恵まれなかったウマ娘   作:any

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ちょっと投稿早めました。


ジュニア級
壱話 邂逅


 

 

 

目の前にある,広大な敷地を有する学校。

ここまで学校が広いのは田舎だとかではあり得るかもしれないが,ここは府中。都会と,呼んでもいい……場所だ。

その場所に似合わない大きさを有する必要がある学校。

 

 

それは、日本国内ではトレセン学園……正式名称,『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』のみ。

そしてここが,おじさんと,おじさんの家の人たちが手助けしてくれる終着点。

おじさんが今まで働いていた場所。今では、どこかの大きい家の当主という肩書きに進化しているけど。

 

 

ここから先は,ただ一人。

 

 

人生の終着点かもしれない。

ここから,私の新しい人生が始まるかもしれない。

 

 

ここは,私にとっての分岐点。

 

 

他のウマ娘が入学できるかどうかが分岐点なら,私は入学の後こそが分岐点になる。

勝てるかどうか。

それだけにしか意味がない。勉強?高校まではきちんと履修済みだ。

交友関係?人間不信、失声症がある。

 

 

 

今の私は,余計なものを全て削いだある意味走る状態でのベストかもしれない。

余計なものがないのだから。

 

 

家族が来るという緊張感も。

 

 

友達が応援で,勇気を得るみたいなことも。

 

 

故障、事故を除けば,私には今不確定要素が消えている。

かもしれないな。

 

 

それだけ考えて,前に進む。

今いる場所は,広大な敷地ゆえに,数ある門の一つの前。桜が舞っていて、数多くの家族が入学式と書かれた看板の横で写真を撮っている。

 

 

みんながみんな、幸せに『家族』とともに。

ひとりぼっち,校舎に向かって行くのは私だけ。

おじさんが来てくれる可能性もあるかと思ったが,仕事の時間だから,とそれを否定。他の親族という親族は一人しかいないが……来てくれる可能性は低いだろう。

 

 

 

それは、従姉妹。

でも、私が前に一方的に会うのを断った。それはもう,相手に忘れられたとしても,無視されたとしても別に不思議には思わない。

 

 

 

それに,今日は在籍生は休みだ,いるわけがない

 

 

 

だからこそ、私はたった一人。

 

 

 

普通の幸せの中にいれば,この桜に素直に綺麗といえるのだろうか。

でも今の私には、幸せを象徴するような花に対して,いい感情はあまり湧かなかった。

憎らしくて,しょうがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式では、普通の入学式であったと思う。

普通とは違うところに,一学年に在籍する生徒数が通常校に比べてはるかに多いこと。

トレセン学園と調べれば,マンモス校であると出る所以がわかった気がした。これが高等部、6学年分。広大な校舎や,全員分の量のためにはスペースが足りなくなるのは当然だろう。

 

 

それと。

前々から調べていて,知ってはいたが見るからに子供の人が理事長なのには驚いた。

その後は,担任の先生を紹介して,クラスに移った。

 

 

 

クラスに入ると,地獄だった。

当然だ。……やけに長い黒と白の髪が目立たないはずがない。

別に,黒と白の髪は珍しくない,けど。それが白の方が比率が大きいことはあまりない。それと,私のまとう雰囲気もあったとは思う。

 

 

 

人間不信が抜けきれていない。

他人に対しての不信感,恐れを前に出していた。

 

 

 

 

……それと自己紹介。

先生には事前に,自己紹介の内容と,失声症であることを伝えていたのだが。

いや,先生はとてもいい人だったと思う。

 

 

でも,流石に私の自己紹介の紙を読むときには,顔が引き攣った。

 

好きなもの……無し。

 

 

私が好きだったのは,親の作ってくれるご飯だった……らしいから。

 

 

夢や目標……無し。

 

 

ただ,私は勝たなくちゃいけなかったから。

勝つだけでよかったから。なんのレースでも,勝利にしか価値がなかったから。

 

 

一部だけでもこれだ。

これを先生に明るく言え,というのには無理があった。でも,明るく努めずに淡々と喋ってくれた方がありがたかったな,と。

その後の明るい人のおかげでクラスの雰囲気は持ち直したが,気まずさは残る。

 

 

そして,クラス全員からの視線を受けつつも。

一言も発せず,窓の外を眺めていた私は,どれだけ気味が悪かったかは,計り知れなかった。

 

 

 

だって、私も私で居心地が悪かったから。

 

 

 

 

その後。

ホームルームが終わった後,すぐに与えられた寮部屋に向かった。寮部屋は普通誰かとの相部屋だが……そこは学校側が気を回してくれて,一人部屋だったから。

 

 

自分の部屋が,オアシスになってくれると。一人で落ち着いていられる場所になると。

そう思って向かっていると。

 

 

 

 

「やあ,入学おめでとう」

 

 

 

 

後ろから声をかけられた。

何を言われても答えられない。話すのが怖いから。……けど、この声は知っている声だから。

 

