恵まれなかったウマ娘   作:any

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誤字報告、
および高評価ありがとうございます。もっとください。(強欲)

なんて言わないので、読んでくれるだけ嬉しいと思っています。


弐話 友達

 

 

 

扉を開けると立っていたのは、先程生徒会室にいた……私が逃げたウマ娘、トウカイテイオー。

満面の笑みで立っている。

 

 

どうするか。

扉を閉めてもいいが……わざわざ時間を割いてきたのだと思うと、相手が苦手なタイプの人間でも追い返すのは気が引ける。

かといって、入れたところですることも何もない。

 

 

話せないのだから、入れたところでも。

 

 

 

「あー、何をしに来たのかって顔。それはもちろん、このテイオー様が直々に友だちになろうと思ってきたのだー!ふふふ、感謝するがいいぞー!」

 

 

 

私の怪訝そうな表情を見てか。

トウカイテイオーが察してくれた。結構遠慮ない上に察するとかは苦手だと偏見を持っていたのだが……そんなことはなさそうだ。

 

 

会話こそ成立はしないだろうが、意思の疎通は可能だろう。

別に私も、生徒会長にしたとおりに紙に書いたり、スマホに打ったりして相手に伝えるといったことは可能だ。

 

 

けど、入れるのにはやはりためらいがある。

一人でゆっくりしていられる唯一心の落ち着く場所がこの部屋であると同時に、この部屋だけが今の私が唯一、自分の居場所だと認めている場所だから。

その空間に他人を入れる。それはできれば避けたいことだ。

 

例えるなら、ホテルの自分の部屋に、他人が勝手に上がってくるといった感覚に近い。

今回の場合は、私が自分から入れるわけだが。

 

 

 

「むー、なんとか言ったらどうなの?!」

 

 

 

プンスカ、プンスカ。

そんな擬音が後ろに見えるような怒り方をしているトウカイテイオー。少し自己中心的だが、自己肯定感が高い。

気遣いができて、察することができるのも加味して、人間としては、素晴らしい。

 

 

それが周りのトウカイテイオーへの評価。

人柄、評価で判断するのが確実だろう。幸い私は俯瞰が得意だから。常識で考えられるようにはできると思う。

 

常識を疑うしかない状況にいたから。だから、私は俯瞰が得意になった。

 

 

流石に今が春で、過ごしやすい季節だと言っても、外で待たせるのは苦、だろうか。

……入れることにしよう。

会話もすぐに終わるだろう。言葉を失ってから、友達を失ったときのように。

 

 

 

話そうとしても、音が出ない。喉が動かない。

頭から、脳から。

話すという信号が伝わらない。喉が凍りついて、動かないような感覚に近いだろうか。

 

 

だから、仕草で伝えるしかない。

塞いでいた玄関を横によることで開け、受け入れるという意志を伝える。行動だけでも伝えられることが多いのを、私は知っている。

 

 

 

「あ、いいの?それじゃあ遠慮なく、おっ邪魔します!」

 

 

 

お茶は買ってきていただろうか。

おそらく、ない。明日買い物に行く予定だった。けど、その前に来客があるとは予想していなかった。

 

 

『何もありませんが、ご勘弁ください』

 

 

そう書いた紙をトウカイテイオーに渡す。

それを見たトウカイテイオーは、「カイチョーの言ってたこと、本当だったんだ……」と言葉を漏らす。

敬語が違っただろうか。いや、それはない。ならなんだろうか。

 

 

 

 

「あーうん、そうだよね〜。カイチョーに、キミ……彼女とは筆談で話してくれ、って言われてて。向こうもそうするだろう……って言ってたから。」

 

 

「大丈夫、ボク、早書きにはちょっと自信があるんだ!小学校で友達と『問題ありません。そちらは自由に話してください。』あー……わかった!」

 

 

 

 

トウカイテイオーも筆記で話そうとしてきたので、とりあえずこちらが筆記、そっちは自由に話してくれていい、と伝える。

私に気遣いなんかするだけ無駄なのだから。どうせ、もう関わることがなくなるだろうから。

 

 

 

 

「それじゃあまず、自己紹介!ボクの名前はトウカイテイオー!夢……目標は、カイチョーみたいなかっこいいウマ娘になること!」

 

 

「それじゃ、次はキミの番!」

 

 

 

 

名前。

私の名前、それは。

 

……わからない。忘れてしまった、あのときに。自分の名前は、前の人生のものも、今の名前も覚えていない。

名前がない。ずっと一人だったから、不便じゃなかった。

 

