色褪せた日常が、過ぎていって。
その少しを積み重ねて灰色の冬が去って。色の無い春が来た。
自分の身分、中学生。
学生というのは、世間的に見て青い春………青春、といわれる。
自分たち、ウマ娘という走りにその時間をささげる、”アスリート”ですら、その美しい時間を友人と、家族と。
大切なものと、
大切な時間を過ごすのだ。
私にはないものだ。
家族も。
仲間も。
だから、私に訪れる春に色はつかない。
生命が芽吹き、花がそのつぼみを開く。
窓の外の木も、美しくいる。
………こうやって、自分を、誇ることができれば。
どんなに楽だっただろうか……………。
嫌だ、嫌だ。
なんでも悲観的に、なんでも否定的に。
自分のことを、どうしたいのだ、私は。
空に舞う花びらを眺めて、考えを浮かべる。
頭を振って、無駄な時間を消す。
周りに、何も与えられず。ただ、人の願いを踏み潰す。レースに勝ってなお、他人に夢を与えられない、与えない。
そんな私の最初の、勝利。
祝福、歓声、喝采。
そのすべてを身に受けて、わかった。
勝利は、正しいけれど。
私は、正しくないのだ。
勝った後こそ、祝福が。
拍手が、喝采がーーー私をたたえる声で埋め尽くされていた。
それについて思うことはなかった。
ただ、勝った後の、ウイニングライブ。
私は、歌えない。
絶えぬ完成も、その熱狂も冷めてしまう。
言うまでもないだろう。
学ぶことが、できた………よかった。
私は間違ってない。
ただ、私は勝てばいいんだ。
勝利が私を肯定し、証明する。
その果てに、いつか、私の求める何かがあるのかもしれない。
いや、違う。
私は、壊れて、失って………それを否定するわけにはいかないんだ。
また、無駄な考えに、時間を使ってしまった。
視界の端にちらちらと動く灰色をとらえ、そちらへ向く。
そちらでは、私の今のトレーナーが、私に向かって手を振り、タイム計測の準備ができたことを示している。
左手を小さく上げて、反応を示す。
すると、出されていたゲートの扉が閉じる。
走りの構えを取り、ゲートが開くのと同時に走り出す。
トレーナーによると、私のゲートを出る時のダッシュは、”水”である、というようにたとえられる。
貯められた水が静かに流れ出るような、自然な。
私が、一人で研究した。
反応よりも、スムーズさを重視している。
ゲートを出る一瞬には、多くの技術が…歴史がある。先人たちが積み上げ、磨いた技。それらを公開するトレーナーはいない。
当然だ。
戦う前に、策を明かすものはいない。
ただ、その教え子の走り、スタートは隠せない。
何度も。
何度も。
何度も、何度も、何度も。
何度も何度も何度も何度もーーー。
時間があれば、休息の時間があれば。
過去のレース動画、最新のレース動画、海外のレース動画。すべてを見て。
その美しい、技術と研鑽を込めたスタート。
それを学び、盗み………喰らう。
そして編み出したスタートは、何もないがらんどうらしく、風になびき、ふわりと倒れるようなスタートになった。
そして、加速を始める。
本番を意識する走りである以上、工夫を入れる。
(1…2…3…4)
加速を一定の速度で打ち止め、自分の持つスタミナと、自分の出せる速さ。そして走る距離を感覚で計算して、調節していく。
私の体と、意識。
そこには寸分の狂いもない。
(1…2…3…4)
考えた通りのペース。
考えた通りの動き。
思い描いた走りで、走る。
それはウマ娘が、純粋に求めることで、本能なのかもしれない。
こんな風に壊れても、本能は消えないのだろうか。
同時に、自らのピッチ、そしてストライド。
バランスの確認も行う。
進んだ距離と、地面を踏みしめる回数。
このバランスは、車のギア比のように、タイムに大きな影響を出す。次に出るレースのために、調整する必要がある。
ラストのコーナーに入り、体を傾け、スパートをかける。
足のストライド、ピッチが心臓の鼓動とともに大きく、速く、強くなる。体が風を切るたびに熱を帯び、自らの体を押し出していく。
