恵まれなかったウマ娘   作:any

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復帰。
少しずつにはなりますが,投稿を続けていきます。
眼鏡壊れて,心また折れかけてます。

でもトプロが普通のチケット一枚で出たので耐えてます。


捌話 空白

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一面の緑。

前には誰も居らず,視界の右には白い柵,左にはスタンドがある。

少し息が切れていて,体はすでに限界だ。後ろから泣き声や悔やむ声が聞こえる。私は勝った,このレースに。世界最高の舞台に,日本のウマ娘として。

スタンドからは,何も聞こえてこない。

落胆と悲しみの雰囲気。

ため息。

自分の推しが負けたとなく声。

嘆き。

私の勝利に,なんの意味がある。そう言わんばかりの。

 

 

 

 

「ねえ」

 

 

 

 

後ろから声をかけられる。

振り向くと,そこにいたのは私と同じ身長で,白い髪をしているが,私とは決定的に何かが違う……私の知る中で最も私らしく,私ではない,私の好きで嫌いな存在。

これは紛れもない私。

それは絶対。

でも,今こうして勝利した私も私だ。

目の前に,私。

私はここにいる。

勝ったのは私だ。

負けたのは、私?

わからない。

わからない。

 

 

 

「教えてよ。」

 

 

わからない,何も。

なんで私は勝った。どうやって勝った。

何に勝った?何を思っていた?

私は何をしているんだ?

 

 

 

「キミの勝利には,価値がないんだよ?」

 

 

 

何がしたかった?

今はなんだ?

私はなんだ?

 

 

 

「教えてよ。」

 

 

 

あれ,私って…………

 

 

 

『キミは、一体誰なの?私はなんで、走っている?』

 

 

 

私って,なんだっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開くと,そこはいつも通りの部屋。

白い壁に,隣には誰もいないベッドやタンス。私物もあまり置いていない,無機質で……寂しさのある部屋。

 

 

私の部屋。

夢を見ていた。

掛け布団を強く握り締め,夥しい量の汗をかいている。呼吸も荒く,どんな夢を見ていたのかは覚えていないのが不思議になる。

 

私は何をしていたのだったか。

 

 

横を見ると,いつも通りにカレンダーがあった。

携帯の時計によると,現在は8月5日。……何かがおかしい。

頭の中に穴が開いているような感覚がしている。記憶を遡っても,トレーナー……チームシリウスに所属した辺りからの記憶がない。

大体,7月の中旬辺りから。何かをしているのはわかっている,レースに出たことも。

でも,それがなんのレースだったかを思い出せない。時期的にはメイクデビュー。私の人生初めての公式レース。

勝利したことは間違いない。

記憶にはないが,実感が残っている。

 

 

 

ひとまず予定を確認すると,今日までが休養期間で,今日は学校及び練習が休みになるレース疲れを癒す期間の最後の日。

疲労らしい疲労も残っていない。

休む必要はないだろうと判断できる。

……やることがない。トレーニングでもしようか。

こう言った時に,やることがトレーニングしかないのが私の悪いところだと思っている。

 

 

小学生時代のほぼ全てを一人で過ごした私。

気にかけてくれる大人もろくにおらず,話せないということで周りの同年代からも距離を取られて。

気味悪がられる。

遠ざけられる。

それは、人として,動物としては当たり前の行動だ。

動物、特に人間は他を排除する。

自分と考えが違う,肌の色が違う,やりたいことが違う……それだけで,人は人を傷つける。

 

 

それでも、それでも……と歩み寄る人がいるから世界は回る。

人の力で世界は回る。

人の思いで世界は周る。

人の想いで世界は廻る。

歯車として,狂った部品。

そうやって生まれた私は,人を理解できないから。歩み寄る人にはなれない。

 

強い人が弱い人を気にかける。

弱い人は強い人を見る。

そうやって,人間は成長していくのに。私は,誰も見ようとしなかった。誰からも,現実からさえも目を背けた。

逃げた。

親との決別を受け入れられなかった。

突然すぎたからなんて言い訳もしない。私が逃げたからこそ,今がある。他人を蹴落とし,突き放していたから,いやでもそうするしか残されなかった。

 

 

 

私は,弱い。

どうしようもなく。剥き出しの本当の私を見せることなく,壊れた自分で私を覆うことでしか他人を見れないし,自分を許容できない。

 