昔から交流がある、今も関係がある唯一のウマ娘。

 

 

だから、後ろを向かなくちゃいけない。

 

 

 

「元気そうでよかった。……久しぶりだね。」

 

 

 

従姉妹だった。

なぜここにいる,今日は休みだろうに。

わざわざ私のために来たのだろうか?確かに,従姉妹は寮暮らしなので入学式で入ってきた後輩を見に……だとかの適当な理由をつけて来ることは不可能ではない。

 

 

だが,私のために時間を割く必要が見当たらなかった。

 

 

 

 

「こんなところで立ち話もなんだから,こっちで座って話さないかい?」

 

 

 

私に,話すも何もないと思うが……それに,話すことなんて無いだろうに。

 

笑顔で指差した部屋を見ると,そこは生徒会室。

重厚な扉に,重々しい木の板に,筆で書かれたやけに達筆な字でそう書いてあった。

 

少し迷ったが,応じることにした。

 

 

中には,扉の真正面に一段上がった席が一つ。その右,左に一つずつ。左右の席には誰かが座っていた。

それと,来客用だろうか。

入った目の前にテーブルと,いかにも高級な椅子があった。

 

 

 

「その者が……会長の言っていた,今年1番の期待の新人、とやらですか?」

 

 

 

「あんたがそこまで押すんだったら,さぞかし早いんだろ?」

 

 

 

「ああ,その通りだよ。強さについても知っている。……ブライアン,心配しなくともいい位にね。」

 

 

 

気になる単語が出てきた。

会長。

つまり、従姉妹は生徒会長だったということだろうか。

 

 

だからと言って生徒会室に勝手に人を連れ込んでいいものか。部外者立ち入り禁止な風潮がある生徒会室だが,一般生徒の入室は可能なのか。

だなんて,どうでもいいことを考えて二人に見られていることから気を逸らす。

 

 

今は昼。

だから大丈夫だが、夕方になるとおそらく後ろの窓から日が差し込んでくる。

 

 

威厳だとか,雰囲気だとか……そういうものを出すために設計されたのだろう。

それと、これまた綺麗に書かれた英語。

何かのスローガン?

 

 

 

「おい、お前。名前はなんだ?」

 

 

 

右側に座っていたウマ娘が従姉妹……生徒会長との会話を切り上げた。

生徒会長に聞いていないのだろうか。

……兎も角、私は話せない,答えられない。

 

 

だから、顔を背ける。

 

 

 

「……何も言わないぞ?」

 

 

「彼女には色々あったんだ……聞かないであげてくれ。」

 

 

 

色々では収まりきらない。

思い出,ではない。形容し難い記憶。あの日から,私は神に見捨てられたのだと思っている。

それから、いいことと思えることがなかったから。

 

 

だから,口を閉ざした。

心を閉ざしたつもりはない。ただ,これ以上……誰かと話して,これ以上自分が壊れるのが嫌だったから。

話せないのではない。

話さない。話したくない。それが,真実。

 

 

 

「それで、どうかな?クラスには馴染めそうかい?」

 

 

 

首を横に振る。

自己紹介からやらかしているのだ。あれで馴染めるような人間はどんな人でも無理だろう。

他人を突き放すような態度に,孤独ここに極まれりのような文章。

 

 

最悪だ。どう考えても。

 

 

人間不信はこの先一生治ることはないのかもしれない。

ただ、それも……今の私の目には、嫌なことにはうつらない。人と関わりが減るのは,私にとっていいことだから。

 

 

 

「そうか……」

 

 

 

分かりきっていたことだ。

私が馴染めるはずもない。

 

 

話さない。

表情が変わらない。目に光が無い。

可愛げもない。

 

幽霊に近くなっているのかもしれない。

いつかはこの学校の七不思議の一つにでも数えられるだろうか。

いや,夜に出会えば幽霊よりも怖いだろう。切っていない長い髪は綺麗なまま保たれている。それもあってか影を見れば何かの怪談に出てきそうな。

 

 

 

「失礼しまーす!」

 

 

 

すると、後ろから知らない声がした。

身長から見て一年生だろうか。いや、身長,および外見で判断するのは良くない。

入学式で見渡した中で、このウマ娘に似たやつはいただろうか。

 

 

よく思い返すと,主席のスピーチに選ばれていたやつ。

トウカイテイオー。という名前だったはずだ。

一年生の入学者の中で,入学テストにおいて筆記,実技,面接で一位を記録した入学者の中のトップ,主席。

 

それが確か、このウマ娘だったはずだ。

 

 

他人に興味はあまりないが,主席ということで一応覚えておいた。

レースに出たときに,障害になるだろうから。

 

 

 

「おや、君は……トウカイテイオー、で合っているかな?確か,日本ダービーの時の……」

 

 

「うん、あの時シンボリルドルフさんみたいなかっこいいウマ娘になるって約束したから!頑張ってここまで来たよ!」

 

 

 