 

私の名前を知っているであろう人物は、おじさんだけ。おそらく呼ばれたこともある。けど、思い出せない。

その記憶だけ、靄がかかっているような。

今の私にとって。昔の、記憶……『普通』だった頃の記憶は、自分は。

 

 

宝石のようなものだ。

 

 

過去の栄光ではない。

ただ、輝いていたから。今の私は昔みたいに笑えないから。

私は、『私で俺』でいる今が嫌いだから。

 

 

 

だから、思い出せば汚れてしまう。

汚い手でゲーム機に触れないように。汚したくない、宝石。

輝きをそのままにしておきたいだけ。

 

だから私に名前がなかった。

その私の名前。

 

 

―――『ディッフェトーゾ(壊れたもの)』。

 

 

 

嫌いな自分への、精一杯の皮肉。

 

 

 

 

「ディッフェ…トーゾ?ふーん。そっちもかっこいい名前じゃん。けど、ボクはテイオー!帝王だからね!」

 

 

 

「帝王として、皇帝って呼ばれてるカイチョーに並ぶんだ!」

 

 

 

「皇帝と帝王、似てるでしょ!両方かっこいいでしょ!」

 

 

 

 

おー、という声は出せないものの、拍手をしておく。

どれだけこのトウカイテイオーがシンボリルドルフという一人のウマ娘を好いているかがわかる。

そして、どれだけ自分に自信があるかも。

 

自己嫌悪を微塵も感じさせない言動、性格。

おそらく友達も多いのだろう。尽きない話のネタに、シンボリルドルフという明確な目標。

 

 

私とは違う。

輝いている。

 

 

 

 

「それで、ディッフェトーゾ……長いからディッフェって呼ぶね。ディッフェはなにか夢とか、目標とかあるの?」

 

 

 

 

目標。生きるため。

この先、一人でも生きていけるようになるための、資金。お金。

そのための、勝利。

 

出るレースすべての、勝利。どんなレースでも、勝つ。

 

 

それが、目標。

単純なこと、勝つことだ。

 

 

 

 

『勝利。自分のために、勝ちたいです』

 

 

 

「おぉ〜。思ったよりはっきりしてるね。カイチョーはディッフェが夢、あるかどうか、わからないって言ってたけど……

そういえば、ディッフェとカイチョーってどんな仲なの?」

 

 

 

 

生徒会長との。従姉妹として、ということか。

私からすると、赤の他人に近い。あまり関係もなかったような気がする。

でも、相手からするとそうではないのだろう。私を見るなり声をかけてきた。……あちらは、私になにか思っているかもしれない。

 

けど、それもあくまで可能性。

見かけたから、というだけの可能性もある。

 

 

それに、交流で言えばほぼ皆無。

仲がいいわけでも、悪いわけでもない。

でも、トウカイテイオーが求めているのは過去の関係だろう。

 

 

 

『気がついたらトレーニングを見ていた。それを時間の無駄だと思った。だから、もう来なくていいと伝えた。それで、ついさっき再会した、という仲です。』

 

 

 

この説明しかない。

本当にこれだけ。生徒会長は私を見るだけだった。私は、気にはしつつも何も言わなかった。

それが数ヶ月、毎日いつの間にか現れるようになった生徒会長。

 

 

 

こんなつまらないものを見ていてなんの得があるのですか。

私なんかのトレーニングを見るよりも、あなたが自分自身を鍛えたほうがあなたの得だ。

 

 

 

――そんなことはない。キミの自己研鑽は、素晴らしい。

 

 

 

私のトレーニングが?

……はっきり言えば、見るだなんて、時間の無駄です。

私の声に、責任は感じないでください。私は、勝手に壊れたんですから。あなたが気にすることはないです。

 

 

 

――キミは自分を卑下し過ぎだ。もっと自分に自信を持ったほうがいい。

 

 

 

壊れてしまった、私にとって。自分は好きなものではないんです。

それに私の一秒よりも、あなたのほうが一秒が重い。価値がある。……自分のことに専念してください。

 

そのほうが、あなたにとっても、私にとっても……あなたの家にとっても。良い事です。

 

 

 

 

そうやって、私は生徒会長を突き放した。

そんな自分が今更親族だ、従姉妹だというのもおかしいこと。だから、わたしと生徒会長にはあまり繋がりがない、と思う。

でも、生徒会長がどう思っているかは知らないし分からないが。

 

 

 

「エーッ、嘘?!カイチョーはとても仲がいい、自慢の家族だって言ってたよ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会長、どうかしているのか。それとも、どうかしてしまったか。