次第に私の足は更なる限界の先を目指すように速度を挙げていく。
最高時速をぐんぐんと引き上げるために、自然と体の動きが変わる。型にはまった走りから、より野性的に、より自由に。
風すら置いていくための前傾姿勢。
私の体は重力と、自らの力に従って前へと進んでいく。
廻り続ける足が次第にうちから炎を出すかのような熱に包み込まれ、シューズと蹄鉄から伝わる衝撃が強くなっている。
”あともう少し、もう少しで手が届く”
と、私に残ったかけらのような本能がささやく。
その声を振り払い、前を見据える。
そして、トレーナーの前を通り過ぎる。
通り過ぎたら十数歩程度で止まり、手元のタブレットに何かを打ち込むトレーナーへと歩み寄る。
トレーナーは図ったタイムや更新されたデータを入力し、予測している成長を更新している。
今回出たタイムは出走する
これならば、勝ちに違いはない、のではない。
レースに絶対はない。
だからこそ、極め続けるのだ。
トレーナーのそばに立ち、タブレットにまとめられた私のデータを覗き込む。
そこにある情報は私の体そのものといっても過言ではない量のデータ。これをもとに私を作れるとも言えるような精細で緻密なデータ。
これらの小さな増減が一つの敗北につながる。
恐ろしい競技だ。
負ける言い訳も理由もそこら中に、転がっている。だから、トレーナーとウマ娘は言い訳できないように追い込むのだろう。
体重が増えて重心が変わった、スパートがずれた。
背が伸びて、ストライドが変わり、無駄が生まれた。
足が大きくなって、靴を壊した。
どれも馬鹿にできない影響。
そのすべてのデータを把握し、成長予想を立て、トレーニングを考える。ただでさえ育ちざかり、食べ盛りと一般家庭では言われるウマ娘の管理は容易ではない。
トレーナーという人々がどれだけ優秀で、トレーナーになるのがどれだけ難しいかこれで分かる。
「お疲れ様。いい走りだね……予想以上、期待以上にね。」
その言葉にうなずきつつも、本当のことを言えと視線を向ける。
それを見て参ったな、とでもいうようにトレーナーは苦笑を浮かべて言葉を発する。
「最後のスパート、君らしくない。ああ、いや、悪いわけではなくてーーー実際いいタイムも出ているんだ。」
「ただ、君にしては珍しく”ウマ娘らしい”と思ってね。いつも見るフォームでもなければ、何かに突き動かされるようだ。」
つくづく、よく見ているなと思う。私が欠片の本能の通りに走ることはまれで、好まないことをよくわかっている。
ウマ娘が走る本能を抑えるのは基本的にあまりよくない。
皇帝でさえ、走っている最中は本能をむき出しにする。……かの者の強さはそこに圧倒的な知性と氷のような冷静を同居させていることだろう。
確かに。
本能に突き動かされれば速いだろう。強いだろう。だけれど、その力に耐える体ではない。
「お、当たりみたいだね………闘争心があるようで何より、ほかに体の変化もなさそうだ。コンディションは及第点は超えてる。」
このトレーナーの管理が現在の走りのタイムと本番で出せるパフォーマンスの差につながる。
本番のコンディションが120%のウマ娘もいるが、10%を切ることもあるだろう。
その差は数字で見るようにとてつもなく大きい。
突然、ふとトレーナーがこちらを向く。
得意げな顔をしていたトレーナーが神妙な面持ちでこちらを見据える。
「最後に聞くよ。………本当にいいんだね?自分は構わないけれどいばらの道だよ、正直。勝つつもりだし、疑ってもいない。だからこれは確認だ、覚悟のね。」
その言葉にうなずきを返す。
トレーナーはそれを聞いて私の前で桜花賞への出走前の最終書類をタブレットで提出した。そしていつもの微笑でない、優しげな顔立ちに似合わぬ獰猛な笑みを浮かべて高揚した声で言葉を発した。
「楽しみだよ、君がその脚で伝説を刻む。二度と現れないかもしれない、偉大な記録。」
「