どうやら二人は知り合いのようだ。

日本ダービーの時,というのがいつかはよくわからないが……確か、6月だったか5月だったかのG1レースだったような。

クラスにトウカイテイオーはいなかったが、何組だろうか。

 

 

どうもこのトウカイテイオーというウマ娘の性格が苦手だから、あまり出会いたくないのだが。

 

 

 

「貴様が今年の主席の……トウカイテイオーか。私はエアグルーヴ。生徒会副会長をやっている。」

 

 

「ナリタブライアン」

 

 

「今更だが,私はシンボリルドルフ。生徒会長さんにをやらせてもらっているよ。これからよろしく頼む、トウカイテイオー。」

 

 

「テイオーでいいよ!えーと、そっちの方がエアグルーヴで、何か咥えているのがブライアン?だよね、よろしく!」

 

 

 

所謂、陽のもの。

一瞬で他人との距離を詰めて来るタイプのウマ娘。私が一番苦手とするタイプ。

会話ができない私にとって,他人との交流は至難の業だ。

 

 

だからこそ、人に距離を詰められるのがとにかく苦手。

やはり、あまり出会いたくないウマ娘の一人になる。いや、ウマ娘は基本全員性格が良いので、ウマ娘自体が苦手、ということになるけど……

 

 

 

「それで、えーっと……君は?」

 

 

 

聞かれても困る。

生徒会長にどうにかしてくださいよと意味を込めて視線を送る。

どうやら伝わってくれたようだ。

 

 

 

「彼女は私の従姉妹だよ。話すのが苦手なんだ……けど、とても良い子だよ。仲良くしてやってくれ。」

 

 

 

仲良くは無理だ。

ウマが合わない。性格が180度違う相手に対して仲良くしろ、という言葉ほどの無理難題はないように感じる。

……ちょうど良いところにメモ用紙があるから使わせてもらおう。

 

机の上から滑らせて渡す。

 

 

『無理です』

 

 

この一言に尽きる。

それを読んで、生徒会長は、苦笑いした。

 

 

 

「えーッ?!カイチョーのいとこ?」

 

 

「カイチョー?」

 

 

「うん、生徒会長だからカイチョー!それで……うん、確かに似てるところはあるかも!」

 

 

 

私と生徒会長の顔を見比べていった。

私としては、生徒会長と私は無関係の別人のような感覚に近い。従姉妹である、と言ってもほぼ血のつながりはないようなものだ。

 

 

顔こそやけに似通ってはいるが、あくまで似ている様に『見える』だけ。

会うのだって久しぶりなのだから、感覚的には赤の他人の方が近いという状況。

 

 

はっきり言って,この空間が気まずい。ように感じる。

一方的に私と会話していた生徒会長と、一切、一言も話さずにずっと生徒会長を見ていた私。そしてそこに突然よくわからないテンションのトウカイテイオー。

 

 

はっきり言って,私が邪魔者にしか感じない。

トウカイテイオーは生徒会長の大ファンのように見られるし、ここは私はいない方がいいだろう。私にとっても、二人にとっても。

 

 

と判断して,席を立つ。

きちんとお辞儀をして開いたままの扉を閉めて、当初向かっていた寮部屋へと向かう。よく考えれると、トウカイテイオーと一度も目を合わせなかったわけだが……

少し申し訳なく思いつつも、苦手なのだから良いか、などと適当に自分を誤魔化して、おく。

 

俯瞰して考えれば話せないことを知らない側からすればやばいやつだが、事情を知っている目線ならこれが私の精一杯にも見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

寮部屋は出口に最も近い一階の部屋。

美浦寮だった。別に、美浦も栗東も向かい合っていてどちらでもたいして変わったこともないのだが。

部屋の位置に関しても気遣いを感じた。たまたまかもしれないが、とてもありがたい。

 

 

荷物を整理してゆっくりと寛いで一日の反省及び瞑想という、今日1日で最も落ち着いている時間を堪能していると。

インターホンが鳴った。

 

 

生徒会長だろうか。

今のところ交流があるのが生徒会長ぐらいしか思い当たらない。

でも、扉を開けるといた人物は違った。

 

 

 

「遊びに来たよ!」

 

 

 

トウカイテイオーがいた。

この距離の詰め方が嫌だったというのに。

 

ため息をひとつ。

ため息ぐらいはつける。話せない、声が出ないだけだから。

 

 

 

 

「ため息つかないでよ?!」

 

 

 




トウカイテイオーのシンボリルドルフとの初邂逅時の口調よくわからん
敬語を使わないイメージしか……

後、生徒会長って言ってるけどシンボリルドルフの方が描きやすくて後悔してます


次は、今日の一八時半に投稿。

誰との絡みが見たい?(いずれ書く)※選択肢にないウマ娘は、ストーリーが思いつかないか、作者が書けないです。すいません。

  • オグリキャップ
  • サイレンススズカ
  • ナイスネイチャ
  • マンハッタンカフェ
  • アグネスタキオン
  • シリウスシンボリ
  • マヤノトップガン
  • サクラバクシンオー
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