弱さを罪だと思う自分が,弱いとわかる。

強者の理論を振り翳し,弱者を否定する。それしかしなかった私が弱者だから。

現実を見て生きるというのは難しい。

 

 

辛いことから目を背けない。

これも自分だと,受け入れる。

それが私にとって,どれだけ難しいか。逃げて,壊して,奪って,突き放して,傷つけて……その全てが自分に返ってきている私は、そうする道を選んだ。

 

たとえ今過ちに気づいているとしても,もう遅い。

一人じゃ何もできない私は,弱い。

 

 

 

他人を下げないと自分を上げられない私は,どうしようもなく……愚かで,惨めだと。

 

 

 

 

……

 

自分への好感度を下げながらも学園指定のジャージに着替えて,道具を棚から引っ張り出す。と言っても,使うようなものは水筒とタオル,念のためのストップウォッチのみ。

それだけを持ってターフに出る。

天気は快晴。少し眩しくて,自分の暗闇を照らしてくれないか,なんて変なことまで浮かんでくる。

 

準備運動をして,学園の方を見る。

 

 

 

窓からは勉強に励む生徒が少しだけ見えている。

私以外にも自主練習に来ている生徒は何名かいて、サボっている生徒もいる。

サボりにどうこういう必要もないし,する気もない。

強ければ正しい。

成績さえ良ければいい学園は,実力主義だ。

 

それが,とても居心地がいい。

 

 

 

 

最初は,好きに走ろうか。

好きなペースで,風を切る。コースを一周するだけでも,それなりに体は温まるものだ。

地面を足で蹴る感覚が伝わる。

 

 

髪が風に舞う。

 

 

ザッ、ザッ、ザッ。

 

単調なリズムでも、耳に残る音。蹄鉄が,ターフに沈み込んで鳴る音が。

心地よい。

走る時だけは,私は私を好きになれる。

勝てば,自分を許せる。

 

 

 

最強の自分以外を認めたくない。

傲慢な考えでも,それが私にとっての当たり前になるのだ。認めたくないし、許せない。強くあれ,強くあれ。

私はこの道の先にある強さを知りたい。そして,その強さの先,最高到達地点で見える景色が,掴んだものが何かを……最強の景色を見てみたい。

 

 

だから。

私はもう負けない。

絶対に。

 

 

 

 

一周を終わらせれば,ちょうどいいくらいの体温に落ち着いた。

ドクン,ドクンと少しだけ鼓動が上がっている。

吹き抜ける風が心地よい。ベンチが日陰になっていてよかった……と思う。

雲を眺めていると、足音が近づいてくるのがわかった。

 

 

 

「何をしているんだい?」

 

 

 

生徒会長。

それはそちらも……と言いそうになるが,この間生徒会長は海外のレースに出走することを発表したばかり。

今は調整期間真っ只中であり,学校は休学しているのだった。

なぜ余計ここに……?

見れば会長は体操着姿。後ろには遠目から会長のトレーナーがこちらを見ている。

 

おそらくトレーニング中。

海外は日本とは何もかもが違う。

芝だとか,コースだとか,言葉だとか。食事も違えば,時差もあり。文化だって全く違う。

それに体を慣らしていくためにする専用のメニュー。それを会長のトレーナーは自分が実際に海外に赴くことで実現させた。

現に,今会長の足には普通のものとはデザインは同じだが,形が変わったシューズが履かれている。

 

 

「休憩中だったかな。なら,ディッフェトーゾ、君さえ良ければだが……私の並走相手にならないか?何人か声もかけたんだが,断られてしまってね……」

 

 

とトレーナーの方をチラリと見てから私に問う。

 

 

なるほど。

並走を断られた……私を見つけたから声をかけたというところだろうか。

断られた理由は十中八九,生徒会長が相手だから……生徒会長が海外に手を伸ばしたから,というのが原因だろうか。

 

 

それもまあ,そうと言えば,そう。

日本最強と名高い生徒会長の並走相手などしたいウマ娘の方が少数だろう。なんせ、生徒会長,皇帝が海外に手を伸ばしたのだ。

トレーニングの相手をするだけでも重役,精神的に重荷を背負うことになるだろう。

万が一負けでもすれば。

自分があのときこうしていたら,なんて思うかもしれない。

 

