしてもタイミングを変えることはできたのだから。

そんなじぶんたちが、口を出すことはできないと考えたのかも,しれない。

 

 

 

 

私は,神に見捨てられたのかもしれない。忘れられたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

けど,結局のところ…どうでも良かった,そんなこと。

 

 

そのまま、ずっと一人で家にいるようにしてから2年と少しが経過した。

去年の春から自己研鑽……トレーニングを始めた。

 

一年で自己嫌悪,人間不信が薄れて……余裕が少しできた。それにはおじさんの家に対して少しだけ,心を開いたからなのもあるかもしれない。が面倒を見てくれるトレセン学園について調べた。

 

 

それで,私が今のままでは実技試験で落ちるであろうことが分かってしまった。

そこで落ちれば私は生きていけなくなるのだ。何がなんでも受からなければいけなかった。

そのために必要な,努力。

 

努力を始めてから,私の1日は変わっていった。

 

 

起きて,身支度をして,ご飯を食べて,トレーニング。買い物をして一旦家に帰って,ご飯を食べたら暗くなるまでトレーニング。

それで,帰って,食べて,色々やって寝る。

これが私の1日。

 

 

トレーニングは、周りから見てまだ小学生がやるようなものではない……ハードなものばかりやっている。

 

最初は軽いものでも辛かった。自分がまだ少し,嫌いだったから。メニューは日を追うごとにどんどん辛いものにしていった。基準としては,心が折れる一歩手前のメニューを毎日。

毎日のように,自分をいじめていたように思う。

 

 

それをやっているうちに,私は速くなっていった。

その走りは体を置いていくほどに。

 

 

そして、その…今や同年代がやれば拷問だとでも言うようなトレーニングは,おじさんがよく見に来てくれて。

おじさんのいる家の人たちもたまに見にくるようになった。

公園や道路をずっと、一心不乱に走る私を見て何になるのかはわからない。

 

 

 

それと、一人気になるウマ娘も来ていた。

私に似た顔立ちだが,私と髪の色が違う。紫の目には輝きがある。

母さんに似た顔の形,雰囲気。高貴な振る舞い。そして何より,おじさんのそばに立っている。

 

つまり,そのウマ娘こそが……おじさんの,娘。

私の,従姉妹にあたる人物。

 

 

現役のジュニア級ウマ娘。

おじさんの行った家の、『最高傑作』。日本を,世界を見渡してもトップクラスの才能を持っているのだと,聞いた。

そのウマ娘がなぜか私なんかのトレーニングを見に来ている。

 

 

名前は聞かなかった。

だって,名前を知って,私には声がないから,呼ぶことができないから。

 

 

それと、私と目が合うと,その目には哀れむような,悲しいような色が宿っていたから。

(こいつも、か……)

無責任な,感情の押し付け。人を哀れむと言うことは,そう言うことだと。私の中では定義づけられていたから。

他人の無差別な感情ほど嫌なものはないと,私は知っていたから。

 

 

けど,そのウマ娘はよく見に来るようになった。

いつもおじさんと一緒に。

 

心配してくれているのかと思う。

けど嬉しくはない。

 

 

だって,哀れみの色は無くならなかったから。

そして,そのウマ娘が見に来るようになって一年,クラシック期に入ったそのウマ娘は。

無敗クラシック三冠という記録を達成したらしい。

 

私は、これがどれほどすごいかわからない。

凄すぎるから,ではない。ただ単純に,わからない。歴史に残ることなのはなんとなく理解している。ただ,何がすごいのだろう……と思ってしまっただけ。

 

 

 

そして私は,トレーニングを見てもらうほどに責任を感じないでいいと私は思っていることを伝えた。すると、そのウマ娘は悲しげな表情を浮かべた後,渋々ながらも了承してくれた。

 

そこまで気負われる必要はないのに。

だって,壊れたのは私だから。罅を広げたのがその家だとしても,最後に自分で自分を嫌いになって,自身の精神すらも捨ててしまったから。

 

 

最後に私を嫌いになって,私から離れたのが私かもしれないから。自分を壊したのは,私なのかもしれないから。

 

 

そのまま一年が過ぎて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今は,入学式だ。




次からは3000~4000文字程度にします
次は明日の19時ちょうど。

誰との絡みが見たい?(いずれ書く)※選択肢にないウマ娘は、ストーリーが思いつかないか、作者が書けないです。すいません。

  • オグリキャップ
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