そんなことを真面目に思ってしまった。

この発言、問題点が多い。まず、わたしと会長は家族ではない。自慢されるようなこともしていない。特段仲も良くない。

 

 

 

 

『そんなことはないと思います。』

 

 

 

「いやいや、ほんとに言ってたよ?」

 

 

 

 

本当らしい。

私をどうしたいのだろうか。別に、嫌な気持ちにはならないが……

私にその好意を向けるよりも、目の前のトウカイテイオーや他のウマ娘に向けたほうがいい気もする。話も続くだろうし、楽しいだろう。

私が壊れたことに責任を感じる必要もない、と伝えてある。

 

 

生徒会長のようなウマ娘。

いわゆるスターと言われるウマ娘。人々にとっての星。人の心を照らす一等星。

その筆頭である生徒会長は、私には眩しすぎるのだ。

 

私がいる。それだけで、その星は光が薄まる、曇ってしまうかもしれない。その可能性が少しでもあれば。

私は自分が嫌いだと思う。

 

 

 

 

「うーん……じゃあじゃあ、ボクのことはどう思う?!」

 

 

 

『自己肯定感が高く、自己中心的な面を持ちつつも他人への配慮や、優しさがある。人に好かれやすく、察することができる、総合的に見て素晴らしい人物。』

 

 

「うん、ありがとう何だけど!そういうことじゃなくて、うーん……そう、友達!みたいな感じの!」

 

 

 

『友達?』

 

 

「うん、そうだよ?ボクとディッフェはもう友達、でしょ?」

 

 

 

友達。

久しぶりに私に向けられたその言葉。もう私には存在しないもの。

どうやったら友達、みたいな定義はないけど……どうやったら友だちができるのか、私はわからなくなったから。

 

 

少しの間、その言葉を反芻してみる。

そうしてようやく、実感が湧いた。

トウカイテイオーにとって、私はもう、友達の一人らしい。嬉しいような、もったいないような。

 

その好意を他人に……とは、今回は思わなかった。

 

 

 

多分、心の何処かで、喜んでいる。私は。

多分、心の何処かで、嬉しいんだろう。私は。

でも、そういった感情が表に出てくることはなくて。ただ淡々とするのみだった。

 

 

 

『そういうもの、ですか。』

 

 

 

「うん!ボクと、ディッフェは、もう友達だから!」

 

 

 

最初はこの距離の詰め方が、だいぶ苦手だったけど。

トウカイテイオーといると。私は少しだけ、明るくなれるような気がしたから。心のヒビを、埋められる気がしたから。

この友達という言葉を受け入れられた。

 

 

けど、実際のところ。私は、友達がどんなものかよくわからない。当然だ。友達といた時の記憶をすべて忘れているのだから。

忘れた自分が嫌いなのは変わらない。『私と俺』が混ざっているところも。

 

 

 

 

「あ、そろそろ門限の時間かも。じゃあ、また明日、学校でね!」

 

 

 

『はい、気をつけて。』

 

 

 

 

トウカイテイオーを見送って、自室のベッドに倒れ込んだ。

相変わらずこの感情を外に出そうとしない顔の表情筋は動かなかった。

感情もなかった。出てくるのは淡々とした言葉だけ。けど、嬉しかった、喜んだような。そんな気もした。

 

不思議なことだったとも思う。

友達、という言葉が意外にも抵抗がなかった。

壊れた心に、友達という言葉が一つはいってきた。それだけ。ヒビが埋まったような感覚もない。おそらく、私は壊れたままだから。

 

 

 

私にだって感情はあるのだ。

ただそのほぼ全てが、無関心だとか、そういうものだから。他人と自分が関われば、自分も、相手も壊れてしまうと思って。

人と自分を嫌った。

 

でも、トウカイテイオーというウマ娘は。きっと、壊れない。ずっと輝いているだろうから。最低限、これからも関わりはあるだろう。

 

 

今日は、このまま……少し、恵まれたような気分で眠りたくて。

恵まれたわけでもないだろう。神に見放された、忘れられたのだろうから。 

 

 

 

プラスだと思えているうちに。

思考がマイナスに行かないうちに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がついたら、そのまま寝てしまっていた。

次の日は休日だったので助かった。シャワーはきちんと浴びた。

 

 

 

 




少し迷走気味。
次話は、二日後の一九時台には投稿。

誰との絡みが見たい?(いずれ書く)※選択肢にないウマ娘は、ストーリーが思いつかないか、作者が書けないです。すいません。

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