だから,少数。

そう思えるのは走るために生まれたような,走ることを何より愛する……ミスターシービー先輩や,マルゼンスキー先輩のみ。

 

 

 

まあ私はその少数の方に分類されるわけだが。

 

 

 

「ありがとう。それじゃあ行こうか,距離は1000mでいいかな?」

 

 

コースに横に並んで生徒会長を見る。

脚は輝くように整えられていて,調子は抜群。ストレスだとかも何もなく,ベストコンディションを作り上げている。

この状態をどれだけ維持できるか……

それが海外遠征の鍵となる。

それなら,私は負けた方がいいのだろう。

 

 

生徒会長を調子に乗せるために、私に一度勝っておいた方がいい……それが会長のことを考えるなら,ベスト。

でも当然私は勝ちに行く。

他人が何だ……私は勝ちたいから。

 

 

 

別に生徒会長が負けてもどうとは思わないし,負けたからといって私が何か変わるわけでもない。

というか,変わるのなら承諾していない。

自分本位をどこまでも。自己中心、それが人間の本質なのだから。自分以外のことになんて,興味を持てない私が気にするだけ無駄だ。

何をしても他人のためにならない。

もし生まれ変わったら,なんて……たまに思うほどに,私は私にうんざりする。

 

人のために生きることはない。

でも,自分以外を優先しようとする。そんな矛盾を孕んだ生き方すらも気持ちが悪い。

興味を持てない他人より,何をしても許容できない自分の方が気持ちが悪い。現実を捨てているのに現実を信じるなど,ふざけている。

 

 

負けたくないから、勝つ、勝ちに行く。

当たり前を行使しないことが当たり前になっているような世界を否定する気はないけど,認める気もない。私は私を曲げない。

勝ちたい想いを抑えて走ることが全力になるわけがない。

 

 

 

なら、勝とう。

 

 

 

「さあ,始めようか。トレーナーくん,準備は大丈夫かい?」

 

 

「うん、大丈夫だ。」

 

 

 

生徒会長のトレーナーはスターターに指をかける。

前触れなく,音が響く。

それにほぼ同時に反応して,駆け出す。

 

 

 

 

走ることは,ウマ娘にとって特別な時間。

相手と剥き出しの自分をぶつけ合い,本能で戦うとき。その中でも,生徒会長は常に表情を変えない。

強靭な理性で、本能を抑える。

ライオン、獅子と評される思いを力で抑え込んで,どこまでも合理的な走りを。

 

そんな、『つまらない』……走り方で,生徒会長は何を考えて走っているのだろうか。

世界への想いか。

新たなる冠への栄光か。

世界への羨望か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果的には,私が勝った。

でも,生徒会長は距離と,特殊なシューズであるというハンデ付き。

勝利の味はない。

でも,勝てた……それは,私の自信にはなるのだし,問題はない。価値は勝ちなのだから。

 

 

 

「うん、いい感じだね……ありがとう。お礼に一つ,教えたいことがあるんだ。」

 

 

 

「君にはまだ,足りないものがある。負けた私が言う様な事では無いが、それだけは覚えておいた方がいい。ウマ娘という種の頂点に立つ資格あるものは,今の君とは違う世界を見ている。テイオーは既に、その域に達している。

そして、君は,その高みに登る資格がある。いや、君ならば或いはその先に……」

 

 

 

「少し話し過ぎてしまったかな。気炎万丈、次に勝つのは私であり,君が……挑戦者な事に変わりはない。もう負ける気はない。」

 

 

 

ちゃんと荒ぶる獅子は死んでいない様。

こんな一つの勝ちを拾ったところで,とは思わない。ハンデをつけたプロに小学生が勝てば神童と言われる様に,無名の私が世界最強に勝ったのは事実。

挑戦するのは私であるが,勝つのは私だ。

 

 

そして1ヶ月後,生徒会長は世界へと飛び立った。

 

 

 

 

 

生徒会長はついに取りに行った。

日本最強という席からさらに上,世界最強の頂。

 

 

凱旋門へ。

 

 

 

 

 

 




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感想
嫌味
どんどんください。
励みになります,いや冗談とかじゃなくてマジで(豹変)。



至らぬ点,足りない点も多いですが,指摘していただきたいです。
じゃないと成長できない人間なので……

誰との絡みが見たい?(いずれ書く)※選択肢にないウマ娘は、ストーリーが思いつかないか、作者が書けないです。すいません。

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