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『一着はトウカイテイオー!トウカイテイオーです!かの皇帝シンボリルドルフの成しえた無敗での皐月賞制覇、その軌跡をトウカイテイオーも辿って見せた!』
ゴール板の前を一番に駆け抜けて、腕を掲げる。観客スタンドから降り注ぐ声援と割れんばかりの完成と拍手。
無敗の三冠の一歩目にしては物足りないかな?なんて思ったりしながらゆっくりと走る。
空を駆け抜け吹き込んでくる風が、汗で湿り、火照った体を冷やしていく。
一つ深呼吸を入れ息を整えて、勝利を誇るように掲げた腕をスタンドに向けて大きく振り、関係者席に視線を送る。
そこには自らが追いかけ続ける憧れ、自らの辿る先がボクに向かって拍手を送る姿があった。
立ち止まり、憧れへーーーシンボリルドルフ、カイチョーに向かって指を一本立てたサインを送る。
『まずは一冠』
かつての皇帝のような堂々とした宣言を見て会場がさらに色めき立つ。
「無敗三冠だ」「皇帝がもう一度現れるのか」「新たなる帝王は、この世代の顔は決まりだ」そんな声が次々に聞こえてきて、思わず鼻を伸ばす。
三バ身差という大きな差をつけての勝利。この勝ちはどうやら、人々にボクこそが世代最強と確信させるには十分みたいだ。
………当のカイチョーは苦笑いを浮かべているけど。
ボクは誰にも絶対負けない無敵のテイオーだ。カイチョーだって追い抜かす。
勿論、ディッフェだって。
次のレースが始まる前に地下道へと戻る。
今日は特に珍しい、G1レースが連続で行われる日。普段は週を改めるのが一定の周期でこうなるみたい。
であれば、次のレースに出る子たちと会うのは必然。
次のレース、桜花賞。
学校でよく名前を聞く強い子や、有名なトレーナーについてもらった子。
様々な有力であるといわれる子がこちらへ向かって歩いてくる。中のいい子が手を振ってくれたりするから手を振りかえしたり。
「すごかった!」「かっこよかったよ、ダービーも頑張って!」
そうして少し話していたとき。
道の奥から
そんな者はただ一人だろう。
ディッフェだ。
相変わらず静かなくせに煩くも感じる。
重苦しくて息が詰まるようなプレシャーと、強靭な踏み込みが感じられる力強い歩み。こんなのはカイチョーからも感じてない。
存在感、威圧感に心臓が高鳴るからなのかも?まあ、危険度はディッフェのほうが上、ってことなのかもね。
そんなディッフェは、トレーナーの細かい業務関連において素人のボクでもわかる体の調整。
もしも今ボクのトレーナーが彼女を見ればおかしくなっちゃうんじゃないかなってくらい。それはちょっと見てみたいけれど。
にしても、抑えられないな、これは。
「ディッフェ、ボクは勝った」
「先に待ってる」
思わず、挑発してしまった。
それを聞いて立ち止まったディッフェはこちらを眉一つ動かさず一瞥し、通り過ぎていった。
なんてことだろね。
魅力的すぎるよ、ディッフェは。
宝塚でも、有馬でもいい。
早く走りたい、競い合いたい。カイチョーの辿る道にミスターシービーやカツラギエースのような壁があったみたいに、ディッフェはボクの壁だ。
戦って、競い合う。
そうすればボクは強くなれる、ずぅーっと、いまよりも。はるかに。
その時が楽しみだ。
ボクに負けるまで、誰にも負けないでね?
君を倒すのは、
1年半ぶり。
ディッフェはクラシック6月に全ステUG以上、金スキルいくつか、固有なしをイメージしてます。
テイオーはオールc+でパワーとスピードがB後半、金スキル一の固有あり。
勝負服は多分次回情報書くかも。
いい案あったらメッセージとかでください。絵をくれるならできれば絵で………
誰との絡みが見たい?(いずれ書く)※選択肢にないウマ娘は、ストーリーが思いつかないか、作者が書けないです。すいません。
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